見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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36.新型機体鹵獲阻止

「カタフラクト?」

 

『あぁ。最近になって封鎖機構が実戦配備を進めている、地上戦闘に特化した特務機体だ。機動力、装甲、火力。どれを取ってもACを遥かに凌駕するようだ』

 

中央氷原における解放戦線の拠点。そこの通信室で、シオンは久しぶりにアーシルの声を聞いていた。しかし、その声色は暗い。

 

「おいおい、化け物じゃねえか。それが中央氷原に?」

 

『分析した限りだと、最低でも二機は配備されているらしい。一機はバートラム旧宇宙港の近傍。強襲艦隊の母港を防衛する為だろう。そして二機目が・・・・・・』

 

「解放戦線の一大拠点近くに配備されたって訳か。キッツいなぁ、それは」

 

顔をしかめ、シオンは天を仰いだ。偶然だとしても運が悪過ぎる。そんな怪物、自分一人で相手に出来る気がしない。だが、先んじて攻撃を仕掛けなければ拠点が蹂躙されるのは目に見えている。

 

「で、出撃の計画とかはもう練られてんのか?早急にぶっ壊さないとヤバいだろ」

 

『それなんだけど、朗報がある。帥父ドルマヤン及びリング・フレディを中央氷原に派遣する目途がついた。カタフラクトの撃破作戦は彼らが到着してからになるはずだ』

 

「っと、マジか。帥父が直々の出陣とは、気合入ってるねえ。でも、そっちの方は大丈夫か?」

 

『今の所問題は無い、と思う。ツィイーや六文銭、同志ダナムも残っているし・・・・・・企業の圧力は日に日に弱まっている。封鎖機構の介入が、予想以上に痛手になっているようだ』

 

どうやら、ベリウス地方の戦況はそう悪くないようだ。シオンは安堵の息を漏らし椅子の背もたれに体を預けた。いつ死ぬか分からない情勢で、彼の知り合いはまだ生きている。死に別れはごめんだった。

 

「なら、よかったよ。今度ツィイーとも話したいから、時間があるか聞いといてくれ」

 

『分かった、聞いておくよ。それじゃあ、また』

 

「あぁ、またなアーシル」

 

中央氷原とベリウス地方の通信は、盗聴されないよう時間制限が設けられていた。手短にすませた会話に、しかしシオンは心がほぐれているのを感じる。と、背中越しに声が掛けられた。

 

「ここにいたか」

 

「っと、帥淑ですか。アーシルと通信してたんですが・・・・・・何か用です?」

 

振り向くと、立っていたのはミドル・フラットウェル・中央氷原における解放戦線の行動を一手に担っているその男は、現在シオンと同じ拠点に滞在していた。

 

「あぁ。先ほどお前達が話していたことにも、少し関係している。ブリーフィングルームに向かうぞ」

 

「了解、っと。例によって面倒事ってことですかね」

 

「そういうな。お前にとっては稼ぎ時だろう」

 

「まぁ、そうですけど。使う時が無いんですよね、衣食住は支給してもらってるし。ありがたいことです」

 

シオンは軽口を叩きながらフラットウェルについていく。実際に彼に会ったのは数日前だが、声の印象に比べて細身で、無精髭を生やしたワイルドないで立ちだった。しかし、眼鏡の奥に見える瞳は鋭く、知性の高さを伺わせる。総じて関わり辛い雰囲気のフラットウェルに、シオンは積極的に交流を図っていた。

 

「当然だ。出自が分からぬとは言え、お前は解放戦線に助力している。義理を欠くわけにはいかん」

 

「似たようなことをダナムさんも言ってたな、確か。いや、独立傭兵やってた頃、企業には使い捨て同然の扱いを受けてたからさ。そういう気遣いは身に染みるんですよ」

 

「貴重な戦力を使い捨てに出来る程、余力は無いのでな」

 

かつてシオンを使い捨てようとしていたフラットウェルは、一切表に出さず平然と言い切る。良心が痛む程初心ではない。しかし、今のシオンを使い捨てる気も無かった。裏切る気配も無く、高い実力を有する彼女は解放戦線にとって有益だ。

 

「そいつはまぁ・・・・・・嬉しいっすね。俺は死にたくないもんで」

 

「ならば、全力を尽くしてくれ。死を前提にした任務を頼むつもりは無い。危険は避けられないが、こちらとしても万全は尽くさせてもらおう」

 

そう言いながら、フラットウェルはブリーフィングルームに入っていった。シオンもそれに続く。親子程に歳が離れた数奇な関係の二人は、そのままブリーフィングへと移るのだった。

 

 

 

 

 

 

『コード15、敵襲です!所属不明のACが一機!』

 

「了解、急行する!」

 

部下の報告を受け、封鎖機構に所属する1級士長はすぐさま出撃の準備を整えた。ここは中央氷原、ヒアルマー採掘場付近の前線拠点。現在、後方の採掘場では新型のHC及びLCの技術試験が行われている。それ故厳重な防衛体制が敷かれているのだが、襲撃者は構わず正面から突っ込んできたようだ。

 

支援型LC機体に乗り込み、出撃する。敵性ACは一機のみだが、送られてきた戦闘映像では機動力に長けているように見えた。既存のLCとはいえ、二機がかりでもいいように翻弄されている。

 

『くっ、素早い・・・・・・!コード44、敵機の情報は!?』

 

部下がシステムに情報照会を要求するも、何者かに通信を妨害されているようだ。しかし関係無い。この近辺には新型機体を除いても、十機以上のLCが展開しているのだ。襲撃者がどれだけ奮闘しようと時間の問題である。と、

 

『コード5!上空を輸送ヘリが通過している!ACに妨害され迎撃出来ません!』

 

かなりの速度で突入してくる輸送ヘリは、新型機体の試験場であるヒアルマー採掘場に向かうつもりだろう。システムから1級士長に通達が下った。ACよりも先に輸送ヘリを撃墜せよ、と。

 

「了解!先にはゆかせんぞ・・・・・・!」

 

ACよりも高性能なブースターを吹かし、みるみる内に高度を上げるLC。崖の上を通り抜けていく輸送ヘリを射程内に捉える寸前、横の崖から何かが突っ込んできた。意識外からの奇襲に回避機動を取ろうとするも間に合わない。

 

『おおぉぉぉぉっ!!』

 

可憐な少女の声と共に、ACの武装とも思えない無骨なチェーンソーがLCに叩きつけられる。1級士長は逃れようとするが、連続的に与えられる衝撃に機体の操縦が利かない。そのまま、謎の敵機と共に崖上に落下していった。

 

「クソッ、コード15!敵ACに奇襲を受けた!潜伏していたというのか!?」

 

『どうだかなぁ、どっちにしろ輸送ヘリには手を出させねえぞ!』

 

装甲を削られながらも辛うじて距離を取る。敵はどうやら、旧式のパーツが混ざったACのようだ。先ほど喰らったチェーンソー以外は貧相な武装をしており、LCの相手ではないと1級士長は判断する。このまままとわりつかれるよりも、排除した後輸送ヘリを追った方が確実だ。と、ACからパルス波を感知する。パルスプロテクション。丁度LCと輸送ヘリの直線状に展開されたそれにより、狙撃も不可能になった。

 

『そら、俺とも遊んでくれよ!』

 

「・・・・・・いいだろう、乗ってやる!」

 

挑発染みた言葉に、1級士長はACへと突っ込んでいく。システムの判断も迎撃を命じてきたのだ、なんの躊躇もいらない。粉砕し、次いで輸送ヘリも落とす。傲慢なプライドに相応しい技量と機体性能を以て、1級士長はAC・・・・・・シオンのトラルテクトリに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

「うおぉっ!?」

 

射撃後に分裂する特殊なバズーカ砲弾を避けながら、シオンは必死な表情でLCに向き直った。続けざまに降り注ぐミサイルは、直進するものと垂直機動で降ってくるものに分かれており回避が難しい。更には圧倒的な空戦能力。一切地上に降りること無く動き続けている。

 

「クッソ、好き勝手飛び回りやがって!」

 

空中を自由自在に起動するLCに、シオンは懸命に食らいついていた。展開されているパルスプロテクションもいずれは消える、それまでにLCを撃破しなくては。しかし、三次元機動するLCを捉え切れない。

 

だが、目的自体は達成したと言えるだろう。レイヴンを乗せた輸送ヘリは既に目標地点に到着し、ACの降下にも成功したとの連絡が入った。後はレイヴンが新型機体を破壊するまで、戦力を引き付けていればいい。問題は、時間がかかり過ぎた場合周辺の戦力が集まり、撤退も困難になることだ。

 

しかし、シオンはそんな心配はしていなかった。何せあのレイヴンだ。あっという間に撃破したという連絡が来るだろう。それまでに自分が撃破されないか、どうか。相手の動きは洗練されていて、滞空し続けていることもあって相性は悪いように思える。

 

「だったらよぉ!」

 

吼えながらアサルトブーストを起動。迫るミサイルを掻い潜り肉薄を試みた。こちらが放ったミサイルはフレアで無力化されるも、マシンガンとハンドガンの銃弾がLC機体の装甲を打つ。しかし、スタッガーを取る前にふわりと高度を取られてしまった。必死に追い縋り、輸送ヘリの方向に向かわせないよう牽制している所に再びミサイルが降り注ぐ。

 

「ぐぅっ・・・・・・!」

 

『所詮はAC、この程度だな。我々の相手ではない』

 

分裂するバズーカ砲弾をかわし切れず、高度を下げるシオン。やはり空中戦は苦手だ。一度ENを回復し、アサルトブーストを長時間吹かして肉薄するしかない。しかし、降り注ぐミサイルとバズーカに回避を強要され、ENの全快もままならなかった。パルスプロテクションを再展開出来るまでにはまだ時間がかかる。それならば。

 

「来いよ、好きなだけ撃ってこい!」

 

シオンはクイックブーストによる回避機動を止めた。当然被弾が増えるが、構わない。目の前のLCに追いつけなければ任務を全う出来ないのだ。たちまちスタッガーに追い込まれ、分裂バズーカの殆どが直撃しAPを削っていく。それを代償に、ENは容量限界まで補充された。そして、トラルテクトリは未だ健在である。

 

アサルトブーストを再起動し、シオンは遮二無二突っ込んだ。回避を最小限に、距離を詰めることを最優先にする。被弾しながらも肉薄しチェーンソーを変形展開。迎撃のミサイルやバズーカへの盾としつつクイックブースト、加速しながらぶつかった。

 

「そうら喰い付いたぜ!」

 

『くっ、馬鹿の一つ覚えか!』

 

何を言われようと知ったことではない。チェーンソーがLCの装甲をガリガリと削り、トラルテクトリのコックピットまで振動が伝わってくる。このまま一気に押し切らねば削り負けてしまうだろう。全て出し尽くせ。チェーンソーを振り切ってLCを吹き飛ばしながら、残りのENを使ったアサルトブーストで距離を詰めて逃がさない。スタッガー状態のLCに蹴り込んで、あらん限りの銃弾を叩き込んだ。

 

『き、旧型のAC如きに・・・・・・!』

 

関節部から火花を散らしLCが落下していく。地面に激突する前に爆散し、パーツが散らばり落ちていった。単独でLCを撃破出来たという事実を噛み締める間も無く、シオンは息も絶え絶えに地上に降下する。

 

「ぜぇっはぁっ・・・・・・!こちらシオン、LC機体を一機撃破!他の様子は!?」

 

『こちらも敵戦力の無効化に成功した。レイヴンは・・・・・・たった今、新型機体を撃破したようだ。増援が集まる前に撤収するぞ』

 

「了解ですよっと!」

 

これ以上留まる意味は無くなった。即座にブースターを吹かし、撤退地点まで進んでいく。解放戦線側が封鎖機構の通信を妨害した際、混乱に乗じて岩陰に輸送ヘリを待機させていたのだ。緻密に計算された周到さは、全てフラットウェルの手管によるものである。

 

『「レイヴン」・・・・・・その名に違わぬ、羽ばたくような戦いぶりだ。・・・・・・あるいは、お前ならば。ルビコンの灼けた空を越え、まだ見ぬ自由を選べるのかもしれん』

 

感じ入ったようなフラットウェルの声。自身も攪乱に参加しているというのに、レイヴンの戦闘も確認していたらしい。だが、その言葉にはシオンも納得した。確かに、あのレイヴンならばどこまでも飛んでいけるだろう。・・・・・・難しい言葉回しは、正直あまり理解出来なかったが。

 

そして。懸念だった封鎖機構からの追撃も無く、シオン達は輸送ヘリに乗り込み、無事離脱に成功した。通信を聞く限りレイヴンも離脱出来たようだ。安堵する反面、シオンは少しだけ残念な気持ちを覚える。願わくば、言葉を交わしてみたかった。

 

レイヴンとの共闘はこれで三度目だ。しかし、通信越しでも言葉を交わしたことは無い。本人は極端に無口なのか、オペレーターであるハンドラーを介することでしか連絡を取れないのだ。

 

シオンは、レイヴンに憧れている。自由な戦い振りに全てをねじ伏せる圧倒的な強さ。一度ならず二度までも助けてもらい、その実力をまざまざと見せつけられた。憧れるなというのが無理な話である。

 

まぁ、互いに生き残っていればいつか機会はあるだろう。輸送ヘリの中、トラルテクトリのコックピットに乗ったままでシオンは一人頷いた。「レイヴン」が、声を発することも出来ない少女だと知らないままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

『これは、一体・・・・・・?』

 

621に頼まれ、現在解放戦線に協力しているAC乗り・・・・・・シオンのことを調べていたエアは驚愕の声を漏らした。

 

コーラルから生まれた変異波形である彼女にとって、ハッキングによる情報収集や操作はお手の物である。しかし、それによって入手した映像には、信じられないものが映っていた。

 

───解放戦線の映像記録。食堂で楽しそうに食事をしているその少女は、621に瓜二つな見た目をしていた。別人とは、とても思えない程に。




衝撃の事実発覚。
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