見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

29 / 125
28.燃え殻の意志

「サム・ドルマヤン!?なんでここに・・・・・・」

 

目の前の人物に驚愕し、思わず後ずさるシオン。背中に何かが当たり振り向くと、険しい顔をしたフレディが立っていた。その表情からは明らかに怒りが滲んでいる。

 

「帥父を呼び捨てにするとは、いい度胸だな」

 

「いや、だってここにいるとは思わないだろ!?」

 

シオンの言う通り、ドルマヤンの居場所は解放戦線のメンバーにも秘匿されていた。しかし、まさか対面するとは思っていなかったシオンが動揺するのは当然でもある。なんとか息を整えて、目の前のドルマヤンに言葉を返す。

 

「あー、っと・・・・・・確かに、俺はシオンだ、です。ええっと、なんで俺を、わざわざ呼んだんですか・・・・・・?」

 

おっかなびっくり言うシオンは、相手が何を考えているか全く分からないようだ。少女の体に似合った怯える様子に、しかしドルマヤンは視線を逸らさなかった。

 

「一つ、聞こう。汚染市街での戦いの時、お前は何が見えていた?」

 

「何が見えていた、って・・・・・・不明機体じゃなくて、遠くでこっちを監視してくる奴がいたって話か?」

 

「・・・・・・。やはり、気付いていたか」

 

あの時、汚染市街での戦いを監視していた謎の影。シオンとドルマヤンの二人だけが気付いていたという事実が、ここに呼ばれた理由らしい。

 

「えーっと。帥父は、アレについて何か知ってんすか?心当たりがありそうだけど」

 

「ある。だが、それよりも肝要なのはお前のことだ。コーラルを取り込んでいない身で、何故気付けたのか。内に宿さぬまま、声を見ることなどありえないというのに」

 

「・・・・・・?ど、どういうことだ?」

 

言葉の意味が分からず、シオンは助けを求めるようにフレディに視線を送る。しかし、彼もドルマヤンの言葉に考え込んでいるようで、シオンの視線に気付く様子も無かった。

 

「あるいは、コーラル以前の話か。才があるのなら、為せるのやもしれん」

 

「も、もうちょっとわかりやすく言ってくれると嬉しいんすけど・・・・・・。つまり、俺があの影に気付けたのはおかしいってことですか?」

 

「然り。シオンよ、お前は最新世代の強化人間だと聞いている。ならば、コーラルを用いぬ代替技術が使われているはずだ」

 

「・・・・・・まぁ、多分。どうやって手術を受けたかは覚えてないんで、細かいことは分かりませんけど」

 

誤魔化すように言って頬を掻くシオン。ドルマヤンはこちらの事情を知っているのだろうか。目の前にいるのは、見た目と中身が乖離した存在なのだということを。その疑問を感じ取ったのか、ドルアヤンはしわがれた声で続ける。

 

「ふむ。この世に霊魂があるのなら、お前のようなことも起き得るだろう。問題は、肉体と霊魂、どちらに結びついているかだ」

 

「む、結びついている?一体なんの話だ?」

 

「シオンよ。お前は、声を見るか?何も無い虚空、あるいは己の内側から何者かの意志を感じたことがあるか?」

 

質問に答えず、ドルマヤンは真剣な表情でシオンの肩を掴んだ。言葉の意味はやはり理解出来ない。彼の言う声とやらを、シオンは一度も聞いたことがないのだから。

 

「ん、んー。声、ってのはよく分からないです。幻聴ってことなら、幸い聞こえたことは無いっすけど」

 

素直に返答すると、肩を掴んでいるドルマヤンの手から、少しずつ力が抜けていく。同時に、狂気的ですらあった彼の雰囲気が若干和らぐのを感じた。

 

「そう、か。ならばよい。鍵になることは無いだろう」

 

「鍵・・・・・・?」

 

結局、ドルマヤンが何を案じているのか何も理解出来なかった。神秘主義の思想家とはこういうものなのだろうか。あるいは、高齢故の症状なのかもしれない。不敬な考えを頭に浮かべるシオンは、所在無く視線を彷徨わせる。と、ドルマヤンが座っているベッドの横、備え付きのデバイスが急に起動した。誰かからの通信のようだ。

 

「もう帰って構わない。帥父、よろしいですね?」

 

「・・・・・・」

 

沈黙を肯定と受け取ったのか、焦ったようなフレディに無理やり部屋を叩き出されるシオン。さっきの通信は秘匿するべきものらしい。急に呼び出された上に訳の分からない話を聞かされ、更に強引に退室させられた。中々に雑な扱いだ。

 

「いやまぁ、別にいいけどさ・・・・・・」

 

シオンは釈然としない表情を浮かべつつも、自室に戻ろうと通路を歩いていく。相も変わらず人気が殆ど無い。だが、さっきとは違う点が一つあった。それは、

 

「ん、んん?なんだ、妙に明るい・・・・・・?」

 

通路に点在する小窓から、赤い光が差し込んでいる。ぼんやりとした、しかし不吉な光。小窓は上の方に付いている為、背の低いシオンでは外の様子を確認出来ない。

 

「敵襲?いや、だったら警報が鳴るはず。じゃあ、これはなんだ?」

 

その光がなんなのか、シオンには分からなかった。いや、殆どの人間は思い至りもしないだろう。コーラルの局所爆発により、ベリウス北部の北西ベイエリアが消し飛んだ光だということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今の話は・・・・・・本当なのですか?』

 

【嘘はついてない。馬鹿馬鹿しい話だけど、信じてくれる?】

 

休息用のポッドの中。複数のチューブに体を繋がれながら、621は頭に響く声を言葉を交わしていた。と言っても、彼女の声帯は機能していない。その声は、こちらの思考を読み取れるようだ。

 

『確かに、私がコーラルの内に生まれた存在であると知っているのには驚きました。今までの繰り返しで得たものなのですね』

 

【うん。でも、これをエアに話すのは初めて。話したら、君が離れていってしまう気がして。何度繰り返しても話せなかったんだ】

 

誰にも聞かれない、二人だけの会話。ハンドラー・ウォルターはポッドの横にある椅子に腰掛け、タブレットを操作している。しかし、声・・・・・・エアの存在には気付いていないようだ。

 

『では、今回はどうして・・・・・・?』

 

【それは・・・・・・今回は、今までと違うから。私も、変化を恐れず動いてみようって思ったんだ。エア。私と一緒に、戦ってくれる?】

 

その問いに、エアは何かを思い出しそうになる。自身の中に繰り返しの記憶、その残滓が刻まれているのだろうか。出会って間もないレイヴンに対して、彼女は既に親しみを覚えていた。

 

『・・・・・・分かりました。私も、その話を聞いたら何かを思い出せそうになっています。貴女の言葉はきっと真実なのでしょう、レイヴン。ハンドラー・ウォルターを、助けたいんですね』

 

【うん。それだけじゃなくて、エアも、他のみんなも、出来るだけ助けたい。殆どみんな、死んじゃうから】

 

ACに乗っている時の621は、エアから見ても歴戦の猛者だった。的確な判断力に優れた技量、何より行動に一切の躊躇が無い。惑星封鎖機構の無人機体、バルテウスはACを遥かに凌ぐスペックのはず。それを、まるで赤子の手を捻るように撃破してしまったのだ。

 

しかし、今の621は見た目相応の少女に思える。不安に押し潰されそうな、それでもなんとかしようと足掻く人間。生物ですらないエアにとって、それはとても眩しく見えた。

 

『私も手伝います。交信で声が届いたのは貴女が初めてですし、何より私もこのルビコンを救いたい。貴女の描く未来にコーラルとルビコニアンがいるのなら、それはとても素晴らしいと思うんです』

 

【ありがとう。こんなにすんなり信じてくれるとは思ってなかった。エアは、とても優しいよね】

 

『そう、なんでしょうか?よく分かりません』

 

どこか嬉しそうな様子の621の言葉に、エアは小首を傾げたような調子で呟く。己という意識が芽生えてから、他者とコミュニケーションを取ることは無かった。故に、自分と他者を比べたことも無い。己を評されるという体験も初めてなのだ。

 

【うん。私はいつもエアに助けられてきた。君がいなかったら、私はここにいないと思う。本当にありがとう】

 

エアには分かる。それが、心からの言葉だと。

 

『・・・・・・私も、レイヴンに感謝したいです。私の声が届いたのが、貴女でよかった』

 

彼女の話の通りなら、これから過酷な戦いが待ち受けているのだろう。それでも、この人となら乗り越えられる。なんの証拠も無いというのに、エアはそう確信していた。と、そこに予想外の言葉がかけられる。

 

【私も、またエアに会えて嬉しいよ。だって、私がこの手で殺してしまったこともあるから】

 

『え?レイヴン、それは一体・・・・・・』

 

【全部、全部話す。長くなるけど、聞いてくれる?エア】

 

エアの様子を見て、621は全てを話すことに決めた。例えそれで、一度は信じてくれたエアが離れていくかもしれないとしても。己が取ってきた選択を、話さなければならないと決めていた。

 

『それは、構いませんが』

 

【ありがとう。ルビコンとコーラルを焼き尽くした時のこと。ルビコンを解放した時のこと。そして、コーラルリリースのこと。全部、話すよ】

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、随分と派手にやったもんだ。その結果がこれとは、笑えてくるね」

 

「友人」から送られてきたデータを見ながら、RaDの頭目であるシンダー・カーラは獰猛な笑みを浮かべる。若々しく整った顔立ちには似合わない、猛々しい表情だ。

 

「さて、次は中央氷原か。ようやく尻尾を掴めたってわけだ。チャティ!うちの酔っ払いどもの様子はどうだい?」

 

『普段と変わりない、ボス』

 

デバイスから人工音声が流れ、カーラに報告してきた。チャティ・スティック。カーラが作成したAIである彼は、今では彼女の右腕のような立場になっている。

 

「ということは、臨界までは多少の余裕がありそうだね。問題は中央氷原に向かう方法だが・・・・・・まともなやり方じゃ企業にバレるし、何より面白くない。外殻にある「アレ」を使うか・・・・・・?」

 

ブツブツと呟きながら、カーラは笑みを浮かべたまま思索に耽る。停滞していた状況が一気に動き出したのだ。彼女の脳細胞は激しく活性化し、目は爛々と光っている。死んでいった友人達の遺志を果たすには、為すべきことを為さねばならない。それがどれほど過酷で残酷な道だろうと、やり遂げると決めていた。

 

「これから忙しくなりそうだ。チャティにも存分に働いてもらうよ」

 

『了解している。それとボス、ラミーの件だが』

 

「ん?あぁ、チェーンソーか。重機用のがそもそも足りてないんだから、我慢させときな。コヨーテスのアホ共も最近は大人しい、番犬一匹いなくても問題は無さそうさね」

 

『そう伝えておこう。あの酩酊ぶりでは理解出来るか分からないが』

 

チャティは感情に乏しい声で答え、通信が切れる。静かになった部屋の中で、カーラはもう一度データに目を通した。やるべきことは山積みだが、やはり動かせる手駒が足りない。RaDはドーザーの中で戦力はトップクラスだが、企業を出し抜いて動くには問題が多かった。ここはやはり、「友人」の飼い犬に頼るべきか。

 

「しかし、あいつも相変わらずだ。喪って苦しむのは自分なのに、死地へ送り込むことは躊躇しない。甘いんだよね、昔っから」

 

友人・・・・・・ハンドラー・ウォルターの厳めしく取り繕った顔を思い浮かべ、苦笑を零すカーラ。人として好ましい彼の優しさは、しかし使命を果たすのには向いていない。そんな自分を鉄の理性で御しつつ、ウォルターは猟犬達を幾度も喪ってきた。それでもなお前に進もうとする姿に、カーラは高潔さよりも痛々しさを感じている。

 

「ま、今更か。言って降りる奴じゃないし、何よりもう遅い。こっちとしちゃ、精々派手にやるだけだ」

 

あっさりと思考を切り替え、勢いよく立ち上がった。椅子にかけていたジャケットを羽織り、工房へと向かっていく。これから先、戦いが避けられない局面が必ず訪れる。その時の為に、子供たちの整備を徹底的に行わなくては。待ち受ける重労働に、カーラは楽しげな笑みを浮かべていた。

 

「こういう時こそ笑えってね。さぁ、楽しもうじゃないか」




ウォッチポイント、ナレ死!そしてエアに周回知識インストール!さらにラミー生存フラグ!うおぉやりたい放題だぜぇ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。