見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

34 / 125
33.中央氷原へ

ベイラムとアーキバス。ルビコンに進駐している二大企業は、なりふり構わずに中央氷原へと進出。次々と調査拠点を展開しコーラルの行方を追っていた。解放戦線は技術力と海洋戦力の欠如から、早期のアーレア海越えを断念。新型輸送ヘリの開発が済んだ後、行動に移すと決定した。

 

一手出遅れた形になった解放戦線だが、ただ手をこまねいていたわけではない。企業の戦力が中央氷原に進出したということは、ベリウス地方の戦力は手薄になっているということである。この機に奪われた土地を取り戻そうと、各地で攻勢を強めていた。

 

「突っ込むぞ!支援頼む!」

 

『任せて!』

 

現在アーキバスが掌握している交易上の要衝、「壁」。そこからやや離れた補給路付近で、シオンは自身のACであるトラルテクトリを駆りMT部隊を襲撃していた。後方にはリトル・ツィイーのユエユーが待機し、グレネードによる支援砲撃をおこなっている。

 

「そらよっ!」

 

両手の銃を乱射しつつ、先頭のMTを蹴り飛ばす。マルチロックしたミサイルで全体を牽制し、指揮の混乱を長引かせた。

 

『なんだ、解放戦線のACか!?クソッ、本部に通信をっ・・・・・・!』

 

「させるかよぉ!」

 

マシンガンのリロード中にチェーンソーへと持ち替え、変形させたそれを叩き付ける。高速回転する鎖の刃が装甲を粉々に斬り刻み、過剰な威力でMTをバラバラに引き裂いた。凄惨な同僚の死に様に、残りのMT達に動揺が走る。そこにグレネードが直撃し、次々と戦闘不能になっていった。

 

『シオン、ツィイー!時間だ、増援が来る前に撤退を!』

 

「っとと、了解!」

 

オペレーターを務めているアーシルに従い、まだ残っているMTを放置し撤退にかかる。本隊が到着してしまえば危険度が跳ね上がるからだ。シオンはアサルトブーストを吹かし、ツィイーと共に迅速に引き上げた。

 

ACの機動力を活かした散発的な襲撃。解放戦線の反攻の軸になっているのがこの戦術だった。企業戦力が減少したとはいえ、正面からの決戦では勝ち目が薄過ぎる。故に敵を攪乱しつつ、戦力を削り取れるゲリラ的な戦い方が有効なのだ。

 

解放戦線は運用可能なACを総動員し、独立傭兵の手も借りつつ襲撃を繰り返した。補給路から重要拠点、更にはアーレア海に面する港まで。蠅が纏わりついてくるが如き微小な損害を積み重ね続けた。企業側の戦力配置を混乱させる狙いもあるが、士気高揚にも影響が大きい。何故なら、帥父と称されるサム・ドルマヤンも作戦に参加しているからだ。

 

文字通り、ACの総動員によって展開された作戦は有効だった。中央氷原に送られる企業戦力は、作戦前に見積もった70%まで低減。幸い解放戦線側のACが撃墜されることも無く、アーレア海を渡れる輸送ヘリの開発が済むまで時間を稼ぎ続けたのである。

 

「ふぅー・・・・・・今回も、なんとか生き残れたな」

 

解放戦線の拠点。ガレージに格納されたトラルテクトリから降りつつ、シオンは呟いた。既に両手の指では数えきれない程、襲撃任務で出撃している。相手するのがMT部隊ばかりだったからか、運が良かったのか。あるいは実力か。シオンは、過酷な戦場で生き残り続けていた。

 

「お疲れ、シオン!今回も無事で良かったよ!」

 

同じくACを降りてきたツィイーがシオンの肩を叩く。彼女との協同も三回目だ。実戦で磨かれたコンビネーションは、今回相手したMT部隊に反撃の隙を許さなかった程である。

 

「おぅ、お疲れツィイー。殆ど反撃を喰らわなかったからなぁ、何よりだぜ」

 

ツィイーを労いつつ、シオンは自身のAC、トラルテクトリに目を向けた。アセンを変更してはいないのだが、妙に馴染んでいる。名前を付けたからだろうか。以前よりも、思い通りに動かせるような感覚を覚えていた。と、アーシルからの通信が届く。

 

『二人とも、お疲れ様。ゆっくり休んでほしい所だけど、シオンに急を要する連絡が入ったんだ。申し訳無いが、私がいる通信室まで来れるかい?』

 

「俺だけ、か?なんか嫌な予感するな・・・・・・」

 

最近の出撃はツィイーと協同することが多かった。ここに来てシオン個人への連絡、しかも急を要するというのは身構えるに十分である。

 

「しゃーない、了解した。すぐに向かうよ。ツィイー、先に食堂行っててくれ」

 

「分かった、席取っておくよ」

 

渋々頷き、アーシルのいる通信室へと向かうシオン。この拠点には何度か訪れたことがあるが、造りを把握しているわけではない。デバイスにマップを映し、アーシルがいる通信室の位置を確認した。ガレージからはそこまで離れていないようだ。早歩きで通路を進んでいると、拠点に配属されているルビコニアン達と何度もすれ違う。

 

「お、お疲れ様です!」

 

「あー、どうも、お疲れ」

 

尊敬のまなざしを浮かべた人々に一礼されるのは、なんともこそばゆい。おざなりに返事をしつつ歩調を速めた。程無くして通信室に到着すると、逃げるように入り込む。

 

「おーっす、アーシルいるか?」

 

「シオン、よく来てくれた。早速だが、秘匿回線での通信が入っている。君宛てだ」

 

「秘匿回線?そいつはまた・・・・・・」

 

先ほど感じた予感は当たりだったようだ。恐らくは、他者に知られてはならない依頼だろう。ヘッドセットを受け取り通信を繋ぐと、男の声が話しかけてくる。確か、どこかで聞いたことがあるような・・・・・・。

 

『聞こえるか?こちら、中央氷原進出部隊指令、ミドル・フラットウェルだ。シオン、君に頼みたいことがある』

 

ミドル・フラットウェル。レッドガンの多重ダム襲撃の際、シオンの出撃を許可した上でレイヴンを味方に引き込んだ男だ。ドルマヤンが帰還するまでは解放戦線の実質的指導者でもあったらしい。嫌な予感が増しつつも、おずおずと言葉を返す。

 

「こりゃ、どうも。多重ダムの時は世話になりました。それで、頼みたいことって?」

 

『あぁ。現在、各勢力が中央氷原を目指しているのは知っているな?我々解放戦線も、アーレア海を横断する準備が整った。そこで、シオン。君も、中央氷原入りに同行してもらいたい』

 

そう来たか。ある程度予想していた内の一つだったが、シオンは心臓がきゅうと掴まれるような感覚を覚えた。つまり、激戦地に突っ込めということだ。

 

「・・・・・・まぁ、俺に拒否権は無いんで。ただ一人で突っ込めって話でも無きゃ引き受けますよ。さっきの名乗り、帥淑フラットウェルも中央氷原に向かうんですよね?」

 

『そうなるな。帥父が中央氷原に渡るまで、総指揮を任されている。だが、現在発動中の襲撃作戦は継続せねばならない。AC乗りとしては、最初に中央氷原に向かうのは私と君だけだ』

 

「うぇ、マジですか。こりゃ働き甲斐がありそうだ」

 

直々に言われ、露骨に嫌そうな顔をしてしまうシオン。だが、断ることはしないと決めていた。すぐに表情を引き締め、フラットウェルに訊ねる。

 

「中央氷原に向かう手段は?確か、新型の輸送ヘリを開発してるって聞きましたけど」

 

『その通りだ。輸送ヘリの開発は完了し、飛行テストも終わっている。必要数が配備され次第、中央氷原へと向かう手筈だ』

 

「企業が攻撃してくる可能性はありますかね。輸送中に襲われる可能性もあるんじゃ」

 

『輸送ルートは吟味しているが、情報が洩れる可能性も0ではない。海上を飛行中に襲われた場合、交戦を避け離脱することになるだろう。企業側も海上で使える戦力は少ない、新型の輸送ヘリならば振り切れる可能性も高いが・・・・・・』

 

「落とされる危険性もある、と。まぁ、それくらいのリスクは仕方ないか。了解、覚悟はしておきますよ」

 

フラットウェルから語られたことを全て受け入れ、シオンは静かに言った。危険なのはとっくに承知している。覚悟は、既に出来ていた。

 

『・・・・・・感謝する、シオン。報酬はいつも以上に支払おう』

 

「そりゃどうも。んで、出発はいつです?ヘリに乗り込む場所とかは・・・・・・」

 

『その辺りは追って連絡する。それと、AC用のコア拡張機能が用意出来そうだ。お前のトラルテクトリに搭載するといい』

 

その言葉にシオンは目を見開いた。ACには拡張機能の一つとして、コアに搭載する特殊なプログラムが存在する。使用するにはACに相応の改造を施さねばならないのだが、シオンのトラルテクトリにはまだ搭載されていなかった。

 

「マジですか、ありがたいことです」

 

『ACを用意した当初に聞いてあったが、拡張機能の希望に変わりは無いか?』

 

「あー、そんなこともあったな。えぇっと、確か・・・・・・」

 

記憶を探り、思い出そうとするシオン。それ程時間は経っていないはずなのに、随分と昔のように感じてしまう。そうだ。確か、あの機能だったはず。

 

「パルスプロテクション、だっけか。そいつで大丈夫です」

 

パルスプロテクション。範囲内にパルスを用いた防壁を展開し、相手の攻撃を遮断する効果がある。機体に直接纏うパルスアーマーとは違い、空間そのものに展開する為周囲の味方も守れるという利点があった。

 

シオンがこの機能を選んだ理由は、純粋に味方がいる状況での戦闘が多くなると思っていたからだ。多重ダム防衛にストライダーの護衛。企業から攻勢を受ける解放戦線にとって、味方を守る術は重要だ。

 

『いいだろう、手配しておく。・・・・・・シオン。我々ルビコニアンの理想を共有してくれとは言わん。ただ、最後まで共に戦ってくれ』

 

「心配しなくても裏切りやしませんよ。他に行ける所も無いし、何より俺にも人情はある。解放戦線の実情を知って見捨てられる程、俺は合理的じゃないんで」

『ありがたい。その心が、最後まで揺らがないことを祈る』

 

通信が切れ、シオンはどっと疲れた気分で椅子の背もたれに体を預けた。海千山千のフラットウェルを相手にするには荷が重い。そんな実感を味わいながら、ヘッドセットを外す。

 

「中央氷原かぁ・・・・・・ははっ、稼ぎ時って奴だな。アーシルも一緒に行くのか?」

「いや、私はこちらに残ることになっている。ツィイーや六文銭のオペレートもあるからね」

 

「そうか、それじゃあしばらくはお別れだな。つってもいつ出発するかは分からないけど」

 

そう言いながら立ち上がり、両手を上げて背筋を伸ばすシオン。先ほどの会話の緊張をほぐすようにした後、アーシルに訊ねた。

 

「俺は着替えた後食堂に行くけど、お前はどうする?」

 

「まだやることが残ってるから、私のことは気にしなくて構わないよ。お疲れ様、シオン。今の所次の出撃は決まっていないから、ゆっくり休んでくれ」

 

「はいよ、お疲れ様アーシル」

 

ぷらぷらと手を振り、通信室を後にする。通路を進みながら考えるのは先ほどの話。中央氷原へ進出するということは、同様に進出し既に拠点を築いている企業戦力と衝突することを意味している。先にやったような攪乱を目的とした出撃ではなく、真っ向からのぶつかり合いになる可能性が高い。そうしなければ、橋頭保を確保出来ないからだ。

 

さらに、ACの戦力は自分とミドル・フラットウェルのみ。MTや汎用兵器という友軍もいるとはいえ、明らかにキツい。果たして、生き残れるのだろうか。

 

「ま、やるしかないさ」

 

努めて気軽に呟いて、シオンは食堂に向かって歩いていく。すれ違うルビコニアン達から向けられる敬意の視線、それに応えられるか定かではない不安を飲み込みながら。




実際、本編では企業と解放戦線はどうやってアーレア海を越えたんでしょうね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。