見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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25.帥父ドルマヤン

「クッソ、のらりくらりしやがって!」

 

吐き捨てながら突っ込むシオンは、しかし五花海のACを捉えることは出来ない。建物の陰に隠れ、出てくる様子が無いのだ。強引に突っ込んでも回り込むように射線を切り、決して相対しようとしない。姑息ながら効率的なやり方に、焦りが募っていく。

 

『当然でしょう?待つだけで勝利が転がり込んでくるのです、わざわざ戦う必要など無い。さてさて・・・・・・どう出ますか、解放戦線の戦士よ?お仲間の助けに行かなくていいのですか?』

 

「黙れっつってんだろ!」

 

苛立ちのままに叫びながらも、シオンは冷静に状況を分析する。どうやら、相手の思わせぶりな態度は純粋に時間稼ぎの為だったようだ。今の所伏兵が現れる様子は無い。ならばどうする?五花海が輸送ヘリを狙うことを承知で六文銭の救援に向かうべきか。だが、しかし・・・・・・。

 

『素直なようで実に結構。扱いやすくて何よりです』

 

五花海は、通信越しに伝わってくる苛立ちの感情にほくそ笑んだ。彼があえて胡散臭く振る舞い、話術によってシオンを混乱させたのは、シオン自身が気付いた通り時間稼ぎの為である。最も安全に、かつ効率的に輸送ヘリを落とす。その上で、不測の事態に備え弾薬の消費と機体の損耗を抑えるにはこの手が一番だった。

 

如何に突入してきたAC乗り達が精強と言えど、G2ナイル相手に一対一で戦えば勝てるわけも無い。こちらはもう一方のACを引き付けつつ、交戦を避けるだけで勝利が手に入るのだ。楽な仕事である。そう思っている五花海の耳に、可憐な声色に似合わない咆哮が聞こえてきた。

 

「っだらああぁあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

アサルトブーストを起動しひたすらに真っすぐ突撃するシオン。回避機動すら取らない捨て身の特攻に、五花海の対応が一瞬遅れる。慌ててミサイルを放ちマシンガンを連射するも、シオンはそれを装甲で受けつつ肉薄した。しかし、

 

『愚かですねぇ!』

 

上空へと浮き上がり突撃をいなそうとする五花海。シオンのACは近接戦用に武装を整えられている。高度を取り距離を離せば無力化出来るはずだ。案の定追い切れず、シオンはENを枯渇させたようでずるずると降下していく。呆気無い。こうなれば上空からミサイルで痛めつけるだけだ。

 

「クソ、まだ・・・・・・!」

 

『いいえ、終わりです。後悔と共に嬲られなさい、っ!?』

 

ミサイルの誘導ロックが済む寸前。けたたましい音と共に遠くの施設が爆発した。あそこは、サム・ドルマヤンを収容していた施設のはず。一体何が。状況の掴めない五花海の元に、掠れた声で通信が響く。オープン回線から聞こえてくるそれは、彼が知っている声だった。サム・ドルマヤン。捕えられているはずの老人が何故。

 

『灰かぶりて、我らあり』

 

 

 

 

 

時間はやや遡る。何者かの襲撃を受けた汚染市街が、慌ただしく迎撃準備を整えている頃。ドルマヤンは独房の中、呆けたように虚空を見つめていた。

 

「クソ、ルビコニアン共が・・・・・・!わざわざ俺が非番の時に来やがってよ!」

 

扉の外で愚痴を零すのはベイラム所属の末端兵士だ。折角の非番の日にアラームで叩き起こされ、ドルマヤンを逃がさぬよう歩哨として駆り出されているのである。本来そんなことをする必要は無いはずだ。ここには複数のMTにレッドガンのACが二機、さらには迎撃用の砲台も多数配備されている。ここまで辿り着ける可能性など皆無だと言えるだろう。

 

苛立たしげな兵士は、扉ののぞき穴からドルマヤンの様子を確認する。枯れ枝のような体で座り込み、虚空を見続けている有様は、ボケ老人と言って差し支えない。

 

「こんな爺が解放戦線のトップねぇ・・・・・・助けたところでなんの役にも立たないだろうに、あほくせぇ」

 

ブツブツと言いながら手元の銃器を確認する。先ほど、最悪の場合は奪還される前に殺しても構わないという通達があった。しかし、自分が殺してしまえば、始末書の一枚や二枚では済まないだろう。最悪減俸の可能性もある。やるなら他の奴がやってくれ。それが兵士の素直な思いだった。と、

 

「・・・・・・か」

 

「あん?」

 

微かな音。独房から聞こえたような気がして、兵士は再びのぞき穴を確認する。ドルマヤンは相変わらず座り込んでままで、しかし首の向きが変わっていた。こちらを向いている瞳は、どこか遠くを見つめているように茫洋だ。皴だらけの顔、その口が僅かに動いている。

 

「そこで、見ているのか」

 

「お、おい、こっちに来るな!座ってろ!」

 

ゆらり。重さを感じさせぬ動きで立ち上がり、扉へと近付いてくる。兵士が制止するのも聞かず、ドルマヤンは扉の前へと立った。単純ながら堅牢な鉄の扉に遮られていてなお、兵士は怯えたように距離を取る。まるで幽鬼のようなドルマヤンのいで立ちは、人が恐怖するに十分なものだった。

 

「は、離れねえと撃つぞ!おい!」

 

声が聞こえているのかいないのか、扉の前で佇み続けるドルマヤン。兵士は銃を構えつつもなんとか思い直した。何をどうしようと、彼が独房から出てくることは無い。今時古臭い鉄の扉は、内側から開く仕組みになっていないのだ。

 

「このボケ爺が、びびらせやがって・・・・・・!そんなに撃たれてぇのか、あぁ!?」

 

荒っぽく叫ぶも、ドルマヤンは何も反応しない。ただ、そこに突っ立っているだけ・・・・・・と、奇妙な音が聞こえた。何かがひしゃげるような、太いものが折れたような音。同時に、開かないはずの扉がゆっくりと開いていく。

 

「は、あ?」

 

そのまま開け放たれた扉から、ドルマヤンがふらふらと姿を現した。我に返った兵士が銃の引き金を引くより早く、倒れ込むように距離を詰めてくる。

 

「誰かっ」

 

声を上げた瞬間、節くれ立ったドルマヤンの親指が兵士の喉に突き刺さった。気道を潰され空気が口から漏れる。そのまま押し倒された兵士が最後に見たのは、炯々と光るドルマヤンの瞳だった。

 

 

 

 

 

 

 

「今の声は・・・・・・?」

 

自身の窮状も忘れ、シオンはオープン回線から聞こえてきた声に耳を澄ませた。掠れた、しかし力強い声。それと共に、炎上した施設から一機のACが飛び出してくる。

 

『馬鹿な、あのACは・・・・・・!』

 

『帥父の・・・・・・アストヒク!?』

 

五花海の動揺が感じられる言葉を引き継ぐようにアーシルの声が響く。BAWS製のフレームになんの武装も施していないそのACは、軽快な動きであっという間に五花海へと肉薄した。慌ててパルスシールドを展開した五花海だが、その防壁を掻い潜るようにACがマニピュレーターでフックを繰り出す。横合いから叩きつけられる質量攻撃にホバー状態だった五花海の鯉龍が傾いた。

 

「はぁっ!?」

 

徒手空拳で戦うACなぞ、シオンは今までに見たことが無い。ACには武装の弾が切れたり故障した時用に、最低限戦えるよう格闘プログラムが組み込まれてはいる。しかし、それを実践で使うACはごく少数だ。

 

『機体制御がっ!?』

 

パンチを叩き込まれた鯉龍は、そのままAC・・・・・・帥父ドルマヤンの駆るアストヒクに組み付かれ落下していく。いくらブースターを吹かしても上手く推力を確保出来ないようで、絡まり合った二機のACは地上に落下し、派手な音と共に叩きつけられた。

 

本来、ACに限らずルビコンで運用されている兵器の殆どにはACS(姿勢制御装置)が搭載されている。文字通り姿勢制御によって被弾のダメージを最小限に抑えるものだ。弱点として、立て続けに被弾してACSに負荷がかかり過ぎた場合はスタッガーと呼ばれる状態となり、そうなるとACSが機能せず容易く破壊されてしまうこともある。

 

そして。ACに搭載されているACSは、AC同士の取っ組み合いのような状況には対応していない。故に、アストヒクの下敷きにされた鯉龍は落下の衝撃をそのまま喰らってしまった。装甲が歪み、四脚の関節部が軋みを上げて二本へしゃげる。

 

『ぐうぅっ!?』

 

『邪魔だ、眠っているがいい』

 

脱出しようともがく鯉龍の頭部に手刀を落とし、カメラアイごと粉砕するドルマヤン。いくら鯉龍を下敷きにしたとはいえかなりの衝撃を受けたはずだ。だというのに損耗が見られない様子で、そのままアサルトブーストを吹かし輸送ヘリの方へと飛んでいく。レイヴンに勝るとも劣らない早業であっという間に戦局を変えてしまった。

 

「・・・・・・っ!呆けるのは後だろ俺!この馬鹿!」

 

ダムの時も、ストライダーの時も、そして今回も。自分は何も為せず、別の誰かが窮地を救ってくれる。耐え難い無力さだ。だが、作戦はまだ終わっていない。やれることは、まだある。

 

「こちらシオン、俺もそっちに向かう!戦況はどうだ!?」

 

『六文銭のシノビが中破、戦闘続行は可能だが危険な状態だ!それにメッサムが・・・・・・いや、収容を確認した!』

 

何かがあったことはアーシルの発言から分かったが、こちらに伝えなかった以上聞くことはしない。一瞬あの青年の顔が脳裏をよぎるも、シオンはアサルトブーストを吹かしてドルマヤンを追った。

 

 

 

 

 

非常に不味い状況だ。五花海の機体信号が消失し、部下からドルマヤンに脱出されたという報告を受けたナイルは眉根に皴を寄せつつ思う。このままでは、ルビコニアン達に脱出されてしまう。

 

『これは、私が手こずったのが敗着か』

 

目の前の独立傭兵、六文銭のACは既にボロボロだ。度重なるミサイルの波状攻撃と狙い澄ましたリニアライフルのチャージショット。あと一押しであのACは落ちるだろう。

 

しかし。これ程の猛攻に晒されてなお、六文銭はナイルを輸送ヘリに近付けないようけん制し続けた。僅かでも隙を見せればこちらが落とされかねない。レッドガンの副長たるナイルでも、速戦で仕留められない程の手練れ。つまりは己の実力が足りなかったということだ。

 

静かに認めながらも彼は考える。増援は解放戦線のリング・フレディに襲われ退却。配備していたMT部隊の半数は壊滅。更にはドルマヤンが脱出し武装解除されたACに乗ってこちらに向かっている。ナイルのディープダウンは損耗こそ軽微なものの、残りの弾薬で三機のACを相手にするのは非常に厳しいと考えざるを得なかった。

 

『・・・・・・G2ナイルより各員に伝達。持ち場を離れず、輸送ヘリが近付いてきた時のみ集中して狙え。ACは無視して構わない。撃破されないことを最優先に行動しろ。伝達終わり』

 

事実上の敗北宣言。しかし、ナイルはまだ輸送ヘリを落とすことを諦めてはいない。戦場では何が起こるか分からないことを、嫌という程知っているからだ。こちらにも解放戦線側にも想定外の事象。もしその時が来たとして、最低限の力は残しておくべきだ。しかし、

 

「何企んでやがるっ!!」

 

声と共に突っ込んできたのは、さっきまで五花海に翻弄されていた解放戦線のAC。輸送ヘリから距離を取ったナイルを追撃する理由は彼女には無いはず。一体何故。こちらの思惑を見抜いたというのか。

 

『シオン、戻れ!後は汚染市街を離脱するだけだ、レッドガンのACに構うことはない!』

 

「輸送ヘリの護衛なら六文銭さんと帥父で足りてるだろ!俺はこいつを足止めする、どうにもきな臭いんだ!」

 

シオンは真っすぐにナイルへと突っ込んでいった。何か考えがあったわけでは無い。ただ、輸送ヘリと合流した時点で嫌な感じを覚えていた。なんとなく、このままではいけない気がする。倒すことは無理でも、ここで足止めしなくては。脳の奥からチリチリと湧いてくるその感覚にシオンは従った。まるで、何かに導かれるように。───そして、それは正しかった。

 

『来たか・・・・・・見ているだけだと思ったが』

 

ドルマヤンがオープン回線で呟くとほぼ同時。汚染市街の外縁に、所属不明の機体反応が検知される。しかし、姿は見えない。解放戦線の襲撃によって混乱したままのベイラムの警戒網をすり抜けて、不明機体は輸送ヘリの近く・・・・・・ドルマヤンと、ナイルのACへと殺到した。

 

「な、なんだよこの機体はっ!?」

 

ナイルを狙ってレーザーを放つ機体を確認し、シオンの攻撃の手が緩む。新手、しかも食い止めなければならない敵機を狙う機体だ。どうすればいい、一体どうすれば。思考を回す時間も無く、ナイルのACはレーザーで焼かれていく。回避挙動も重量二脚ACでは難しいようだ。と、

 

『・・・・・・レッドガンよ。一時共闘を呑む気はあるか?』

 

所属不明の機体を軽々と捌きながら、ドルマヤンがナイルへと問いかける。すぐに相手の思惑を理解したナイルは僅かに口元を歪めた。乗るべきか、否か。ほんの数瞬で判断を下す。

 

『いいだろう。識別信号を送る』

 

手短に答え、言葉通りに友軍識別信号を解放戦線の侵入者達に送った。果たして吉と出るか凶と出るか。それはまだ、誰にも分からない。




ドルマヤン、生身かACか問わず格闘戦なら最強だと思ってます。うおぉコーラル神拳バンザイ!帥父バンザイ!
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