見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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39.盤面の邪魔者

「こいつ、強いっ・・・・・・!」

 

ミサイルとレーザーによる波状攻撃を受けながら、シオンは懸命に敵機を捉えようとする。フラットウェルとの模擬戦もあってか、三次元機動には目が慣れていた。しかし、トラルテクトリの速度では追いつけない。致命傷を受けないよう牽制するのがやっとだ。

 

『なるほど、なるほどな。最新の第10世代にしては、旧世代の匂いを感じる。どうやら訳ありのようだ』

 

何を感じているのか、襲撃者は余裕綽々といった態度で宣っている。だが、その動きに緩みは一切無い。接地した状態からの跳躍力に優れる逆関節の強みを活かし、跳ねるような自在な機動を見せている。断続的に放たれる二種のレーザーも厄介だが、シオンが一番圧を感じているのは高誘導ミサイルだった。

 

高誘導ミサイル、型番をBML-G3/P04ACT-01。ミサイルの中では弾速が遅く、代わりに圧倒的な誘導性能を持つ。ひたすらに追いかけられることで、他の攻撃の対処が疎かになってしまっている。しかし、下手に避け損なえばかなりの衝撃が与えられてしまうのだ。

 

「鬱陶しいなぁ、ったく!」

 

クイックブーストの切り返しで高誘導ミサイルを避けるシオン。しかし、そこにレーザーライフルの閃光が突き刺さった。EN防御の低いトラルテクトリにとっては手痛い一撃だ。マシンガンとハンドガンで反撃を試みるが、完全に上を取られている関係上半分以上避けられてしまう。この位置関係では、アサルトブーストで距離を詰めることも難しい。

 

ならば、どうする。一つ目のリペアキットを使用しながら、シオンは懸命に打開策を探す。先日、実戦を糧に必死にあれこれと考えた結果、彼の脳内には最低限の対応方法が蓄積されていた。この状況ならば、LC相手に考えていた動きが流用出来そうだ。

 

シオンはトラルテクトリを後退させる。攻撃は最小限に、回避に集中した。相手の武装は距離が離れても有用なものもあるが、こちらの撃破が目的ならば時間を掛けたくはないだろう。最大限の火力を発揮する為、詰めてくるはず。思惑通り、襲撃者のACはクイックブーストを駆使して追い縋ってきた。ここだ。

 

「おおおぉっ!」

 

敵機へのロックを切りながらアサルトブーストを起動、すれ違うように前進する。背中に攻撃を受けながらも、十分な距離を取ることに成功した。急激にトラルテクトリをターンさせ、再び敵機を捕捉する。この距離なら、相手が詰めてこようとすればアサルトブーストで喰い付けそうだ。逆に、このまま詰めてこないなら時間稼ぎになる。

 

『未熟ながら老獪、か。この場で殺してしまうのは惜しいが』

 

「ごちゃごちゃ言ってないで来るなら来い!」

 

シオンの声に応えてか、敵機は直線的に距離を詰めてきた。トラルテクトリのアサルトブーストを起動し、一気に肉薄しようとする。ここで一気にスタッガーを取り、チェーンソーをぶち当てる。そうすれば、致命的な損傷を与えられるはずだ。

 

『そら、手の内だ』

 

しかし、そう上手くいく程甘い相手ではなかった。敵機が目と鼻の先に迫った瞬間、目も眩むような光の渦が爆発する。アサルトアーマー。周囲にパルス爆発を引き起こし、一切合切を消し飛ばすACの拡張機能が一つ。もろに喰らったトラルテクトリはスタッガー状態に追い込まれ、そこにチャージされたレーザーショットガンの刺突が突き刺さった。

 

「がっ!?」

 

『さて、終わらせよう』

 

更なる追撃で蹴り飛ばされ、シオンは近くの氷山へと叩きつけられる。付け焼刃の戦術では覆しようも無い、圧倒的な実力差。駄目だ、死ぬ。かつて死んだ時の感覚が蘇り、シオンは本能的にパルスプロテクションを起動した。しかし、パルスプロテクションは範囲の内側に踏み込まれると意味を為さない。敵機は定石通りに距離を詰め、そして、

 

『私とも踊っていただきましょう、コールドコール!』

 

───氷山の上から放たれた拡散バズーカに、パルスプロテクションの内側に入る前に吹き飛ばされた。

 

「っ誰だ!?」

 

通信越しの声はシオンも聞いたことが無い。解放戦線の仲間ではないというのなら何者なのか。窮地を救われた安堵よりも先に、疑念と警戒が湧き上がる。

 

『初めまして、可能性の貴女。私はブルートゥ。さぁ、共に楽しもうではありませんか!』

 

「は、はぁ?」

 

訳の分からぬ言動に、戦場ということも忘れ呆けてしまうシオン。自身を守る様に目の前に着地したACは、ブルートゥと名乗った男のものだろうか。土建作業用のACフレームには奇妙な武装が施されており、異彩を放っている。左腕には、シオンのトラルテクトリと同じチェーンソーが装備されていた。

 

『これは・・・・・・なるほど、ドーザー屈指の狂人か。どういう友誼かは知らないが、酔狂なことだな』

 

『ここで彼女に退場されるのは、ご友人の為にならないのですよ。せめてカーテンコールまでは生き延びてもらわなくては』

 

「いや、本当に何言ってんだあんた・・・・・・!?」

 

意味不明な言葉。シオンはパルスプロテクションの中で、この乱入者に武器を向けるかどうか迷ってしまう。助けてくれたのは事実だが、あまりにも訳が分からなすぎる。しかし、そんなシオンを置いて状況は進んでいった。

 

コールドコールと呼ばれた襲撃者は躊躇無くブルートゥへと襲い掛かる。跳躍力を活かして上から撃ち下ろされる攻撃に、ブルートゥは無防備にも思える上昇をした。当然猛攻撃を加えられるブルートゥだが、まるで意に介さず歓喜の声を上げる。

 

『激しいステップだ、昂りますね!』

 

スタッガーと同時にアサルトアーマーを起動、次いで肩部の拡散バズーカを放ちコールドコールを追い払った。そのまま距離は詰めずにミサイルを発射し、火炎放射で視界を阻害する。ブルートゥの本心は定かではないが、シオンを守る行動は一貫していた。

 

「どういうことだよこれは・・・・・・!」

 

トラルテクトリの体勢を立て直し、シオンは呟いた。ブルートゥという男のことは何も知らない。この肉体になる前も、関わりは無かったはずだ。何故自分を助けるのか。そして、襲撃者・・・・・・コールドコールは何故自分を狙ったのか。何も分からないが、このまま呆けているわけにもいかない。

 

「あーもう!おい、ブルートゥとか言ったか!?あんたの目的は分からないけど、俺を助けるとか言ってんなら共闘だ!この逆関節を潰すぞ!」

 

『勿論。私はその為に来たのですから。では、三人でパキータと洒落込みましょう!』

 

相変わらず胡乱な返事だが、どうやら了承したようだ。それならば話は早い。元々、この男が来なければ絶望的な状況だったのだ。カタフラクトの撃破以前に、コールドコールを撃破、もしくは撃退しなくてはどうしようもない。

 

『・・・・・・なるほどな。これは、骨が折れる仕事になりそうだ』

 

どうやら、コールドコールは諦めるつもりは無いらしい。彼が再び突っ込んでくるのを確認しながら、シオンは武装を敵機へと向けた。

 

 

 

 

 

「これは、一体どうなっている・・・・・・!?」

 

普段の沈着さを投げ捨て、フラットウェルは呻くように呟いた。封鎖機構の手先でもない乱入者が二人。しかも、両者ともシオンが目的のようだ。事前の情報収集及び調査では想定すら出来なかった異常事態に、なんとか動揺を抑え込む。

 

どうするべきか。シオンの救援に向かうのならば、カタフラクトに対する作戦は崩壊する。幸い、陽動の為に封鎖機構の拠点に突入するのはまだだった。フラットウェルは高速で状況を分析する。今、最善の手段は何か。シオンの救援に向かうべきか、否か。

 

時間にしておよそ数秒。実感にして永遠にも思える間思考を回し続け、フラットウェルは決断した。傍受を覚悟で通信回線を開き、待機しているであろう帥父達に連絡する。

 

「こちらミドル・フラットウェル。シオンが所属不明機体二機に襲撃を受けた。これより作戦を変更、戦闘を聞きつけ出撃してきた封鎖機構の戦力を削ることを優先する。カタフラクトの撃破は状況次第だが、出撃してきた場合は帥父及び私が対処。フレディは早急にシオンの元に向かってくれ」

 

『いいだろう。フレディ、シオンの救援は任せるぞ』

 

『っ、了解しました』

 

即座に状況を理解したのか、ドルマヤンの声に動揺は滲んでいない。対してフレディは、何かを飲み込み了承したようだ。この判断が正しいかは分からないが、決めた以上は全霊を尽くすしかない。フラットウェルは封鎖機構の拠点から距離を取りつつ機を伺う。やがて、戦闘を察知したのかLC機体が複数出撃してきた。

 

「交戦開始」

 

言葉と同時に上昇し、LC機体に襲い掛かるツバサ。初手でバズーカを叩き込み、バースト機構を備えたマシンガンとライフルで追撃する。相手の回避行動に合わせミサイルを発射、逃げ道を塞いだ所でアサルトブーストで突っ込み蹴りを見舞った。流れるような連撃にLC機体はひとたまりも無く爆散。連携を取られる前に数を減らせたのは僥倖である。

 

『敵性ACを確認!コード15、LCが一機落とされました!』

 

『こちら本部、了解した。システムの判断は、迎撃・・・・・・カタフラクトを投入する』

 

やはり来るか。フラットウェルは残りのLC機体に対処しつつ、覚悟を固めた。ドルマヤンは既にこちらに向かっている。フレディをシオンの救援に行かせた以上、二人で対処するしかない。ゾクリと、戦士としての高揚がフラットウェルの背筋に走った。

 

「帥父、カタフラクトの出撃を確認しました。マーカーを送ります、そこで合流を」

 

『うむ。手早く済ませるぞ』

 

ドルマヤンもLC機体と交戦しているようだが、彼から焦りは微塵も感じない。無気力だった頃が嘘のように、冷静かつ戦意に溢れていた。当初の作戦は既に破綻してしまったが、これならば作戦目標を達成出来得る。二機目のLCを撃破しつつ、フラットウェルは合流地点へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・こちらか」

 

努めて冷静を装いつつ、リング・フレディは愛機キャンドルリングと共に氷原を疾走する。キャンドルリングは地上戦に特化した軽量タンクであり、接地した状態での速力は軽量二脚をも凌ぐ程だ。しかし、到着までにはまだ時間がかかる。シオンとフレディがそれぞれ待機していた場所は、丁度反対方向だったのだ。

 

混沌とした状況だが自分のやることは決まっている。戦士として、為すべきことを為すのだ。シオンを救出し、次いでカタフラクトを撃破する。戦場で迷っている余裕はフレディには無い。そのことは、先日の戦いで嫌という程理解させられた。と、

 

『コード5、映像を送信。タンク型か、面倒な』

 

上空から現れたLC機体は、真っすぐにこちらへと向かってくる。帥父やフラットウェルと遭遇せず、運良くここまでやってこれたのだろう。既に情報は送られてしまっているようだが、撃破以外の選択肢は無かった。ハンドミサイルを放ちつつ、両肩の二連グレネードの狙いを定める。

 

「戦士の務めを、果たすだけだ」

 

自戒するように呟き、フレディは交戦を開始した。




筆者はカタフラクトのことを強大な兵器だと思っています。あれだけの火力を持ったカタフラクトに対して正面から攻めなきゃいけない時点で罰ゲームですよ。我らが621は容易く撃破するわけですが。
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