見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
ベリウス中部、解放戦線の一大防衛拠点。通称「壁」と呼ばれている場所で、レッドガンの部隊は孤立していた。
「量産型のMT風情が、舐めるんじゃねぇっ!」
四脚MTに腕部のグレネードを叩き込み、追撃の二連グレネードとショットガンで爆砕しながらG4、ヴォルタが吼えた。自分が倒したものだけでも、これで四機目。しかし、「壁」の圧力は一切弱まらない。執拗に配置されている砲台からの攻撃を避ける為、愛機であるキャノンヘッドを建造物の陰に隠し射線を切った。
『G4!南側より後方に回り込むMTがいるぞ!ケツを叩かれる前に対処しろ!盾持ちMT部隊は前方に牽制射撃!盾だけではなく遮蔽物を利用しろ、役立たずども!』
ミシガンの声が通信から響き、ヴォルタと同じく建造物に身を隠しているMT部隊がマシンガンを射撃する。殆ど効果は無いが、目くらまし程度にはなっているだろう。
「クソッ、本社のボケ野郎が!」
『批判する元気があるなら手を動かせ!自殺の予定が無いならな!』
恨み言を吐くヴォルタを諫めるミシガンは、しかし確かな焦りを感じていた。これほど早急かつ杜撰な「壁」攻略はベイラム本社からの命令である。数を揃え正面からの力押し。作戦とも言えない計画に、ミシガンは当然反対した。敵戦力の配置及びこちらの戦力を集結させるまで、最低でも後二週間は必要だと。しかしベイラムはアーキバスの「壁」侵攻が迫っているという情報を理由に拒否。すぐに作戦を強行せよとの厳命により、何もかもが不足した状態での「壁」攻略を強いられているのだ。
それでも、ミシガンは可能な限り作戦を修正した。「壁」正面に架橋されているルートにはガトリング砲台が配備されており、他砲台の支援もあり突破は難しい。それ故、大きく左回りに部隊を侵攻させた。本来ならばMTが進めない、起伏も傾斜もキツいルート。当然脚部の異常で落伍するMTが多く出たが、ガトリング砲台に突っ込ませて死なせるよりは余程マシだ。
予想外の方向からの侵攻に解放戦線側は驚いたようだが、すぐに砲台による攻撃を実施。なんとか街区まで侵入出来たレッドガン部隊は、苛烈な砲撃に進むことが出来ず足止めを喰らっている。それが現状だ。
「があぁぁっ!」
回り込んできたのはまたしても四脚MT。しかも大型のレーザーブレードを装備したタイプだ。無理な機動による反動と今までのダメージをかき消すように叫びながら、ヴォルタは質量任せに突っ込んだ。ここで止めなければ配下のMT部隊が壊滅してしまう。その為には強引にでも撃破しなければ。
「吹き飛べガラクタぁっ!」
至近距離でのグレネード。爆炎がキャノンヘッドと四脚MTを包むが、それを切り裂くようにレーザーブレードが起動する。装甲を溶かし斬るそれが直撃する寸前、ショットガンでレーザーブレードのグリップ部分をぶち抜いた。エネルギーの奔流が炸裂し、爆炎と混じり合いながら双方の装甲を焼いていく。
「ぐぉ・・・・・・!」
脳がミキサーに突っ込まれたかのような感覚。閃光に塗り潰され周囲の状況が分からない中、ヴォルタはがむしゃらに前進した。四脚MTをタンク脚部の馬力で押しのけ、建造物に押し付ける。そのまま出力を全開にして圧砕を試みた。四脚MTの関節部から激しく散る火花と共にベキベキと音が鳴り、まるで断末魔のようだ。
「が、あっ・・・・・・!G1、他に接近してる敵はいねえか!?」
『真っ先に状況把握をするとは多少は成長したようだなG4!レーダーに反応は無い、今の内に気を休めておけ!』
ミシガンの声を聞くヴォルタは何故か安堵するような感覚を覚えた。ミシガンはこちらを手酷く扱くクソ親父だが、決して無駄に命を消費させることはしない。少なくとも、ベイラム本社の連中とは違う。
「はぁっ、はぁっ・・・・・・おい、突破は不可能だぞこいつは!砲台を潰さない限り前進出来ねえ!どうすりゃいい!?」
息を整え、粗暴な口調で叫ぶヴォルタ。泣き言に近いそれに、しかしミシガンはいつものように怒鳴りつけない。戦況を把握した正論だったからだ。
『貴様らが敵の目を引き付けている内に増援を回り込ませている。より大回りでな。増援が到着するまで、遮蔽物を盾に亀になっていろ!』
ミシガンの説明は、作戦前のブリーフィングには無かった情報が混ざっている。しかし、それが苦し紛れの嘘ではないということはヴォルタにも理解出来た。このような状況で嘘を吐くような男ではない。
増援。それは、本来想定されていないものだった。G2ナイルとG3五花海が軍紀違反を覚悟でねじ込んできた、ミシガン自身も認識していなかった戦力。「壁」の攻撃が届かぬ場所、輸送ヘリから出撃した増援は、彼ら全員が知る男だった。
『おぅヴォルタ、苦戦してるみてえじゃねえかよ!』
「イグアス!?てめぇ、なんで!?」
通信越しの聞き慣れた声は、ヴォルタの悪友であるイグアスのものだった。先の作戦で独立傭兵に情報を漏洩し、謹慎処分となっていたはず。それが何故ここに。
『G5、自分のケツを自分で拭く用意は出来たか!』
『当たり前だ!ここまでお膳立てされて黙ってられるかよ!』
『いいだろう、ならば突入しろG5!腑抜けの砲台どもを吹き飛ばせ!』
ミシガンの命令に、イグアスは突貫で修理された愛機、ヘッドブリンガーのアサルトブーストを起動する。想定外の方向からの増援に、解放戦線の防衛線の対応が僅かに遅れた。
『横合いより敵性反応!?ACです!』
『馬鹿な、得られた情報ではこれ以上の戦力は無いはず・・・・・・応戦しろ!「壁」に張り付かれる前に撃ち落とせ!』
砲台がイグアスに照準を合わせようとするが、正面のヴォルタ達を警戒してか動きに逡巡が見られる。その隙を逃さず、火力が集中される前にヘッドブリンガーが端の砲台まで辿り着いた。マシンガンとリニアライフルが火を吹き、次々に破壊していく。
『はっ!土着の能無しが、死に晒せ!』
『無駄口を叩くなG5!また舌を縫い付けられたいか!ケツのクソを拭き取るまで決して油断するな!』
G5イグアスが「壁」の戦場に現れるのは、本来ありえないことだった。本人のくだらないミスで謹慎処分になった彼は、愚痴を吐き不貞腐れている所を五花海に唆された。曰く、副長の権限を以て壁越えに参加させることが出来ると。明らかに怪しい提案に、しかしイグアスは乗ることにした。彼とて壁越えが困難なのは理解している。そのような死地に腐れ縁のヴォルタを一人で向かわせるなど、許せることではなかった。
ヘッドブリンガーが「壁」に設置された砲台を掃討していく。懐に潜り込んだ敵に対して、「壁」側の防衛設備は殆ど機能しなかった。当然だ、それを避ける為に強固かつ執拗な防衛線を構築していたのだから。四脚MTを向かわせようとするも、高低差もあり時間がかかってしまう。
「やるじゃねえかイグアス!これなら俺達も・・・・・・!」
リペアキットでキャノンヘッドを修復し、砲台の圧力が弱まったことで自らも前に出ようとするヴォルタ。この流れで一気に接近出来れば「壁」内部への侵入も可能だ。しかし、見えた希望に目が眩んだのかヴォルタはレーダーの反応、その一つを見逃していた。
『戻れG4!!』
ミシガンの声とほぼ同時。「壁」の上部に何かが姿を現した。分厚い鉄塊に武装を施したような見た目の兵器。「壁」に配備された解放戦線の戦力、その中でも最大の存在。重装機動砲台ジャガーノートである。
ジャガーノートから放たれた大口径のグレネードが、建造物の陰に戻ろうとしたヴォルタに直撃する。凄まじい爆発が起こり、堅牢なはずのキャノンヘッドが一撃でスタッガー状態になってしまった。その隙を逃すまいと、残り僅かの砲台から放たれた砲弾がキャノンヘッドに殺到する。
「しまっ」
衝撃と爆発に呑まれるヴォルタ。致命的なダメージにより、彼の意識はかき消されるのだった。
「「壁」が襲撃された!?」
「あぁ。幸いレッドガンの部隊は撃退出来たものの、かなりの損害を受けたみたいだ。メッサムが率いていた四脚MT部隊も半壊・・・・・・彼自身も酷い怪我を負ったらしい」
ガリア多重ダム。帰還してからもひたすらシミュレーター漬けのシオンは、緊急事態ということでアーシルに呼び出された。
「い、命に別状は無いのか?」
「ひとまずは。損耗した四脚MTと一緒に汚染市街に撤退し、今は治療を受けているという連絡が本人から来た。連絡出来るだけの気力があるのは嬉しいけど・・・・・・」
言葉を濁らせる様子からして、メッサムの治療は芳しくないのだろう。彼の顔を思い浮かべつつ、シオンは息を整え呟いた。
「そう、か。じゃあ、「壁」に増援に向かえばいいんだな?」
「え、あ・・・・・・」
シオンの言葉に、アーシルはどこか虚を突かれたように吐息を漏らす。予想外な反応にシオンは軽く首をかしげた。
「あーっと、違うのか?てっきり新しい仕事が来たもんだと思ったんだけど」
「いや、そういうわけじゃないんだ。同志ダナムからも、他からもそういう連絡は来ていない。・・・・・・」
無言になったアーシルは、視線を上に彷徨わせる。今のシオンに仕事・・・・・・依頼を回すのは、彼女が戦死することに繋がるかもしれない。幸いシオンが増援に向かうという話は出ていないが、ある程度自由に動かせる戦力は解放戦線には乏しい為、声がかかるのは時間の問題だろう。
「ふーん。いや、戦場に出ないに越したことはないけどさ。一応COAMも払ってもらったけど使い道無いし、うん。整備やら何やら全部任せっ放しだもんな」
「相場から見れば雀の涙しか払えていないから、そこは申し訳ない。その分しっかりとバックアップはするつもりだから、気になることがあったら言ってくれると嬉しいかな」
思い悩む心とは裏腹に、アーシルはシオンが戦うことを肯定する。今の彼女はACで戦うことに固執、というより執着しているように見えた。あるいは心の拠り所になっているのかもしれない。それを否定すれば、今よりももっと悪い方向に転がる可能性もある。
「あと、そうだ。同志ダナムの怪我も随分良くなったから、時間がある時に模擬戦を行いたいと」
「おっ、そうなのか。よかったよかった、俺でよければいくらでも付き合うよ。ダナムさんにゃ世話になってるしな」
何か、シオンから死臭を遠ざける方法は無いものか。恐らく本人の意識、考え方から来るものだから、理解するには対話を重ねるしかない。アーシルは、自分の感覚が察知してきた不吉な死の連鎖を止めたかった。戦友が、隣人が、無常に散っていく様を見たくなかった。死ぬと分かってしまうのに、止められない己が情けなかった。
だからこそ。だからこそ、目の前の小さな少女は死なせたくない。この感情がエゴだということはアーシルも理解している。それでも、行動に移さなければ。
「・・・・・・シオン。私からも少しお願いがあるんだ。構わないかな」
「な、なんだよそんなかしこまって。実は堅苦しい空気は苦手なんだよ、俺は」
「あぁ、ごめん。別に大したことじゃない。今度、食事でもしながら貴方のことを聞かせてほしいんだ」
またしても予想外だったのか、シオンは目をまるくしてぽかんと口を開けた。滑稽ながら可愛らしい反応に、アーシルは自然と微笑みつつ言う。
「そんなに変なお願いだったかな。命を懸けて戦ってくれている恩人のことを、より深く知りたいというのは」
「いや、変ってわけじゃないが・・・・・・俺のこと知ったって、なんも面白くないぜ?どこにでもいる底辺の傭兵だ」
「それでも、今ここにいるのはシオンだけだ。私達ルビコニアンの為、危険な戦場に身を投じているのは貴方なんだ」
真っすぐに言われ、シオンは盛んに瞬きをした。好意的な感情を正面からぶつけられるのは、やはり慣れない。動揺を隠すように俯き、口をもごもごさせるもちゃんとした言葉は出てこなかった。
「勿論、無理にとは言わない。嫌だったら」
「あー違う違うって!嫌なわけじゃない。分かったよ、今度時間ある時にでも話す。だからこの話は一旦終わりだ!あばよ!」
アーシルの言葉を遮り言い放つシオン。その勢いのまま、逃げるように走り出した。こっぱずかしい気分は頬を紅潮させ、自分でもよく分からない感情が渦巻いてる。個室に逃げ込んだシオンはベッドに飛び込み、変な声を上げながらごろごろし続けた。
つくづく思うんですけどヴォルタと「壁」越えの相性最悪なんですよね。機動力の低いガチタンを大量の砲台が配備されてる所に突っ込ませるのはちょっと可哀想過ぎる。