見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
『先に往く!シオン、輸送ヘリは任せたぞ!』
勇ましい声と共に、六文銭のACであるシノビが汚染市街に突っ込んでいく。軽快な機動で敵MTを翻弄し、瞬く間に撃破した。やはり、実力は本物だ。
『シオン、最も近いのは同志ツィイーが収容されている施設だ。今、場所のデータを送った。先行している六文銭が討ち漏らした敵に対応してくれ』
「了解っと。さぁ、頼むぜ・・・・・・出来りゃあACは出てこないでくれよ」
オペレーターを務めているアーシルに返事をして、シオンは緊張を抑えるように呟いた。レッドガンに所属するACの実力は身を以て知っている。自分のACを得て戦い方を構築した今でも、あの時相対したG5、イグアスと戦えば勝てるかは分からなかった。それでも。
「やるしかねえからな。絶対に守り切ってやる・・・・・・!」
通信には乗せずに呟き、輸送ヘリと速度を合わせ進んでいくシオン。六文銭が暴れ回っているお陰で、結局接敵する事無くA地点・・・・・・ツィイーが捕えられている場所に到着した。
『A地点到達、着陸準備。同志ツィイーの救出を開始する』
銃火器とボディアーマーで武装した数人の突入部隊が施設へと侵入していく。彼らだけでツィイーを救出することが出来るのだろうか。不安に思いながらも周囲を警戒するシオンだったが、その心配は杞憂だった。呆気無い程の速さで突入部隊は帰還し、憔悴した様子のツィイーを輸送ヘリへと連れ込んだのである。
「マジかよ・・・・・・」
喜びよりも先に不気味さの方が勝り、声を漏らすシオン。それもそのはず、ルビコンの過酷な環境で暮らし続けてきたルビコニアン達は星外の者達よりも遥かに頑強だ。あるいはコーラルによって育ったミールワームを主食にしているからなのか・・・・・・理由は未だ判明していないが、純粋な人間同士の戦いでは異常な強さを発揮する。歩兵同士の戦闘であれば、星外企業の兵士達を相手にしない程に。
救出されたツィイーは酷く憔悴しているものの、目立った怪我は無いようだ。力の無い掠れた声で、ツィイーが言う。
『助けにきて・・・・・・くれたんだね・・・・・・』
『待たせてすまない、ツィイー』
『大丈夫さ・・・・・・生きてる。ちょっと休んで・・・・・・またやり返そう』
以前とはかけ離れた、快活さの感じられない様子にシオンの胸が痛んだ。しかし、感傷に浸っている場合ではない。六文銭は輸送ヘリへと向かってくる増援を次々と撃破しているものの、いつ、どこから攻撃が来るか分からないのだ。と、
『すまぬ、シオン!MT搭載のヘリが一機そちらに向かっている、対処を頼む!』
早速来た。そう思いながらシオンはレーダーに表示されている方向に機体を向ける。そこには六文銭からの通信通り、MTを数機吊り下げてこちらに突っ込んでくるヘリがあった。MTを投下される前に対処しなければ面倒なことになるだろう。
「あいよ、任せなっ!」
気丈に声を上げてブーストを吹かすシオン。ミサイルを放ちながらヘリとの距離を急速に詰めると、マシンガンとハンドガンで撃墜を試みる。幸い回避機動を取られる前に射程内に捉えることが出来、MTごと撃墜した。他に抜けてきた敵はいない。六文銭が獅子奮迅の働きをしているようで、遠くで躍動するシノビが見える。
「よしっ・・・・・・!でも、まだだ」
今の所はとても順調だ。だが、このまますんなりいくとは思えない。シオンは深呼吸をしながら両手の武装をリロードし、輸送ヘリと付かず離れずの位置をキープする。程無くして、二つ目の降下ポイント、B地点に到着した。
『B地点降下、同志メッサムを救出する。シオン、周辺を警戒してくれ』
「おう!」
威勢よく返事をしたが、六文銭の活躍のお陰か他の敵が抜けてくる様子は無い。ならば、警戒するべきは前方では無く左右や後方。最大限集中しながら周囲に注意を向けていると、微妙な違和感が湧き上がってきた。機器に反応は映っておらず、目視しても何も無いように見える。しかし、シオンはこの違和感を軽視しなかった。
戦場で戦う人間には往々にして、人智の及ばぬ「何か」がある。第六感や霊感と呼ばれる、計測しようの無い感覚だ。凄まじいスペックを持つ肉体が訴えてくるそれはきっと正しい。シオンはその感覚のままに、通信に向かって吼えた。
「輸送ヘリの左右!何かが潜んでるぞ!六文銭さん、戻ってきてくれ!」
『っ、承知した!』
六文銭のACが反転し輸送ヘリの方へ戻ってくるのとほぼ同時。今までスキャンにも映らなかった存在しないはずの機影が左右から現れる。いかにして欺瞞していたのかシオンは知る由も無いが、警戒していた分行動は早かった。
「おおおおぉっ!」
少しでも近い右側に突っ込むシオン。敵機はどうやら四脚型のACらしく、高度を取ってマシンガンとミサイルを撃ち下ろしてきた。
『どうやら随分と鼻がいいようだ。ですが、無駄です』
「そいつはどうも、試してみるか!?」
ブースターを吹かし自身も高度を上げながら、シオンは分裂型のミサイルを回避する。間断無く放たれるマシンガンの弾は装甲で受けながら、敵ACに肉薄しようとした。しかし、その四脚はするすると後方に下がっていく。輸送ヘリ防衛の為、シオンが現在の場所から遠く離れることは出来ないと気付いているのだろう。
『くっ、ミサイルが・・・・・・!シオン、敵ACの解析を完了した!G2ナイル及びG3五花海!共にレッドガンの上位ナンバーだ!』
輸送ヘリの右側、ナイルが駆るACディープダウンのミサイルを受けながらアーシルが叫ぶ。精鋭であるレッドガンのNo.2と3。尋常では無い強敵だ。
『その通り。今降伏するならば、命だけは保証しましょう』
「舐めてるなぁどうにもさぁ!ケツ捲ってないでかかってこいよ臆病者!」
『吠えるだけなら如何様にも。ほら、いいのですか?お仲間のヘリが狙われていますよ』
目の前の敵・・・・・・五花海の言う通り、大量のミサイルが輸送ヘリに降り注いでいる。しかし、五花海を無視するわけにもいかない。意識がナイルの方に向けた瞬間、目の前の四脚はシオンに襲い掛かってくるだろう。だが、このままでは輸送ヘリが。と、
『させぬぞG2!企業の兵よ、ルビコンの土となれい!』
アサルトブーストで突っ込んできたのは、六文銭のAC、シノビだ。凄まじい機動でディープダウンに肉薄し、輝く鞭のようなもの・・・・・・プラズマ機雷投射機を振るう。装甲に掠めつつもかわしたナイルは、エイムのターゲットをヘリからシノビへと移した。無視を決め込んでヘリを落とせる程、目の前の敵は甘くないようだ。
『解放戦線に身を置いた独立傭兵・・・・・・あえて弱者につくのは感傷か?』
『義を見てせざるは勇無きなり!同志奪還の邪魔はさせぬ!』
六文銭が身を挺したお陰で、ヘリへの攻撃は一旦止んだ。しかし、状況は未だ最悪である。目の前のレッドガンACを撃破しなければ、汚染市街からの離脱も出来ない。何より、現在突入し奪還を試みているメッサムの身柄とは別に、帥父ドルマヤンも救わなければならないのだ。
「ったく、キッツいぞこりゃあ・・・・・・!」
呟きながら肩のミサイルを放つ。が、五花海はパルスシールドを展開し受け止めた。機体の損傷もACS負荷も殆ど与えられていないようだ。
『そのような攻撃ではとてもとても。一歩踏み出す勇気が無い臆病者は、どうやらそちらのようだ』
煽るように言う五花海は、しかし攻撃は消極的だ。四脚型の特性であるホバー機能で空中に浮かびながら、シオンをマシンガンで牽制するだけ。ミサイルは最初に放ったのみである。明らかな時間稼ぎに焦れるシオン。いっそ突っ込もうと何度も思ったが、それこそが敵の狙いかもしれない。
ヘリという護衛対象があり、メッサムを収容出来ていない現状ではこちらから動くのは難しい。シオンは奥歯を噛み締めながらそう判断した。今やるべきは、何よりも輸送ヘリの損耗を避けることだ。幸いMTやその他の兵器はこちらに向かってきてはいない。ならば、メッサムが救出されるまでは目の前のACは牽制するだけでいいだろう。
一方、睨み合いの様相を呈してきたシオンと五花海とは逆に、六文銭とナイルは激しく銃火を交わしていた。ナイルのACであるディープダウンはミサイルを満載した重量二脚であり、圧力をかけ続けなければあっという間に輸送ヘリを落としてしまう火力を有している。故に六文銭はヘリから離れてでも肉薄し、重量機の苦手な機動戦に持ち込んだのだ。
『腕は確かなようだが・・・・・・通すわけにはいかんな。独立傭兵よ、死地に飛び込んだ自覚はあるか』
『何を今更!朝に道を聞きては夕べに死すとも可なり!怯懦に身を窶す程落ちぶれてはおらん!』
堅牢な装甲にショットガンとアサルトライフルのバースト射撃を叩き込み、六文銭は戦意衰えず声を上げる。直後に肩の特殊ミサイルを放ちつつ突撃した。ミサイルの弾幕を掻い潜り、ディープダウンを蹴り込もうとする。しかし、
『ならば、蛮勇のまま死ぬがいい』
正確無比なリニアライフルのチャージショットがシノビに突き刺さった。凄まじい衝撃にスタッガーし、動きを止めるシノビ。軽量機にとってこの隙は致命的である。
『ぬぅっ・・・・・・!?』
冷静に、粛々と目の前のACを破壊せんとするナイル。ミサイルの装填はまだ終わっておらず、リニアライフルもオーバーヒートしている。ならば先ほどの相手と同じく蹴りを見舞おうとしたところで、何故か後方に距離を取った。
『・・・・・・ふむ。これを見越して放っていたのか。だが、この程度の罠にはかからんよ』
六文銭が突撃と共に放った特殊ミサイル。軌道上に残るワイヤー型の爆薬もろとも炸裂するそれが、ディープダウンとシノビの間に走った。すぐに爆発するも、下がった敵機を巻き込むには至らない。お陰でスタッガーからは回復したものの、六文銭はナイルの状況把握能力に舌を巻いた。小手先の技が通用する相手ではない。
『G2ナイルよ、我が全霊を以ておぬしを打ち倒す。鞍上人無く鞍下馬無し、人機一体の猛攻を見よ!』
今以上に苛烈に攻め立てる六文銭に、ナイルは悠然と対応する。ある程度は装甲で受けつつ、致命傷になり得る攻撃は的確に回避。熟練の操縦技術は六文銭すら凌ぐものだ。分厚さを感じるようなナイルの戦術に、六文銭は徐々に押されているのを感じていた。このままでは、脱出どころかこの場で落とされる。しかし、打開策が無い。
六文銭は歯を食いしばりながら攻撃を続ける。そうしなければ輸送ヘリに攻撃が向いてしまうからだ。だが、ここからどうすればいい。何も分からぬまま、彼は通信を開いた。
『シオン、そちらの様子はどうだ!?』
「敵が消極的で時間を稼いでいる感じだ!出来りゃあそっちの救援に向かいたいが、そうしたら輸送ヘリを狙う算段だろう!すまん、俺はこっちに釘付けになってる!」
『むうぅ・・・・・・!』
声の調子から察するに、六文銭も苦境に陥っているのだろう。シオンは焦りながらも一歩踏み込むことが出来ずにいた。目の前の敵の発する気配に、どうしても踏み込むことが出来ないのだ。
『さて、どうやら貴女のお仲間は苦戦しているようだ。当然です、我らレッドガンの副長を相手にしているのですから。さて、このままではお仲間は撃墜され、輸送ヘリも墜とされるでしょう。いい加減勇気を振り絞る時では?』
「黙れよお喋り野郎!安全圏まで離れてくっちゃべる奴は気楽なもんだなぁ!」
言い返しながらも、シオンの心は五花海の話術で揺れていた。無理にでも突っ込むべきか否か。六文銭が押されている以上、こちらでどうにかしなければいけないことは理解している。しかし、まるで誘い込むような五花海の言葉に判断が揺らぐ。罠ではないのか。だとすれば、他にも伏兵を潜ませているかもしれない。しかしブラフの可能性もある。一体どうすれば。
シオンは僅かな時間で思考を回す。五花海の狙いはなんなのか。普通に考えれば時間稼ぎだが・・・・・・何か、裏に潜ませている可能性も高い。
「~~~っ!乗ってやるよ、どんな罠だ!?」
アサルトブーストを起動し、シオンは真っすぐに五花海へと突っ込んだ。罠だろうとなんだろうと、六文銭が破れてしまえばそれで終わりだ。輸送ヘリは落とされ自身も撃墜されるだろう。それを覆せるチャンスは今しか無い。
『凶穴に飛び込む勇気、実に素晴らしい。歓迎しましょう』
五花海の声を無視に、ひたすらに真っすぐ突き進む。怪物の口の中に飛び込むような心地のまま、シオンは五花海に向かっていった。
『こいつ、速い・・・・・・!?』
『先行してくれオールバニー!このACはこっちの部隊で引き受け、ぐわあぁっ!?』
汚染市街とベイラムの拠点を繋ぐ補給路。ある程度整備された大地を高速で進んでいた輸送部隊は、ACの襲撃を受け大混乱に陥っていた。
『このAC・・・・・・解析が終わった!解放戦線のキャンドルリング、パイロットはリング・フレディだ!』
『ドルマヤンの懐刀!?汚染市街に侵攻してきた奴らと繋がってるな、撃退するぞ!』
迎撃の体勢を整えようとするレッドガンのMT部隊を前に、リング・フレディは構う事無く距離を詰める。彼のAC、キャンドルリングは軽量のタンク型脚部を採用し、機動力と火力を両立させている。三次元戦闘や市街戦は苦手だが、このような開けた場所で地上部隊を相手にするのは大の得意だった。
「お前達を増援に向かわせるわけにはいかない。ここで死んでもらう」
淡々と告げて、背中の二連グレネードをMTの群れに撃ち込む。さらに逃げていく大型トラックにハンドミサイルを放った。直撃、爆散。輸送中のMT部隊如き、フレディの敵ではない。汚染市街への増援を諦め、撤退していく彼らを深追いせずに見送りながら、彼はゆっくりと息を吐く。
「・・・・・・帥父は、無事に救出されただろうか」
距離がある程度離れている為、ACだけでは汚染市街に通信が届かない。あちらの戦況が確認出来ない状況に、フレディは苛立ちつつも冷静に考えた。任務は果たした。ベイラムは損耗を恐れ、再び増援を送ってくることは無いだろう。作戦では拠点に戻る手筈になっていたが、キャンドルリングは殆ど被弾しておらず弾薬も潤沢だ。ならば。
「行こう。今は、俺が出来ることをするしかない」
呟き、地上を滑るようにキャンドルリングが進んでいく。目的地は汚染市街。現在捕虜奪還作戦が行われているであろう場所。まごうこと無き鉄火場に向かいながら、フレディは祈るように警句を唱えた。解放戦線に所属する者の殆どが、真意を理解していない言葉を。
「コーラルよ、ルビコンと共にあれ。帥父よ、今フレディが参ります」
うおぉルビコニアン最強!やっぱコーラルを日常的に摂取してる奴は違うぜ!
それと、私事ですが書き溜めていた分が終わってしまったのでこれから不定期掲載となります。どうか寛大な心でご了承下さい。