見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
『輸送用のコーラルは全て焼かれ、守備部隊には大損害・・・・・・ヴェスパーを二機投入してこの結果とは、なんと無様な』
「はっ、真に申し訳ございません」
ハーロフ通信基地。バートラム旧宇宙港襲撃の際にアーキバスが攪乱し、宇宙港を奪取した勢いと共に制圧した場所で、スネイルはモニターに向かって頭を下げていた。
『君達に我々が幾ら投資しているか、理解しているのかね?有事に役に立たず何が強化人間部隊か。スネイル君、聞いているのか?』
「はっ。全ては指揮を執っている私に非があります。申し訳ございません」
無論、スネイルはそんなことを思ってはいない。だが、目の前の嫌みったらしい男・・・・・・アーキバス上層部の一人は何を言った所で聞きはしないだろう。ここはひたすらに謝るしかない。はらわたが煮えくりかえる思いを抑えつつ、スネイルは冷静に判断していた。
『やれやれ、頭を下げて済む問題ではないというのに・・・・・・。まぁいい、今回の件は特別に不問としよう。封鎖機構への対応もある、必ず成功させたまえ』
「はっ。ご厚意、痛み入ります。それで、封鎖機構に対するベイラムとの共闘の件ですが」
心にもない謝辞を述べつつ、本題を切り出す。露骨に顔をしかめる上層部の男が口を開く前に、矢継ぎ早に言葉を叩きつけた。
「現在の戦力比から考えて、単独で封鎖機構を相手するのは消耗が大きいことはご存じかと思います。要はベイラムの戦力を上手く利用してしまえばいいのです。表面上は対等だとしても、実際に優位に立つのは我らアーキバス。無論、書類の作成には慎重を期しましょう」
『うぅむ・・・・・・しかし、あのレッドガンを相手に誤魔化せるかね?ミシガンは所詮武辺者だが、それなりに鼻が利く。気付かれるのでは・・・・・・』
「問題ありません。共闘の盟約を結ぶのはあくまでアーキバスとベイラム。レッドガンの手が届かない所で事を済ませてしまえば、如何にG1と言えど手は出せない。彼らは猟犬です、飼い主に逆らうことは出来ないのですから」
言外に気付かれない程度の皮肉を込めつつ、スネイルは朗々と言い切った。対封鎖機構のみを考えた場合、ベイラムの戦力は魅力的だ。レッドガンはヴェスパーに勝るものではないが、それでもそれなりの練度を持つ部隊である。こちらが手綱を握れば相応に働くだろう。
「既にそちらに草稿を送っていますが、アイスワームの討伐作戦はベイラムに主導させるのがいいかと。G1ミシガンは真っ当な戦略を立てるはずです。代わりにアーキバスは、駐留中の封鎖機構強襲艦隊に対する作戦を受け持てばよいでしょう。V.Ⅰ、フロイトを以てすれば指揮系統を迅速に破壊し多量の兵器を鹵獲することも可能です」
『都合のいい話ばかりだが、そもそもベイラムが乗ってこなければどうする?奴らは頑迷だぞ、こちらの罠に気付かずとも無駄な反抗心を燃やすやもしれぬ』
「仮に作戦を逆に受け持つことになった場合、アイスワーム討伐作戦でベイラムの戦力を目減りさせる為のプランを練ればよいのですよ。強襲艦隊に情報を流し、ベイラムが勝利しても深手を負わせる為の策も用意しています。どうか、賢明な判断を」
上層部の男は迷っているようだが、賛成しない道理は無い。スネイル自身が緻密に作り上げたプランだ、冷徹かつ合理的に纏まっていた。そして、そのことが分からない程上層部も愚かではない。
『・・・・・・いいだろう。そこまで言うのならば、V.Ⅱスネイル。今回の件、全て君に委任しよう』
「お任せを。全てはアーキバスの為に」
言質は取れた。その分、失敗した場合の責任は全てスネイルが負うということだが・・・・・・ルビコンに来る前から、このような状況には慣れている。一礼して通信を切ったスネイルは、どこか高揚した様子でキーボードを叩き始めた。
戦闘シミュレーターが許可されてから数日。飽きることも無く戦い続けていたシオンの元に、ついにブルートゥが訪れた。いつもの部屋・・・・・・既に手枷も付けられていない状態で相対する。目の前のテーブルにはお茶菓子と湯気を立てるティーカップが二つ並び、かぐわしい香りを発していた。
「申し訳ありません、可能性の貴女。色々と立て込んでいましてね、来るのが遅くなってしまいました。改めて、生身でお会いできて感激です」
「俺は別に会いたくはなかったけど・・・・・・それで、結局あんたは何がしたいんだよ?」
素っ気無く言い返し、シオンはティーカップに口を付ける。毒の類の心配はしていなかった。やろうと思えば、今までの食事に盛り放題だったからだ。口に含んだ紅茶を舌先で転がすと、フルーティで芳醇な香りが鼻をくすぐる。悔しいが、美味い。
「私の願いは一つ。繰り返されるファルスを終わらせることです。その為には、貴女という鍵が必要だった」
「・・・・・・。俺にも分かるように言ってくれ。あんたの言葉は、なんだ、難し過ぎる」
あからさまに嫌そうな顔をしながら頼むシオン。ブルートゥは耽美な顔立ちに穏やかな微笑みを浮かべたまま、ティーカップを口に運んだ。横に直立しているラヴェンナは、一言も発すること無く無表情で佇んでいる。組織のトップとナンバー2にしてはなんとなくちぐはぐな光景だ。
「私には、何人も友人がいます。誰も彼も素敵な方ばかりです」
「自慢か?」
唐突に呟くブルートゥに、シオンは茶菓子を齧りつつツッコんだ。しかも、結局喋り方は分かり辛い。
「えぇ、人に恵まれているのが密かな自慢でね。その中でも、一際激しいステップを踏む方がいる。彼女は、今も踊り続けているのですよ」
「・・・・・・」
「きっと、酷く踊り疲れているのでしょう。それでも彼女の動きは止まらない。ただ一人、果ても無く踊り続ける様は不憫でなりません。だから、私は彼女に休んでほしいのです」
「・・・・・・えーと。具体的に、俺に何を求めてるんだ。俺を攫ってきた目的と、今あんたが話したことになんの関係があるんだよ」
身振り手振りを交え、芝居がかった口調で語るブルートゥにうんざりしながらも、シオンは辛抱強く話を進めた。嘘か本当かは分からないが、目の前の狂人から真剣さは伝わってくる。いや、それすらも虚像なのかもしれないが。
「貴女は、今まで檀上に登ったことは無かった。故に可能性、鍵ということ。アイスワームによって勢力の均衡が崩れ始めている今、決して抜けぬ楔を打ち込む好機なのですよ」
「いや、だから分かんないんだって」
「簡単なことです。封鎖機構に素敵な贈り物を贈る。そうすれば、今まで繰り返してきたファルスは狂い崩れるでしょう。あぁ、実に愉しみだ」
恍惚とした表情で両腕を広げ、天を仰ぐブルートゥ。その様からはなんらかの情念が滲み出ていた。しかし、どっちにしろ会話は成り立っていない。彼はシオンに何を期待しているのだろうか。
「あぁ、もう!だから、俺は何をすりゃいいんだよ!?」
「ふふ、昂る姿も可憐ですね、可能性の貴女。では、私から貴女へ一つ依頼を。アーキバスによる封鎖機構の強襲艦隊撃破作戦、その妨害を行う我々を支援していただけますか?」
「・・・・・・は、はぁ?」
ようやく意味の分かる言い方をされるも、シオンは内容に目を見開いた。強襲艦隊。封鎖機構が擁する特大規模の機動戦力は、依然企業やルビコニアンを圧倒し続けている。それを、アーキバスが単独で撃破出来るとは到底思えない。疑問が顔に出ていたのだろう、ブルートゥはシオンを見つめながらにっこりと微笑み、詳しい現状を説明し始めた。
曰く、封鎖機構が保有していたアイスワームというC兵器が戦線に投入されたことにより、ベイラムとアーキバスは一時停戦。協力して封鎖機構を排除することにした。ベイラムがアイスワームに対する作戦を主導し、アーキバスは強襲艦隊を担当する。
曰く、アイスワームは強固な防御力を誇っており、それを打破する専用装備の開発に時間がかかる。それまでの間、シオンにはここで暮らしてもらいたい。ACに乗せることは出来ないが、戦闘シミュレーターには可能な限りのプログラムを入れておく、とのこと。
曰く、解放戦線は表向きシオンの奪還を試みてはいないが、裏で色々動いているようだ。企業及び封鎖機構との三つ巴で窮迫する中、戦力がどうしても足りない。しかし、シオンを見捨てることも出来ないらしい、と。
「愛されているのですね、可能性の貴女」
暖かい視線をシオンに向け、ブルートゥはしみじみと呟く。この男の話は何一つ信用出来ない。そう分かっていながらも、シオンは心のどこかで納得してしまった。ここで嘘をつく理由が無いからだ。その上で嘘をついている可能性もあるにはあるが、そこまで疑っていては何も考えられない。
「そんなんじゃないって・・・・・・。あー、つまり、あれだ。アーキバスが強襲艦隊に仕掛ける時に、横合いから殴りつけるってことでいいのか?」
「えぇ。既に封鎖機構への連絡は済んでいます。コヨーテスの戦力を封鎖機構に組み込ませた後、アーキバスが襲撃してくるタイミングの情報を与える。とても素敵な舞踏会になることでしょう。楽しみですね」
「・・・・・・は?いや待て、コヨーテスはもう封鎖機構に降伏してるのか?」
あまりにもあっさりと言われ、シオンは一瞬聞き逃しそうになりながらも問い質す。コヨーテス・・・・・・ジャンカー・コヨーテスと言えばドーザーの中でも最大の勢力だ。それが封鎖機構に降ったとなると、情勢が動きかねない一大事である。
「会場を用意するのにどうしても必要でしたから。その辺りは、全てラヴェンナの功績です」
その言葉に、ずっと横に立ち身じろぎもしていなかったラヴェンナに目を向けた。彼女は氷の如き無表情で、シオンに一つ頷く。どうやら今の話は事実らしい。意味不明にも程がある判断に、ずっと感じていた疑念を口にした。
「いや、おま・・・・・・そもそも、だ。今までの話はどれもこれも各勢力のトップシークレットだろ?どうやって情報を手に入れたんだよ」
「あぁ、そのことですか。ご友人が踊り続けていた間、私もただ待ち侘びていただけではありません。繰り返しの中、様々な手法を用いてあらゆる情報を集めました。カーラには袖にされてしまったのですが、ね」
「ボスの言葉は真実です。封鎖機構の介入やアイスワームの出現、コーラルの局所爆発が起こる場所さえも正確に予見しています。私が言っても、貴女は信じられないでしょうけれど」
「う、うぅーん・・・・・・」
ラヴェンナの補足に、シオンは唸り声を上げつつ首を振る。答えになっていないのだ。だが、この際仕方が無い。生殺与奪を握られている状況に、未だ変わりは無いのだから。
「・・・・・・。しょうがないか。分かった、あんた達の口車に乗ってやるよ。それで、アーキバスの妨害をした後俺はどうなるんだ?解放でもしてくれるのか?」
「勿論。作戦後はこちらに戻ってくる必要もありません。どうか、貴女の帰りたい場所へ帰ってください」
ブルートゥはにこやかに言い放ち、こちらに優しげな瞳を向けている。つまり、あれだけの攫い方をしておいて、シオンには戦力として以外の役目は求めていないというのか。わけが分からない。理解を半ば放棄しながら、シオンはジロリとブルートゥを睨む。
「おやおや。どうされました、可能性の貴女?」
「頭おかしいんだな、あんた。それと、その「可能性の貴女」とかいう変な呼び方をやめてくれ。鳥肌が立つ」
「それは申し訳ありません。久方ぶりに芽生えた可能性でしたので、つい。シオンと呼んでも?」
「・・・・・・まぁ、前よりはマシか」
名前を直接呼ばれるのもそれはそれで嫌だったが、背に腹は代えられない。可能性がどうのとかいう変な呼ばれ方をするよりは数段マシだ。シオンを肩をすくめ、ティーカップの紅茶を一気に飲み干す。そのまま椅子から立ち上がり言い放った。
「話は終わりだろ?早速だけど、戦闘シミュレーターに新しいプログラムを仕込んでくれよ。本気のアーキバスとやり合うには、俺の実力じゃまだ足りない」
「やる気があるのは何よりだ、シオン。分かりました、用意しましょう。ヴェスパー部隊のACデータは、下位ナンバーまでなら揃っています」
「・・・・・・得体が知れないぞ、あんた」
疑念と恐れが混ざったシオンの視線に、ブルートゥは嬉しそうに笑う。かくして、シオンは一時的にジャンカー・コヨーテスに雇われることとなった。
スネイル、ブルートゥみたいなタイプの奴は露骨に苦手そう。ペイター君はどう思う?