見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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14.C兵器、襲来

『スネイル第2隊長閣下、インフェクション及びMT部隊の出撃準備が完了しました』

 

「よろしい、ならば迅速に進撃するように。解放戦線の猿共は気付いていません、今の内に距離を詰めなさい」

 

『はっ!』

 

夜闇に紛れ、ACを中心とした企業の勢力が砂丘を進んでいく。彼らはアーキバスに属する強化人間部隊、ヴェスパーの面々だ。傘下企業であるシュナイダーの要請を受け、解放戦線の武装採掘艦ストライダーを襲撃する為に、このボナ・デア砂丘に派遣されたのだが・・・・・・。

 

「・・・・・・ふん。急造品の粗大ゴミを潰すのにヴェスパーが使われるとは、上層部の愚かさも救い難い」

 

通信には乗せず、神経質な顔立ちの男は呟いた。後方の司令部で指揮を執っているV.Ⅱ、スネイルだ。苛立たしげな様子を隠そうともせず、侵攻していく部下達が表示されているマップ画面を睨んでいる。

 

今回、シュナイダーの要請を受ける気などスネイルには無かった。武装採掘艦ストライダーと言えど、所詮はその場凌ぎのガラクタだ。わざわざヴェスパーが出張るまでも無く、アーキバスの通常部隊や独立傭兵にでも任せておけばいい。そう思っていたのだが、上層部の判断は違った。

 

万全を期す為ヴェスパー部隊を出撃させよ。命令には従ったものの、スネイルは内心愚かな判断だと唾棄している。現場を知らぬ輩はこれだから駄目なのだ。その苛立ちは周囲に伝わり、ヴェスパー隊員達は最近彼を避けがちだ。ただでさえ嫌味っぽい性格故、人望は無いのである。

 

だが、その戦術眼と頭脳は本物だ。唐突な部下の報告を受け、スネイルの眉間に皴が寄る。

 

「所属不明の兵器がストライダーに接近中?見せなさい」

 

部下が示した映像を見ると、確かに疾駆する何かが映っていた。重装のMTに見えるそれは、ACのアサルトブーストにも匹敵する速度で移動している。脚部には履帯を備え、更に後背部のブースターから放たれている炎は禍々しい赤色をしていた。

 

「・・・・・・これは。何故この場に現れた」

 

普段から冷静な態度を崩さないスネイルが目を見開き、映像を食い入るように見つめる様は周囲の部下達が動揺するのに充分だった。数十秒の思考の後、スネイルは通信で侵攻中の部下達に伝える。

 

「メーテルリンク、目標地点を変更しなさい。そこから南南東の丘陵の陰に待機。マーカーは既に送っています」

 

『っ、了解!』

 

突然の指示にも、MT部隊を率いているヴェスパー隊員・・・・・・V.Ⅵ、メーテルリンクは機敏に反応した。理由を訊ねるよりも行動に移すことを優先し、迅速に丘陵の陰へと進んでいく。命じられたままに配置が完了したところで、ようやくメーテルリンクはスネイルに訊ねた。

 

『スネイル第2隊長閣下、状況の説明をお願いしたく』

 

「忌まわしいことに我々以外の襲撃者がいるようです。それも、所属不明の」

 

『ベイラムや封鎖機構ではない、と?では一体・・・・・・』

 

「まぁ、なんであろうと構いません。彼らがストライダーを落とすのならば良し。落とせずとも、手負いになった方を我らヴェスパーが対応すればいいだけのこと。それまでは見つからぬよう待機していなさい」

 

そう言いながらも、スネイルの顔には薄く困惑が浮かんでいる。先ほどの所属不明機体・・・・・・あれは、C兵器だ。アイビスの火以前に存在した、コーラルを動力とする技研製の兵器。それが何故こんな所に。彼らと戦闘し機体を回収することも視野に入れつつ、スネイルは作戦を練り直し始めた。

 

 

 

 

 

「弾薬の準備は!?」

 

「もう出来てる!後はACにマウントするだけだ!」

 

深夜、ストライダー全体にアラートが響いた。敵性物体が接近しているという事実が知れ渡り、誰もが慌ただしく動き始める。当然、その中にはシオンも含まれていた。飛び起きた彼は艦長からの命令を受ける前にガレージに走り、まだ名前も付いていない己のACに搭乗する。メインシステムを起動する間に、整備士達が武装を取り付けていった。

 

「接敵まで後二分です!」

 

「必ず間に合わせるぞ!」

 

鉄火場めいた喧騒の中、シオンはコックピットで待ち続ける。ストライダーを襲わんとする相手は未だ不明、そしてこのACで出撃するのは初めてだ。不安や恐怖に押し潰されそうになりながらも、彼はひたすらその時を待ち続けた。そして。

 

「出撃準備、完了しました!ハッチ開けます!」

 

「あいよ、それじゃあいっちょやるか!シオン、出撃する!」

 

ハッチが開くと、夜の砂丘が視界いっぱいに広がっていた。戦場。死ぬかもしれない場所。恐れを振り切って、シオンはブースターを点火する。外へと踏み出したACが落下し、衝撃を相殺しながら砂丘へと降り立った。

 

「敵の方向は!?」

 

『北東から高速で二機接近しています!接敵まで30、いや20秒もありません!』

 

オペレーターを買って出てくれた青年の悲鳴のような声が響く。すぐさまACを北東に向け、シオンはアサルトブーストを起動した。急激な加速がコックピットに伝わり、目が回るような感覚が湧き上がってくる。それを抑えてシオンは周囲を警戒する。遠くから何かの駆動音。来る。咄嗟にスキャンを走らせ、丘陵越しの敵機体を捕捉した。

 

「っだらぁっ!!」

 

視界に直接捉える前に、アサルトブーストを吹かしたまま強引に突っ込む。目の前に迫るのは重武装MTのような、しかし今までに見たことの無い機体だ。構うものか。シオンは勢いのままに敵を蹴りつけ、マシンガンとバーストハンドガンを連射する。しかし、

 

「っ!?」

 

敵機体は一瞬にして距離を離し有効射程から外れてしまう。砂埃を巻き上げながら滑るように移動するそれを、シオンは捉え切れない。更にもう一機、同型の機体が現れそれぞれからミサイルが放たれた。凄まじい数だ。クイックブーストを吹かして避けようとするも半数近くを喰らい、シオンの視界にスパークが走る。

 

「クソがっ!」

 

続けざまに放たれる速射砲は何とかかわし、高速で移動する敵機体に食らいついていく。シオンのAC、その武装はミサイルを除きどれもが近距離でないと効果を発揮出来ないものだ。だからこそ、多少の被弾を恐れず前に進むしかない。

 

ストライダーからミサイルが放たれ敵機体を襲うも、その殆どは圧倒的な機動力で避けられてしまっている。ミサイルの雨に速射砲、時折飛んでくるグレネードがACの装甲を削る中、シオンは必死に勝機を見出そうとしていた。と、

 

『こちらストライダー艦長!敵をアイボールの照射範囲に誘導してくれ!そうすれば襲撃してきた愚か者共を薙ぎ払える!』

 

アイボールはストライダーの主兵装である大型レーザー砲台だ。小回りこそ利かないが、その出力はAC用のレーザーを遥かに凌駕する。現在戦闘している場所ではストライダーに近過ぎる為、照射することが出来ないようだ。

 

もし、アイボールから放たれるレーザーが直撃すれば、正体不明の機体とはいえただでは済まないだろう。ストライダーの巨体を動かすメインジェネレーターから供給されるエネルギーはあまりにも膨大だ。苦境を変える決定打になってもおかしくはない。

 

シオンは数瞬の間迷う。ストライダーを離れた場合、敵機体達がこちらをスルーしてストライダーに襲い掛かる可能性もあった。しかし、このままでは絶対的に不利だ。一縷の望みに賭けシオンは敵機体から距離を取る。それを見た敵機体は、回り込むように追いかけてきた。

 

『照射範囲に到達!アイボール、照射始めます!』

 

「これなら・・・・・・!」

 

いけるかもしれない。あっという間に回り込まれてしまったが、照射範囲まではなんとか移動出来ている。後はアイボールの照射に当たらないよう、少しでも距離を取れば。そう思った瞬間、敵機体がふわりと跳躍した。今まで無かった動き。咄嗟に避けようとするが間に合わない。

 

ガギィンッ!

 

体が浮くほどの衝撃がシオンを襲う。敵機体の繰り出した「踏みつけ」は、彼のACを容易くスタッガー状態に追い込んだ。視界が歪む中、見えたのは夜を照らす閃光。アイボールから放たれたレーザーが、シオンのACと敵機体を纏めて薙ぎ払った。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・っ」

 

『どうした、621』

 

輸送ヘリの中、コックピットでACに接続したままの621が身じろぎした。今まで見たことの無い反応にウォルターが訊ねるも、返事は無い。バイタルは安定しているようだが・・・・・・他の数値も特に異常は示していないようだ。

 

『・・・・・・問題があるのならばすぐに報告しろ。もうすぐ投下地点に入るが、無理はするな』

 

現在、621とハンドラー・ウォルターはベリウス西部にいる。解放戦線からの依頼・・・・・・ではなく、C兵器の出没を621自身が予見した為である。何故、621はC兵器のことを知っていたのか。一体どこから情報を得たのか。しかし、彼女から提示された情報は信用に値するものだった。

 

621。己の使命を果たす為に利用しているこの強化人間のことを、ウォルターは詳しく知っているわけではない。戦場には似つかわしくない幼い少女は、しかし歴戦の実力を有していた。感情が機能していないはずなのに、こちらの機微を理解している節もある。正直に言って、得体が知れない。

 

だが。そう切って捨てるには、既に情が湧いてしまっている。ウォルターは、彼を知っている者が口にするような冷酷非情な「飼い主」ではない。むしろ情が深い質の男だ。そして、心に深い傷を負いながらも、目的の為に猟犬を使い潰すことが出来る男でもある。

 

そのウォルターを以てしても、621のような猟犬は初めてだった。底知れぬ何かを抱えているような、あるいはこちらの全てを見通しているような。密航を遂げてから、理由は分からないが彼女は変化を遂げたようだ。「解凍」直後のような無機質な様子は感じられない。何か、621にとって重要な事象があったのだろうか。

 

しかし、彼女以外の猟犬はもういない。今後はより積極的に対話を重ね、621のことを理解していくべきだろう。そう結論を出したウォルターに、緊急の通信が飛び込んできた。

 

『・・・・・・こえるか・・・・・・聞こえるか!?こちらルビコン解放戦線、独立傭兵レイヴンに緊急の依頼がある!』

 

「・・・・・・こちら、レイヴンのオペレーターだ。この回線をどうやって知った?」

 

『つい先日レイヴン自身から送られてきたものだ!現在、ストライダーが何者かに襲撃されている!我が方のACが迎撃に出ているが戦力が足りない!どうか救援を頼む!』

 

切羽詰まった口調で言われたことは、ウォルターにとってはある程度予想していたことだった。621が渡してきた情報には、C兵器はストライダーを狙う可能性が高いと記されていたのである。あらかじめ近くにいれば、彼らの救援依頼を受け共闘することも可能だとも。今の所、全てが621の予想通りになっている。背筋に走る悪寒を面には出さず、ウォルターは冷静に返答した。

 

「詳細を聞こう」




621は何を知っているんでしょうかね?(すっとぼけ)
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