見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「無論、ご助力致そう。同志ツィイーやメッサム、帥父を救う為ならば!この六文銭、徳を以て徳に報いん!」
汚染市街に囚われている解放戦線の同志達の救出。本来フラットウェルから禁じられているはずの依頼の打診に、六文銭は一も二も無く賛同した。彼は解放戦線に属している訳では無い。野垂れ死にしそうになっていた所にツィイーに拾われ、その恩義に報いる為協力している立場に過ぎないのだ。
故に、フラットウェルからの命令など六文銭にとってはどうでもいい。確かに彼からの依頼をこなしたこともあるが、六文銭が忠を誓うのはリトル・ツィイーただ一人。その信念は誰にも揺るがされることは無かった。
通信を終え、六文銭は和装というにも奇怪な風貌のままガレージへと向かう。現在地はベリウス中部、汚染市街と多重ダムを繋ぐ小さな拠点の一つ。彼の愛機であるシノビは先日の任務・・・・・・「壁」からの撤退戦、その支援で多少の損傷を負っていた。
「すまぬ、整備士の面々よ!我がAC、シノビの整備は順調か?」
「あぁ、六文銭さん。順調ですよ。ただ、細かいパーツを取り替えましたので少し操作感に違いがあるかと。実際に乗って調整してもらえますか?」
「うむ。おぬしらの働きに、この六文銭必ずや報いよう!」
珍妙な格好に変な言葉遣いの六文銭に、整備士達は苦笑しながら頷いた。この独立傭兵は何から何まで奇妙だが、決して悪人ではない。先日の撤退戦でも、足止めの部隊が倒された上に非戦闘民がベイラム部隊の追撃に遭いそうになっていた時、単騎で横合いから急襲を仕掛け窮地を救ったのだ。それは与えられた任務には無い独断の行動だったが、現場の判断で黙認されている。
だからこそ、この拠点にいるルビコニアン達は修理し切っていないシノビで単騎汚染市街に突っ込もうとする六文銭を押し留めていた。恩人を死なせるわけにはいかない、と。だから、ダナムからの救出作戦に秘密裡に協力してほしいという頼みも快く引き受けた。同志を助けたいが六文銭も死なせたくない彼らにとって、渡りに船だったからだ。
「仁者は必ず勇あり。コーラルと共にある戦士達よ、必ずや同志を救おうぞ!」
吼える六文銭に、整備士達も声を上げる。深夜に近い時間帯、拠点全体が慌ただしくなり始めた。
電気も付けず暗闇が支配する部屋の中。線の細い美麗な顔立ちの男は、苦悶の表情を浮かべ佇んでいた。
「帥父・・・・・・俺はどうすれば・・・・・・」
助けを乞うような口調で、男・・・・・・リング・フレディは天を仰ぐ。そこには薄汚れた天井しか見えない。
リング・フレディ。解放戦線の戦士の一人だが、ドルマヤンの男娼という立場もあって他のルビコニアンとは距離を置いている男だ。普段はドルマヤンの傍を離れず、彼からの指示によってのみ動く特別な戦力とも言える。
そんな彼が何故、汚染市街で捕らえられたドルマヤンと共にいなかったのか。それはひとえに、ドルマヤン自身に命じられたからだ。
「お前はここに残れ。連絡するまで、待機していなさい」
汚染市街に移送される際、フレディはそう告げられた。どのような思惑があったのかは今でも分からない。事実として彼はドルマヤンと別れ、戦士として企業と戦っていたのだが・・・・・・。まさか、このような事態になってしまうとは、フレディは悔やんでも悔やみ切れない。
自分が傍にいれば、ドルマヤンを逃がすことが出来たかもしれない。しかし、全ては過ぎたことである。これからどう動けばいいのか。フレディにとって、唯一の指針であるドルマヤンとの連絡が取れない以上、彼は軽々に動くことが出来ないでいた。
「・・・・・・先の提案。受けるべきなのか?」
虚空に向かって呟く。先ほど、秘匿回線を用いて繋げてきた通信はインデックス・ダナムからのものだ。秘密裡に戦力を整え、汚染市街に捕えられている捕虜達を救出する。現在解放戦線を主導しているフラットウェルの指示に背く行動である。
しかし、フレディにとってそんなことはどうでもよかった。体よく解放戦線を動かしているフラットウェルも、盲信の果てに真意を理解しようとしないダナムもどうでもいい。敬愛する帥父を救ってもよいのかどうか。それこそが、唯一フレディにとって大事なことだ。
「俺は、帥父を救出に向かってもいいのか?」
ドルマヤンが己を汚染市街に連れて行かなかったのは、フレディを巻き込まない為だったのではないか。あるいは自身が介入しては都合が悪くなるからではないか。どれだけ考えても答えは出ない。祈っても、縋っても、捕えられているドルマヤンから答えは返ってこないのだ。
フレディ自身が決めるしかない。ドルマヤンに頼らず、本人の責任で以て往く道を決めなければならない。そしてそれは、今を生きる者にとって当然のことなのだ。当たり前の事実を噛み締め、フレディは苦悩する。考えろ、考えろ、考えろ。どうすることが帥父のためになるのか。どうすれば。どうすれば・・・・・・。
「・・・・・・っ!」
そして。長い苦悩の末フレディは決断した。己の意志で、行く末を決めた。例えそれがドルマヤンを失望させることになろうとも。彼は迅速に行動に移す。通信を開き、ダナムへと連絡を取った。全ては、敬愛する帥父を救う為に。
「っつぅ・・・・・・!やれやれ、ベイラムは手荒いもんだな。作戦の杜撰さと同じだ」
拷問によって腫れあがった顔で、メッサムは呟く。恐らく、部屋に仕掛けられたマイクは己の声を拾っているだろう。分かっているからこそ、言葉を続けた。
「さて、次はどうする?骨を折るか、顔に薄布をかけて水でもかけるか?いくらでもやってくれ、何もかも徒労だけどな」
汚染市街の一角。度重なる拷問を受けたメッサムは、しかしなんの情報も吐かずにいた。簡素な椅子に縛られている状態で不敵な笑みを浮かべている。これまで与えられてきた苦痛は、彼の心を折るには足りなかったようだ。と、
「素晴らしい、強靭な精神の持ち主のようだ。流石は解放戦線の戦士、見事なものです」
扉が開き声の主が入ってくる。小さな丸眼鏡をかけ、胡散臭い笑みを浮かべている男だ。彼はそのままテーブル越しの椅子へと座り、メッサムと目を合わせる。こちらを絆すような視線に、メッサムは口角を吊り上げた。
「安い賞賛だ。鞭の次は飴を与えようってことか」
「その通り、よくお分かりで。言いたくはありませんが、上層部は単純に考え過ぎなのですよ。キツい罰を受けた後に飴を与えれば、ルビコニアンなど容易く口を開くと。あまりにも甘過ぎる見積です」
手段を問わない相手だ。メッサムは瞬時にそう判断する。人好きの笑みを浮かべている対面の男はこちらに同調するような話しぶりで、心に潜り込んでくるかのようだ。だが、メッサムが気を緩めることは無い。むしろ警戒の度合いを引き上げつつ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「何を試そうが、俺が話すことは何も無い。諦めて殺したらどうだ?その方が、これ以上の面倒は無いだろう」
「生憎、現段階での捕虜の殺害は禁じられていましてね。まぁ、私の手が滑れば死ねるかもしれませんよ?そこまでミスをするつもりはありませんが」
飄々と呟き、男は様々な器具をテーブルへと並べていく。無機質な感じが一層恐怖を際立たせるが、メッサムは唾と共に飲み込んだ。例えどのような拷問が為されるとしても耐えてみせる。気を引き締めたメッサムに、男は微笑みと共に言葉を紡いだ。
「それでは始めましょうか。まず、貴方が「井戸」の情報を吐かなければ歯を一本ずつ抜いていきましょう」
想定の範囲内だ。そう思った瞬間、男・・・・・・五花海は、愉しげに告げる。
「貴方の同志である少女・・・・・・リトル・ツィイーの歯を無理やり抜いていきます。あぁ、ご安心を。その様子はしっかりと映させていただきますので。メッサム。貴方が強情な態度を取れば取るほど、彼女は凄惨な目の遭うということですな」
「っ、貴様・・・・・・!」
「しかし、彼女も誇り高き戦士だ。歯を抜かれ、様々な痛苦を受けたとしても決して情報は吐かないでしょう。つまり、彼女の生死を握っているのは貴方というわけです。さぁて、メッサムよ。どうしましょうか?」
意地の悪い言い方に、メッサムは苦渋の表情を浮かべた。自分がどれだけ苦痛を受けたとしても、彼が心を折ることは無いだろう。しかし、ツィイー。誰からも好かれる皆の妹分のような存在が痛めつけられるのは、許せることではない。
「そこまで堕ちたか、ベイラム。年端もいかぬ少女を」
「ただの少女ならば良かったのですが。真に残念なことに、彼女はAC乗りだ。ベイラムの部隊とも何度も戦い損害を出している。挙句、アリーナのランカーでもあるのです。それを年端もいかぬ少女と扱うことは出来ますまい。理由はどうあれ、彼女も人を殺しているのですから」
メッサムの言葉を遮り、男は朗々と言い放つ。言葉に似合わない友好的な笑みを浮かべ、胡散臭さに満ちた視線でメッサムを貫く男。彼は今の時間を愉しんでいるようだ。
「・・・・・・猟奇的な奴め。捕虜を弄び、あまつさえそこに愉しみを見出すとは。見下げ果てた下種だな」
「未だ元気なようで大変結構。まぁ、今回は個人的な理由もありますからねぇ。精々苦しんでもらわねば、溜飲が下がらぬというものです。さてさて、それでどうします?情報を吐くか、貴方がたの妹分、可愛い可愛いリトル・ツィイーが痛めつけられるか。選ぶのは、貴方だ」
ずいと顔を近付けて、男はにっこりと微笑む。その笑顔に裏に、メッサムは明確な感情が隠れていると感じた。腐臭の如く、匂い立つ敵意。
「・・・・・・舐めるなよ。俺も、ツィイーも、コーラルの戦士だ。戦場に身を投じた時点で覚悟は出来ている。外道が、好きにするがいい」
「ほぅ。ならば、目の前で彼女が辱められる様を観賞してもよい、と?ルビコニアンは仲間思いだと聞いていましたが、どうやら存外に薄情なようだ」
「なんとでも言え。俺は、貴様らに何一つ話さない」
射殺さんばかりにメッサムが睨み付けると、男は肩をすくめて笑みを消す。すぅっと感情が抜け落ちて、能面のような表情が浮かび上がった。そのまま、向かいの椅子に腰を下ろす。
「残念だ。えぇ、実に残念ですとも。本当の所、ツィイーという小娘が辱めを受けることはありません。総長に、レッドガンの規則を守れと厳命されていますから。まぁ「多少の尋問」は受けることになるでしょうが・・・・・・」
そう語る男の感情は何も読み取れない。そして、今の情報をメッサムに与えた意味も。
「まぁ、そういうわけです。結局は正規の手段で尋問をするしかない。全く、骨が折れる」
「愚痴を吐く暇があるなら始めればいいだろう。それとも、諦めて解放でもしてくれるのか?」
「それは魅力的なご提案だ。ですが、呑めませんねぇ。あぁ、残念だ残念だ。私、尋問は得意ではないんですよ。加減を間違えて殺してしまうかもしれない。そうなったら、貴重な情報源が一つ減ってしまう。まぁ、現在の戦況で「井戸」の情報など、大した価値は無いのですが。ベイラムの上層部にも困ったものだ」
飄々と喋る男はしかし、なんの感情も浮かべてはいない。ちぐはぐな、妙に不安感を掻き立てられるような雰囲気。
「では、始めましょうか。なるべく長く、耐えてくださいね?」
その声は、まるで氷のように冷たかった。
五花海がメッサムに拷問した説、公式でもあると思います!(ぐるぐるフロム脳)