見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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42.アイスワーム襲来

「なんだ、この化け物は・・・・・・!?」

 

バートラム旧宇宙港。ハーロフ通信基地のアンテナを破壊した後急行した場所で、ラスティは彼らしからぬ驚愕の表情を浮かべていた。

 

久方ぶりのレイヴンとの共闘。それ自体は完璧に近い結果に終わっている。封鎖機構の執行機体二機に対し、ラスティは機動力で攪乱。レイヴンがその間隙を縫うように突撃を繰り返し、瞬く間に撃破してしまったのだ。

 

だが。その直後に地中から現れたのは、膨大なコーラル反応を纏った兵器。堅牢で長大なそれは、こちらのあらゆる攻撃も効いているようには見えなかった。

 

「これも・・・・・・封鎖機構の兵器なのか!?」

 

今まで見たことも無い兵器の存在に、思わず動揺が漏れる。地中を掘り進み、宇宙港を我が物顔で荒らし尽くすその兵器は、恐らくACの何十倍もの体長を誇るのだろう。スティールヘイズを上昇させ衝突しないよう退避するが、何をしてくるか分からない。

 

「パターンが読めん・・・・・・!退くべきか・・・・・・!?」

 

【距離を取っていれば大丈夫】

 

撤退も考え始めたラスティの元に、簡素なメッセージが届いた。僚機であるレイヴンからだ。目の前の正体不明の兵器について、何か知っているのだろうか。そうとも取れるメッセージにしかしラスティは従った。この状況でレイヴンが嘘を言うとは思えない。

 

そして、その兵器は別の指令を受けたのか去っていった。残されたのは、蹂躙され尽くした宇宙港。そして自身とレイヴンの二機だけだ。

 

「・・・・・・助かった、戦友。臆した私を諫めてくれたな」

 

【気にしないで。これでミッションは達成。お疲れ様、ラスティ】

 

「あぁ、お疲れ様だ、戦友。しかし、先ほどの兵器は・・・・・・」

 

労いのメッセージに苦笑を浮かべつつ、ラスティは思考を回す。あのような兵器、アーキバスのアーカイブにも記録は無かったはず。夥しいコーラル反応から察するに、コーラルを動力にしたC兵器だと思われるが・・・・・・。と、

 

『こちらV.Ⅱ。V.Ⅳ、報告をしなさい』

 

通信越しに聞こえてくる、冷徹ながら僅かに焦りが滲み出た声。スネイルがこのような様子なのも珍しい。どうやら、第二隊長閣下にとっても想定外の事態らしい。

 

「任務は達成したが、見ての通り乱入者が現れた。映像データを送る」

 

スティールヘイズに記録された映像を送ると、スネイルは暫し黙り込んだ。が、すぐに口を開く。

 

『帰還しなさい、V.Ⅳラスティ。私は急用が出来ました』

 

返事する間も無く通信が切れる。あの兵器に対して、なにかしらの対策を講じようとしているのだろう。迅速に行動に移ったのは流石ヴェスパーの次席隊長といったところか。ゆっくりと緊張を解きほぐしつつ、ラスティは深く息を吐いた。自分も戦友も生き残っている。今日の所はそれで構わないだろう。

 

「また会うことを楽しみにしていよう、戦友。さらばだ」

 

スティースヘイズの戦闘モードを解除しながら、レイヴンへと言葉を送る。「壁越え」の時に感じた彼女の捨て身な振る舞いは、先の戦いでも感じていた。目的の為ならば自身の命を容易く天秤にかける。それは、レイヴンが背負っている「背景」によるものだろうか。

 

【うん。またね、ラスティ】

 

幼さすら感じる返事は戦闘時の印象とは別物である。まさか本当に幼子ということは無いだろうが、旧世代の強化人間故感情に乏しいようだ。

 

「あぁ、また」

 

通信を切ったラスティはブーストを吹かし帰還地点へと向かう。宇宙港を無力化した今、制圧部隊が既に派遣されているはず。最早この場に用は無い。スネイルではないが、あのC兵器に対する策を練らなければ。

 

「・・・・・・さて。突破口になればいいが」

 

ヴェスパーに所属する自分、封鎖機構のC兵器、二大企業の動静。解放戦線が勝利するには如何に動くべきか。いつ、仮面を脱ぐべきか。一度脱いでしまえば後戻りは出来ない。だからこそ、タイミングは見極めなければならない。

 

ラスティはコックピットの中で思案する。その表情は、まるで氷のように冷たかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アイスワーム。惑星封鎖機構が保有する技研製兵器の中でも、もっとも強大なもの。コーラルの指向性を応用したリアクティブシールド・・・・・・二重の防壁を常時展開しており、ほぼ全ての攻撃を無力化出来る、まさしく怪物だ。

 

突如現れたアイスワームを前に、アーキバス及びベイラムの二大企業は停戦協定を結び共闘を画策。既存の兵器では太刀打ち出来ないアイスワームを打倒する為、一部だが技術交換も始まっていた。今までの関係からは考えられないことである。

 

しかし、それだけアイスワームの登場は衝撃的だった。どうにかしなければ二大企業だけではなく、解放戦線やRaDもルビコンから排除されてしまうだろう。まさしく今後のルビコンを左右する一大事。そんな状況下で、シオンは───

 

「ぐっ、ちっくしょう!」

 

───戦闘シミュレーターで、ブルートゥを模したAIにボコボコにされていた。

 

「これで2勝18敗。少し休憩されてはいかがですか?」

 

「んぐぐぐぐ・・・・・・!あ、後一戦だけ頼めないか、ラヴェンナさん?」

 

「私は構いませんが。無理はしない方がよいかと」

 

手枷をあっさりと外された後、目隠しされながらラヴェンナに連れてこられたのは、多重ダムとは違って手狭なシミュレーター室。数人分しか用意されていない有様は、シオンの目からは酷く貧相に見えた。だが、搭載されている戦闘シミュレーターはACのものと遜色無い。MTやガードメカを軽く蹴散らして感覚を取り戻した後、ACを相手にしようとしたのだが・・・・・・。

 

「無理じゃないって、これくらい。それよりいいのか?あんたのボスであるブルートゥの戦闘データを、俺に共有させちまっても」

 

「えぇ。元々ボスから命じられていましたので」

 

「えぇ・・・・・・なんでだよ、そっちにメリット無いだろ」

 

素直な気持ちを口にしつつ、再度シミュレーターを起動した。こちらの提案を前々から把握していたのだろう、トラルテクトリのデータも登録されている。だからこそ、仮想AI相手とはいえミルクトゥースに勝てないのはシオン自身の実力だ。20戦やって2度は勝てたが、駄目元で振ったチェーンソーが偶然当たっただけの事故じみた勝ち方。これでは到底納得出来ない。

 

「まぁ、ボスですから。貴女も聞いたことがあるのでは?オーネスト・ブルートゥは精神に異常をきたした人格破綻者だと」

 

「いや、生憎知らないけど。実の上司をそんなに言うってどうなんだ?」

 

「事実ですので問題はありません。では、仮想戦闘プログラムを再起動、対象はオーネスト・ブルートゥ。準備が出来たら言ってください」

 

「お、おぅ。大丈夫だ」

 

淡泊というか冷徹な返事。とてもブルートゥの配下とは思えない態度だ。いや、今は戦闘に集中しなくては。疲労を奥に押し込んでモニターへと向き直る。戦闘開始の合図と共に、アサルトブーストを起動し突っ込んだ。

 

ミルクトゥースは近接戦闘を重視した重量寄りの中量機だ。遠中距離はミサイルで牽制しつつ接近し、火炎放射器でACS障害と視界の阻害を狙いつつ拡散バズーカを発射、スタッガーからのチェーンソー直撃を狙う。20戦やった結果、シオンが分析したブルートゥの戦術はこのようなものだった。

 

無論、現実とのズレはある。火炎放射で氷山を溶かし、拡散バズーカで雪崩を起こすようなことはAIはしてこないだろう。それでも大枠は同じはずだ。再び戦うかもしれない相手に向かって、シオンはひたすらに距離を詰める。ミルクトゥースが得意とする距離は、トラルテクトリが得意とする距離でもあるからだ。下手に退いても勝ち目は無い。

 

「鬱陶しいなぁもう!」

 

分裂ミサイルを掻い潜り、火炎放射を受けつつも肉薄。マシンガンとバーストハンドガンを連射しながら、ミルクトゥースの拡散バズーカを警戒する。あれの直撃だけは避けなければならない。そうすればこちらが先にスタッガーを取れるはず。幾度も負けつつ組み上げたシオンの戦術は、決して的外れなものではなかった。

 

だが、想定通りに動けるかどうかは別だ。不意に放たれた拡散バズーカを避けようとクイックブーストを吹かすも、複数の砲弾による面攻撃がシオンを襲う。半数以上は避けられたものの、残りの砲弾は着実にトラルテクトリの装甲を削っていった。

 

「動きを止めるなよ、俺っ・・・・・・!」

 

戒めるように呟いて、シオンはひたすら機動し続ける。全弾直撃は免れた。ならば、相手のリロード中に押し切る。アサルトブーストで突っ込むと同時に蹴りを叩き込み、バーストハンドガンで追撃しつつチェーンソーに持ち替え刃を展開。この機体に乗ってから何千回と繰り返した挙動だ。

 

「落ちやがれぇっ!」

 

近接に特化しているブースター、KIKAKUが唸りを上げてトラルテクトリを加速させる。ハンドガンの高衝撃力でスタッガーしたミルクトゥースに、勢いのままチェーンソーを叩きつけた。高速回転する刃が分厚い装甲を削り取っていく。

 

チェーンソーを思い切り振り抜いて、吹き飛んだ敵機に向けて再びアサルトブースト。スタッガーが継続している内にもう一度蹴り込んで、一気に撃破まで持っていった。

 

「っしゃあ!!どんなもんだよやってやったぜ!!!」

 

歓喜の咆哮を上げガッツポーズを決めるシオン。負け越しながらも戦い続け最適化していった結果、戦術と自身の動きがきっちりと噛み合った。今までに無い手応えに思わず表情も綻ぶ。

 

「・・・・・・お見事です。圧勝でしたね」

 

「っと、ありがとうラヴェンナさん。たまたま上手くいっただけだ、うん」

 

ラヴェンナがいることも忘れてはしゃいでしまったシオンは、恥ずかしそうに頬を赤らめながら返事した。ここが敵地だということも頭から飛んでいたようだ。誤魔化すように咳払いをして言葉を続ける。

 

「って訳で、ラヴェンナさん。もう一回お願い出来るか?今の感覚を忘れない内に、体に叩き込んでおきたいんだ」

 

「・・・・・・。そうですか、分かりました。では、仮想戦闘プログラムを再起動、対象はオーネスト・ブルートゥ。準備が出来たら言ってください」

 

表面上は変わらないが、どうやらラヴェンナは若干げんなりとしているような雰囲気を漂わせ始めているようだ。が、気分が高揚しているシオンは気付かない。さっきもかけられた言葉に対し、元気よく答えた。

 

「おぅ、頼んだ!」

 

そして始まる、22度目の戦闘シミュレーター。連戦の疲労は相当なもののはずだが、それを感じさせないシオンはトラルテクトリを駆り躍動している。ラヴェンナは呆れたようにその様子を眺めていた。大概この娘もまともではない。

 

最新世代の強化人間故、ACに搭乗している間の負担が少ないのはあるだろう。しかし、これ程とは。いくら勤勉だったり努力家だとしても流石に異常だ。まるで何かに執着しているような訓練の積み重ね。一体何が彼女をそうさせるのだろうか。

 

「・・・・・・っ」

 

ブルートゥが直々に攫ってきたのだ、何かしらの特異性はあると思っていたが・・・・・・果たして、ブルートゥが思い描いているシオンの役割は。思い至ることは何も無い。そも、ブルートゥが語ることの殆どは意味不明だ。

 

もし、彼の考えていることが現状維持だとしたら。ラヴェンナは、ブルートゥを殺すつもりでいた。そもそも、現状に風穴を開け、停滞を打ち砕く為にジャンカー・コヨーテスを譲ったのだ。それが為されないのなら、彼に用は無い。

 

だが、そんなことはありえないだろう。良いか悪いかは分からないが、オーネスト・ブルートゥは変革を求めている。それだけは、絶対に信じられる。そのはずだ。

 

「そおらっもう一丁!」

 

シオンが再びチェーンソーを当てている様子を見ながら、ラヴェンナの表情が微妙に歪む。もしかしたら、この少女も現状を打破出来る存在なのだろうか。ルビコン解放戦線に属し、数々の戦場で勝利を重ねてきた勝利の女神。そんな彼女がここまで泥臭く努力し続けているのは、予想外でもあった。

 

ラヴェンナの頬に刻まれたジャッカルの入れ墨が蠢き、まるで笑っているように見える。しかし、彼女自身は笑っていない。むしろ鋭い目つきでシオンを睨んでいた。敵意や悪意とは違う、期待と疑念が混ざり合った視線。シオンはそれに気付かぬまま、意気揚々と戦い続けるのだった。




シオンが頑なに戦闘シミュレーターをやり続けているのは、根本に死への恐怖があります。後はレイヴンへの憧れ。
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