見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
『敵襲!ACが二機!』
『この機体情報・・・・・・ブランチだと!?どこの差し金だ!』
中央氷原、ヨルゲン燃料基地。ベイラムから解放戦線、そしてアーキバスへと管理者が変わったこの拠点に、ブランチのメンバーであるキングとシャルトルーズは奇襲を仕掛けていた。
『キング、正面は頼んだ。私は裏から回り込む』
「いいだろう、後方のヘリは任せるぞ」
アサルトブーストで飛んでいく僚機を見送りつつ、キングはヨルゲン燃料基地を見下ろした。アーキバスの部隊は慌ただしく迎撃準備を整えているが、その動きはぎこちない。どうやら、配備されている兵器の半数以上が封鎖機構から鹵獲したもののようだ。つまりは雑兵である。
「さて、どう出るか。せめて歯応えのある敵が潜んでいればいいが」
呟きながら前に進むキングは、パルススクトゥムを展開しつつアーキバスの防衛部隊に襲い掛かった。反撃を受けつつもコーラルを満載した輸送ヘリを落としていく。彼の乗機、アスタークラウンの火力と防御力ならば容易い仕事だ。
今回、ブランチとして受けた依頼はコーラルの輸送を阻止すること。例のケイト・マークソンという、自称独立傭兵から依頼されたものだった。
ケイト・マークソン。ブランチが素性を調べても一切の情報が出てこなかった、正体不明の存在。明らかに怪しい者からの依頼を、ブランチは二度も受けていた。一度目の依頼・・・・・・封鎖機構がBAWS第2工廠に対して行う強制監査の妨害は、特に罠というわけでも無く達成した。カタフラクト及びエクドロモイが二機出てきたのは予想外だったが、キングとシャルトルーズ、そして件のケイトによって危険な場面も無く撃破出来たのである。
その時のケイトの戦いぶりは独立傭兵としては一級品だった。これ程の実力ならば、今まで埋もれていたのは異常でしかない。正当な報酬は支払われたが疑念は深まるばかり。更なる情報収集も兼ねて、今回の依頼も受けることにしたのだ。
『クソッ、こちらに回り込んできたか!どうする、突破を試みれば甚大な被害が出るぞ!?』
『1機でも送れば上への言い訳は立つ・・・・・・狙撃部隊、援護しろ!強引にでも突破する!』
周囲の輸送ヘリを一機残らず落としたキング。どうやら、回り込んだシャルトルーズも好位置につけたようだ。今回の任務も問題無く終われる・・・・・・そう思った所で、傍受したアーキバス側の通信が聞こえてくる。
『こちらV.Ⅴホーキンス、ヨルゲン燃料基地に急行した。現在の状況を報告してくれるかな』
ヴェスパー部隊の第5隊長、ホーキンス。歴戦の実力者と名高い相手に、キングは自ずと高揚した。この近辺にヴェスパー部隊が駐留しているという情報は、事前に調査した段階では無かった。ホーキンスはヴェスパー内の輜重部門責任者である為、コーラルの輸送にも一枚噛んでいるのだろうか。
『敵AC二機に襲撃を受け、コーラルを満載した輸送ヘリが次々に落とされています!襲撃者はブランチに所属するキング及びシャルトルーズ!情報を送ります!』
『これは・・・・・・随分と豪華な人選だ。だけど、これ以上落とされるわけにはいかないね。よし、君達は一旦退いて部隊を再編制してくれ。時間稼ぎは私が請け負うよ』
『了解!』
指示を出しながらも動きを止めず、ホーキンスのAC・・・・・・リコンフィグはキングに向かって前進してくる。エネルギー系の武装で統一された、バランスのいい四脚機体だ。火力の面ではキングのアスタークラウンに劣るだろうが、機動力を活かされると厄介か。
「こちらキング、増援と見られるヴェスパーの番号付きと接敵した。そっちの様子はどうだ、シャルトルーズ」
『輸送ヘリが飛び立つ前に何機かは落とせたけど、数が多い。出来れば手を貸してほしいけど、ヴェスパーが来たならそうも言ってられないか。いいよ、こっちは私一人で持たせる』
「手早く片付けて救援に向かおう。無理はするな」
『だから上から目線はやめなって、足元掬われるよ!』
シャルトルーズに言われ、キングは苦笑を浮かべつつ迫るリコンフィグをロックオンした。ヴェスパー部隊の中でも、ホーキンスは歴戦の猛者だ。アリーナランクが低いと言えど油断が出来る相手ではない。
「不足は無い、か。往くぞ、ヴェスパーの番号付き」
『「完成された傭兵」が相手とは、私には荷が重いが・・・・・・やるしか無さそうだね。戦闘開始』
接敵した両者は、共に落ち着いた様子で戦闘に入る。先手を取ったのはホーキンスだ。6連装のプラズマミサイルで牽制しつつ、レーザーキャノンとプラズマライフルで狙い撃ってくる。ホバリング状態で距離を取っているのは、アスタークラウンの火力を警戒してのことだろう。
対するキングはパルススクトゥムを展開し、多少の被弾は気にせず前へ出た。シャルトルーズへの合流や、後方で再編成しているMT部隊を襲われるわけにはいかない以上、ホーキンスはキングを無視出来ない。故に、距離が縮まる瞬間は必ず訪れる。そうなる前に、可能な限りAPを削っておかなくては。
『凄まじい圧力・・・・・・やれやれ、受け流したい所だけど』
飄々と呟きながら、ホーキンスはチャージしたレーザキャノンを撃ち込んだ。パルスの防壁に阻まれるが、構わずにチャージプラズマライフルも放つ。着弾した瞬間、拡散したプラズマが連鎖的に爆発しアスタークラウンを包んだ。相応に削れているはず。と、
『むぅっ!?』
アラート。咄嗟に避けようとするホーキンスだが間に合わない。リニアライフルの一撃が撃ち込まれ、凄まじい衝撃がリコンフィグを襲う。いつの間にかパルススクトゥムを解除したキングは、アサルトブーストで猛然と突っ込んだ。
「逃がさん!」
バーストハンドガンの連射。回避し切れず被弾した所に、眩いパルス爆発がリコンフィグに叩きつけられた。アサルトアーマーだ。スタッガー状態に陥り、動けない。煌々と輝く三連装レーザーキャノン、その砲口がこちらに向いている。濃密な死の気配に、しかしホーキンスは視線を逸らさなかった。
『生憎、そう簡単にやられるわけにはいかないねぇっ!』
三本のレーザーがリコンフィグに直撃する寸前、パルスアーマーの展開が間に合う。かなり削られたが生き残った。リペアキットを起動してAPを回復させつつ反撃に転じる。キングはパルススクトゥムを再展開したが、出力が上がるのには時間がかかる。今がチャンスだ。
レーザーブレードの出力を最大にして、一気に肉薄するホーキンス。しかし、同時にキングもアサルトブーストを起動した。パルススクトゥムはクイックブーストやアサルトブーストと併用出来ない。想定外の行動に、ホーキンスはそれでもレーザーブレードによる斬撃を試みる。
「甘いぞヴェスパー!」
だが、エネルギーで生成された刀身がキングに届くことは無かった。彼が放ったブーストキックの衝撃により、強制的に動きを止められてしまったのである。ハンドガンの射撃を受けつつホーキンスは後退、仕切り直しを余儀無くされた。強い。これが、「完成された傭兵」と称される程の実力か。
互いの損耗度合いはおおよそ互角だが、ホーキンスはリペアキットを一つ使ってしまっている。押し切れる。そう判断したキングはパルススクトゥムを再展開、じわりと距離を詰め始めた。火力と防御力で押し潰す。単純だからこそ、対応が難しい戦術だ。
『これは、随分見事な腕だ。ヴェスパーに誘いたい所だけど、ブランチ相手に言っても仕方ないか』
しかし、ホーキンスは慌てず冷静に対処する。一定の距離を取りつつ迎撃し、先のリニアライフルによる直撃を警戒。ある程度の時間凌ぎ続ければ、再編成されたMT部隊が戻ってくるのだ。包囲した上で総火力で攻め立てれば、如何にキングでも耐えられないはず。つまり、自分がやるべきことはキングをここに食い止める時間稼ぎ。必ずやり遂げなければ。
キングもホーキンスの思惑には気付いていた。その上で、増援が来る前に叩き潰せると判断している。相手は経験豊富なようだが、如何せんキング程のパイロット適性は無いようだ。逆に言えば、低い適性で強化人間部隊であるヴェスパー内に食い込める程の歴戦なのだろう。油断だけはしてはならない。
互いの思考が交錯し、両者は再び砲火を交わし始める。距離を取るホーキンスに追うキング。先ほどの繰り返しは、しかし微妙な違いがあった。ホーキンスはチャージしての攻撃を行わず、不意のリニアライフルを最大限に警戒。キングもそれが分かっているのか、リニアライフルを放つことなくパルススクトゥムの展開を途切れさせない。ジリジリとした攻防は、時間を稼ぎたいホーキンスに有利か。と、
『V.Ⅴホーキンス、状況を報告しなさい』
『これはスネイル閣下。まぁ、見ての通りだよ。酷く劣勢だ』
『ふむ、よく持たせました。V.Ⅶを急行させています、そのまま戦線を維持しなさい』
『了解』
スネイルからの秘匿通信。その内容は、ホーキンスが待ち望んでいた増援の連絡だった。しかも、V.Ⅶ・・・・・・スウィンバーンとは。スウィンバーンは先日、「壁」の指揮官を務めていた際に独立傭兵の襲撃を受け敗北。辛うじて生き残ったものの、酷い怪我を負ったはずだ。すぐに復帰出来る状態ではないはず。だが、通信からは騒々しい声が聞こえてくる。聞き慣れた、神経質そうな声。
『こちらV.Ⅶスウィンバーン!ええい、復帰早々ブランチと戦うことになるとは!貴様のせいだぞホーキンス!』
ホーキンスとスウィンバーンは、共に第7世代・・・・・・コーラルに依らない代替技術による強化手術を受けていた。全く異なる新技術を用いたそれは、成否が分からず危険性が高い。拒否反応を起こし死んでいく被験者達、明日生きているとも知れぬ日々。地獄のような経験は、今も二人の心に刻み付けられている。
それ故、ヴェスパー部隊に抜擢されてからも二人の交友は続いた。諦観に近い思いで全てを受け入れたホーキンスと、恐怖と心労で人格を歪ませたスウィンバーン。あの地獄を超えた者にしか分からない共感は、互いに心の支えとなっていた。
『やあ、助かるよスウィンバーン。急いでくれると助かる、どうにか持たせてはいるが限界が近い・・・・・・っと』
三連レーザーを辛うじて避けつつ、ホーキンスは距離を取ることに徹した。あのスネイルのことだ、スウィンバーン以外にも戦力を用意しているはず。ならば、ここで無理をする必要は無い。リコンフィグの動きで察したのだろう、キングは無理に距離を詰めるのを止め、離脱の機会を伺っているようだ。
「増援か。随分と手際が良い」
敵機の動きに戦況を鑑みれば、増援はACの類か。機動力を活かし、こちらの後方か側面に回り込ませている可能性が高い。卓越した分析力でキングは相手の思惑を看破した。ならば、こちらの行動は一つだ。アサルトブーストを吹かしこの場を離脱、シャルトルーズとの合流を優先する。恐らく、あちらにも増援が送られているだろう。
「こちらキング、どうやら追加の戦力が近付いているらしい。そちらの戦況は?」
『谷間で足止めしている所だけど、やっぱり数が多くて捌き切れない。何機かは逃げられるかも』
「いいだろう、シャルトルーズはそのまま作戦を継続しろ。逃したヘリはこちらで叩く」
『また偉そうにして・・・・・・了解!』
シャルトルーズの返事を聞きつつも後方を警戒。どうやら、さっきのACは無理に追い縋ってこないようだ。後は回り込んでくるであろうACだが・・・・・・。と、懸念通りにアラートが鳴る。クイックブーストで回避すると、大型のグレネード弾が横を掠めていった。
『ええい、行かせはせんぞ!スネイル閣下直々の指示なのだ!』
悲壮感のこもった声が通信に届く。情けなさすら感じる声色だが、狙い自体は悪くなかった。時限信管が設定されたグレネードが大爆発を引き起こし、アスタークラウンのAPを多少削る。この距離で仕掛けてきたのは、この爆発に巻き込むのが目的だろう。
「中々やるが、邪魔をするなら容赦はしない。叩き潰させてもらおう」
『ホーキンスとの連戦で消耗しているはずだ、このスウィンバーンを落とせると思うな!』
己を鼓舞するように吼えて、スウィンバーンは愛機であるガイダンスをキングにけしかけた。ハンドミサイルを放ちつつ、ホバリングからパルスシールドを展開する。相手は「完成された傭兵」だ、まともな勝負では勝ち目が無い。ひたすら攪乱と牽制に徹する。それが最善のはずだ。が、
『こちら輸送部隊!敵機を振り切った先に敵機が待ち構えて・・・・・・ぎゃあぁ!!』
『増援のMT部隊も壊滅状態です!なんなんだ、このACは!?』
『落ち着きなさい、生存者は報告を!』
阿鼻叫喚の如き通信内容。明らかに異常な何かが起こっている。恐怖と動揺で全身が引きつりそうになっているスウィンバーンの回線が、更なる通信を拾った。
『こちら、レイヴンのオペレーター。お待たせしました、キング、シャルトルーズ』
本編からがっつり外れた展開も盛り上がって参りました。ホーキンスとスウィンバーンという第7世代組、本編では会話すら無いけど好きなんですよね。