見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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13.甘美な好意

「これは、駄目だ」

 

人生そんなに甘くはなかった。チェーンソーを使えば使う程、欠点が浮き彫りになっていったのである。

 

欠点の一つ目。動く敵には当て辛い。いくら近接攻撃推力に優れたブースター、KIKAKUを積んでいたとしてもチェーンソーの攻撃は大振りだ。ブースターを吹かし移動するトレーナーACを捉えられず、殆どが避けられてしまった。

 

欠点の二つ目。隙が大きい。一度外せば好き勝手に攻撃され、一気にAP減少及びACS負荷が高まってしまう。あれ程多大な隙、相手が実力者ならばそのまま致命傷を喰らうかもしれない。

 

欠点の三つ目。万全の性能を引き出すにはチャージが必要。時間にして一秒に満たないものだが、戦場で生死を分けるには十分だ。その上、シオンが苦心しながら構築した戦術にとって致命的でもあった。

 

シオンは二つ目までの欠点を改善する戦術を思いついていた。即ち、相手が無防備になるスタッガー時にチャージしたチェーンソーを叩き込むやり方。スタッガー時に当てた時の威力は、通常時よりも更に凄まじいことは既に確かめていた。これならば、欠点を克服しつつ絶大な威力を活かすことが出来るはず。

 

「だと思ったんだけどなぁ・・・・・・」

 

駄目だった。ウェポンハンガーに馴染めていないシオンでは、スタッガーを取った後にチェーンソーを構え、チャージして突っ込む時には相手は自由に動けるようになってしまう。かと言って最初からチェーンソーを構えていたら、スタッガーは取れず機動力も落ちてしまうのだ。今のシオンの実力では、使いこなすことは出来ない。

 

「・・・・・・はぁ~」

 

脳に疲労が溜まっているのを感じながら、コックピットの中で溜め息を吐くシオン。どうすればいいのかは分かっている。この肉体のスペックは桁違いだ、本来ならば造作も無く武装を扱えるはず。つまり、今の体たらくは中身である自分の落ち度だ。

 

「・・・・・・やるか。そうだよな、死にたくないならやるしかない。前に比べて環境は恵まれてるんだ」

 

言い聞かせるように呟いて、シオンは気合いを入れ直す。精神の疲労も肉体の疲労も、今だけは無視しよう。もし今日ストライダーが襲撃を受けたとしても、その時はその時だ。彼は己を鼓舞し再び動き始める。最低限、己のものになったこのACを扱えるようにならなくては。

 

 

 

 

 

「同志アーシルよ、その提案を通すことは出来ない」

 

『な、何故です帥淑!ストライダーは重要な移動拠点でもあり、反攻の要でもあります!それをむざむざ危険に晒すことは・・・・・・!』

 

ガリア多重ダムからの通信。予想外の人物からのそれを、フラットウェルは静かに受け止めた。その上で、冷静に言葉を紡ぐ。

 

「今のお前の判断には私情が混ざっている。解放戦線を導く軍事指導者として、見過ごすわけにはいかん」

 

『っ、それは・・・・・・!』

 

口ごもるアーシル。どうやら図星だったようだ。

 

「まず、我らの戦力は常に足りないということが一つ。そして、独立傭兵を雇う金も潤沢ではないということが一つ。確かにCOAMは解放戦線の中では宝の持ち腐れだが、むやみに消費することは慎まなければならない。それに、ストライダーには既にACを配備したはずだ。お前が私情を抱えている、出所不明の傭兵を」

 

『・・・・・・っ、それは、しかし』

 

「ストライダーが在り、その上ACが護衛としてついている。企業が侵攻を企んだとて問題は無い。何か、意見はあるか?」

 

フラットウェルはあくまで合理的に、理詰めでアーシルに語り掛ける。彼はアーシルのことを優秀な後方要員として見込んでいた。だからこそ、丁寧に逃げ場を潰していく。

 

「安心してくれ、同志アーシル。尋常な相手ではストライダーを落とすことは出来ない。企業の攻勢はここで止めることが出来るだろう」

 

『・・・・・・一つだけ、帥淑に伺いたいことがあります』

 

感情を抑え込んだようなアーシルの口調。半ば何を言うのか分かっていながらも、フラットウェルは無言で先を促した。

 

『配備されたAC・・・・・・そのパイロットであるシオンを、帥淑はどう思っているのですか?』

 

「有用な戦力だ。身柄を確保したままで、我々の味方として運用するべきだろう」

 

『彼女は身を挺してガリアのダムを守ってくれました。命を賭けて、我らルビコニアンを守ろうとしたのです。それは最早、同志と呼んで差し支え無いのではないでしょうか』

 

「・・・・・・見解の相違だな。彼女は確かに、解放戦線にとって有益だ。しかし、このルビコンの地で暴虐に喘ぐ民ではない。実情はともかく、彼女自身は独立傭兵だと名乗ったのだ。ならば相応の対応をしなければ。情に流されては大局を見失うぞ」

 

『それは、分かっていますが・・・・・・』

 

悔しげな声色はアーシルの若さを表しているようだ。隣人に優しいのは、本来ならば尊ぶべき美徳である。しかし、ルビコンが戦乱に包まれている以上それは甘さなのだ。情を殺し、冷徹な意志を貫かなければ本懐は果たせない。

 

「アーシルよ。もし、企業がストライダーを襲撃しているという情報が手に入った上で、救援が間に合うのならば独立傭兵に依頼を出しても構わない。譲歩はここまでが限界だ」

 

絶対にありえないような状況を提示し、フラットウェルは画面越しにアーシルを見つめた。立場が上のものが譲歩した事実に、アーシルは動揺しつつも視線を合わせる。真っすぐで澄んだ目だ。

 

『・・・・・・分かりました。ありがとうございます、帥淑フラットウェル。出過ぎた提案を真剣に受け止めて下さって』

 

「構わない。全ては解放戦線の為なのだろう。これからも委縮する事無く、何かあったら提案してくれればいい。時間があれば対応しよう」

 

アーシルの青臭さはフラットウェルにとって好ましいものだった。ルビコンを解放しルビコニアンが自由に生きることが出来るようになった後、彼のような人物がルビコニアンを引っ張っていくのだろう。現状では空想に過ぎないことを考えながら、フラットウェルは厳かに告げた。

 

「灰かぶりて、我らあり。ダナムにもよろしく伝えておいてくれ」

 

『は、はいっ!「灰かぶりて、我らあり!」』

 

警句自体にはなんの意味も無い。それを唱える人間が思考しない限りは。フラットウェルは理解しつつも、それを利用する自分に痛みを覚えることは無かった。

 

 

 

 

 

「ぐぇー・・・・・・」

 

狭苦しい個室のベッドに寝転びつつ、シオンは潰れたカエルのような声を上げていた。

 

「キッツいなぁ・・・・・・努力ってのは似合わないもんだよ、まったく」

 

この数日、シオンはひたすらにシミュレーターでACを操縦し続けてきた。全ては、十全に己のACのスペックを引き出す為に。未だ成熟していない肉体に鞭打って、己の技術を磨き続けていたのだ。

 

幸いなことに、その間にストライダーを襲撃する存在はいなかった。お陰で、付け焼刃とはいえ最低限戦えるように仕上げることが出来たのである。

 

「ふひぃ・・・・・・やっぱ、凄いもんだな。最新世代の強化人間は。こんな短時間でどうにか馴染めるなんて」

 

シャワーを浴びてから乾き切っていない髪の毛を弄り、シオンはしみじみと呟く。複雑そうな表情を浮かべているのは己の至らなさを責めているからだろうか。

 

しかし。いくら強化人間といえど、努力しなければその能力を活かすことは難しい。ここまで早く新しいACに精通出来たのは、間違い無くシオン自身の努力の賜物だった。だが、彼本人はそれに気付かない。全ては偶然この肉体になったからだと、心から思い込んでいる。と、

 

コンコン

 

「んあ?」

 

扉がノックされ、間抜けな声を上げるシオン。今まで彼の個室を訪れた者はいなかった。一体誰だろう。

 

「どうぞー・・・・・・?」

 

「し、失礼しますシオン様、さん」

 

おずおずと中に入ってきたのは、ストライダーに到着した際に案内をしてくれた青年だった。頬は紅潮し、相変わらず緊張しているようだ。

 

「あー、あんたか。どうしたんだ、こんな時間に?」

 

「お休みの所申し訳ありません。実は、その・・・・・・」

 

直立不動のままもじもじしている青年に、シオンは眉を顰める。明らかに挙動不審な態度だ。何か面倒事だろうか。身構えるシオンに、青年は予想外のものを差し出した。

 

「こ、これ!よろしければどうぞ!」

 

「お、おぅ?」

 

押し付けられるままに受け取ると、どうやらそれはチョコレートバーのようだ。エナジーバーのような通常の糧食とは違い、嗜好品に近いもの。戸惑ったシオンが青年に目を向けると、彼は緊張しながらも意を決して話し始める。

 

「そ、その。差し出がましいと思ったんですが、差し入れを」

 

「差し入れ・・・・・・?」

 

「はい。シオンさん、ストライダーに着いてからずっと働き詰めですよね?なので、何か差し入れしようと」

 

「そりゃありがたいけど・・・・・・これ、貴重なもんじゃないのか?」

 

このルビコンにおいて、甘味やタバコ、酒といった嗜好品は非常に珍しい。惑星封鎖機構が文字通りルビコンを封鎖し、星外企業が暴れ回る中では、ルビコニアン達は少ないリソースを生き残る為に割り振るしかなかった。それ故、シオンが受け取ったような栄養補給以外の趣が強いチョコレートバーは貴重品なのである。

 

「え、えっと。確かにそうなんですけど・・・・・・お嫌でしたか?」

 

「ちょちょちょ、全然嫌じゃないし甘いもんは大好きだから嬉しいよ。だからそんな顔するなって」

 

涙声になる青年に、シオンは慌てて言い繕った。幼さすら感じる青年の態度に嘘は無いように思える。つまり、純粋な善意でチョコレートバーを渡してくれたようだ。

 

「うん、最近全然こういうのは食べれてなかったからな。ありがとさん、大事に食べるよ」

 

「そ、そう言って頂けると嬉しいです・・・・・・!これからも、どうか頑張ってください!」

 

本当に嬉しそうにはにかみ、青年は一礼して部屋を出ていってしまった。声をかける暇も無い。

 

「・・・・・・。まぁ、好意はありがたく受け取っておくか」

 

青年の態度に妙な違和感を覚えつつも、まさか毒が入っていることは無いだろうとシオンはチョコレートバーの包装を剥く。甘ったるい香りが脳髄を刺激し、思わず唾が溢れ出た。一口齧ってみれば、甘さの暴力が口全体に広がっていく。

 

「あっま!」

 

人工甘味料のわざとらしい甘さでは無く、カカオの風味香る濃厚な甘さ。ルビコンに来てから片手で数えられる程しか味わったことの無い衝撃に、思わず笑みが零れてしまう。さっき青年に言った言葉は真実で、シオンは甘いものが好物だった。まさか、解放戦線に身を寄せている現状で食べることが出来るとは。想定外の僥倖と青年に感謝しながら食べ進めていく。

 

「これ、ナッツか何かか?香ばしい感じが甘さと交わって、いいなぁこれ・・・・・・!」

 

混ぜ込まれたナッツの食感と味がアクセントになり、理性も働かずあっという間に平らげてしまうシオン。半分は残そうと思っていたのが嘘のように、包装だけが手元に残ってしまった。唖然としながら思う。よもや自分にここまで堪え性が無いとは。

 

「こ、これは・・・・・・きっと、まだ幼い肉体に引っ張られてるんだな、うん。そうに違いない」

 

誰に向けたものか分からない言い訳を呟いて、シオンは口中に残る甘みを見送った。気付けば、心身に溜まっていた疲労が和らいだように感じる。我ながら現金だと思いつつ、明日に向けて休む為に歯を磨き、ベッドに潜り込んだ。

 

今夜はいい夢が見れそうだ。青年に感謝しながら目を閉じたシオンの表情はとても穏やかなものだった。




改めて考えるとルビコン3って勤務先としては最悪ですよね。そりゃ一般MT隊員も「来るんじゃなかった・・・・・・こんな惑星・・・・・・」と言うわけです。
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