見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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26.呉越同舟コンテンポラリー

「このACは・・・・・・!?」

 

『この感じ・・・・・・貴様も犬か。それも、飼い主の考えを理解することも出来ない駄犬のようだ』

 

汚染市街へと急いでいるフレディを阻んだのは一機のACだった。アーキバスのフレームがメインの中量二脚は、洗練された動きでフレディを追い詰めていく。六文銭のACと同じ特殊ミサイルを放って行動を制限し、パルスガンで牽制しつつ特殊バズーカを叩き込んだ。

 

「くっ!?」

 

『ある程度の才があっても持ち腐れだな。死線を潜った回数が少ない。飼い主に甘やかされてきたのか、犬?』

 

粘性の声色で煽る敵はフレディよりも数段格上なようだ。機動力で勝っているはずなのに攪乱され、こちらの反撃は殆ど当たっていない。連射したグレネードも容易く掻い潜られキックを見舞われたフレディは、視界に火花が散るような衝撃に呻き声を漏らした。

 

「ぐ、っく・・・・・・企業のACでは、無いな。何者だ」

 

『ここで死ぬ奴に答える必要があるか?』

 

嘲るような声に、しかしフレディは確信する。この敵は企業の手先ではない。そして、今まで戦った中で一番の強敵だと。説明出来ない直感に従い、フレディは覚悟を決めた。

 

「お前は、ここで倒す。帥父に近付けさせるわけにはいかない」

 

『随分と飼い主思いだが、実力が伴わなければな。まぁいい、遊んでやろう』

 

相手の名前も、目的も分からない。しかし、ここで倒さなければ。目の前の敵はいずれ、間違い無く帥父ドルマヤンの障害になる。焼け付くような使命感に突き動かされるフレディは、リペアキットを起動しながら敵ACへとミサイルを射出した。

 

「灰かぶりて、我らあり!」

 

 

 

 

 

『聞こえたか。我らは一時ベイラムと共闘し、不明機体を撃退する。納得いかぬ者は下がっているがいい』

 

突如告げられた命令に、シオンはどうすればいいか分からなかった。ドルマヤンの声はまるで天啓のように伝播し、ルビコニアン達の歓声が通信越しに聞こえてくる。ずっと無気力だった帥父が自ら動き出したことが、希望の光に思えているようだ。

 

「クソ・・・・・・!」

 

ドルマヤンの判断は正しいのか。不明機体の乱入に乗じ、レッドガンを撃破するのが先決ではないのか。分からない。未熟な自分では判断が付かない。しかし、こうして考えている内にも時間は過ぎていく。

 

『MT部隊は距離を取ったまま弾幕を展開。スキャン結果はこちらから送る』

 

『六文銭、西側から所属不明機体が更に接近!帥父が囲まれる前に対処を頼む!』

 

『心得た!横合いから殴り込んできた無法者よ、コーラルと共にあれい!』

 

戦場にいる者達がそれぞれに動く中、狼狽えてしまい動けないシオン。ドルマヤンはそのカリスマ性を以て、一見奇妙に思える命令を通していた。だからこそ、ドルマヤンのカリスマに当てられていないシオンは動けない。理性と常識が邪魔をしているのだ。輸送ヘリから離れた場所で立ち尽くす彼の目に、エネルギーが収束する光が複数映った。

 

「っ」

 

突入してきた不明機体は、どれもがEN兵器を使用しパルスアーマーを纏う個体もいた。恐らくは無人機体なのだろう、動きが機械的に思える。乱戦の様相を呈している戦況、その外に見える光は明らかにナイルのACを狙っていた。他の者が気付いている様子は無い。そして、あのレーザーが当たれば致命傷になると、本能が告げている。思考する時間は無い。声を上げても間に合わない。どうする。どうする!?

 

「ばっか野郎っ!!!」

 

───気付けば、シオンはレーザーとナイルの射線上に踊り出ていた。叫んだ言葉は自分に向けてのものか。理由も分からぬままに、複数のレーザーがシオンのACを直撃する。一発、二発、三発。あっという間にスタッガー状態になり、APが凄まじい速度で削れていった。スパークする視界と全身に走る衝撃に全てが塗り潰されていく。

 

「が、っあ・・・・・・!!」

 

ACの制御もままならず、シオンは意識が暗い闇へと落ちていくのを感じる。生々しい死の感覚が肌を撫でる程の距離にいるのだ。これは、知っている。呆気無く死んだあの時と同じだ。

 

「ふざ、けんな」

 

今、死ぬわけにはいかない。約束したのだ。己の過去を、アーシル達に話すと。無垢な信頼に応えられず何が仲間だ。

 

「っあぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

スタッガーが解けた瞬間、更なる追撃のレーザーを避けながらシオンは前進した。通信から聞こえる、未だ言葉と認識出来ない騒がしい音は、恐らくこっちの状況を把握したのだろう。ならば、すぐにナイルが落とされる心配は少ない。一つしか無いリペアキットを使用し、最低限APを回復させた。

 

『シオン、下がれ!危険だ!』

 

音を無視して光を放っている場所に肉薄する。ステルスが解除され、四機の不明機体が姿を現した。狙撃型の機体だからか動きが鈍い。これなら。

 

「削れろってのぉ!!!」

 

展開したチェーンソーを突き出し思い切りぶつかる。火花を散らし、不明機体の装甲を削り取っていく。他の不明機体から狙われているが知ったことか。まずは一機、確実に落とす。チェーンソーを振り抜くと共に吹き飛んだ機体に、シオンはあらん限りの弾丸とミサイルを叩き込んだ。爆発しバラバラになる様を見届ける暇も無く、残りの機体に向き直った所にレーザーが放たれる。

 

「んぐぐぐぐっ・・・・・・!」

 

痛みと衝撃、脳内に散る火花に耐え、マシンガンとハンドガンで反撃するシオン。その頭上を多数のミサイルが飛翔し、不明機体を爆撃していった。ミサイルを放ったのはナイルのディープダウンのようだ。

 

『・・・・・・助けられたか。戦場の習いとはいえ、数奇なことだ』

 

「お互い、様だっ」

 

ようやく音を声として認識出来たシオンは、ダメージによるあらゆる苦痛に耐えつつも返事をする。機体も肉体も限界だ。しかし、まだ戦わなくては。

 

『シオン、下がってくれ!帥父がそちらに向かう!』

 

アーシルの声。ということは、あちらの不明機体は全て撃破したのか。レーダーを確認すると敵性反応は全て消えていた。殆ど時間が経っていないというのに、だ。ブーストの制御も覚束ずずるずると後退するシオンの横から、ドルマヤンのアストヒクがアサルトブーストで突っ込んでいく。武装していないからか酷く高速だ。

 

『セリアよ、我らの生きる世界を穢させはしない。その賽は、投げさせんぞ』

 

理解不能な言葉を吐きながら、ドルマヤンは狙撃型の不明機体に襲い掛かる。蹴り、殴り、瞬く内に撃破してしまった。これが、解放戦線創設者の実力。積み重なった疲労と痛みで朦朧としながらも、シオンはその動きを目に焼き付ける。レイヴン以外にもこんな奴がいたのか。

 

「ぐ、うぅぅ・・・・・・!」

 

自分との格の違いを思い知りつつ、シオンは輸送ヘリ近辺まで撤退した。不明機体は粗方撃破され、周囲の混乱は収まっているようだ。結局自分がやれたことは、わざわざ敵であるレッドガンACを守ったのと、不明機体を一機撃墜したことだけ。ダナムに頼りにされ、この作戦を受けたにしては情けなさ過ぎる。シオンは今にも消えそうな意識の中で自嘲した。やはり、自分は弱い。

 

「駄目だ、まだ」

 

途切れそうな集中をどうにかかき集めるシオン。他に潜んでいる不明機体がいるかもしれない。いや、そもそもベイラムが共闘を裏切り襲ってくるかもしれない。戦場では何が起こるか分からないのだ。せめて、輸送ヘリを守ることはしなくては。

そして。シオンが意識を保っている内に、不明機体達は全て撃破された。相手の攻撃を全て避け、常識に捉われない近接戦闘術で次々と破壊していったドルマヤン。後方からミサイルを放ち、相手の逃げ場を潰しその場に留まらせたナイル。敵同士とはいえ、見事な連携で殲滅を完了してしまったようだ。

 

「っ、ふぅぅ」

 

熱い息を吐き前を見据える。これで、共闘する理由は無くなった。ここからベイラムはどう動くつもりなのか。再びこちらを攻撃してくるようなら、前に出て戦わなくてはならない。と、

 

「あれ?」

 

視線。見られているという感覚。思わず漏れた場違いな声と共に、シオンはACの頭部をそちらへと向けた。同時に、ドルマヤンのアストヒクも同じ方向へ機体を向ける。見えたのは遠くの斜面に佇む影。スキャンは無論のこと、ACのカメラでも細かい部分は確認出来ない程に距離が離れている。シルエットと大きさからいって、恐らくはACか。

 

『やはり、見ていたな。セリアよ』

 

ドルマヤンの言葉、その真意に気付く者はこの場にはいない。妙に間延びした、戦場には似合わない時間が流れていく。

 

『す、帥父。失礼ながら、撤退しなくては・・・・・・!今はまだ敵地です!』

 

『・・・・・・分かっている。それで、どうする?レッドガンの戦士よ』

 

アーシルの言葉に、アストヒクがディープダウンの方に向き直った。武装も施されていない、しかし先の不明機体達を無傷で制圧したそのACを前に、ナイルは僅かな時間瞑目する。今戦闘を再開したとして、輸送ヘリまでは落とせるかもしれない。しかし、ドルマヤンを再度捕えることは不可能だろう。実力で言えば、レッドガンの総長たるミシガンと同格の存在なのだ。

 

『いいだろう。往くがいい、ルビコニアン』

 

眼前の敵を自ら逃がす。軍人ならばありえない選択である。それでも、再び開戦した時に発生するであろう損害を考えればここは退くしかない。戦う意志を取り戻したドルマヤン相手に、なんの策も無く挑むのは馬鹿げていた。例えドルマヤンのACが武装解除されていたとしても、だ。

 

『・・・・・・ふむ。再び戦場で相まみえようぞ、戦士』

 

輸送ヘリが飛び立ち、その場から離れていく。どうにか追従しながらも、シオンはどこか気の抜けた表情を浮かべていた。本来ならば、最も警戒しなければならない時間。それなのにシオンは、己の無力を噛み締めるわけでもなく、さっき見えた何かが気になって仕方が無い。自分でも説明出来ない奇妙な欲求は、後悔や集中を洗い流してしまっていた。

 

「くそ、なんか変だ」

 

自分がおかしくなっていることは分かっている。そもそも、レーダーやスキャンも届かない相手のことに何故気付けたのか。シオンはその感覚に囚われ、同じ方向を見ていたドルマヤンには気付いていなかった。だが、ドルマヤンはシオンの感情を察しているようで、コックピット内から鋭い視線を向けている。

 

『あるいは、これも何かの策術か』

 

通信に乗らない程度に呟き、ドルマヤンは先ほど見ていた斜面を確認する。熾火のように燃える瞳を向けた先に、既に何かの影は見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

「ふん、殺す気も湧かんな。そこで這いつくばってるがいい、犬」

 

『っぐ、ぐうぅ・・・・・・!』

 

フレディのACであるキャンドルリングを圧倒し戦闘不能まで追い込みながら、スッラはつまらなそうに言い放った。後はとどめを刺すだけの状況で、粘っこい口調で告げる。

 

「お前の飼い主には多少の興味がある。だが、飼い犬は無能だったな。つまらん仕事をした」

 

相手の精神を逆撫でするような言葉に、フレディは何も言い返せない。それほどまでに、完膚無き敗北を喫したのだ。圧倒的な技量にACへの理解力。何より、伝わってくる殺意の質が他の誰とも違う。暗い炎が纏わりついてくるような、異様な感覚を覚える殺意だった。

 

『・・・・・・殺せ。情をかける気か』

 

「私の仕事は誰も汚染市街に向かわせないことだ。その有様ではろくに動けんだろう。つまり、わざわざ私がとどめを刺す必要も無い」

 

どうでもよさそうに告げ、スッラは自身のAC・・・・・・エンタングルのブーストを吹かしその場を立ち去ろうとする。フレディが引き留めようにも、彼の言う通りキャンドルリングは撃破される寸前だ。どう足掻いても、一矢報いることすら出来ない。

 

『その機体構成、覚えたぞ。この借りは必ず返す』

 

「いい声だ。精々期待しておこう」

 

相変わらずつまらなそうに言い、スッラは今度こそフレディから離れていく。闇夜に紛れ、溶け込むように。

 

決して追えない程の距離まで離れた時、エンタングルに通信が入った。聞き慣れた、癪に障る声が聞こえてくる。

 

『C1-249、独立傭兵スッラ。何故、あのACを逃がしたのです』

 

「機体の撃破は依頼に含まれていない。撃破報酬を設定しなかったそちらのミスだろう」

 

『貴方も理解しているはずです。あれはドルマヤンの懐刀、ここで撃破しておかなければ我々の作戦の障害になると』

 

「そうか、それは難儀なことだな」

 

どうでもよさそうな返事に、通信相手は苛立ったようだ。機械音声のような声の語気を強め、言い返す。

 

『スッラ。未だに貴方を取り込んでいないのは、こちらの温情であることをお忘れ無きよう』

 

「あぁ、感謝しているとも。オールマインドよ、今日は随分と人間らしい反応をするが・・・・・・何か、昔を思い出す相手にでも会ったのか?」

 

本質を突く的確な言葉。通信相手・・・・・・傭兵支援システム、オールマインドは無言のまま通信を切ってしまった。あからさまなその態度に、スッラは粘性の笑みを浮かべる。

 

「やれやれ、分かりやすいことだ。感傷など、なんの役にも立たないというのに」

 

その呟きは自分にも向けたものだろうか。脳裏に浮かんでくる、かつての『飼い主』に思いを馳せた。ハンドラー・ウォルター。今は新たな飼い犬を得て、このルビコンで活動しているようだ。スッラは自身の執着を理解している。その感情に、なんの意味も無いということも。

 

「愚かなことだな、誰も彼も」

 

どろりと濁ったような言葉は、コックピット内で反響することも無く溶け消えていった。




汚染市街攻防戦、決着。
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