見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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30.舞台裏で蠢くは

「おや、この調べは・・・・・・。ふふ、愚図るなんていけない子だ。カーラは優しいですからね・・・・・・」

 

MTやガードメカが所狭しと置かれたガレージ。優美にさえ思える口調で呟きながら、その男は異形の重MTの整備をしていた。

 

「さぁ、貴方はもう私の家族です。どうか泣き止んでおくれ」

 

重MT・・・・・・RaD製のトイボックスを愛おしげに呼び、ジェネレーターの配線を撫でる。非常に危険な行為だが、男は意にも介していない。くすんだ金色の長髪を後ろで結び、端正な顔立ちには陶酔しているような笑みが浮かんでいた。

 

「いい子だ、その調子。あぁ、素敵な泣き声ですよ」

 

端から見ればただの狂人にしか見えない。しかし、男の手際は洗練されていた。ジェネレーターの不備をすぐに読み取り、的確な修理を施す。並の整備士ではこうはいかないだろう。と、

 

「ボス、キッカーとパンチャーの整備が終わりました」

 

「素晴らしい。ハッキングドローンの手筈は?」

 

「そちらも命令通りに。警備の穴を突いて突入させる準備も整っています」

 

片方の頬にコヨーテの入れ墨を入れた、痩せた女性の報告に男は満足そうに頷いた。整備を終えたトイボックスから降り、女性の眼前までやってくる。

 

「ラヴェンナ、ご苦労様。彼らの様子はどうです?」

 

「キッカーとパンチャーなら、機構がシンプルなので十全な整備を行えました。ジャンカー・コヨーテスの者達は・・・・・・相変わらずです。まぁ、いつも通り捨て駒にはなるでしょう」

 

「そうですか。ふふふ、幼子のようにはしゃいで、可愛らしいですね」

 

ジャンカー・コヨーテス。ドーザーの中でも最大派閥であり、荒くれ者と酔っ払いの集まりである彼らを評するには似合わない言葉を吐く男。ラヴェンナと呼ばれた女性はその様子を気にすることも無く、手元のデバイスを操作した。

 

「内部に侵入させる部隊と外部を制圧する部隊。こちらのリストに纏めておきました」

 

差し出されたデバイスに目を通す男は、実に愉しそうに笑っている。子供のように無垢ながら、どこかネジが外れているような笑み。

 

「あぁ、あぁ、素敵だ・・・・・・!これならきっと、カーラも喜んでくれるでしょう」

 

カーラ、という名が出た時にラヴェンナの頬がぴくりと動いた。コヨーテの入れ墨が歪み、まるで笑っているように見える。それに気付いているのかいないのか、男・・・・・・オーネスト・ブルートゥは歓喜の声を上げた。

 

「さぁ、始めましょう!彼女の城で、豪華絢爛な舞踏会を!」

 

 

 

 

 

 

『ラミー、仕事だよ!さっさと起きな!』

 

「んあ・・・・・・」

 

ぐるぐると世界が回るような感覚の中、インビンシブル・ラミーはのっそりと体を起こした。そこは彼の愛機、マッドスタンプのコックピット内。ラミーの巨躯をどうにか押し込める程度の空間に、通信から鋭い声が響く。

 

『コヨーテスのアホ共が攻めてきた。内部の方はビジターに任せるから、チャティと一緒に外の奴らを蹴散らしてきな』

 

「あぁ・・・・・・?コヨーテス?あの犬っころ共が攻めてきたんですかい?このラミー様がいるってのに、馬鹿な奴らだ」

 

『無駄口はいいからさっさと行ってこい!』

 

雇い主であるカーラに急かされ、ラミーはのろのろとマッドスタンプを操縦する。彼自身はコーラル酔いで覚えていないが、先日とある独立傭兵がRaDの根城であるグリッド086を襲撃した際、防衛戦力に多大な損害が発生していた。ただし、ラミーのとあるミスにより武装が整っていなかったマッドスタンプは、出撃しなかった為無傷で済んだのである。

 

「へっへっへ、やってやろうじゃねえか。ボス、報酬には色を付けてくださいよぉ!」

 

胡乱な口調で叫ぶラミーは、そのまま出撃してしまった。彼がコックピットで眠っていたのはマッドスタンプの調整中に寝落ちしたからなのだが、そんなことは頭からさっぱり抜け落ちているようだ。

 

ふらふらとグリッド086の外縁に向かうマッドスタンプ。その左腕には、ストライダーに置いてきたはずのチェーンソーが装備されていた。着色すら施されていない無骨なそれは、防衛兵器を多数失ったカーラが工具であるチェーンソーを転用したものだ。侵入してきた独立傭兵が解体重機も「解体」してしまった為、幸か不幸か余剰が生まれたのである。

 

「ひゃっはー!ラミー様のお通りだぁー!」

 

オープン回線で騒ぎながら外に出ると、コヨーテスの部隊がわらわらとたむろしていた。遠くに見えるミサイルの爆炎は、チャティが戦っているものだろうか。それに気づきもせず、ラミーは通常ブーストのまままっすぐ突っ込む。回避行動も取らずに。

 

『クソッ、木偶人形のチャティだけじゃなく間抜けのラミーまで出てきやがった!おい、こっちにもっとパンチャーを回せ!』

 

『馬鹿言うな、こっちこそ増援が欲しいくらいだ!防衛する戦力が無いって聞いてたのによぉ!』

 

コヨーテス達の慌てふためく声。その動揺を、自身が出てきたから恐れおののいているのだとラミーは脳内変換した。笑い声を上げながら手近な敵にショットガンを放ち、射程範囲外故弾かれる。それにも構わず接近しチェーンソーを振り回した。掠ったガードメカが削られ、脆弱な造りからか爆散してしまう。

 

「ひゃーっはっははー!インビンシブルだぁー!」

 

自信満々に叫ぶラミーは、APが削れACS負荷が高まっていくのも気にしない。というより、全く自覚していない。射撃を集中され、改造されたガードメカに蹴り飛ばされ、次の敵に向かう時にスタッガーしてもまるで気付いていないようだ。

 

『あぁクソ、間抜けのラミーはこれだから!早く火力を集中しろ!この馬鹿をとっとと落とせ!』

 

苛立たしい声が流れてくる通信も、ラミーにとっては己を賛美する歓声にしか聞こえなかった。既にAPが危険域に達していても、知らぬままに猪突猛進する。装甲任せの突撃は、しかし相手にしてみれば恐ろしいものだ。何せ、どれだけ牽制しても絶対に止まらないのである。と、

 

『ラミー、下がれ。撃墜されるぞ』

 

「あぁん?チャティかよ。この俺が落とされるわけ無いだろうが!見ろよ、コヨーテス共が俺にビビッて逃げ出し・・・・・・ぎゃあー!?」

 

死角から突っ込んできた改造ガードメカ、通称キッカーに文字通り蹴り飛ばされるラミー。脚部に備え付けられたパイルでコアをぶち抜かれ、火花と煙を上げて倒れ込んだ。そして、爆発。

 

『・・・・・・いつものことか。ボス、ラミーがやられた。だがこちらの敵戦力は残り僅かだ、このまま対処する』

 

『あぁ、任せたよ。こっちの方もビジターのおかげでなんとかなりそうだ。まったく、予想外の戦力を差し向けてくれて・・・・・・どう落とし前を付けさせようかね』

 

辛うじて機能していた通信を聞きながら、撃墜されたラミーは炎上しかかっているコックピットの中で気絶していた。一歩間違えば間違い無く死んでいた状況で、しかし彼は生き残ったのである。それは偶然か、はたまた天運か。インビンシブル・ラミー、71日振り22回目の撃墜であった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・それで?結局どうするのよ。このまま野放しにしててもいいっての?」

 

「そう声を荒げるな。しかし、残骸からライセンスを引き抜いていたとはな・・・・・・あまりに強引な方法で、そこまで考えが及ばなかったようだ」

 

「えぇ。一度姿を隠すつもりが、まさかこのような結果になるなんて。もう少し、撃墜される位置を厳選するべきでした」

 

ルビコン3のどこか。地下に隠された秘匿拠点で、一人の男と二人の女が言葉を交わしていた。

 

「まったく、あんたもレイヴンも詰めが甘いんだから。まぁ、可愛げでもあるけどさ。今の所封鎖機構は気付いてないみたいだけど、いつ動き出すか分からない。早めに叩いちゃった方がいいんじゃない?」

 

ざっくばらんな口調で言うのは、長髪をポニーテールで纏めた二十代後半程の女性。名を、シャルトルーズ。「見つめ合うと死ぬ」と称される程の独立傭兵だ。

 

「一理あるが、果たして隙を見せるかどうか。『レイヴン』の実力もさることながら、その飼い主も相当なやり手だぞ」

 

腕組みをしながら言うのは、髪を金髪に染め抜いた恰幅のいい男性。名を、キング。「完成された傭兵」と呼ばれる程の高い技量を誇る独立傭兵だ。

 

「ハンドラー・ウォルター・・・・・・果たして、レイヴンのライセンスを入手したのは偶然なのかどうか、見極める必要がありますね」

 

冷静に呟いたのは、肩口までより少し長い髪をなびかせた穏やかそうな女性。ここにはいない独立傭兵のオペレーターである彼女は、残る二人に提案する。

 

「どうでしょう、暫く様子を見ては。『レイヴン』の行動を推し量るには、まだ情報が足りません。その名に相応しい者なのかどうか、見極めなくては」

 

「いいだろう。いずれやり合う機会があるかもしれない、楽しみは取っておくとするか」

 

「相変わらずキングは偉そうなんだから・・・・・・ま、あんたがそれでいいなら私からは何も。というか、『本物』はまだ来ないの?オペレーターをほっぽり出して、どこで油売ってるんだか」

 

シャルトルーズの言葉に、オペレータ―は苦笑を浮かべた。『本物』・・・・・・レイヴンが一人でどこかに行ってしまうのは今に始まったことではない。根本的に、自由な人なのだ。

 

「いつものことです。それに、もし戻ってきても彼は何も言わないわ。ただ寡黙に、頷くだけよ」

 

「ま、そうかもね。止まり木に戻ってくるのは気が向いた時だけか。パートナーに苦労かけるタイプだよ、間違い無く」

 

「よく言う。お前も昔は相当なお転婆だったろう、シャルトルーズ」

 

「キングには言われたくない。私だって散々あんたに振り回されたんだから」

 

「お互い様か?いや、しかし四年前の木星では・・・・・・」

 

「あっこら馬鹿キング!それは誰にも話さないって約束でしょ!?」

 

シャルトルーズとキング、いつもの二人の口喧嘩に、オペレーターはくすりと笑みを零す。彼女はブランチメンバーとしては最も日が浅い。このように気兼ねなく言い合える関係に、羨ましさすら感じていた。

 

「大体あんたはいっつもデリカシーに欠けてるの!いい加減にしないと友達失くすよ!」

 

「デリカシーも何も、事実だろう。気にはしないさ」

 

「っはぁ~・・・・・・!何年経っても変わりやしないんだから・・・・・・!」

 

「二人とも、その辺りで落ち着いて。次の議題に移りましょう」

 

多少の名残惜しさを覚えつつ、二人を宥めて話を先に進めるオペレーター。元々、今日の本題はこちらである。デバイスによりデータを空中に投影しつつ、彼女は告げた。

 

「封鎖機構による、BAWS第2工廠に対する強制監査部隊。これを排除してほしいとの依頼です」

 

「惑星封鎖機構が?珍しいな、地上にここまでの戦力を送ってくるとは。ついに本腰を入れ始めたということか」

 

「というか、依頼主は誰?BAWSや解放戦線は、ブランチの連絡先を知らないはずだけど」

 

「それが・・・・・・ケイト・マークソンという独立傭兵のようです」

 

独立傭兵が依頼主。予想外の言葉に、キングとシャルトルーズが目を丸くする。

 

「は、はぁ?待って、そんな名前の独立傭兵知らない。ランク外の中にも、把握してる限りケイトなんて奴いないし・・・・・・」

 

「その上、独立傭兵という立場で強制監査の妨害を依頼、と。はっはっは、随分と豪胆だな。これ程あからさまな罠は早々無いぞ」

 

「そうですね。しかし、問題なのは誰に対する罠なのか、ということよ。惑星封鎖機構の相手を我々ブランチに任せる以上、何らかの意図があるはずですから」

 

ブランチ。それは、四人組からなるハクティビスト集団だ。だが、ネットを利用し思想を啓蒙することは殆ど無い。時にメンバーは激しく入れ替わる為、現在では反体制の武力組織の色が強くなっている。

 

最古参のキングに、次いで古参のシャルトルーズ。数年前に加入したレイヴンと、そのオペレーター。現在のブランチはこの四人で構成されている。数年間メンバーが入れ替わらないのは、ブランチにとっては珍しいことであった。

 

本来、ルビコン3は完璧な封鎖体制の元に置かれていた。独立傭兵どころか企業ですら手出し出来ない程の、やり過ぎとも言える程の封鎖。それをステーション31襲撃によって綻ばせたのが彼らブランチであり、コーラル再湧出の情報を企業に流したのも彼らである。故に、今のルビコンが騒乱に包まれている諸悪の根源とも言えるだろう。

 

「封鎖機構を相手にする性質上、レイヴンを出撃させるわけにはいきません。依頼を受ける場合、キングとシャルトルーズ、貴方達二人に任せることになるでしょう。そして、依頼主であるケイト・マークソン自身も出撃し、後方の攪乱を受け持つようです」

 

「それは構わないけど・・・・・・まずはケイトって奴の裏を取ってみる。罠の中に飛び込むんなら、相応の準備をしないと」

 

「ならば、俺は封鎖機構側の動きを確認しよう。強制監査と言うことはかなりの大部隊だ、痕跡を追うことは可能だろう」

 

電子戦にも長けている二人がデバイスを操作し始める。オペレーターはその様子を眺めつつ、憂いを帯びた表情で呟いた。

 

「嫌な予感がするわね・・・・・・この風は、私達を何処に運ぶのかしら」




個人的作中最狂集団であるブランチ登場。シャルトルーズが好きです。罵倒してくれ。
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