見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「ぐうぅっ、はぁっ・・・・・・!」
垂直ミサイルを避けた所にグレネードが着弾し、爆風に巻き込まれる。体勢を崩した所に立て続けに与えられた衝撃で、シオンのACはスタッガー状態に追い込まれた。そこにバズーカとグレネードが直撃し、あえなく爆散してしまう。
「あー、チクショウ!負けだ負けだ!」
清々しく言い放ち、仮想戦闘シミュレーターを終了させるシオン。現在、彼はリトル・ツィイー及びインデックス・ダナムの二人と戦い続けていた。それも、二対一で。
「流石に二人掛かりで負けるわけにはいかんな。だが、結構な時間粘られてしまったか」
「確かに、左右から攻めてるのに攻撃の捌き方が凄かった。モニターでは確認出来ないはずなのに、どうやって避けてるの?」
勝ったというのにしかめっ面のダナムと不思議そうなツィイー。ダナムは謹慎明け、ツィイーは病み上がりというのを鑑みても、シオンの戦いぶりは見事なものだった。前回戦った時から随分と洗練されている。
「アラート鳴るし、何よりこう、殺気みたいな・・・・・・うーん、口で説明するのは難しいな」
「すごいなぁ。私はそういうの、まだ感じられる段階じゃないから。ほんと、すごいよシオン」
「まぁ、そうなんかね。でも結局負けてるしなぁ。AC乗るのが久しぶりだったんだろ、ツィイーは」
「私だってコーラルの戦士だ、少し乗ってなかったからって弱くなった覚えは無いし。褒めてるんだから素直に喜びなよ、うりうりー」
「ちょ、ツィイー・・・・・・!」
じゃれついている二人の少女を、ダナムは複雑な心境で見つめていた。シオンもツィイーも、彼よりも遥かに才に溢れている。粗製とも言うべきダナムの適性では、どれだけ努力しようとも届かない。
「・・・・・・戦士の資質、か」
自分にAC乗りとしての才能が無いことは昔から分かっていた。それでも戦い続けてきたのは、ひとえにルビコニアンを守り、ルビコンに自由をもたらす為だ。指導者としての責務と、戦士としての誇り。ダナムを支えてきた二つの柱。
「って、ダナムさんどうしたんだ?顔色悪いみたいですけど」
「いや、問題は無い。色々と仕事が溜まっているからな、俺はこれで失礼させてもらう」
心配そうなシオンの視線を振り切るように、ダナムはシミュレーター室を後にした。もはや自身には戦士としての価値は無いのかもしれない。それでも、戦いからは逃げられないのだ。例え自分のような粗製でも、困窮する解放戦線にとっては重要な戦力なのだから。
それに、ルビコニアンの寄り合い所帯である解放戦線には、指揮を執る指導者が絶対的に足りていない。帥父ドルマヤンが帰還したとはいえ、彼も一人の人間だ。あらゆる戦線を指揮することは出来ない。故に、ダナムのような人物が必要なのである。
「・・・・・・」
それを知ってか知らずか、ダナムは多重ダムの指揮官室に戻ってきた。決裁するべきデータがかなり溜まっている。シミュレーターの疲れと鬱屈した気分を体の奥に押し込んで、今やるべきことに取り掛かった。
「名前?」
「そう、名前。いい加減決めておかないと、書類や手続き上の面倒が多いからね」
シミュレーター戦闘も一息つき、食堂でミールワームの串揚げ定食を食べてようとしていたシオン。その向かいに座りながら、アーシルがとある問題を話してきた。それは、シオンのACが未だ無名なことである。
「あー・・・・・・そういえば、なぁなぁのまま名付けてなかったな。悪い、すっかり頭から抜け落ちてた」
「謝る程のことじゃないさ。それで、名前が決まったら私に連絡してほしい。細かい手続きはこちらで済ませておくから」
「何から何までありがとうな、アーシル。さて、名前かぁ・・・・・・」
食べる手を止め、一旦考え込む。ACの名前。無論、男だった頃に乗っていたACにも名前は付いていた。しかし、あえなく撃墜されたACと同じ名前を付けるのは気が引ける。と、横でミールワームのか蒲焼きに齧りついていたツィイーが声を上げた。
「んぐっ。そんなに難しく考えなくてもいいと思うけど。私のユエユーもなんとなくで決めたし」
「そうなのか?」
「うん。結局、一番大事なのは乗る方の腕と心だから。ユエユーって名前の響きが気に入ったからってのもあるけど」
気軽に言うツィイーに、シオンは手元の食器を弄びながら小首を傾げる。名前。シオンという名前は、アーシル達が付けてくれた。ACの名前まで無心するのは強欲というものだろう。
「ふーむぅ・・・・・・ま、とりあえず食ってから考えよう。あーん」
命名を先送りにし、さっくりと揚がっているミールワームを串から外して口に放り込む。ミールワームは美味とは言えない食材だが、ルビコニアン秘伝の工夫されたレシピのおかげで普通に美味しい。士気に直結するからか、食堂のメニューはそれなりに豊富だった。
「うん、美味い」
シオンの知識と経験上、上手い飯を食べられる勢力は早々負けないと思っている。食事が十全に取れるということは、補給路が圧迫されていないということだからだ。解放戦線は企業に押されているものの、粘り強い抵抗が無駄ではない証拠とも言えた。
「ミールワームにこんな食べ方があるなんてなぁ・・・・・・ここに来てから始めて知ったよ。なんつーか、煮込むのが一番だと思ってた」
「確かにねー。灰汁が濃くて癖が強いから、それをどうにかしようとずーっと調理法を考えてきたんだ、私達ルビコニアンは。だから、ミールワーム料理はルビコニアンの歴史と言ってもいいのかも」
しみじみと言うツィイー。過酷な日々を生き抜くルビコニアンが、長い時間の末に作り出した様々なミールワーム料理。成程、確かにそれは歴史だ。シオンは頷きながら咀嚼する。と、アーシルが付け加えるように説明してくれた。
「解放戦線が設立される前は、ルビコン各地に色んな種類のミールワーム料理があったみたいなんだ。解放戦線が出来てからは、各地のルビコニアンで交流が生まれ、それぞれの郷土料理が混ざり合い発展していったと言われてる。子供の頃に聞いた受け売りだけどね」
「ミールワームに歴史あり、かぁ。まぁ、おかげで美味いもん食えるし俺にとっちゃありがたいな。昔の人達に感謝しないと」
そう言いながら、シオンはもぐもぐと食べ進める。この体になった直後は酷く小食だったが、シミュレーターで鍛えた分お腹が空く為沢山食べられるようになっていた。串揚げにかかった特製ソースの甘辛さを味わいながら、さっき言われたことを考える。
ACの名前をどうするべきか。学があるわけでもないシオンは、パッと思いつけるようなものは無かった。デバイスで適当な言葉を探して名付けてもいいかもしれない。ツィイーの言う通り、結局大事なのはパイロットの腕と心、後は運だ。
それはそれとして。あれだけの死線を共に潜り抜けたACに愛着が湧き始めているのも事実。どうせならちゃんとした名前の方がいいだろう。気分が盛り上がるような、それでいて変ではない名前。となるとやはり、一人で考えるのは難しいかもしれない。
ミールワームの歯応えを楽しみつつ、それっぽい名前を思い浮かべてみた。だが、どれもしっくりこない。諦めて食事に集中することにしたシオンが、一際大きな串揚げにかぶりつく。
「んむっ、やっぱ美味いな」
シオンは舌鼓を打ち、表情を綻ばせた。ACの名前は寝る前にでも考えようと思いながら。
「以上がこちらの提案になります。如何か、帥父」
『・・・・・・ふむ』
解放戦線が持つ秘匿回線、その一つを使いフラットウェルはドルマヤンと話し合っていた。アーレア海を越える為のプランを、彼に承認させる為である。
フラットウェルが提示したのは、星内企業であるBAWSとエルカノに協力を願い、新たな大型輸送ヘリを開発することだった。限られた資源の中で中央氷原へ戦力及び物資を運ぶには、通常の輸送方法では難しい。故に、アーレア海横断に特化した新たな輸送ヘリを開発する。遠回りだが合理的な判断だ。しかし、ドルマヤンは一つ息を吐き黙り込んでいる。
「何か、気になることでも?」
『ミドル・フラットウェルよ。おぬしが裏で策動していること、ある程度は理解している。今回も、その伝手を使ったのだろう』
唐突な帥父の言葉に、フラットウェルは動揺を抑え込んだ。最初から、全てを隠しきれるとは思っていない。むしろ、ドルマヤンが気力を取り戻したのなら話しておくべきだ。
「えぇ。星外企業の一つと密約を交わしています。今回の輸送ヘリ、その設計にも技術を提供してもらいました」
『ならば、よい。好きにするがいい、フラットウェル。表のことは任せておけ』
恐らく、何もかも見抜いているのだろう。呆ける前の聡明ぶりを取り戻したドルマヤンに、フラットウェルは無言で敬意を表した。これならば、この戦いにも光明が見えてくる。
「ありがたく。では、ヘリの開発はこのまま進めます。そして、中央氷原に誰が向かうかですが・・・・・・」
『先陣は任せる。情勢を見極めた後、私も向かうとしよう。ベリウスの守備も怠れぬ』
「はっ」
『中央氷原では拠点の奪い合いになるだろう。あれ程広大な土地を支配できるほど、企業も兵力があるわけではない。ならば、送る兵器はACを増やすべきか。機動性と火力のつり合いが最も取れている。だが、まずはこちらの拠点を固めねばならん。・・・・・・ふむ、となればACは増援に回した方が良さそうだな』
「それは、帥父の仰る通りです」
的確な言葉を返され、通信越しに頭を下げるフラットウェル。会話すら成り立たなかった以前が嘘のようだ。と、
『シオンという傭兵がいたな。彼女を、連れていくといい』
「シオンを、ですか?」
『あれは鍵でこそ無いが・・・・・・我らの熱を保つ、薪となるやもしれん』
「・・・・・・了解しました」
意味深な言葉。しかし、元よりシオンは中央氷原に連れていくつもりだった。出自はどうあれ、既に解放戦線内部で人気であり、かつ実力も伴っている彼女を遊ばせておく余裕は無い。何より、フラットウェル自身の目が届く所に置いておきたいという思惑もあった。
「では、今宵はこの辺りで。進出部隊の具体的な編成が決まれば、連絡しましょう」
『うむ。・・・・・・コーラルよ、ルビコンと共にあれ』
しわがれながらも力強い声。その警句に、フラットウェルが続ける。
「コーラルよ、ルビコンの内にあれ」
「『その賽は、投げるべからず』」
二人の声が重なり、そして通信は切れた。
フラットウェルはコーラル真実を知った上で、ルビコニアン達の為に消費することを良しとしているイメージです。リリースとは逆方向に賽を投げたんですね。