見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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20.「壁」は落ちて

「・・・・・・猟犬の戦い、見せてもらった。残党の掃除はこちらでやっておく。縁があれば、また会おう」

 

返事は無いだろう。そう思いながらも、僚機に声をかけることを止められなかった。それ程に、共に戦った傭兵は凄まじかったのである。

 

「戦友、か。信じられんな、ウォルターの猟犬があれ程とは」

 

通信を切り、指示された増援の殲滅に向かう道中。ヴェスパーの第4隊長ラスティは怜悧な表情で呟く。普段の人好きのする笑みとは違う、冷たい表情。ジェネレーターの駆動音が鳴り響くコックピットの中、彼は静かに思案を続けていた。

 

レイヴンのことは知っていた。悪名高いハンドラー・ウォルターの猟犬にして、ヴェスパーの武装採掘艦破壊作戦も妨げた独立傭兵。相当な実力とは思っていたが、まさかあれ程とは。ヴェスパーきっての実力者であるラスティでさえ、震えが湧き上がってくるような戦いぶりだった。

 

「・・・・・・」

 

先ほどの戦いを思い出す。ラスティのスティールヘイズは機動力に優れる為、攪乱を買って出た。しかし、相対するジャガーノートの正面火力は絶大である。レイヴンが手こずるようなら、スネイルから示されていた「第2プラン」に移ることも想定していたのだが・・・・・・。

 

全ては一瞬だった。スティールヘイズを囮にジャガーノートの後背部に回り込んだレイヴンは、即座にパルスブレードで斬りかかる。スタッガーと同時にアサルトアーマーを発動し、周囲ごとジャガーノートを焼き尽くした。

 

「魅せてくれる・・・・・・!」

 

思わず賞賛の言葉を呟いたラスティだったが、ジャガーノートの堅牢さは想定を超えていた。未だ動くそれに対応しようとした所で、レイヴンは予想外の行動に出たのである。

 

肩の実弾オービットを起動しつつ、左腕のパルスブレードをジャガーノートに押し付ける。そしてそのまま刀身を生成。パルスの閃光がレイヴンを包み、ジャガーノートの内装を直接破壊した。

 

荒々しく無茶苦茶で、それでいて効果的な動き。あのような動きはアシストシステムを切り、全てをマニュアルで操縦しなければ行えないはずだ。爆散するジャガーノートと距離を取るレイヴンは、ラスティにとって悍ましく見えた。その熟練っぷりは確かにスネイルが苛立つに足るものだろう。しかし、それだけではない。

 

確かにジャガーノートは撃破出来たが、レイヴンのあの行動は危険過ぎる。一歩間違えば、パルスブレードが爆発しパイロット共々吹き飛んでいただろう。例え猟犬だとしても、果断で命知らずな振る舞いだ。

 

「何が君をそうさせる・・・・・・?」

 

あのような命を捨てるかのような戦い方は本来ありえない。だというのに、何故かレイヴンにはしっくりとくる。ラスティが動揺しているのは、何よりも納得しかけている自分自身に対してなのかもしれない。と、

 

『いたぞ、企業のACだ!仇を取らせてもらう!』

 

接敵した増援部隊・・・・・・解放戦線のMT達がラスティへと襲い掛かってきた。その動きは緩慢で、スティールヘイズを捉えることは不可能だ。彼は機動しながら照準を合わせ、MTへと引き金を引いた。立て続けに銃撃を喰らい、爆散するMT。パイロットは脱出する隙も無く吹き飛んだようだ。・・・・・・そう、本来ラスティの同志である者達を、彼はその手で殺しているのだ。

 

ラスティは、フラットウェルの人脈によってアーキバスに潜り込んだスパイである。ルビコンを解放しルビコニアンの自由を取り戻す。その為ならばなんでもやる。なんでもだ。

 

『こいつ、速いっ!?ぐあぁぁっ!』

 

戦力差があると分かっていながらも、MT達は勇敢に立ち向かってくる。この星を、ルビコニアンの生きる場所を守る為に。勇敢な戦士達だ。そんな彼らをラスティは蹂躙していく。命を、奪っていく。

 

気付けばMTは全て動かなくなっていた。無惨に破壊され、炎上している。生存者はいないだろう。

 

「・・・・・・こちらV.Ⅳ。増援部隊の排除を終わらせた。次はどうすればいい、第二隊長殿」

 

通信を開き、平静を装った声で連絡する。心の痛みを面に出さないよう注意を払いながら。

 

『終わりましたか。残りはMT部隊によって制圧すればいいでしょう。速やかに帰還しなさい』

 

「了解」

 

スネイルの命令に従いつつラスティは思考する。あるいは、あれ程の実力を持つレイヴンならば、この鬱屈した状況に風穴を空けてくれるかもしれない。しかし、理由無き強さはあまりにも危ういものだ。利用するにしろ、排除するにしろ、レイヴンの情報を集めるべきだろう。

 

「っ」

 

電流のような痛みがこめかみに走る。立て続けの戦闘で疲弊しているからだろうか。いや、違う。今、何かが脳裏によぎったような・・・・・・。陽炎のように消え去ったその感覚を、ラスティは違和感と共にゆっくりと呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「壁」、陥落。その情報は瞬く間に解放戦線全体に広がり、立ち直ることも出来ないような衝撃を与えていた。「壁」は交易の要衝である。そこが落とされたということは、今後解放戦線は交通や物流の面でも苦境に立たされるということだ。今以上に絶望的な戦いを強いられるという事実に、シオンが滞在しているガリア多重ダムにも悲壮な雰囲気が漂っている。

 

「・・・・・・ふぅ」

 

そんな中、シオンはいつも通りシミュレーターに籠り続けていた。彼自身、動揺はしている。これから先、戦況は悪化の一途を辿るであろうことも、頭では理解していた。だが、だからといって他にやることも無い。暗い表情を浮かべている解放戦線の人達の気持ちも、本質的には分かっていないのだろう。生まれ住んでいる星が侵略され、搾取される気持ちは経験しなければ分かるものでもないのだから。

 

「俺に出来るのは、ACに乗ることだけだからな」

 

部屋に戻る通路を歩く途中、何人もの人達とすれ違った。苦しそうな、あるいは無理に奮起しようとしているような表情ばかりだ。シオンの姿を見初めると、縋るような視線すら送ってくる者が多い。重要な戦いで曲がりなりにも戦果を上げている為、解放戦線のメンバーから期待されてしまっているのかもしれない。と、

 

「シオン、ここにいたのか。シミュレーター帰りかい?」

 

「ん、まぁな。どうしたよアーシル。俺になんか用か?」

 

背中に声をかけられたシオンは、足を止め振り返った。見慣れた顔のアーシルが歩いてくるが、その表情は普段と変わらない。恐らく、意識してそう振る舞っているのだろう。

 

「あぁ、うん。同志ダナムが貴方を呼んでいる。頼みたいことが、あるみたいだ」

 

「成程ね。「壁」奪還でも依頼するつもりか?無理筋だとは思うが」

 

「私も詳しくは聞いていないんだ。とにかく、ついてきてほしい」

 

アーシルの言葉に軽く頷き、彼と共にダナムの元へ向かった。目的地はいつも通り、ダナムの私室のようだ。シオンは解放戦線の協力者ではあるが、得体の知れない素性である。なので指揮官室に呼び出されることは少なく、依頼がある時はもっぱらダナムの私室で話すことになっていた。今回も同じ理由だろう。

 

「同志ダナム、シオンを連れてきました」

 

「あぁ、入ってくれ」

 

扉を開けたアーシルに続いて中に入ると、既に包帯も取れる程に回復したダナムが厳めしい表情で待ち受けていた。シオンは彼のことが嫌いではない。堅物だが意外と融通が利き、何よりも誠実だ。変に疑う必要が無いのはシオンにとっても楽だった。

 

「どうも、ダナムさん。俺にどんな用事ですか?」

 

「・・・・・・今から話すことは他言無用で頼む。アーシル、お前もだ」

 

「は、はい。それは勿論ですが・・・・・・何か、あったんですか?」

 

いつにも増して低い声。尋常ではないダナムの様子に、アーシルは何か嫌な予感を覚える。「壁」が落ちてからも、ダナムは気丈に戦意を燃え上がらせていた。しかし、今の態度はまるで違う。一体、何があったというのか。

 

「つい先ほど、連絡があった。汚染市街が落とされたそうだ」

 

「汚染市街・・・・・・?っまさか、同志ダナム!」

 

その言葉に思い当たるものがあったのか、アーシルは身を乗り出すようにして声を上げた。ダナムは苦々しげに口を歪め、続ける。

 

「そうだ。「壁」からの退避者を受け入れていた汚染市街を、ベイラムのレッドガンが襲撃した。非戦闘員を逃がす為に戦った者達が、現在捕虜となっている」

 

「そんな・・・・・・!それでは、ツィイーにメッサムも・・・・・・!」

 

顔を真っ青にしたアーシルが呻くように呟くと、ダナムが無言で頷いた。特に親しい二人が捕虜になっているという事実に、膝の力が抜けそうになってしまう。

 

「状況は極めて悪い。ベイラムはMT部隊を多数配備しており、ガトリング砲台の増設も始まっているらしい。さらに、レッドガンのACも駐留しているだろう。奪還は困難だ」

 

「っ」

 

崩れ落ちそうになるのを懸命に堪えるアーシル。まさか、そんなことが。伝えられた事実は、「壁」の陥落を聞いた時以上にアーシルの心を打ちのめした。企業に捕まった者達が無事に帰ってきたことなど一度も無い。拷問の末殺されるか、再教育という名の洗脳を受け捨て駒として使われるか。いずれにせよ、救いは無い。

 

「・・・・・・状況は分かった。だけど、一つ聞いていいか?」

 

黙って話を聞いていたシオンが声を上げる。ダナムが無言で促すと、思案げに腕を組みつつ話し出した。

 

「この話、なんでわざわざ俺にもしたんです?汚染市街を奪還するって言うんなら分かるけど・・・・・・もしかして無理を承知で突っ込めってことなら、まぁ考えるけどさ」

 

「それは、俺がさせん。AC一機でどうにか出来る状況ではないのだ。無駄死になどさせるものか」

 

「そりゃありがたい。んで、それならなんで俺に話したのかなって。何か考えがあるんなら聞いときたいんですけど」

 

「・・・・・・それは・・・・・・」

 

口ごもるダナム。話すべきか話さないべきか、迷っているようだ。

 

「話したくないなら無理しないでいいですよ。別に俺だって言いふらす気も無いし」

 

「・・・・・・いや。話しておくのが礼儀だろう。汚染市街には、我らにとって重要な人物がもう一人滞在していた。こちらも捕虜になった可能性が非常に高い」

 

「その、重要な人物ってのは?」

 

「うむ・・・・・・解放戦線の創設者、帥父ドルマヤンだ」

 

その名が出た瞬間、シオンの目が見開かれた。解放戦線のことを詳しく知らなかった彼ですら、ドルマヤンのことは知っている。ルビコン解放戦線の指導者であり、柱とも言える人物。まさか、汚染市街にいたとは。

 

「ど、同志ダナム、確かなのですか!?」

 

殆ど悲鳴のような声を上げるアーシルに、ダナムは苦しげな表情で頷いた。ツィイーにメッサム、更には帥父ドルマヤンまで。あまりにも絶望的な状況に、今度こそアーシルは崩れ落ちそうになる。

 

「っとと、おい大丈夫か!?」

 

シオンが支えようとするが、純粋に力が足りない。倒れそうになった所で、二人してダナムに支えられてしまった。

 

「ベッドを使え、アーシル。無理からぬことだ、俺も知った時は意識を失いそうになった」

 

「う、ぅ」

 

返事する気力も無いのか、アーシルは青褪めた顔でベッドに寝かせられ、微かに呻いている。今まで見たことの無い弱々しい彼の姿に、シオンの表情は曇った。しかし、軽く首を振って話を戻す。

 

「あー、それで。帥父が捕えられていることと、俺に話したことになんの関係があるんです?」

 

「・・・・・・汚染市街が落ちたことを知り、俺は帥淑に救出作戦の許可を求めた。しかし、作戦成功率の低さから否定されてしまったのだ。戦略的、戦術に見るのなら当然の話だ。しかし・・・・・・帥父ドルマヤンにツィイー達を見捨てることは出来ん」

 

酷く苦しそうに言うダナムは片手で顔を覆い、沈痛な面持ちで言葉を捻り出しているようだ。彼は解放戦線の指導者の一人である。上に立つ者の気持ちは、シオンには分からない。それでも、目の前の苦悩する男を見捨てる気にはなれなかった。

 

「つまり・・・・・・救出作戦を俺に任せたいってことか?」

 

「そうだ。さっき言ったように、無理に突っ込めというわけでは無い。俺の考えに賛同しそうな戦士を何人か知っている。彼らと共同し、捕虜を救出してほしいのだ。汚染市街の奪還が不可能だとしても、せめて帥父にツィイー達は救わねば。どうか、頼む・・・・・・!」

 

音が鳴るほどに拳を握り締め、シオンに深々と頭を下げるダナム。彼の立場では多重ダムを離れることは出来ない。だからこそ、外様のシオンに頼るしかないのだろう。壮絶な雰囲気を放ちながら頭を下げているダナムに、シオンはゆっくりと息を吸って返事をする。

 

「・・・・・・あぁ、分かった。俺を、戦力の一つとして数えてもらって構わないですよ」

 

「・・・・・・助かる。この恩は決して忘れん」

 

「人に頭下げられるのあんま好きじゃないんで、顔を上げてください。で、考えに賛同しそうな戦士ってのは・・・・・・?」

 

無理にでもダナムの頭を上げさせつつ、シオンは気になっていたことを訊ねた。ゲリラ組織である解放戦線と言えど、上司からの命令に歯向かうことは褒められたことではないはず。フラットウェルの意志を無視してでも救出作戦に参加するとは、一体どんな人物なのだろうか。

 

「当ては、二人いる。・・・・・・帥父の近侍であるAC乗り、リング・フレディ。そして、お前と同じく我らに協力する独立傭兵、六文銭だ」




此度の捕虜救出ミッションは大所帯になりそうです。
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