見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「クッソ、捉えられねぇ!」
トラルテクトリのコックピット。戦闘シミュレーターでフラットウェルのAC、ツバサと戦いながらシオンは苛立ち混じりの悲鳴を上げた。ツバサは三次元の機動戦に特化したACであり、目まぐるしい動きでシオンの攻撃をことごとくかわしている。
『追ってばかりでは受けもままならんぞ、そこだ』
「ぐぅっ!?」
頭上からバズーカを撃ち込まれ、即座に距離を離される。反撃もままならず、トラルテクトリのAPはじわじわと削られていった。とにかく攻撃が途切れない。EN切れを狙って反撃しようにも、こちらのスタッガーに合わせて着地、回復されてしまうのだ。アサルトブーストで距離を詰めようとすれば、高低差を利用して軽くいなされる。挙句回り込まれて蜂の巣だ。
レイヴンやドルマヤンとは違う、戦術の段階で練り上げられている強さ。為す術無く撃墜され、シオンは悔しげな声を上げる。
「ちっくしょー、また負けた・・・・・・!翻弄されるだけだぜ、むぐぅ・・・・・・」
『全ては経験だ。LC機体との戦闘映像を見たが、被弾前提のアサルトブーストで距離を詰めるのは悪くない。ただ、機を伺わねばならん。相手のEN残量を推測し、相手にとって最も嫌なタイミングで突っ込む。そうすれば、大抵の機体は捉えられるはずだ』
フラットウェルは連戦の疲れを微塵も感じさせず、思慮深い口調で言った。正論だ。しかし、それを遂行出来るかどうかは話が別である。
「そりゃ、そうなんでしょうけど・・・・・・。あーいや、文句言うなら試し続けるべきだな。もう一戦お願いします!」
『いいだろう。時間的に次が最後になる。本気で行くぞ』
あれ程の機動を見せつけてまだ本気ではなかったのか。身震いしそうな感覚を覚えるも、シオンは己を奮い立たせ戦闘シミュレーターを再起動する。そして、完膚無きまでにボコボコにされるのだった。
「じょ、上昇推力が足りねぇ・・・・・・ブースターを変えるべきか?いや、でもチェーンソーのことを考えるとなぁ・・・・・・」
フラットウェルとの複数に渡る模擬戦後。シオンはコックピットの中に留まり、先ほどの戦闘を検討していた。
高度を絡めた三次元戦闘。ACで戦うならば決して避けられない要素だ。前々から苦手なのを自覚していたシオンは、断られることを承知でフラットウェルに模擬戦を申し込んだ。それが、まさかすんなりと許可してくれるとは。これ幸いとコックピットに乗り込み戦闘シミュレーターを起動したのだが、結果は御覧の通り。散々に打ちのめされてしまった。
「弾薬の補給を考えると、武装を買い替えるのは無理そうだよな。となるとやっぱり内装・・・・・・いや、修理用機材の問題もあるのか。うーん」
本来、ACの強みは多彩な状況に対応出来得るアセンブルにある。向かう戦場に応じて武装やフレームを換装し、柔軟に戦うのが想定されている用途だ。しかし、ルビコンのAC乗り達がそういったことをするのは非常に稀である。何故か。
それは、惑星封鎖されている状況下ではパーツの総量に限りがあるからだ。懐事情の厳しい解放戦線は特に厳しく、敵味方問わず撃破されたACからまだ使えるパーツを漁るのは日常茶飯事。性能の低いパーツであってもACを最低限動かせるだけ御の字という状況だ。
ここルビコンでは、余程の工業力と経済力が無ければACの換装は難しい。それは企業所属のAC乗りも例外では無い。惑星封鎖の影響で本社からの支援を受けられない以上、ルビコン星内企業の手を借りるしかないのである。そして、噛み合わない星内企業パーツに換装するくらいなら、乗り慣れたアセンのまま出撃する方が効率はいい。そういった事情で、ルビコンではACのアセンブルの変更をすることは少ないのだ。
「折角貯まったCOAMも持ち腐れだなぁ。んー、暫くは今のトラルテクトリのままで戦うしかないか」
独立傭兵であれば、傭兵支援システムであるオールマインドを通じてパーツの購入は可能だ。しかし、買ったパーツの修理や弾薬の問題等、根本的な問題からは逃れられない。シオンもその例に漏れず、どれだけ考えてもアセンの変更は難しいという結論しか出せなかった。
ならばパイロットとして腕を磨くしかない。相手の状況も把握しながら、最適な行動を取る。その為には、途方も無い鍛錬と実戦が必要だ。深い息を吐きながら、シオンはAI相手の戦闘シミュレーターを起動した。ひたすら積み上げていく他に方法は無いのだから。
試行錯誤を繰り返し戦い方を最適化していく。無駄を削ぎ落して、戦場で生き残れるように。トラルテクトリの強みは近距離での殴り合いで優位に立てることだ。相手がスタッガーしたタイミングでチェーンソーを当てることが出来れば、どれほど堅牢な機体でも致命傷だろう。
だが、その代償に機動力は低く、三次元戦闘にも弱い。如何に得意な近距離を保てるか、そして決定力がチェーンソーに大きく依存しているのが課題だ。
ここはブーストキックを多用するべきか。アサルトブーストで距離を詰めるならば、突っ込んだ勢いのまま蹴りに繋げられる。実際、今までの戦いでも有効だったのだ。ここで問題になるのは、アサルトブースト中はチェーンソーを展開出来ないこと。変形展開したチェーンソーは、正面からの攻撃を弾き得る特徴がある。被弾が避けられない状況では心強い。
敵に喰い付いてからチェーンソーを展開し、ワンチャンスを狙うのがいいのだろうか。いや、やはり銃撃によるACS負荷を与えるのが優先か。それとも・・・・・・思考の渦に呑まれながらも、シオンはひたすらシミュレーターでの戦闘を繰り返す。体力と集中力が途切れるまで、ひたすらに積み上げ続けた。
カタフラクトの撃破作戦。その大枠は単純なものだ。拠点襲撃に見せかけた陽動でカタフラクトを釣り出し、持てる戦力全てで打ち倒す。この作戦も機動力が肝要な為、参加するのはACのみだ。帥父サム・ドルマヤン。帥淑ミドル・フラットゥエル。リング・フレディ。そしてシオンの、計四名である。
先鋒はフラットウェルのツバサが務め、起伏の激しい地帯に誘導する。カタフラクトの機動力は凄まじいが、それはあくまで平面やなだらかな場所に限られるのだ。起伏や傾斜がある場所では、カタフラクトの二次元的機動は半減してしまう。
だが、封鎖機構側もその弱点は理解しているはず。もし釣り出せなければ、シオン達後続が各方面から拠点に攻撃を仕掛けることになっていた。指揮系統を混乱させ、機動力に優れるカタフラクトを孤立させる。そして袋叩きにするというのが、想定している手順だ。
幸い、封鎖機構は解放戦線を強く警戒しているわけではない。解放戦線の一大拠点近くに拠点を構えたのは、あくまで最低限の防衛の為だろう。カタフラクトも、時が経てば別の場所に移動する可能性が高いという情報があった。しかし、ここで破壊しなければ企業の手に渡ってしまう可能性がある。それこそが、最も危惧されていることだ。
「ふうぅ・・・・・・」
トラルテクトリのコックピットの中。シオンは深呼吸をしつつ、懸命に昂ぶりと恐怖を抑えていた。相反する二つの感情は、やはり今回の作戦が飛び抜けて危険だからだろうか。封鎖機構最強の地上兵器、カタフラクト。AC四機掛かりで挑むとはいえ、必ず勝てるとは口が裂けても癒えない。
「大丈夫、帥父サマに帥淑、フレディさんもいるんだ。作戦通りにいけば、やれるはずだ」
シオンは僅かに震える声で呟き、ぎゅっと目をつむる。己の心臓の音が聞こえた。いつもより鼓動は早く、シオンの内心を表している。
「落ち着けよ、俺。これまでヤバい状況はいくらでもあった。何より、一度死んでるんだ。それに比べりゃ大したこたぁない。頼れる味方がこんだけいるのに、ビビるのは馬鹿らしいぜ」
己に言い聞かせ、ゆっくりと目を開けた。先ほどのブリーフィングを思い出す。包囲しつつ攪乱しカタフラクトの火力を分散。弱点と思われるMT部分を狙う為、正面の危険性を可能な限り排除。肝心の攻撃役は、フラットウェル以外の瞬間火力に優れる三人が、状況に応じて突撃することになっていた。
『時間だ。これより、カタフラクト撃滅作戦を開始する』
通信からフラットウェルの声。ついに、始まる。
『往くぞ、ルビコンの戦士達よ。灰かぶりて、我らあり』
『『灰かぶりて、我らあり!』』
ドルマヤンの言葉に続く咆哮を聞きながら、シオンも気合を入れ直す。自分はあくまで雇われだが、命を賭ける覚悟は出来ていた。
「さぁて、精々働かせてもらうとしますかね!」
今回の作戦では輸送ヘリは使わない。封鎖機構の拠点は、ACの航続距離より近くにあるからだ。各々が指定された潜伏場所に向かっていく。フラットウェルがカタフラクトの誘導を試みるまで、発見されるのは避けなければならない。
こうして一機で進んでいると、どこか孤独感を感じる。傍受されないよう、合図があるまでは通信も禁じられてるのだ。シオンは真っ白な氷原を、丘陵に身を隠しながら進んでいく。トラルテクトリの駆動音が、今だけは少し煩わしかった。
「ここか・・・・・・よし」
暫くして。マーカー地点に到着したシオンは、トラルテクトリのジェネレーター出力をギリギリまで落とす。音よりも、温度で感知されないようにする為だ。効果があるかは怪しいが、やれるだけのことはやるべきである。後は合図を待つだけ。雹混じりの寒風がトラルテクトリに吹き付ける中、程よい緊張を保つためにシオンは軽くストレッチを始めた。
大人用に作られているコックピットは、彼がストレッチするくらいのスペースの余裕がある。勿論、操縦に影響が出ないよう機器の配置などは変えてあった。一見のんびり関節と筋肉をほぐしつつ、シオンは脳内で戦闘のシミュレートを繰り返す。如何に勝ち、生き残るか。と、
「っ!なんだ・・・・・・!?」
レーダーに反応あり。高速でこちらに向かってくる何かがいる。合図は来ていない。想定していなかった展開に、シオンの感覚が急激に研ぎ澄まされた。即座にジェネレーター出力を上げ、何が起きても対応出来るようにする。
『ほぅ、それなりに勘がいいようだ。なるほどな、最新世代だからというわけでもないらしい』
年老いた男の声。同時に、シオンは襲撃者を視認した。赤と黒を基調とした逆関節型のAC。肩にはそれぞれ四連装と高誘導のミサイル、腕にはレーザーライフルとレーザショットガンを装備しているようだ。
「誰だ、てめえっ!」
通信をオンにして叫ぶ。相手がこちらの情報をどれだけ持っているか分からない為、フラットウェル達に報告するのは避けた。しかし、こちらで何かが起こったことは把握してくれるはずだ。
『恨みは無いが、依頼なんでな。ここで果ててもらおう』
まるで肌を撫でるような、穏やかにも思える殺気。突如乱入してきた男・・・・・・コールドコールは、逆関節の跳躍力を以てシオンに襲い掛かった。
デッドスレッドのアセンは中々にガチ。ジェネが明堂なのが威力より立ち回りを重視してる感があって好きです。