見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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16.混戦と不運

『ヘリアンサス型だと・・・・・・!?C兵器がこうも大量に・・・・・・!』

 

ウォルターの動揺している声を聞きながら、621は車輪のような兵器の群れに飛び込んだ。『この兵器のことは知っている』。方向転換の隙に攻撃を集中し、転倒したところにパルスブレードを一閃。爆散。

 

『621、分かっているだろうが正面衝突は避けろ。削り取られるぞ!』

 

ミサイルを掻い潜り、火炎放射は高速で回り込むことで対処。幸い、複数の敵機が連携してくるということは無いようだ。着実に一機ずつ落としていく。

 

『・・・・・・621、お前は・・・・・・っ、敵影!まだ来るぞ』

 

疑念が滲むウォルターの声。そして更なる敵は、先ほど同じ重装高機動のC兵器が二機。しかし、621に動揺は見られなかった。淡々と対処し、被弾もごく少ない。

 

『偶然居合わせたにしては数が多過ぎる・・・・・・』

 

ウォルターの言う通り、明らかに何者かの思惑を感じざるを得ない状況。だが、621は知っていた。この状況を。そして、裏に潜む者のことも。

 

だが、それは今関係の無いことだ。やるべきは敵機の撃退、及び友軍機の救援。あの、恐らく年若いらしい少女のAC乗りを喪うわけにはいかない。動きには焦りを微塵も感じさせず、621は凄まじい技量で残敵を狩り続けた。

 

 

 

『解放戦線のAC・・・・・・!構わず前進を続けてください!ACは私が引き受けます!』

 

ACを先頭に進んでくるヴェスパー部隊。メーテルリンクは当初の予定通りMTを先行させることにした。先ほどの解放戦線ACと不明機体との戦闘情報を鑑みるに、アイボールのレーザーはストライダーに肉薄すれば照射することが出来ない。それ故機動性に優れレーザーを避けられる自分は足止めに徹し、MT部隊を先行させようとした。しかし、

 

「させねえぞ!」

 

シオンはメーテルリンクを無視し、真っ先にMT部隊へと襲い掛かる。メーテルリンクのACであるインフェクションから放たれるパルスの連射を受けながらも、頭数を減らすことを優先していた。ストライダーの足元まで進ませない為だ。

 

『メーテルリンク、そのACを排除することを優先しなさい。どうやら、猿にしては頭が回るようです』

 

スネイルからの命令にMT部隊は先行するのを諦め、シオンを包囲し撃破することにしたようだ。賢い選択だが、それはアイボールの照射範囲に留まるということでもある。

 

「そら来い!俺と一緒にレーザーと戯れようや!」

 

『くっ!事前の情報に無い機体だ・・・・・・!』

 

シオンが戦場に出たのは今回を除けば多重ダムの一件のみ。つまり、アーキバスにはシオンの存在は認識されていなかった。事前に想定していたいずれの解放戦線ACとも違う存在に、メーテルリンクは僅かな不安を感じる。見た限り、近接戦重視のACに見えるが・・・・・・。

 

それに、オープン回線から聞こえてきた声は幼い少女のようだった。その事実もメーテルリンクを動揺させる。解放戦線はそこまで追い詰められているのだろうか。

 

だが、彼女がやるべきことは変わらない。栄えあるヴェスパー部隊の一員として戦場に出ている以上、目の前の敵は必ず撃破しなくては。メーテルリンクは愛機であるインフェクションのブースターを吹かし、敵ACの上を取る為に上昇した。

 

『MT部隊は包囲しつつ牽制射撃を!』

 

「くっそ、飛ぶかよ!」

 

シオンはそう吐き捨て、懸命に上空にいるインフェクションを捉えようとする。周囲のMTからの射撃はどうということはないが、降り注ぐパルスガンは非常に危険だ。かといって、同じく上昇し空中戦を演じることは出来ない。短時間で新しいACに習熟しなければならなかった都合上、空中戦の修練は殆ど積めなかったのである。

 

ならば。シオンは着々と削られていくAPを回復させる為にリペアキットを使用し、包囲しながら弾幕を張っているMT部隊に突っ込んだ。同時にチェーンソーを展開、火花を散らしながら一番近くのMTへと叩き付ける。

 

「バラバラに削れろぉっ!」

 

咆哮と共にチェーンソーを振り抜くと、MTは吹き飛び爆散した。洗練されていない野蛮な戦い振りにMT部隊に動揺が走り、弾幕の勢いが僅かに弱まる。しかし、

 

『陣形を崩さず射撃を継続!そのACは私がやります!』

 

「がっ!?」

 

最大出力までチャージされたプラズマキャノンがシオンのACに直撃した。次いでパルスガンから放たれた球体状の波動が、立て続けに装甲を溶かしていく。近接攻撃によって生まれた隙を、メーテルリンクは決して見逃さなかった。

 

EN武装の連続攻撃は、さっき回復させたばかりのAPを急速に削り取る。何とかインフェクションと正対し回避しようとするも、MT部隊が張っている弾幕が鬱陶しい。何よりも、休憩も出来ない連戦は酷い疲労を生み出していた。シミュレーターと実践では消耗の度合いが決定的に違うのだ。

 

シオンは吐き気と眩暈、頭痛に苛まれながらも歯を食いしばり、状況を打開する為に思考を回す。目の前のヴェスパーACを撃破しなければ死を待つだけだ。どんな機体でも、ジェネレーターのエネルギーを回復する為に地上に降りる時は必ずある。そこを突くしかない。

 

ACとMT部隊の波状攻撃をギリギリで耐え凌ぎつつ機を伺うシオン。果たして、その時は訪れた。やや後退しつつ高度を下げるインフェクション。着地のタイミングに合わせるように、シオンはチェーンソーを構え突撃する。

 

「っらあぁっ!!」

 

しかし。あと僅かで届く所で、インフェクションは後方にクイックブーストを吹かした。まだエネルギーが残っていたらしい。余裕がある状態でわざと地上に降り、シオンを誘い込んだのだ。チェーンソーは空しく空を切り、多大な隙を晒してしまう。

 

『今です!火力集中!』

 

次々に叩き込まれる攻撃。コックピット内にはアラートが鳴り続け、AP減少の警告音がひっきりなしに聞こえる。回避しようにもスタッガー状態まで追い込まれて動けない。ここで終わるのか。

 

「チクショウ、駄目か・・・・・・!」

 

もう数秒もあれば爆散する、その時。ストライダーから放たれたレーザーがMT部隊の一角を薙ぎ払った。量産型のMTでは耐えられるはずも無く爆散、包囲網に穴が生まれる。

 

『今です!シオンさん、一時退却を!』

 

青年の声にハッとしたシオンは、敵ACに背を向けてアサルトブーストを起動、包囲網の穴に突っ込んだ。追いすがる様な射撃がACを掠めていき、アラートと警告音は未だ止まない。

 

『撤退するACは一旦無視しなさい!この隙に距離を詰めレーザーの範囲外に到達すれば、っ!?』

 

部隊の統率が乱れメーテルリンクが動揺で動きを止める中、的確な指示を出すスネイル。だが、即座に何かに気付いた。こちらとは逆方向、不明機体の反応が全て消えている。そして、こちらに向かってくる反応が一つ。まさか。

 

『あの数のC兵器を、この短時間で片付けたというのか・・・・・・!?』

 

思わず言葉が漏れた。C兵器は、単体でも総じて高い戦闘能力を有している。あれ程の群れならば、並のAC乗りは抵抗すら出来ず撃破されてしまうはずだ。それをこの短時間で殲滅するとは。スネイルの知る限り、そんなことが出来る者は一人しか知らなかった。

 

ありえない。脳裏によぎった考えを本能的に否定する。彼の知る一人・・・・・・V.Ⅰ、フロイトと同等のAC乗りが存在するわけが無い。スネイルの冷静かつ理性的な仮面が剥がれかけ、そしてすぐに持ち直した。

 

『メーテルリンク、撤退しなさい。MT部隊は囮に使っても構いません』

 

『は、はっ!』

 

予想外の命令に驚いたのだろう、上ずった声を上げながらもメーテルリンクはスネイルに従った。MTの補充は容易だが、AC及びそのパイロットは補充が難しい。不確定な実力を持つ敵に手駒をぶつける程、スネイルは甘くはなかった。

 

予想通り、逃げ遅れたMT達はやってきた独立傭兵に蹂躙されていく。本来探査用のフレームに、軽量の武装を積んだAC。識別名はレイヴン。彼の動きをデータとして記録しながら、スネイルはゆっくりと息を整えた。先ほど感じた何かは、気のせいだと思いながら。

 

 

 

 

 

「クソッ、また・・・・・・!」

 

レイヴンの戦いを遠くに見ながら、シオンは悔しげに顔を歪める。彼の乗っているACは装甲が剥がれかけ、あちこちから火花が散っていた。なんとか動けるものの、再び前線に向かうのは自殺行為だ。

 

またしても、助けられてしまった。多重ダムの時といい、今回といい、レイヴンがいなければ自分は死んでいただろう。無力感がとめどなく溢れ、音が鳴るほどに歯を噛み締めるシオン。悔しい。情けない。恨めしい。結局、自分は何も為せていない。

 

「ぐうぅ・・・・・・!あぁチクショウ、恨めしいな自分の弱さが!」

 

いくら喚けど状況は変わらない。洗練された動きでMTを撃破するレイヴンとは裏腹に、自分は後方で震えているだけだ。レイヴンの戦いを眩しそうに見つめながら、シオンは拳を握り締める。と、

 

『シオンさん!今荷揚げ用のクレーンを降ろします!一旦ガレージで修理を・・・・・・うわっ!?』

 

「ど、どうした!?何があった!」

 

オペレーターと務める青年の声が乱れ、途切れる。どうやら、敵MTが爆散する直前に放ったミサイルがストライダーに当たったらしい。本来、在来兵器を凌ぐ巨体と装甲を持つストライダーは通常の攻撃ではびくともしない。放熱の都合上外部に露出したジェネレーターや、企業の攻勢により装甲が剥がれた脚部を狙われなければストライダーは不沈のはずなのだ。

 

「おい、返事してくれ!無事だよな、そうだろ!?」

 

シオンが話しかけるも返事は返ってこない。MTが放ったミサイルが、偶然青年のいる場所に当たったのだろうか。まさか、ありえない。そんな偶然、ある訳が。

 

だが。いつまで経っても青年の声は聞こえてこなかった。代わりに艦長からの通信が入るが、シオンは呆然としたままだ。

 

『シオン君、聞こえているか!?ひとまずそこで待機していてくれ、敵性反応が消えたらクレーンを降ろす!』

 

「いや、待ってくれ、俺のオペレートをしてた奴はどうなったんだ?なんであんたが通信してくる!?」

 

自分でも信じられない程動揺している。自覚しながらも、シオンはその動揺を抑えることが出来ない。知り合いが死ぬことなど独立傭兵をやっていれば良くあることだ。それなのに、どうして。

 

『彼は今治療中だ、命に別状は無い!それよりも周囲を警戒しろ、抜けてくるMTがいる可能性が』

 

「あの独立傭兵ならそんなヘマしねえよ!それより、今の言葉は本当だな!?」

 

『っ、そうとも、だから・・・・・・』

 

叩き付けるように訊ねると、艦長が僅かに動揺したのが伝わってくる。これはつまり、そういうことなのだろう。

 

「やることはやる。だから、本当のことは話してくれ」

 

『む・・・・・・彼は、ミサイルの爆風で飛んできた鉄片が首に突き刺さったようだ。懸命に治療を施している。今言えるのは、それだけだ』

 

「・・・・・・そうかよ」

 

ぎゅう、と目をつむり、湧き上がってくる感情を抑え込む。今いるのは戦場だ。ならば、生き残る為に平静を保たなければ。まぶたの裏には、あの時チョコレートバーを渡してきた青年の、はにかむような表情が映っていた。




拙作において、レイヴンは最強格として扱っています。ルビコン3を焼き尽くしたりルビコンの解放者になったりコーラルリリースを成し遂げたりする存在が弱いわけ無いんだよ。ぼくらの621は最強なんだ!
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