見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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22.燃えよルビコニアン

「・・・・・・本気なのだな、ダナムよ」

 

『はい。何を言われようと、決意は変わりません。どのような処罰も受けましょう。ですが・・・・・・どうか、作戦の完遂までは待っていただきたい』

 

固く、芯のある声。ダナムのそれを聞きながら、フラットウェルは中指で額を叩いた。こうなっては、彼らを止めることは難しいだろう。

 

フラットウェルが張り巡らせている情報網は、ダナム達が汚染市街へ突入し、捕虜を奪還する計画を立てていることをすぐに察知した。あまりにも愚かで、軽率な行い。当然阻止するべく、ダナムへと連絡を取ったのだが・・・・・・。

 

「何をしようとしているか、理解してはいるのだろう。輸送ヘリはまだしも、貴重な戦力であるACを三機も投入するのだ。それも、防備が万全であろう場所へ」

 

『汚染市街に戦略的価値は無い。それは重々承知です。ですが、帥父を見捨てることは出来ません。無論、他の捕虜達も』

 

「その為に、ルビコンを解放する為に必要な戦力を消費すると?一時の感情に流され、どうしてルビコンを救えようか。考え直せ、ダナム」

 

『帥父ドルマヤンには、最早旗頭以上の価値は無い。帥淑フラットウェルはそうお考えなのでしょう。ですが、それでも、帥父を見捨てることは道理に反します。これまで身を粉にして戦ってきた帥父が、あまりにも報われないではありませんか』

 

「帥父も戦士だ。この惑星で、もっとも経験を積み最も強大な戦士である。だからこそ、見捨てなければならない。ダナム、お前がしようとしていることは帥父の戦士の誇りを侮辱するに等しいことだ」

 

平行線だ。それを自覚しつつも、フラットウェルは説得を続けた。愚かに過ぎる行動は食い止めなければならないが、既にダナムは決めている。だが、それでも止めなければならない。

 

ダナムがこの作戦に投入しようとしている戦力は、捕虜を乗せる為の輸送ヘリが一機。さらに、ドルマヤンの懐刀であるリング・フレディに、ツィイーに恩義を感じ殆ど無償で解放戦線の依頼を受けている独立傭兵、六文銭。どちらもアリーナに登録される程の実力を持つAC乗りだ。

 

そして、ガリア多重ダム防衛及び武装採掘艦ストライダーの護衛を果たし、解放戦線内部で急激に人気を獲得しているシオン。現実に存在し活動している者を、いつまでも秘匿しておくことは不可能だ。だが、あまりにも噂の伝播が早すぎる。

 

恐らくは、ツィイー以上に幼く、かつ可愛らしい見た目だということが関係しているのだろう。いつの時代も、民は偶像を求めるののだ。あるいはドルマヤンに対してもそうだったように。

 

その三人が、今回の作戦に参加する。更には外部の伝手を通じて、もう一人独立傭兵を雇うという話も聞いていた。一か所にそれだけの戦力を集中するなど、リスクが高過ぎる。反攻の目途すら立っていないのだ。いくらドルマヤン達を救う為だとしても、戦略上も戦術上も許容出来ないものである。

 

『・・・・・・帥淑。俺は、貴方がルビコニアンの為に尽力していることを知っています。貴方の言葉が正しいことも。これまで、血の滲むような奮闘をしてきたことも。それでも、これだけは譲れません』

 

「そう、か。残念だ、ダナム。長きに渡り戦い続けてきた君のことを、私は買っていたのだがな」

 

『申し訳ありません。これだけは、俺の矜持を優先させてもらいます。作戦後は如何様にも裁いてもらって構いません』

 

覚悟を決めた漢には何を言っても無意味だ。例え八つ裂きにされようとも、信念を曲げることは無いだろう。ダナムから感じる熱を浴びつつも、フラットウェルは現実的な判断を下すことしか出来ない。それこそが、彼が今まで解放戦線を辛うじて戦わせてきたやり方なのだから。

 

「いいだろう。やるからには万全を期せ。ただ、独立傭兵を雇うことは止めておいた方がいい。過剰な戦力は時として毒になる。それ以外、私からはもう何も止めはしない」

 

『全責任は俺にあります。どうか、他の者には寛大な処置をしていただけますよう』

 

ここで無理にダナムの計画を止めるのは危険だ。一度生まれた火種は、全てを封じ込めない限り燻り続ける。ならば、下手な妨害をせず傍観すると決めた。損害無く切り抜けられればよし。損害が出たとしても、不満を抑え付ける労力を考えればマシな方だ。

 

そして、例の独立傭兵。単騎で戦況を変え得る存在は、この作戦に投入させるわけにはいかなかった。フラットウェルは、レイヴンに可能性を感じている。解放戦線の依頼も受ける、ただの企業の尖兵とは違う者。使い方次第によっては、戦局に楔を打ち込む存在になる。

 

「分かっている。責任を取るのが我々の仕事だ。・・・・・・必ず、成功させろ」

 

『はっ』

 

通信が切れ、フラットウェルはゆっくりと眼鏡を外す。このような事態になることを、ある程度想定はしていた。衰え、気力を失ったとはいえドルマヤンの影響力は甚大だ。彼がやる気であったのなら、戦局は覆っているだろう。あるいは、既にルビコンを解放出来ていたかもしれない。それ程に、ドルマヤンは戦士としても指導者としても優秀なのだ。

 

彼が気力を失った理由は分からない。分かっているのは、今の帥父はまるで抜け殻のような存在であること。フラットウェルとしては、いっそ死んでくれた方が都合が良かった。理想に殉じた戦士として祀り上げることが出来るからだ。

 

「老いたりとはいえ獅子は獅子。しかし・・・・・・」

 

フラットウェルも、ドルマヤンのことは尊敬している。だが、今の有様では解放戦線にとって有益どころか害をもたらす存在になりかねない。だからこそ、己が実権を握り企業との戦いを主導しているのだ。全てはルビコン解放の為に。

 

あるいは。ドルマヤンは、見えているものが違うのかもしれない。彼の思想は複雑怪奇であり、懐刀であるフレディすらも理解し切れていないようだ。ドルマヤンの無気力の理由が、何か見えているからだとしたら。ルビコンを解放せんとするこの戦いには、なんの意味も無いのではないだろうか。

 

「・・・・・・詮無き事だな。戦わねば、ただ蹂躙されるだけだ」

 

思考を打ち切り、フラットウェルは立ち上がる。やるべきことは幾らでもある。これ以上、答えの無い思考に浸っているわけにはいかない。フラットウェルは力強い足取りで部屋を出ていく。戦い、勝ち取る為に。

 

 

 

 

 

 

「おぬしがシオンか。活躍は聞いている。可憐な見た目によらず大層な『もののふ』であるとな」

 

「は、はぁ。どうも・・・・・・」

 

解放戦線のとある拠点。そこのブリーフィングルームには、汚染市街から捕虜を救出する為に集まった戦士達がいた。

 

「仁遠からんや。我、仁を欲すれば、斯に仁至る。我らコーラルの戦士、共に同志を救おうぞ!」

 

「じん、とお・・・・・・なんだ?」

 

奇妙な言葉遣いでシオンに話しかけているのは、独立傭兵の六文銭。見たことも無い装飾を纏う彼は、目を爛々と輝かせながら闘志を漲らせている。シオンも人づてには聞いていた。かなりの変人だが、腕は相当立つらしい。

 

「我がAC、シノビは機動力に長けている。汚染市街に突入後は攪乱を受け持とう。おぬしは輸送ヘリに追従し、護衛を頼みたい」

 

「っと、了解。俺のACは動きも遅けりゃ武装の射程も短いからな。そっちは任せるよ」

 

「お任せあれい!腕の立つ戦士と轡を並べることこそ誉なり!必ずや勝利を!」

 

「お、おー・・・・・・」

 

拳を天に掲げる六文銭に合わせ、小さく拳を掲げるシオン。奇妙な人物だが、提案された戦術については真っ当だ。シオンよりも遥かに歴戦なのだろう。最初から友軍機がいるというのは、僅かながらもシオンの緊張を和らげることが出来ていた。

 

少しだけ気が軽くなったシオンが周囲に目を向けると、見知った顔が視界に移る。本人の強い要望により輸送ヘリの操縦、及び現場でのオペレートを担当することになったアーシル。何かを噛み殺しているような表情で、他のヘリ搭乗者と話をしている。輸送ヘリにはパイロットの他、施設に突入する人員も乗せることになっていた。人対人、白兵戦に長けた者達だ。そして、

 

『皆、集まったようだな。まずは礼を言おう。俺の独断に乗ってもらい、感謝する』

 

ブリーフィングルームの画面に映っているのは、ガリア多重ダムから通信を送っているインデックス・ダナム。彼は多重ダムの指揮官であり、防衛の観点からその場を離れることが出来ない。故に、全体を俯瞰し後方から指示を飛ばす役割となっている。

 

『捕えられた同志達、そして帥父ドルマヤンを救う為。我々は汚染市街へと突入する!作戦は単純だ。AC二機を護衛とし輸送ヘリで捕虜のいる区画に侵入し、突入部隊によって捕虜を救出ののち離脱。既に、生身で汚染市街に侵入した同志達が当該区画に狼煙を上げてくれる手筈になっている』

 

生身で汚染市街に潜入という予想外の言葉に、シオンは思わず吹き出しそうになった。なんという無茶を。いや、輸送ヘリによる突入も大概なのだが。救出は時間との勝負故、これが準備出来る限界だったということだろうか。

 

『こちらの動きをベイラムは把握しているかもしれないが、具体的な作戦内容や戦力までは見抜かれていないだろう。準備が整っているとは言えないが、今は拙速を優先する。全責任は俺が負う、存分に暴れてくれ!』

 

歓声が上がる中、シオンは部屋の隅に佇んでいる男に目をやった。リング・フレディ。ドルマヤンの懐刀にして男娼でもあるという異色の存在は、周りの雰囲気に流されること無く沈痛な面持ちを浮かべている。ブリーフィングルームに入ってきてから、彼は一言も発していない。こちらに一切の興味が無いのか、あるいは別の理由か。

 

「・・・・・・うーむ」

 

なんとなく、嫌な予感がする。事前にダナムから伝えられた作戦では、汚染市街に突入するのはシオンと六文銭。リング・フレディは陽動及び敵増援の妨害の為、汚染市街と「壁」を繋ぐ補給路を襲撃することになっていた。なので、直接共闘することは無さそうだが・・・・・・。と、不安が表情に浮かんでいたのだろう、アーシルが気遣わしげに話しかけてくる。

 

「シオン、大丈夫か?暗い顔をしているけど」

 

「ん、いや、大丈夫。というかそれはこっちの台詞だぜ。アーシルの方は大丈夫なのかよ?」

 

「・・・・・・あぁ。皆を助けるというのに、へこたれてはいられないからね。絶対に、成功させないと」

 

「気負いすぎんなよ。こっちまで緊張してきちまう」

 

苦笑しながらそう返すと、アーシルの視線が数瞬迷い、再びシオンに向いた。何かを伝えようとして、その何かが分からないといったような雰囲気。

 

「・・・・・・どうした?悩みがあるなら、作戦前に吐き出しといた方が」

 

「悩み、というわけでは無いんだけど・・・・・・シオン、先日私がしたお願いを覚えているかな?」

 

予想外の返答に、シオンは記憶を遡る。確か、そう。時間のある時に、自分自身のことを話してほしいとかなんとか。「壁」陥落や今回の作戦もあり、すっかり忘れてしまっていた。

 

「あーっと、俺のことを話してほしいって奴か?」

 

「そう。・・・・・・この作戦が終わったら、ツィイーやメッサムとも一緒に改めて聞いてみたい。勿論、シオンがよければだけど」

 

「そいつは、まぁ。構わないけど。前も言ったが、大して面白いもんでもないぜ?」

 

「いいんだ。だから、シオン。絶対に生き残ってくれ。貴方も、私も、ツィイー達も。全員無事で、約束を果たしたい」

 

張り詰めた緊張と、願いをかけるような口調。それでいてこちらを心配しているような雰囲気に、シオンは少し瞑目した。驚きというか、動揺が胸の内にある。そこまで、自分のことを大切に思っているのか。使い潰されるのが常の、ただの傭兵のことを。

 

いや。アーシルや解放戦線にとって、シオンは最早ただの傭兵ではないのだろう。今の自分程幼いAC乗りの存在は見たことが無い。その上、曲りなりにも戦果を上げているのだ。利用価値が高まったから、優しくしている?いや、いや。それは違うぞ。シオンは目を開き、目の前のアーシルを見る。

 

彼は、純粋にこちらの心配をしているんだ。この任務で、シオンが死なないように心から願っているんだ。ならば、それに応えねばならない。元より、自分も隣人も死ぬのはもうごめんなのだから。大きく息を吸い、シオンは可憐ながら力強い声で言い放った。

 

「あぁ。やってやるよ。誰も死なず、捕虜を救出する。・・・・・・アーシル、気を回してくれてありがとうな」

 

「い、いや、そういうつもりでは」

 

「いいんだよ、俺が勝手に感謝してるだけだ。そんじゃ、ちょっと行ってくる」

 

「え?シオン、どこに・・・・・・」

 

にかっと笑って背を向けようとするシオンに、アーシルが困惑気味に訊ねる。振り返った彼の表情は、どこか清々しく見えた。

 

「もう一人、挨拶がまだだったからさ。共に戦うんだ、言葉くらいは交わしといた方がいいだろ?」




ガバガバ立案。いや、時間が限られているのでしょうがないし本編よりは遥かにマシなんですが。
ちなみに、生身の人間の戦闘力はルビコン解放戦線が一番上という感じにしてます。ルビコニアン空手バンザイ。次点でレッドガンを擁するベイラム。総長の指針で格闘技術は必修です。優秀な兵器が数多くあるこの世界で、どれだけのアドバンテージになるかはまだ分かりません。
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