見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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35.帥淑と、飼い主と、踊り続ける狂人と

「すぅー・・・・・・はぁー・・・・・・」

 

トラルテクトリのコックピットの中。ゆっくりと深呼吸をしながら、シオンは出撃の準備を整えていた。

 

今回の作戦、その目標はアーキバスの一拠点。封鎖機構の襲撃を辛うじて耐えたその拠点を制圧するという任務だ。参加するのはシオン及び、四脚MT二機と中規模のMT部隊。攻勢に回せるギリギリの戦力である。

 

『作戦地域に到着。シオン、頼んだぞ』

 

「了解、精々暴れてやりますよっと!」

 

フラットウェルのオペレートに従い、シオンは輸送ヘリから降下した。事前の調査では、残存している戦力はMT及び移設式砲台。シオンのトラルテクトリが砲台を無力化し、MT部隊が拠点を制圧する手筈になっている。

 

「ようし・・・・・・トラルテクトリ、突っ込むぜぇ!」

 

相手が敷いている防衛線を無視し、シオンはアサルトブーストで突っ込んだ。MTからの攻撃を速力で振り切り、砲台が設置されている後方へ浸透する。既に半数以上が封鎖機構により破壊されているとはいえ、一度に狙われては避けることは難しい。故に建築物で射線を切りつつ一気に駆け抜けた。

 

「目標、移設砲台を捕捉した!破壊に移る!」

 

『了解。MT部隊、前進せよ。相手の前線に圧力をかけるのだ』

 

どうやら友軍も動き始めたらしい。通信の声を聞きながら、シオンは移設型砲台に肉薄する。ぶつかる勢いのままにチェーンソーを叩きつけ一基破壊。マシンガンに持ち替えつつ、併設する砲台に集中砲火を浴びせた。二基目も破壊。ENが回復するのを燃え上がる砲台の陰で待ち、次の砲台に突っ込んでいく。

 

「っしゃあっ!」

 

アサルトブーストの加速で目まぐるしく流れていく視界。しかし、気が遠くなるほどシミュレーターで繰り返してきたシオンは落ち着いていた。スムーズな動きで次の砲台まで辿り着き、先ほどと同じようにチェーンソーを叩き付ける。ここまで、砲台からの砲撃に被弾すらしていない。酷く順調だ。

 

だからこそ、シオンは集中を限界まで高める。不測の事態に対処出来るように。こういう時にこそ、恐ろしい何かが起きるかもしれない。しかし、結局何も起こる事無く全ての砲台を破壊し終わり、拠点はMT部隊が制圧。実にあっさりと、中央氷原初めての任務は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

通信を切った後、ミドル・フラットウェルはこめかみを中指で叩きながら息を吐いた。中央氷原進出作戦は順調だ。封鎖機構の介入という幸運もあり、損害も殆ど無くことが進んでいる。だが、彼の不安は拭えない。これは、長く戦い続けてきた故に磨かれてきた勘のようなものだ。

 

上手くいき過ぎている。ここまで都合の良い展開は、まるで誰かが裏で手を引いているかのようだ。しかし、それが何者かまでは読み切れない。解放戦線を後押ししているのだ、企業や封鎖機構ではないだろう。だとすれば、誰が?

 

「考えても埒が明かん、か」

 

今の所、フラットウェルが構築した情報網にそれらしき存在は引っかかっていない。本当に裏から手を引いている者がいるとすれば、相当な手練れだ。そう簡単に正体を明かすことは無いと断言出来る。

 

ならば。いるかどうか分からない存在を気にかけ過ぎても、思考にノイズが走るだけだ。人事を尽くした上でこちらが張った網にかかるのを待つ。それが最善だろう。そう判断しながら、フラットウェルは立ち上がった。今度は自分が出撃する番だ。

 

中央氷原支部司令という大層な肩書きはついていても、己が戦士であることは変わらない。ましてや、実情として兵力が乏しいのだ。後方で安穏と指揮するだけでは未来は勝ち取れない。地位に関わらず戦わなくては。

 

「さて、次に打つ一手は布石だが・・・・・・気を抜くわけにはいかんな」

 

ガレージに格納されている愛機、ツバサの元に向かいながらフラットウェルは呟く。帥父ドルマヤンが中央氷原に訪れるまでに、確固たる地盤を築かねばならない。その為には、例え封鎖機構だろうと相手にせねばならないのだ。

 

元々、ルビコン解放戦線は惑星封鎖機構を打破する為に結成された組織である。現在の主敵は星外企業だが、設立当初はルビコンを封鎖から解放する為に戦っていたのだ。

 

封鎖機構からしてみれば、アイビスの火で焼けた星に住み続けるルビコニアンは奇異に映っただろう。しかし、理屈ではなかった。故郷を思い、離れがたい気持ちは否定されるべきものではない。だからこそ、ルビコニアン達はサム・ドルマヤンの旗印の元立ち上がった。真なる自由を得る為に。

 

長い長い月日が流れ、ようやく絶好の機会が巡ってきた。企業と封鎖機構が潰し合い、戦力が削れればルビコンからまとめて叩き出せるかもしれない。光明は遠くとも、この目にしかと見えているのだから。

 

「例え何者かが情勢を操ろうとも。例え何もかもが灰に塗れようとも。最後に勝つのは、我々だ」

 

策謀家としての自分と戦士としての自分。その二つを御しつつも、彼は戦場に向かう。その魂は、高揚しながらも冷静だった。

 

 

 

 

 

 

 

「む・・・・・・」

 

デバイスに表示されている依頼内容を睨むように確認しつつ、ハンドラー・ウォルターは微かに息を吐いた。眉間を指で揉みほぐし、自覚した疲れを誤魔化す。

 

現在、彼の猟犬である621には多数の依頼が舞い込んでいた。ベイラムやアーキバスだけではなく、解放戦線からも。引く手数多なのは、621自身の実力によるものだろう。それ程までに彼女は強かった。

 

純粋に高い技量に、勝負所を決して逃さない嗅覚。今まで飼ってきた猟犬の中でも随一の実力だ。だからこそ、ウォルターは懸念を抱いている。このままでは、危険分子として企業や封鎖機構に排除されてしまうかもしれない。

 

依頼をこなし、有用性を示し続けるしかない。そして、排除される前にコーラルを焼き尽くす。今まで以上に微妙な舵取りが要求されるだろう。それは、621の負担が増えるということでもある。

 

「バイタルは・・・・・・問題無いか」

 

ウォッチポイント・デルタを襲撃し、帰還した後。621のバイタルが不意に乱れることが多くなった。致死量に近いコーラルを浴びたのだ、何が起こってもおかしくない。しかし、621自身に訊ねても問題無いの一点張りである。そこにウォルターは彼女の感情の芽生えを感じたが、それ以上に心配だった。

 

彼女ならばきっとやり遂げるだろう。ウォルターの使命である、コーラルの焼却。かつて父が犯した罪の清算。621ならば、必ずやり遂げることが出来る。ウォルターは、利用していることを自覚しながらも信じていた。

 

だがそれは、彼女のメンタルケアを怠る理由にはならない。可能な限り人らしい扱いをしてやりたかった。年端もいかない少女を、都合のいい猟犬として扱っている罪悪感からだろうか。自身の感情が分からなくとも、それでも621には幸せになってほしい。それがウォルターの偽らざる気持ちである。

 

「・・・・・・」

 

621のバイタルを確認しながら、ウォルターは届いた依頼を精査していく。どの依頼を受けるか決めるのは彼女自身だが、出来るだけ判断材料を増やしておきたい。それが、彼女の思考を育ててくれるはずだ。

 

ただ、体調には慎重を期す必要がある。こちらで観測出来ていないとはいえ、ウォッチポイント襲撃以降から621に変化が発生しているのは事実なのだから。根本的な治療法が存在しない以上、飼い主であるウォルターが管理しなければならない。

 

・・・・・・ハンドラー・ウォルターは気付いていない。疲労を誤魔化して無理をしているのは、他ならぬ自分であると。そして、飼い犬は飼い主を真似するものなのだと。ウォルターが無理をすればするほど、621も無理をしてしまうのだと。と、

 

「これは、新たな依頼か。・・・・・・燃料基地の襲撃?621には通信で伝える、だと?」

 

アーキバスから依頼の連絡。それと同時に、621に通信が入っている。壁越えで協同したヴェスパー部隊の一人、ラスティからだ。本来、アーキバスグループの傭兵起用担当はペイターという下位ナンバーのヴェスパーだったはず。何故ラスティが直接通信をしてきたのだろうか。

 

「・・・・・・。いや、介入するべきでは無いな。621にも個人的な交友はあってしかるべきだ」

 

ヴェスパーとしても、ここで621を篭絡しようとするような行為は避けるだろう。ウォルターは彼女の自主性を尊重しているが、通信してきた側からはそのようなこと分かるはずも無い。故に問題は無いと、ウォルターは判断した。

 

「封鎖機構の駐屯部隊、及び燃料タンクとエネルギープラントの破壊か。621ならば問題ない相手だが・・・・・・」

 

企業の思惑を読み取りつつ、罠の可能性を考える。この段階でそれはありえないとは思うが、裏を取るに越したことは無い。621とラスティの通信の様子が気になりながらも、ウォルターはデバイスを操作し始めた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・本当にいいのですか、ボス。「コレ」は貴方がコヨーテスに訪れた時、RaDから奪ってきたものなのでは?」

 

「えぇ、この子も私に随分と懐いていました。今更親元に返すのは心苦しいですが・・・・・・それも一つの定めでしょう」

 

グリッド012の最奥。コヨーテスの部下達がとあるものの運搬作業を進めているのを見ながら、ラヴェンナはブルートゥに訊ねていた。否、詰問していると言ってもいいだろう。

 

「このオーバードレールキャノンには重要な役割がある。貴方はあの時、そう言いました。だというのに、わざわざ返還するなど・・・・・・!」

 

「仕方がありません。突然の闖入者は未熟ながら激しいステップを踏み、主役は未だ踊る気配が無い。魔法が解けるというのなら、零時の鐘を鳴らさなければいいのです」

 

いつものように、自身しか理解してないであろう言い回しで告げるブルートゥ。しかし、そこには彼の思惑があることを、かつてコヨーテスのボスだったラヴェンナは理解していた。ブルートゥは大掛かりな何かを仕掛けようとしている。自分になんの相談もせず。

 

彼女は息を整え、目の前の狂人に問う。己が何をすべきか、聞き出さねばならない。

 

「・・・・・・最後に辿り着くのは、どこですか?私達の終わる場所が見えているのでは?」

 

「ふふ、ラヴェンナは鋭いですね。ですが、終幕の花火を上げる場所はまだ決まっていません。封鎖機構にアーキバス、彼らがどこで開演するか。いずれにせよ、コヨーテスの全戦力を投入することになるでしょう」

 

「貴方に何が見えているのか私には分からない。それでもコヨーテスを譲ったのは、どうしようもない現状に風穴を開ける為です。ルビコンは、どうなるのですか?」

 

「それはご友人がどう踊るかにかかっていますね。全てが燃えるか、解放の旗手となるか。はたまた、何もかもを台無しにするか。いずれにせよ、私達が刻むステップは決まっています。アーキバスに主導権を渡してはならない。そうすれば、今までと同じになってしまう。そうならない為には、カーラに子供を返す必要があるのですよ」

 

矛盾を孕んだ言葉は、しかしブルートゥの本心なのだろう。例えそれが、他者には理解出来ない狂ったものだとしても。

 

「・・・・・・。分かりました。では、輸送の現場指揮は私が執りましょう。ボスが行けば、話も聞かれず殺されてしまうでしょうし」

 

「カーラは情熱的ですからね。つい先日も、素敵な出会いをくれたばかりだ。また、共に踊りたいものです」

 

歌い上げるような口調に、ラヴェンナの頬がピクリと動いた。カーラ。かつてブルートゥが所属していたドーザーの一派、RaDの現頭目。優れた技術力と突飛な発想力を持ち合わせた、灰かぶりと自らを称する女性。ブルートゥはRaDから離反しながらも、思いはカーラの元にあるようだ。それが、ラヴェンナには気に食わない。

 

「では、こちらで手筈を進めておきます」

 

手短に言い、ブルートゥの部屋を後にする。その瞳には、暗く燃える情念が浮かんでいた。




初めてブルートゥと戦った時は、爆笑しながらも恐怖を覚えました。撃破後のカーラの台詞が物凄く素っ気無かったのを聞いて、あぁこいつはこの世に存在しない方がいい奴だったんだとも思いました。だから拙作では登場増やすね・・・・・・。
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