見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「おらよっ、こいつで十機目だ!ガラクタ共が、俺の邪魔をするんじゃねえっ!」
蹴り飛ばされ爆散したMTを前に、G5イグアスは荒々しく吼えた。周囲には同じく爆散したMTが無数に転がり、もうもうと黒煙を上げている。
『G5、貴様の悪態はまだ続いているようだな!数を数えている暇があったら次の目標地点へと向かえ!』
「うるせえな、分かってんだよ!」
通信越しのミシガンにも噛みつくように声を上げ、しかしイグアスはアサルトブーストを吹かし目標地点へと向かった。今回の作戦は、アーキバスが築いた一拠点の破壊。MT部隊の侵攻を助ける為、可能な限り拠点に斬り込み敵を撃破しなくてはならない。
そして、この作戦自体が陽動でもあった。本命はヒアルマー採掘場のアーキバス調査キャンプ。そこで観測されたデータを奪取するのが最終的な目的である。そちらに投入される戦力は、イグアスが目の敵にしているレイヴン。G13という「幸運」なコールナンバーを与えられながら、多大な戦果を上げ今なお生き残っている独立傭兵だ。
観測データの奪取には通常の作戦とは比べ物にならない危険が伴う。それ故、ベイラム上層部は正規戦力の投入を禁止していた。そのような理由が分かっていても、イグアスの苛立ちは収まらない。より重要な作戦にレイヴンが抜擢されるとは、まるで自分が格下のようじゃないか。
「消えやがれ!」
また一機、MTを撃破する。この程度では満足出来ない。もっと、己の強大さを知らしめるような敵はいないのか。猛る内心とは裏腹に、イグアスは格納庫にミサイルを放った。弾薬に引火したのか、凄まじい爆発が起こる。四脚MTと見られる残骸が燃え上がり、周囲に飛び散った。
『少しはまともな判断が出来るようになったかG5!そのまま物資集積地点を掃除してやれ!鹵獲を考える必要は無い!』
「いちいちうるせえって言ってんだろ!」
再び悪態を吐きつつも、イグアスはミシガンの言う通りに物資が集積されてある倉庫やガレージを破壊する。その手際は粗暴な態度に似合わず鮮やかだ。日々過酷な訓練を積んでいるが故、イグアスの操縦技術は洗練されている。
「こいつで仕舞いだ!俺の相手じゃねえんだよ!」
迎撃に出てきたMTを吹き飛ばし、周囲を破壊し尽くしたイグアスは己を誇示するように叫んだ。撤退した部隊もいるようだが、そちらはMT部隊が道を塞いでいる。一網打尽に出来るだろう。
しかし。イグアスは、いつも以上の苛立ちを抑えることが出来なかった。まるで幼子のように吼え、喚き、癇癪を起こす。自覚はある。原因も、分かってはいる。悪友であるヴォルタが再起不能の怪我を負い、未だ意識を取り戻さないからだ。
だというのに、レイヴンは自身よりも重要な作戦に抜擢されている。その二つに関係は無いと理解していても、溢れ出る激情は制御し切れなかった。と、
『何を呆けているG5!遠足はここまでだ、帰投しろ・・・・・・待て、上だ!』
ミシガンの言葉に反射的にクイックブーストを吹かすと、今までいた場所にレーザーが直撃する。咄嗟にスキャンを走らせ、相手の位置を確認した。崖上に二機。同時に、無機質で機械的な声が聞こえてくる。
『ルビコンに不法侵入した全ての勢力に告ぐ。ただちに武装解除し、封鎖圏外へと退去せよ』
「こいつは・・・・・・封鎖機構か!?」
『これ以上の進駐は、惑星封鎖機構への宣戦布告と見なし、例外なく排除対象とする。繰り返す、例外はない』
響き渡る声と共に、上空から封鎖機構の強襲艦が姿を現した。本来、封鎖した内部には投入されないはずの兵器。それが、何故ルビコンに。
『G5、敵はSGではない、執行部隊だ!気を引き締めろ、自殺の予定が無ければな!』
「っ!」
ミシガンの一喝で正気を取り戻し、武装を構え直すイグアス。LC機体が二機に、強襲艦が一隻。更に、強襲艦からはドローンが射出されているようだ。願ってもない強敵に、強引に口元を歪め笑う。
「上等じゃねえか、ぶっ潰してやるよ!」
荒れ狂うような戦意を叩き付けるように、イグアスはヘッドブリンガーを突っ込ませた。
惑星封鎖機構、執行部隊によるルビコン全土への宣告は、解放戦線がアーレア海を渡っている丁度その時に起こった。幸い、執行部隊は洋上にまで展開することは無く、結果的には解放戦線に利する形になったと言える。企業勢力が混乱に陥っているタイミングで、中央氷原に到達し橋頭保を築けたからである。
しかし、全体の状況としては混沌としていた。さしもの企業も封鎖機構の執行部隊の前では守勢に回る他無く、いくつかの拠点を喪失。解放戦線はその間隙を突き、封鎖機構と正面から敵対しないように小規模の拠点を確保しつつ機を伺っていた。
「・・・・・・すげえな、これ。MTとは比べ物にならないぞ」
そんな中、シオンは多重ダムの頃よりも狭い個室でとある映像を確認していた。映っているのは、企業側のMTと汎用兵器で構成された部隊が封鎖機構の兵器に蹂躙されていく様。LCとHC・・・・・・ライトキャバルリーとヘヴィキャバルリーが圧倒的な戦闘力を見せつけていた。
「こんなのを量産してるのかよ、封鎖機構は」
下手をすればACよりも高性能だと戦慄するシオン。今の所封鎖機構とは直接砲火を交えてはいないが、戦うとなれば相当な警戒が必要だろう。
「レーザー系の武装が主体ってことは、俺のトラルテクトリとも相性悪いな。しかもずっと滞空してやがる。EN切れとかしないのかよ」
愚痴を吐きながら別の映像データを再生する。この映像群は、既に破壊された拠点で辛うじて焼け残っていたサーバーから回収したものだ。ベイラムのものと思われるそれには、映像以外にも重要な情報が残っていた。突発的な襲撃により消去、もしくは破壊することを怠ったのだろう。と、
「あれ、この機体は」
LCと戦っているACに、シオンは見覚えがある。多重ダムに襲撃を仕掛けてきたレッドガン、その片割れだ。バーンピカクスに乗って出撃した自分を容易くあしらった存在、確か名前は・・・・・・。
「G5・・・・・・イグアスのヘッドブリンガーか、これ?」
映像内のイグアスは、距離を取りつつじわじわとLCを削り、相手の反撃はパルスシールドで受け止めている。LCがスタッガーした途端に突っ込み、蹴りからの追撃を加え撃破している様はシオンの目指すべき動きだ。
さらに、パルスシールドの展開タイミングが見事である。ACの左肩部に搭載可能なパルスシールドは、基本的に展開した直後の出力が最も高い。即ち、相手の攻撃を被弾する直前で展開すれば最も威力を軽減出来るのだ。
しかし、実際にやるとなると難しい。回避や射撃と並行して、被弾する瞬間を見極める。冷静さと度胸を両立しなければ為しえないテクニックを、イグアスは実戦で扱っていた。強くなっている。自身を一蹴したあの時よりも、ずっと。
「・・・・・・」
シオンは映像を食い入るように見つめる。相手の強さを自覚出来る時点で、シオンもあの時より遥かに強くなっているのだろう。だが、今の自分にこのような戦いが出来るのか?二機のLCに強襲艦一隻、更に複数の戦闘ドローンまで相手取り、ここまで的確に動けるのか?今、映像内でイグアスが破壊した二機のLCを相手するだけで精一杯ではないのか?
「見事な、もんだな」
リニアライフルのチャージショットが艦橋を撃ち抜き、強襲艦が撃沈される様を見ながら、シオンは賞賛を込めて呟いた。そうだ、成長しているのは自分だけではない。シオンが努力を積み重ねている間、他の者が何もしていないという道理は無いのだから。
シオンは考える。自分だったらどう戦うか。LCや強襲艦だけではなく、イグアスを相手にした場合のことも脳内でシミュレートする。ACのシミュレーターは、今潜んでいる地下拠点が熱源によって感知されないようにする為使用出来ない。だから、シオンはひたすらに考え続けた。
「距離を外すのは俺には無理だ、結局突っ込むしかない。ミサイルを撃ってアサルトブースト、いや、クイックブーストを途中で混ぜて攻撃をいなしつつ・・・・・・」
繰り返し繰り返し映像を確認しながら、小声でブツブツと呟く。恐らく、思考が口に出ているのを自覚していないのだろう。
「LCでも武装が違う奴がいるんだよな。でも、全体的な動きは同じだ。空中での機動戦は不利なら、やっぱり一気に懐に飛び込む戦術が有効・・・・・・EN管理を怠らずアサルトブーストを小刻みに使うべきか?強襲艦には被弾覚悟で詰めるのがよさそうだけど」
狭い個室の中、シオンは一人で呟き続けた。せめて、少しでも技量の差を埋められるように。
『お疲れ様でした、レイヴン。封鎖機構が介入してくる時期も、予想通りでしたね』
【うん、お疲れエア。今の所、大きな違いは無いみたい】
ベイラムからの依頼である、アーキバス拠点の観測データ奪取を成功させた後。封鎖機構という『予想通り』の乱入者も容易く撃破し、レイヴンは愛機と共に輸送ヘリに揺られていた。
『解放戦線も、こちらが密かに情報を仕組んでおいた為このタイミングでアーレア海を超えました。殆ど被害も出ていないようです』
【エアのおかげだよ。どんな所にもハッキング出来るし、情報の書き換えも出来るなんて・・・・・・ほんとうに、すごいね】
『ありがとうございます、レイヴン。・・・・・・ですが、本当にこのままでいいのでしょうか?』
【大丈夫。前に話した通り、アイスワーム撃破まではアーキバスもベイラムも必要。あれは、私一人じゃ絶対に倒せないから】
暗いコックピットの中で、彼女達は誰にも聞かれることの無い会話を続ける。それは、ルビコンの未来を決めかねない重要な内容だ。
『アイスワーム・・・・・・先日戦ったシースパイダーのような、コーラルを動力としたC兵器。今までは、企業勢力が手を組んだ合同作戦で撃破したんですよね?』
【うん。だから、企業を追い出すのはその後。・・・・・・ウォルターに全てを話すのも、アイスワームを倒してからにするつもり】
『そう、ですか。・・・・・・レイヴン、私は心配なのです。ウォルターが、貴女の言葉を信じてくれるのか』
唐突なエアの言葉に、621はしばらく返事をしなかった。二人にしか分からない沈黙が流れた後、エアが取り繕うように伝える。
『すみません、突然こんなことを。貴女のハンドラーは聡明です。時間をかけて説明すれば分かってくれる、そう思いたいのですが・・・・・・』
【ううん、いいよエア。心配するのはとても分かる。だって、ウォルターは強い人だから。全部知って、信じてくれたとしても進む道を変えないかもしれない】
『ならば、いっそ秘密裡に事を進めてはどうでしょう?私がいれば、情報などの改ざんも行えます。そうすれば』
【それは駄目】
エアの言葉を遮って、621は力強く告げた。己が抱え続けた思いを。
【エアに全てを話したように、私はウォルターに全てを話したい。話さなきゃ、駄目なんだ】
『レイヴン・・・・・・』
【何も知らずに全てを終わらせても、きっとウォルターは救われない。命が助かっても、心は救えない。納得させて、協力してもらわないといけないんだ】
621は、熱のこもった思念をエアに伝える。それは、繰り返される悲劇の中で培われた彼女自身の感情。燃え盛る炎のような、切なる願いだった。
【だから、ウォルターには全てを話す。ごめんね、エア。これは私のわがままだ。もしも君が嫌だと思ったら、いつでも私を裏切ってくれていい。エアに裏切られるなら、納得は出来る】
『そんな・・・・・・そんなことを言わないでください、レイヴン。私も、出来ることならウォルターを助けたい。貴女ならばきっと成し遂げられます。可能な限り、私がサポートしますから』
【・・・・・・うん。ごめん。ほんとうに、ごめんねエア】
泣きじゃくるのを堪えている子供のような雰囲気に、エアはこれ以上何も言えなかった。やはり、彼女は幼子なのだ。ハンドラー・ウォルターの猟犬として数々の戦場を戦い抜き、幾度絶望的な世界を繰り返していたとしても。エアには、621が何に縋ればいいか分からない少女にしか思えない。
エアは、実体の無い己を悔やんだ。体があれば、目の前の少女を抱き締められるというのに。頬を伝わず、心が流し続ける涙を受け止めることが出来るのに。二人がこれ以上言葉を交わすことは無く。輸送ヘリは、拠点へ向けて飛び続けるのみだった。
エアちゃんハイスペック過ぎる。それなのに621の悲しみは埋められないんですよね。