見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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37.始末屋は笑う

「こいつは・・・・・・一体どういうことだい?」

 

RaDの拠点であるグリッド086。野暮用で数日離れていたカーラは、呆れたような苛立ったような声を漏らした。

 

『連絡した通りだ、ボス。コヨーテスのブルートゥから、以前盗まれたものが届いた。多数の護衛付きで、かなり丁寧に運んできたらしい』

 

「通信が入った時は耳を疑ったけど・・・・・・あの気狂い、何を考えているんだか」

 

086の工房の一つは、ブルートゥが運んできたらしいもので埋まっている。オーバードレールキャノン。かつてカーラ自身が作成した、巨大な砲撃兵装だ。惑星封鎖機構の衛星砲を参考に、際限無く火力と射程を肥大化させた結果、消費電力の関係からまともに運用することが不可能になった事情を持つ。元は「友人」達の計画で使用する予定の兵装だったのだが・・・・・・。

 

『一通り調べてみたが、罠などは仕込まれていないようだ。内装が弄られた形跡はあるが、ただのメンテナンスの可能性が高い』

 

「・・・・・・。はぁ、狂人の思考を見抜こうとしても無駄か。もう一度、隅から隅まで調べ尽くすよ。付き合いな、チャティ」

 

『了解だ、ボス』

 

ブルートゥの思惑は分からない。しかし、ルビコンの情勢が大きく動いている現状、このオーバードレールキャノンは役に立つだろう。運用出来る状況を作り出せればの話だが。

 

「さて、三徹くらいは覚悟しないとね」

 

言葉とは裏腹に、カーラはニヤリと口角を吊り上げる。ブルートゥに盗み奪われた我が子が、経緯はどうあれ帰ってきたのだ。どこか心が跳ねるのを感じながら、彼女は工房へと籠り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「おや。久しいなイグアス坊や。こうして直接会うのは7、8年振りか」

 

「げっ・・・・・・コールドコールの爺じゃねえか。なんでここにいるんだよ」

 

ベイラムの一拠点。封鎖機構に対する前線に近い場所で、イグアスは通路で顔を合わせた男に顔をしかめた。既に老境に達していながら、洒落た帽子と古い映画に出てくるガンマンのような恰好をした鋭い目の男。通り名を、コールドコールと言う。

 

「そう言うな。まだ死んでいないとは知っていたが、随分と活躍しているそうじゃないか。あの坊やが、よくぞ成長したものだ」

 

「おい、喧嘩売ってんのかてめぇ・・・・・・!」

 

揶揄うような笑みを向けられ、イグアスは拳を握り締めた。しかし、すぐに殴り掛からないだけの分別はある。その分殺気を込めた視線を送ると、コールドコールの笑みは何故か深まった。

 

「牙は抜けていないようだな。なるほど、あの「歩く地獄」の元でこれなら、まぁよくやっている。褒めているのさ、素直に喜んだらどうだ?イグアス坊や」

 

ぎしり。イグアスが歯を食いしばる音が響く。言葉では褒めているのだろうが、明らかにおちょくられている。懸命に怒りを抑えながら、荒々しく言い返した。

 

「そういうてめぇはどうなんだよ、爺。企業の汚れ仕事で泥水啜って生き長らえてんだろ?わざわざ企業の拠点に顔を出すなんざ、自殺でもしたくなったのかよ」

 

「あぁ、坊やは知らないか。俺のやり方はいつもこうだ。依頼人には直接会いに行く。殺し屋にも流儀はあるのさ」

 

「はぁ?なんつう非効率な・・・・・・」

 

始めて聞く流儀とやらに、イグアスは露骨に眉を顰める。殺し屋稼業がどんなものかは知らないが、どう考えてもハイリスクノーリターンだ。

 

「効率で全て済むなら楽なんだがね。長年で染み付いたやり方は、簡単には変えられんのよ」

 

そう言って笑うコールドコールは、昔と何も変わっていない。イグアスは、久しぶりに昔の事を思い出していた。

 

今から10年近く前、場所は木星。博打に敗れたイグアスが、借金のカタに第4世代強化手術を受けた頃。無事手術は成功したものの精神的に不安定になっていた彼は、ヴォルタと共に道行く人に因縁をつけ、喧嘩を吹っ掛ける日常を送っていた。

 

そんな折。いつものように喧嘩を仕掛けた相手が相当強く、ヴォルタがKOされながらもなんとかぶちのめした時に、彼は路地裏にやってきた。ややつばの広い帽子を被り、年齢に似合わない小洒落た格好の男。そいつはイグアス達の様子を見るなりこう言った。

 

「これは丁度いい」

 

どういう意味かを考えるより早く、男は倒れ伏している喧嘩相手に歩み寄る。手慣れた動作で懐から拳銃を取り出すと、一切の躊躇無く喧嘩相手の頭を撃ち抜いた。消音機能があるのだろうか、酷く小さな銃声は表通りにまで聞こえることは無くかき消えてしまう。

 

「おまっ、何をっ・・・・・・!?」

 

「静かにすることだ、坊や。これと同じになりたくはないだろう?」

 

拳銃をしまい、平然と男が言う。イグアスとて、死体を見るのはこれが初めてではない。目の前で人間が死ぬことも、博徒として生きてきて何度も見てきた。だが。ここまで平然と、かつなんの躊躇も無く人を殺す様は初めて見る。有り体に言って、気圧されていた。

 

だが。そこで怖気づく程、彼は臆病ではなかった。無鉄砲であると言ってもいい。蛮勇を振りかざし、目の前の男に食って掛かる。

 

「てめぇ、俺の獲物に好き勝手やってくれるじゃねぇかよ!どう落とし前付けるんだ、あぁ!?」

 

「・・・・・・ほう、ほう。威勢がいいな、随分と。なるほど、ただのごろつきとは違うようだ」

 

男は笑みを浮かべながら、足音を立てず近付いてきた。やる気かとイグアスが拳を構えようとするも、するりと目の前まで来た男によって額に何かが当てられる。冷たく固い感触。さっき人を殺した拳銃が突きつけられていた。

 

「っ!」

 

「さて、ここで殺すことは容易いが・・・・・・ふーむ、これも何かの縁か。金にもならんのに殺す道理も無かろうよ」

 

動きを止めたイグアスの顔から視線を逸らさず、飄々と呟く男。あっさりと拳銃を額から離し、再び懐へとしまってしまう。何が起こっているのか分からないままに、イグアスは男の声を聞く。

 

「俺はコールドコール。裏社会で生きるしがない殺し屋だが・・・・・・坊や、興味はあるかね?」

 

これが、凄腕の殺し屋にしてAC乗りでもある、コールドコールとの出会いだった。

 

それから。イグアスは悪友であるヴォルタにも秘密にしながら、コールドコールとつるみ始めた。体のいい鉄砲玉として扱われていたと言えなくも無い。とにかく、喧嘩よりも遥かに刺激的な日々をイグアスは送り、そして・・・・・・。

 

「まさか、かの木星戦争の英雄に喧嘩を売るとはな。その上レッドガンの隊員にまで昇り詰めるとは、流石の俺も予想外だったぞ」

 

コールドコールの言葉に、イグアスは現実へと引き戻された。僅かな時間呆けていたのを見ていたはずだが、彼はそこには追求せず続ける。

 

「G5、立派なものじゃないか坊や。路地裏で野良犬をやっていた頃より、よっぽどいい」

 

「だから、喧嘩売ってんのかよ爺・・・・・・!大体、ここに誰の依頼を受けに来たってんだ」

 

「話せるわけも無かろうさ。まぁ、獲物はお前ではないとだけ言っておこう。それじゃあ、達者でな」

 

言いたいことだけ言い、コールドコールはそのまま歩き去ってしまう。いくらでも追いかけることは出来たはずなのに、イグアスは通路に立ち尽くしたままだ。疑問と苛立ちが心を蝕み、最近治まっていた頭痛がぶり返しそうな気配も感じる。頭を振って、彼は床を蹴りつけるように歩き始めた。

 

「なんだってんだよ、一体・・・・・・!」

 

・・・・・・彼は気付いていない。例え皮肉交じりだったとしても、コールドコールが賞賛の言葉を投げかけていた事実を。無論、素直に受け取れないイグアスの人柄を理解した上で、揶揄っているのだけかもしれないが。

 

コールドコールは、肩を怒らせて去っていくイグアスをちらりと振り返った。その顔には、苦笑めいた表情が浮かんでいる。しかし、前に向き直った時には跡形も無く消え去っていた。鋭い視線で、彼は飄々と呟く。

 

「さて、ベイラムは梨のつぶてだったが・・・・・・」

 

コールドコールがベイラムから提示された依頼。それは、G2ナイルの粛清である。汚染市街での失態を重く見たベイラム上層部は、G2の解任及び厳罰を要求しようとした。しかし、そんなことをすればレッドガン全体が離反する可能性がある。苦肉の策として、粛清代行の殺し屋として呼び声の高いコールドコールに声がかかったのだ。

 

だが、コールドコールはその依頼を断った。状況をあまりにも軽く見た態度に、危険に見合わぬ低い報酬。ベイラムには昔からそういう所があった。杜撰で、傲慢なのだ。製品開発はともかく、上層部の判断力は明確にアーキバスに劣るだろう。と、

 

「・・・・・・おや」

 

噂をすれば。コールドコールの秘匿回線に、暗号化されたデータが送られてきている。差出人は、恐らくアーキバスだろう。ベイラムの拠点で、アーキバスからの依頼を受け取る。数奇な千客万来に、コールコドールはくつくつと笑い声を漏らした。

 

愛機であるデッドスレッドに戻った後、解読しなければ。内容によってはアーキバスの拠点に赴くのを考えつつ、コールドコールは通路を歩いていく。その足取りは、年齢に似合わず軽いものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帥父、あと三時間ほどで到着するようです。懸念されていた襲撃も、今の所兆候は見られません」

 

『うむ』

 

アーレア海上空。衛星軌道から狙撃されない程度の高度を維持しながら、解放戦線の新型輸送ヘリは編隊を組み飛行していた。その規模は、ただの増援にしては多いように見える。

 

「・・・・・・ふぅ。このまま、何事も無ければいいが」

 

一旦通信を切り、リング・フレディはコックピットの中で呟いた。現在、中央氷原はベイラムとアーキバスの企業勢力に突如介入してきた惑星封鎖機構、そしてルビコン解放戦線の四つ巴の様相を呈している。情勢的には非常に不安定な中、帥父ドルマヤン自らアーレア海を渡るのは危険だという意見もあった。しかし、他ならぬドルマヤン自身の判断により海越えを決定。男娼にして懐刀のフレディと共に輸送ヘリに揺られているのである。

 

フレディもドルマヤンも、移動中はACのコックピット内で待機することになっていた。有事の際にはすぐに出撃出来る為だ。だが、幸いにして襲撃されることは無く。覚悟していた分、フレディは肩透かしを喰らった気分のまま拠点へと到着した。

 

到着してすぐ、運ばれてきた兵器の整備に入る解放戦線の整備士達。それはACも例外では無い。フレディはいつものようにドルマヤンの傍に立ち、忙しなくも活気のある様子を眺めていた。

 

「・・・・・・うむ。往くか、フレディ」

 

「はっ」

 

一つ頷いて、ドルマヤンはガレージを立ち去る。この後の予定は、中央氷原支部を統括しているフラットウェルとのブリーフィングが入っていた。長距離通信では傍受の危険がある為話せなかったことや、喫緊の問題である封鎖機構の特務機体、カタフラクトの撃破作戦等々。論議すべきことは山積みである。

 

しかし、きっと我らならば乗り越えられる。帥父ドルマヤンの指揮の元、ルビコンから星外の者達を追い出すのだ。そうすれば、帥父の真意も理解出来るに違いない。フレディはそう信じていた。

 

だが。そんな彼の脳裏に、とある言葉がリフレインする。

 

『この感じ・・・・・・貴様も犬か。それも、飼い主の考えを理解出来ない駄犬のようだ』

 

汚染市街への救出作戦の際、陽動を行っていたフレディの元に現れた一機のAC。粘性の殺気を持つ、熟練の独立傭兵。

 

『ある程度の才があっても持ち腐れだな。死線を潜った回数が少ない。飼い主に甘やかされてきたのか、犬?』

 

成す術も無く敗れたことよりも、掛けられた言葉の方が心の傷になっていた。無能で、甘やかされてきた駄犬。自覚はある。己が、ドルマヤンには遠く及ばない凡愚であるということは。だからこそ懸命な努力を積み、戦士として彼の一助になれるよう戦ってきた。その誇りは、あの夜に打ち砕かれたのだ。と、

 

「フレディよ。悩むことも悪くはない。だが、足を止めてはならぬ。我々は、進み続けるしかないのだ」

 

こちらの心を見通したかのように、ドルマヤンが口を開く。ありがたさよりも先に情けなさがこみ上げ、フレディは深く俯いた。

 

「申し訳ありません、帥父。このフレディ、貴方のお傍にいる資格はありません」

 

「構わん。資格など無用なものだ。今はルビコンの分水嶺。惑うならば、我が背についてくるだけでよい」

 

普段ならば感じ入ったであろう言葉に、しかしフレディは至らなさを悔やむ。自責の念は、ブリーフィングが始まっても消えることは無かった。




DLCが出たらレッドガン周りと一緒にコールドコールの掘り下げも欲しい。
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