見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
氷山がそびえる丘陵で、三機のACは激しく銃火を交わす。共闘関係となったシオンとブルートゥに対し、コールドコールは一歩も退かず渡り合っていた。
『あぁ、あぁ!素敵な贈り物だ、コールドコール!』
エネルギーショットガンのチャージ刺突が直撃しながら、ブルートゥは感極まった声を上げる。同時に火炎放射をまき散らし、敵機にACS障害を発生させようと試みた。離れようとするコールドコールに、拡散バズーカの追撃が襲い掛かる。
『合理的な立ち回りだ、奇矯な喋り方に似合わんな』
「全くその通りだなぁ、おらっ!」
相手の言葉に同意を示しつつも、回り込んだシオンがさらに追撃を狙う。ミサイルはかわされたが、射程内に捉えたマシンガンとバーストハンドガンの連射で確実にAPを削っていった。敵機は後少しでスタッガーするはず。チェーンソーに持ち替え、刃を展開。最適の機を伺いつつ、攻撃を継続する。
『それは受けられんよ。しかし、これは・・・・・・ッ!!』
チェーンソーの追撃をかわす為か、敵機はトラルテクトリの上空でスタッガーしてしまった。仕方なく射撃で追撃するも思うようなダメージは与えられない。その時、ブルートゥのACがチェーンソーの唸りを上げながら突っ込んだ。コールドコールはぎりぎり避けようとしたが、右腕がチェーンソーの回転に巻き込まれてしまう。
千切られた部分から火花を散らしつつ、レーザーショットガンを乱射し牽制するコールドコール。戦闘続行は困難な損傷に、悔しげな声を漏らした。
『やれやれ、俺も耄碌したようだ。引き際を誤ったか』
言葉の通りにじりじりと距離を取り始める姿に、シオンは追撃をかけようとして留まる。相手の撃破が目的でない以上、撤退したければさせてしまえばいいのだ。それよりも問題はブルートゥと名乗った男の方だ。トラルテクトリの横に並び立ち、実に愉しげな声を上げている。
『おや、もう踊り疲れたのですか?手向ける花はもう用意しているというのに、とても残念だ』
「うげ・・・・・・」
朗々と謳い上げるような口調に、シオンは顔をしかめて距離を取った。コールドコールが撤退した途端に狙われてはたまらない。警戒を途切れさせること無く、状況を注視する。
『・・・・・・いかんな。今回の所は引き下がらせてもらおう。願わくば、もう二度と会わないことを願っているぞ。二人とも』
離れていくコールドコールを油断せず見送りながら、シオンはブルートゥとの戦闘に備えた。さっきまでの戦いぶりを見ているから分かる。この男もコールドコールと同等か、それ以上の強敵だと。そんなシオンの内心を知ってか知らずか、ブルートゥは穏やかに語り掛けてくる。
『ご無事でしたか、可能性の貴女。拙いながら魅力あふれるステップでしたよ。お陰で、とても楽しいひと時を過ごせました』
「・・・・・・はぁ、そりゃどうも。それで、あんたの目的はなんなんだよ?まさか俺を助けに来ただけってことは無いだろ?」
『当然貴女に会いに来たのです。やはり、初めての出会いは刺激的でなくては』
「・・・・・・」
話が通じているようで通じていない。確か、コールドコールはこいつのことをドーザー屈指の狂人と言っていたはず。コーラルを向精神薬として摂取しているのだろうか。そう思いながら、シオンは素っ気無く言い返した。
「そうかよ。でも、今は忙しいんだ。また今度通信なりするから、今日の所は帰ってくれないか?」
『ご心配なさらず。貴女にとっても喜ばしいはずですから』
「話聞いてるのかこいつ」
思わず呟き、更に距離を取ろうとするシオン。なんというか、普通に気持ち悪い。そもそも、こんな変人の相手をしている時間は無いのだ。ブルートゥに傍受されないよう、フラットウェルの個人回線に繋ごうとしたところで逆に回線が開く。リング・フレディだ。
『こちらリング・フレディ。無事か、シオン』
「っと、救援か。悪い、俺のせいで作戦に支障が」
返事をする刹那。僅かにシオンの警戒が緩んだ瞬間に、ブルートゥが動いた。拡散バズーカをトラルテクトリ・・・・・・ではなく、その頭上に向けて放つ。直接狙われていない為アラートが鳴らず、シオンの反応が遅れる。
「っ!?このやろ、うおぉ!?」
氷山が崩れた。先ほどまでの戦闘の衝撃と、ブルートゥによる火炎放射で脆くなっていたのだ。圧倒的な質量に押し潰され、トラルテクトリが埋まっていく。
『シオン!?貴様・・・・・・!』
『さぁ、第二幕といきましょう!』
フレディが放った多数のグレネードを容易くかわし、ブルートゥは意気揚々と叫びながらフレディに襲い掛かった。その光景が氷塊で遮られる。シオンはトラルテクトリを動かそうとするが、AC全体が埋まった状況ではどうしようもない。ミサイルや銃弾で吹き飛ばそうとしても効果は薄く、やがて圧殺されるように各関節部が損傷していった。
「ふざけるんじゃねぇぞ・・・・・・!」
微かな振動。フレディが戦っているのだろう。だというのに何も出来ない。生き埋めにされたのは、一瞬でも隙を見せた自分のミスだ。またしても足を引っ張っている。己を責めるように食い縛りながら、シオンはここから脱出する為の方法を考えた。どうする。どうすればここから抜け出せるんだ?
しかし、シオンの思いも空しく脱出は叶わない。崩れた氷山はあまりにも膨大な量で、ACのブーストを吹かしても動けなかった。周囲を纏めて吹き飛ばせるような武装があれば話は違ったかもしれない。だが、トラルテクトリの武装では難しいだろう。チェーンソーで掘り進めればあるいは・・・・・・。
「クソ、動いてくれトラルテクトリ・・・・・・!」
武装を取り付けている部分から軋むような音を立たせながら、なんとかチェーンソーに持ち替える。強引に刃を展開し回転させると、激しい振動がコックピットまで伝わってきた。氷塊が粉々に砕けるが、隙間が生まれない為進むことは出来ない。
そして。無茶な駆動で限界を迎えたのか、チェーンソーを支えていた腕部から悲鳴のような音が聞こえてきた。限界だ。チェーンソーの回転を止め、焦りの滲んだ息を吐く。
「ふぅっ・・・・・・どうすりゃいい、どうすれば・・・・・・!?」
どれだけ考えてもこの窮地を打破する方法は浮かばない。時間だけが過ぎていく中、シオンはふと気付いた。振動だ。離れた場所から、氷塊を通して揺れが伝わってくる。フレディか、それともブルートゥか。身構えることしか出来ないシオンに、フラットウェルからの通信が届いた。
『こちらミドル・フラットウェル、カタフラクトとの戦闘に突入した。そちらの状況は?』
「こちらシオン!氷山を崩されて埋められちまってる!コールドコールは撤退したけどブルートゥはフレディと戦闘中!すまねぇ!」
『了解した。可能な限り早く片付ける、持ちこたえてくれ』
シオンの側で戦闘が始まってしまった以上、封鎖機構が気付くのは時間の問題だった。作戦が破綻しても、カタフラクトが脅威であることに変わりは無い。だからこその判断だろうが・・・・・・カタフラクトを二機で相手にしなければいけないフラットウェル達の方が、下手をすれば危険かもしれない。
「くっそぉ・・・・・・!」
拳を握り締めて呻くシオン。自分に出来ることは何も無いのか。このまま指をくわえて待っているしかないのか。と、突如としてトラルテクトリを覆い尽くしている氷塊が崩れ始めた。ガラガラと音を立てて滑り落ちていく。シオンは咄嗟にアサルトブーストを起動し、雪崩のように崩れ落ちる氷塊から脱出を試みた。
「っ、状況は!?」
どうにか抜け出すことに成功し、周囲を確認する。そこにはブルートゥのACと、炎上しているACが一機。フレディのキャンドルリングだ。
「フレディさん!?てめぇっ!」
『おっと。止まりなさい、可能性の貴女。中のパイロットはまだ生きています。えぇ、とても素敵なステップで魅せてくれましたよ』
ブルートゥのACはかなりの損傷を負っている。しかし、拡散バズーカの砲口はキャンドルリングに向いており、シオンは迂闊に動けない。
「どういうつもりだ、ブルートゥ!」
『提案があるのです、可能性の貴女。私と一緒に来ていただけませんか?もてなす準備は、既に出来ているのですが』
「何をわけ分かんねぇことを・・・・・・!」
そう吐き捨てながらもシオンは考える。下手な動きをすれば、フレディが殺されてしまう。だが、提案とやらに乗った所で待っているのはろくでもないことだろう。あるいは、消耗しているブルートゥを速攻で撃破する?いや、その前に引き金を引かれて終わりだ。
『時間がありません。10秒数える内に、どうかご決断を。10、9・・・・・・』
考える時間を与えたくないのか、ブルートゥがカウントダウンを始める。シオンはパニックになりそうな心を必死に抑えつつ、殺意に満ちた目でブルートゥを睨んだ。選択肢は、実質無いようなものだ。
『8、7、6』
「いいだろう、提案を呑んでやる!だからフレディさんから離れろ!」
『おや。思っていたよりも素直だ。いいでしょう、まずは武装を解除してください』
この場で支配権を持っているのはブルートゥである。拡散バズーカの砲口がフレディから外されたのを見て、シオンはトラルテクトリの武装を全てパージした。最悪、徒手空拳でも戦う覚悟を固めながら。
「これでいいだろ。どこに連れてってくれるんだ、えぇ?」
『ふふふ、それは到着してのお楽しみです。では・・・・・・』
うっとりとした口調で、ブルートゥはシオンに近付いてくる。AC同士の装甲が触れ合う程の距離。何をするつもりだろうか。
『少し、眠っていただきましょう』
「なにを、っ!?」
突然、トラルテクトリのシステムがエラーを吐いた。戦闘モードが強制解除され、システムダウンしてしまう。外部からのハッキングによるものだ。しかし、どうやって?
『今回のミルクトゥースは特別製なのですよ。バズーカの弾数を減らし、空いた空間に小型のハッキングドローンを仕込んでいるのです。どうやらサプライズは気に入ってもらえたようだ。私も嬉しいです、可能性の貴女』
「この、クソ野郎が!」
せめてもの抵抗に悪態を吐くも、最早何をしてもハッキングは止められない。コックピットの機器も全てが沈黙し、為すがままだ。通信も切れてしまい、シオンはモニターを叩いた。
「ちっくしょうがぁ・・・・・・!」
外部で何が起きているのかも分からないまま、シオンは呻く。致命的な状況で、己の至らなさに吐き気すら催していた。
そして。大きな揺れを感じた後、コックピット内には静寂が訪れた。輸送ヘリか何かに積み込まれたのだろうか。それよりも、フレディは無事なのか。本当に生存していたのだろうか。呼びかけても、ブルートゥから返事は返ってこない。当然だ、通信は繋がっていないのだから。
これからどうなるか分からない恐怖よりも、ブルートゥに対して、何より自分に対しての怒りが湧き上がってくる。シオンは内心荒れ狂いながらも、何が起きてもいいように休息を取ることにした。今出来ることは、少しでも体力を回復させることだけだ。
コックピットに背を預け、目をつむる。緊張と興奮で隠れていた疲労が噴き出し、消耗を自覚した。時間が経つにつれて、怒りも自責も微睡みに溶けていくのだった。
児童誘拐ブルートゥ概念。しっくり来てしまう時点でヤバいんですよね。