見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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17.失意に沈めども時は進む

武装採掘艦ストライダーの防衛戦から数日が経過した。殆ど損傷の見られなかったストライダーは勿論、損傷の激しかったシオンのACもある程度は修復されている。所属不明のC兵器群及びヴェスパー部隊は完璧に撃退され、結果はルビコン解放戦線の完勝と言えるだろう。

 

「・・・・・・」

 

そんな勝利の立役者でもあるシオンは、個室のベッドに横たわり無機質な天井を眺めていた。その表情は沈鬱で、どこか茫洋としているようにも見える。

 

───先の戦いは解放戦線の完勝だった。それは疑いようも無い。しかし、戦死者が0というわけにはいかなかった。たった一人、シオンを懸命にオペレートしてくれていた青年が、亡くなったのである。

 

彼が死んだのは、ヴェスパーのMTから放たれたミサイルが装甲を直撃時、吹き飛んだ鉄片が首に刺さったのが原因だ。偶然で片付けられる、誰が悪いでもない話。戦場ではよくある、笑えるような不幸で彼は死んだのだ。

 

シオンも、かつて独立傭兵として働いていた時には人の死に散々触れてきた。酒を酌み交わすような仲の人物を喪ったこともある。あの時はどうだったか。自分はどうやって、隣人の死を乗り越えたのだろうか。

 

「・・・・・・はぁ」

 

溜め息を吐き体を起こす。自分がどう落ち込んだところで、結末は何一つ変わらない。ストライダーを守り切り、一人が死んだ。それだけだ。シオンは立ち上がり、この数日やる気にならなかったシミュレーターを起動しに個室を後にした。

 

 

 

 

「どうも。ACの調子はどうですかね」

 

「おぅ、シオンさんか。今の所順調だよ。あと一日もすれば出撃出来るようになる」

 

ストライダーに務めている整備士達は優秀なのだろう。機材や設備が足りない中、ACを問題無く稼働出来るようにしてくれているのだから。彼らにお礼を述べつつ、シオンはコックピットへと乗り込んだ。電子系は優先して治してくれたようで、シミュレーターも問題無く起動出来る。

 

「・・・・・・さて」

 

仮想空間にMTを呼び出したシオンは、操作感覚を思い出す為に手ごろなMTを呼び出した。攻撃をしてくる彼らの懐に飛び込みながら両手の武装を連射、クイックブーストでの回避も交えつつ撃破していく。その動きは、解放戦線のAC乗りとしては十分な実力に思えた。が、

 

「駄目、だな。こんなんじゃまったく敵わない」

 

シオンの脳裏をよぎるのは、戦場を自由に羽ばたく一つの影。レイヴン。自分とは比べるべくもないあの操縦技術は、シオンの目に焼き付いて離れない。

 

もし、自分にあれだけの実力があれば。きっと青年は生き残り、レイヴンの手を借りることも無かっただろう。そう、力さえあれば。四脚MTを呼び出しながら、シオンは大きく息を吸い込んだ。マシンガンとバーストハンドガンの衝撃力で四脚MTを削り取り、スタッガーまで追い込む。直後展開したチェーンソーを叩きつけ、抉り取る様に振り抜いた。

 

「はぁっ・・・・・・!」

 

四脚MTは吹き飛びながら爆散。チェーンソーの破壊的な威力もあり、僅か数十秒で撃破出来た。だが、まだ足りない。この程度では、まだ。焦燥感に苛まれながら、シミュレーターの中でシオンはひたすらに戦い続ける。

 

「ふぅ、ふぅ・・・・・・クソ、やっぱりこの体も鍛えなきゃな」

 

すぐに息が上がり、辛さを訴えてくる肉体を恨めしく思うシオン。しかし、そもそもACをスムーズに動かせているのは強化人間であるこの肉体のおかげなのだ。複雑な気持ちになりながらも、シオンは限界まで腕を磨き続けた。

 

食事休憩を挟みつつ数多のMTを撃破し、AI入りのトレーナーACを何度も倒して。どれくらいの時間が経ったか分からぬまま、シオンはようやくコックピットを出た。全身に疲労が蓄積し、タラップを降りる足がふらついてしまう。汗で服がが張り付き、酷く気持ち悪い。

 

「大丈夫かい、シオンさん。ほら、これタオル」

 

「あー、すんません、ありがとうございます」

 

整備士からタオルを受け取り、顔の汗を念入りに拭く。しかし、気持ち悪さは拭い切れなかった。やはりシャワーを浴びないと駄目だろう。幸い、それを想定して着替えは用意してある。重たい体を引きずるようにシャワー室に向かい、汗まみれの衣服を脱ぎ捨てた。

 

「あー・・・・・・」

 

温水を浴びながら、シオンは気の抜けた声を漏らす。平坦で貧相な体も今は気にならない。というよりも、気にする余裕が無い。温かな水流が体をほぐしながらも脳裏によぎるのはレイヴンの雄姿。そして、青年のはにかむような表情だった。

 

「・・・・・・駄目だ駄目だ。いい加減切り替えろよ、俺」

 

鏡の前で呟いて、反射している自分の顔と目を合わせた。幼い面影が残る険しい表情。どこかちぐはぐな組み合わせは、それでも自分の顔なのだ。己の無力さも、青年の死も、この体も。全て、乗り越えなければならない。乗り越えられなければ死ぬだけだ。

 

深い息を吐いて、シャワー室を後にする。個室に戻りベッドに寝転んだ時点で、シオンは抗い難い眠気を感じていた。

 

「どうすりゃいいんだろう。こんなのんびりとしててもなぁ・・・・・・」

 

毛布を引っ被り、シオンはぶつぶつと呟く。果たしてこれでいいのだろうか。もっと何かやりようがあるのではないか。何も分からない。分かるのは、さっきも感じた己の無力と青年が死んだという事実だけだ。

 

自責の念はとめどなく、心の奥底へと溜まっていく。たった一人の死にここまで動揺しているのは、たとえ人としては正しくても戦場に立つ者失格だ。思考が腐っていくような感覚。今は、何を考えても後ろ向きにしかならない。

 

「・・・・・・寝よう」

 

結局、ここ数日繰り返したように眠りの世界へと逃げ込もうとするシオン。疲れ切った体と心は、彼を容易く夢へと導いていく。こんな時でも腹は減るし眠くもなる。生理的な欲求に罪悪感を感じながら、落ちるように眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

「何故、予定されていたMTや物資が届かないのです?このままでは汚染市街を落とすことなど・・・・・・」

 

「G3、落ち着け。いつものことだ。本社の命令で、戦力は可能な限り「壁」方面に回すことになった」

 

グリッド135、その一角。珍しく声を荒げている五花海に、ナイルが静かに諭していた。事情を把握したのだろう、ゆっくりと息を吐いた五花海は卓上に視線を落とす。

 

「成程、いつものことですか。現場を無視して横やりとは、足を引っ張ることだけは得意なようだ」

 

「・・・・・・お前が感情的になるなど、珍しいな」

 

「当然でしょう。本気で「壁」を落としたいなら、側面や後方から陽動をかければいいのです。そも、汚染市街攻略の為に私達はここに待機させておいて、こちらに回すはずだった戦力で「壁」の攻略部隊を増強?いやぁ、世が世ながら私のカモですね、この案を押し通した方は」

 

五花海が言うのはもっともである。物量による圧倒を社是としているベイラムは、良くも悪くも正面押しに傾倒している。高度に要塞化された「壁」にはその戦法は悪手だと気付きながら、無駄なプライドを捨てずに固執しているのだ。

 

「挙句、G5は謹慎処分で作戦から離脱、と。この状態で作戦を強行とは、愚かさを通り越している」

 

「批判はその程度にしておけ。こちらからも可能な限り本社に働きかける。見込みは薄いがな」

 

レッドガン副長のナイルは、最も本社に近しい隊員だ。その為パイプ役として奔走しているのだが、ベイラム側は彼の苦労を気にも留めていない。「レッドガンが辺境のルビコンに派遣されたのはG1ミシガン共々使い潰す為」。そんな噂も、あながち間違いとは言えないのかもしれない。

 

「やれやれ、気に食わないですねぇ。使われる側になるのはまっぴらです。最近のレッドガンの周りは殺気が渦巻いている。南東の通路、照明器具を新調した方が良いのでは?」

 

「愚痴を吐いてもやることは変わらない。最悪、本社の意向を無視して出撃することになるかもしれんな。準備をしておけよ」

 

「えぇ、それは勿論。みすみす無駄死にさせるほどレッドガンは安くないと、そう思い直してほしいものです」

 

肩をすくめる五花海。彼が感情的になっているのには一つの理由がある。「壁」攻略作戦に現状アサインされている、唯一のレッドガンAC。キャノンヘッドを駆るG4、ヴォルタのことだ。

 

五花海はヴォルタのことを可愛がっていた。あちらから商売を教えてほしいと頼まれ、都合のいいように色々と教え込んだのである。レッドガンの総長及び副長が睨みを利かせている以上、以前のように大々的に詐欺を働くことは出来ない。しかし、こうやってあちこちに「種」を仕込んでおくことは五花海の趣味、というよりは変えられない生き方だった。

 

というわけで、彼にとってヴォルタは手塩にかけて育てた大事な手駒、もとい弟子だ。無謀な作戦で死なせるにはもったいない。何より五花海は、ヴォルタの悪友であるイグアス共々、無学な二人をからかうのが愉しかった。それも含めて、迂闊にも感情的になってしまっていたのである。

 

「それでは副長、私は鯉龍の調整があるのでこれで失礼しますよ。本社への「アドバイス」、どうかよろしくお願いします」

 

「あぁ。お前も、今は大人しくしておけ」

 

皮肉たっぷりの言葉に、ナイルも言外の意味を込めて返事をする。今回の仕事は、随分と苦労しそうだ。内心呟くが、決して面には出さない。元々、ベイラム本社はレッドガン総長、ミシガンの実力とカリスマを危険視していた。元は敵対する企業勢力の筆頭だったということも関係し、無茶な作戦を何度も押し付けられたことさえある。

 

そして、今回のルビコン進駐。上層部は間違い無く、なんらかの思惑を描いているだろう。今の所本社からの支援は続いているが、このままではいつ打ち切られるかも分からない。この先レッドガンが生き残る為には、繊細かつ大胆な舵取りが求められる。

 

「やれやれ・・・・・・ミシガン、この戦役に片が付いたら秘蔵の酒を奢ってもらうぞ」

 

上司であり、長きに渡る戦友でもあるミシガン。彼を死なせるわけにはいかない。せめて、道は開かなくては。ナイルは、レッドガンを本社から切り離すことすら視野に入れていた。例えそれが、ミシガン本人が望まないものであったとしても。

 

ミシガンは決してベイラムを裏切らない。それが、彼の筋の通し方だ。その為ならば、自ら死地に向かうことも厭わないだろう。レッドガン副長でありミシガンの参謀でもあるナイルは思考する。レッドガンが生き残る為の方策を。厳めしい顔立ちのまま、ひたすらに考え続けていた。

 

 

 

 

 

『貴方ですか?レイヴンとか言う独立傭兵の代理人は?』

 

『ヴェスパー第2隊長スネイル、知己を得て光栄だ』

 

『「壁越え」に参画したいということでしたね?全く、我々の手を噛んでおきながらよくもぬけぬけと。駄犬の飼い主ごときが、厚かましいにもほどがある。お断りです』

 

『今回も第1隊長が出ると聞いているが・・・・・・頼れる人材が他にないとは、不幸なことだ』

 

『ほう・・・・・・貴方の駄犬に、フロイトの代わりが務まるとでも?』

 

『それだけの修羅場はくぐっている』

 

『・・・・・・まぁ、いいでしょう。今回はV.Ⅳも出ることですし。あれも調子に乗っているようだ、併せてお手並み拝見としましょう』




各勢力の思惑が絡み合ってややこしいことになってきました。果たしてシオンの運命や如何に。
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