見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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23.岐路

「よぉ。初めまして、だな。俺はシオン、解放戦線付きの独立傭兵をやってる。よろしくな」

 

ずかずかと近付いてきた少女は、フレディに向かって馴れ馴れしく話しかけてきた。まるで模造品のように整った愛くるしい顔立ちに似合わない、明け透けな笑みを浮かべている。

 

「・・・・・・」

 

フレディは口を開かず、冷たい瞳でシオンを見つめた。彼女のことは知っている。最近解放戦線内で戦果を上げ続けている、出自不明のAC乗り。フラットウェルの隠し子だの、企業から逃げてきた少年兵だの色々な噂が立っているが、どれもフレディは信じていなかった。

 

実力はあるのだろう。危険で過酷な任務を潜り抜けていることから、それは分かる。だが、フレディがシオンに心を開くことは無い。結局の所、彼女も警句の意味を知らない蒙昧な輩なのだから。

 

「あれ、もしかして聞こえてないか?おーい」

 

「・・・・・・君と話すことは何も無い。役目は果たす、それでいいだろう?」

 

大人げないと自覚しながらも、フレディはシオンを冷たく突き放す。元々、他の解放戦線メンバーとは距離を取っていた。それは、外様の協力者相手でも変わりはしない。・・・・・・しかし。

 

「そう言うなって。少しでも作戦の成功率を上げたいんだよ。ある程度人となりが分かってれば、対応も変わってくるだろ?作戦開始までは時間がある、それまでお話するくらいいいじゃんか」

 

目の前の少女は一切引き下がらず、ペラペラと適当な理屈を並べてくる。正直鬱陶しい。フレディは無言で背を向け、立ち去ろうとした。と、

 

「フレディ殿!こうして直接相まみえるのは初めてか。此度の戦、よろしく頼み申す」

 

行く手を遮るように現れたのは、同じく今回の作戦に参加するAC乗り、六文銭。フレディは彼のことが明確に嫌いだった。話が通じず妙な口調で喋り、挙句警句を都合良く解釈している節もある。実力はあるのだろうが、可能な限り関わりたくないタイプだ。

 

「えっと、六文銭さんとフレディさんは協同して戦ったことがあるのか?」

 

「うむ。アーキバスの前衛拠点を潰す時に、一度な。あの時のフレディ殿の戦いぶりは見事であった」

 

満足気に頷く六文銭。フレディは露骨に嫌そうな顔を浮かべているが、どうやら気付いていないようだ。そんな二人を見たシオンが、微妙な表情で呟く。

 

「うわー・・・・・・面倒そうだな、こりゃ」

 

「そこをどいてくれ、六文銭。慣れ合うつもりは無い」

 

「相変わらず、悩みの尽きぬ顔をしておるな。憂患に生き、安楽に死す。故におぬしは強いのだろうよ」

 

目下の悩みはお前だ。吐き出しそうになった言葉を飲み込んで、フレディは六文銭を押しやり立ち去ろうとした。しかし、腕をがっしりと掴まれて逃げられない。元凶である六文銭を睨むが、まるで堪えた様子が無い。それどころか、深く頷きながら笑みを浮かべている。

 

「まぁ、そう急ぐこともなかろう。与にいうべくしてこれと言わざれば、人を失う。我ら三人は共に命を預け合うの戦友なのだ、親交を深めようぞ」

 

振り払おうにも力が強過ぎる。何より、こちらのことをただの戦友だと認識しているのは質が悪かった。元々、フレディは偏見や嫌悪の目を向けられることが多い。ドルマヤンに取り入る色狂い。コネを使って性能の高いACを用意してもらっている。解放戦線の中にも、陰口を叩くものはいるのだ。

 

しかし、目の前の二人にはそれが無いからこそやりにくい。いっそ悪意を以て接してくれた方が、フレディにとっては楽だった。

 

「・・・・・・君達を言葉をかわすと、俺の士気が落ちる。そうすれば作戦成功率も下がる。本当に帥父達を救いたいと思っているなら、無駄な話はやめてくれ」

 

嫌気が差したように言うと、六文銭の横で微妙な表情をしていたシオンが彼の服を引っ張る。こちらの思いをようやく察してくれたのか。

 

「六文銭さん、フレディさんは人付き合いが苦手みたいだ。今日の所はそっとしておこう」

 

その言い方には引っかかりを覚えたが、これでようやく解放される。六文銭が腕を離した途端、フレディは足早にその場を立ち去った。背中に向けられた視線を、意図的に無視しながら。

 

 

 

 

「うぅむ、迷惑であったか。機微に気付けぬとは、不覚」

 

落ち込んでいる様子の六文銭を横目に、シオンはブリーフィングルームを出ていくフレディの背を眺めていた。アーシルの想いを受け、少しでも積極的に行動してみようと思ったのだが・・・・・・どうにも、上手くいかなかったようだ。

 

似合わないことをしたと後悔するも、思い直す。後悔するだけなら今までと同じだ。気合を入れ直し、横でしょんぼりとしている六文銭に話しかける。

 

「こういうこともあるって、六文銭さん。とりあえず、あんたとフレディさんが協同した作戦のことを教えてくれないか?AC内で待機するまでまだ時間があるしさ」

 

「む、そうか・・・・・・そうだな、それが良かろう。フレディ殿には後で謝罪をするとして、さてどこから話したものか」

 

気分を持ち直した六文銭が語り始めると、たちまち言葉に熱が入り始め身振り手振りを交えるようになっていった。己の世界観に入り込みやすい性格なのだろう。壮大ながら実戦的な話を聞きながら、シオンは覚悟を固めていく。

 

おそらく、実力では自分が一番下だろう。六文銭もリング・フレディも音に聞こえたAC乗りだ。その上で自分が出来ることは、身を挺してでも輸送ヘリを守ること。ACの耐久力に任せて迎撃し、かつ生き残ることだ。

 

今回の作戦は今までとは全く違う。多重ダムやボナ・デア砂丘で演じた防衛戦ではなく、こちらから仕掛ける襲撃戦だ。レッドガンのACが複数出てきてもおかしくはない。他にも、想定していないことがいくつも起こるはず。

 

当初の予定に囚われず、柔軟に動かなければならない。それが、果たして自分に出来るだろうか?シオンにはその自信は無かった。それでも、やれる限りやるしかない。六文銭の話に相槌を打ちながら、彼の心は少しずつ熱を帯びていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『緊急報告!汚染市街外縁にて飛行する所属不明の輸送ヘリを確認!AC二機を帯同しまっすぐ突入してきます!』

 

切羽詰まった部下の声。寝台から素早く起き上がったナイルは、部屋を飛び出しながら返答する。

 

「落ち着け。ACの情報解析を急げ、MT部隊は展開しているな?」

 

『了解!展開しているMT部隊はベイラムの指揮系統ですが、我々レッドガンのMTも出撃準備は整っています!』

 

「相手の目的は捕虜奪還の可能性が高い。収容施設近辺に展開しろ」

 

『し、しかし副長。先日のベイラム上層部からの命令により、捕虜達は分けて収容されています。割り振りはどうすれば・・・・・・』

 

寝起きだからか、ナイルは一つ失念していた。ベイラム上層部は、捕虜が逃走することを避ける為、重要人物であるサム・ドルマヤンをより厳重な区画に収容することを命じてきていた。移動している間の危険や、捕虜を分散するということは警備も分散するということになるのも気付かないままに。

 

「・・・・・・そうだったな。半分をドルマヤンが収容されている区画に、残りは均等に展開せよ。他区画が攻撃を受けても持ち場を堅守するように」

 

面倒なことだと内心思いつつ、彼は自分のAC・・・・・・ディープダウンが格納されているガレージへと向かう。ベイラム上層部からの横槍が入らなければ、「壁」の制圧も成功していたかもしれない。挙句、捕虜の収容場所という些事にこだわるとは。現場を何も知らない者の命令に従うのに、ナイルは嫌気が差していた。

 

「・・・・・・さて」

 

気持ちを切り替え、腕に取り付けたデバイスを操作する。侵入者の解析はすぐに済んだようで、既に情報が送られてきていた。輸送ヘリはロゴから推測するに解放戦線のもの。護衛の二機は、片方のAC名がシノビ。パイロットは解放戦線に与する独立傭兵、六文銭だ。そして、もう片方は。

 

「これは、また厄介なことだ」

 

最近になって活動を始めたらしい解放戦線のパイロット、シオン。AC名はまだ登録されていないようだ。G4とG5によるガリア多重ダム襲撃の顛末はナイルも聞き及んでいる。しかし、彼女に対する戦闘記録はその一つきりだ。ヴェスパー部隊によるストライダー襲撃の際も現場にいたらしいが、詳細は掴めていない。

 

機体構成から考えて、六文銭が露払いを行いシオンが輸送ヘリの傍で迎撃に専念する腹積もりだろう。ならばこちらは、相手が対応出来ないほどの戦力をぶつければいい。極めてベイラム的な戦術だが、実際に効果的だ。

 

「G3五花海に通達、出撃準備を整えろ。私も出る。汚染市街内部へ誘い込んだ後、挟撃するぞ」

 

『了解です、G2。想定よりも早く仕掛けてきましたな。増援要請は?』

 

「既に送っている。余計な気は回すなよ、G3。まずは、目の前の事に当たれ」

 

『分かっていますとも。では』

 

通信を切り、ナイルは先を急いだ。防備は万全とは言えず、ベイラム所属部隊との混成の為指揮系統に混乱もある。不安定な状態だが、それでも守り切るのが己の仕事だ。ガレージに辿り着いた彼はディープダウンに乗り込み、出撃準備が整うまでの間的確な指示を部下に飛ばし続けた。

 

 

 

 

 

 

変化している。何かが、ずれてきている。621は明確に感じていた。今までとは、違う状況だと。

 

既に時刻は深夜、彼女の飼い主も眠っている時間。621はウォルターに露見しないよう、ひっそりと思考を回す。本来であれば、この時間は任務を受けているはずだった。解放戦線による捕虜救出ミッション。既に何度もこなしたそれが、今回は依頼されてこなかったのだ。

 

何故か。以前と今で何が違うのか。621は、ガリア多重ダムで邂逅した人物を思い浮かべた。今までには存在しなかった、明確に異常な差異を。

 

「・・・・・・」

 

インデックス・ダナムのAC、バーンピカクスを操縦していた者。明らかに幼い声を通信越しに聞いた時、621の胸の内から湧いてきたのは期待感だった。これまでとは違う展開。何度も何度も繰り返してきた地獄に、一筋の光が差し込んだかのようだ。

 

オープン回線から流れてきた情報では、どうやら彼女はシオンという名前らしい。やはり聞いたことが無い。そのようなAC乗りを、621は知らない。バイタルが乱れる程の希望は、彼女が無理をするに十分なものだった。

 

積み重なった経験や知識を駆使し強引にストライダー防衛戦に介入したのも、ひとえに変わっていく状況を把握する為である。本来なら届いていたはずの、ストライダー破壊及びストライダー防衛の依頼が届かなかったのだ。何かが起きている。今までとは違う、何かが。

 

ウォルターに疑念を向けられるのは避けたかったが、この際仕方が無い。結果、その戦場にもシオンはいた。更には、本来いないはずのヴェスパー部隊までも。

 

「・・・・・・ァ」

 

機能していない声帯から音が漏れる。ずっと、ずっと待ち望んでいた。変化を。転機を。違う未来に辿り着く、可能性を。

 

そして。今、621は汚染市街にはいない。今までに幾度も繰り返してきた依頼は、彼女の元には届かなかったのだ。流石にこれに介入することは出来そうもない。そもそも、あの無謀な作戦そのものが無くなっている可能性もある。「友人」がいれば情報を集めることが出来るのだが・・・・・・。

 

「ゥ、ゥ・・・・・・」

 

死んでいるはずの感情が高揚している。焼けるような切望が湧き上がってくる。今度こそ、今度こそ助けることが出来るかもしれない。───ハンドラー・ウォルターを助けられるかもしれない。

 

621は祈る。手の届かない場所で何が起こっているかは分からない。それでも、祈り続けた。結末が、彼女の望み通りになることを。




もう完全に本編の方とは違う方向に進んでいます。汚染市街で多数のACがぶつかる一大決戦です。
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