見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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47.オーネスト・ブルートゥ排除&シオン奪還

『準備はいいかい、ビジター。随分と妙な話になってるみたいだが、やることは一つさね』

 

愛機のコックピット。そこに繋がれている621は、身じろぎ一つせずカーラからの通信に耳を傾けている。

 

『ブルートゥを消すんだ。そうすればみんなが得をする』

 

結局、621はカーラとダナム、両者の依頼を受けることにした。双方に話を通し、納得させたのはハンドラー・ウォルターである。やはり、彼には頭が上がらない。

 

『さぁ、始めるよビジター!案内は私に・・・・・・いや、解放戦線から送られてきた設計図を確かめな!』

 

『僚機のバーンピカクスは、陽動も兼ねて別ルートで侵入するようです。迅速に終わらせましょう、レイヴン』

 

今回の目的は、オーネスト・ブルートゥの排除及びシオンの救出だ。繰り返しの中で一度も遭遇したことが無い状況。必ず、やり遂げなくてはならない。気を引き締めた621は、ブースターを吹かしつつグリッド012を降下していく。

 

『妙だね・・・・・・防衛兵器が確認出来ない。警戒して進みな、ビジター』

 

カーラの言葉通り、通常ならば配備されている兵器が見当たらない。何かの罠だろうか。これも、繰り返しの中で初めてのことである。どのような抵抗も無くグリッド012の深部に向かう621は、いつもはあるはずのブルートゥからの広域通信すら無いことに気付いた。明らかにいつもとは違う。

 

『事前の話では、レーザーセンサーや無人の特攻兵器があるはずでしたが・・・・・・今の所、何も感じられませんね』

 

【うん。きっと、シオンが現れた影響だと思う。今までは、こんなことありえなかった。無事ならいいけど・・・・・・】

 

エアと会話する程度の余裕がある状況で、しかし621は慎重に進んでいく。今までやり続けてきた繰り返しの経験が通用しない状況は、彼女が慎重になるに十分だった。しかし、警戒とは裏腹に何も起きない。敵機もいなければなんの反応も無いのだ。拍子抜けである。

 

『どういうことだい、これは。もぬけの殻じゃないか。襲撃を察知されたか・・・・・・?』

 

グリッド012はブルートゥ、ひいてはジャンカー・コヨーテス達の根城だ。そう簡単に破棄出来るような拠点ではない。だというのにこの状況・・・・・・カーラはどこかで情報が漏れたのかと、RaDの情報ログを遡り確かめる。しかし、これといった証拠は出てきそうにない。

 

『グリッド012のシステムに侵入を試みましたが、強固なプロテクトがかかっているようです。すみません、レイヴン。少し時間を貰えますか?』

 

【分かった。でも、待っていた方が何か起きるかもしれない。警戒しながら先に進んでみるよ】

 

不測の事態、その中でも621は冷静だ。ブースターを吹かしながら緩やかに降下していき、周囲の索敵も怠らない。元々、ダナムから送られてきた設計図が無くてもある程度の地形は把握している。伏兵が潜んでいそうな場所には積極的にスキャンを飛ばし、奇襲に備えていた。

 

『ビジター、少し待った。グリッドの最奥付近に熱源反応がある。ACにしては妙だね・・・・・・罠かもしれないが、向かってくれるかい』

 

カーラの問いかけに了承のメッセージを送り、臆すること無く進んでいく621。本来ならばレーザーセンサーが敷き詰められているはずの屋内を通り、開けた場所に出た。遠くに見えるのが、いつもブルートゥが奇襲を仕掛けてくる場所だ。オーバードレールキャノンが吊り下げられていないからか、いつもより随分と広く見える。

 

『システム解析が終わりました。一か月以上前から、人員と兵器を秘密裡に運び出していたようです。行き先は・・・・・・惑星封鎖機構!?』

 

繰り返しの中で、確かにコヨーテスは封鎖機構に降っている。しかし、今回はエアが調べた限り降伏したという事実は無く、RaDから依頼された大型ミサイル発射の支援も今回は発生しなかった。それなのに、何故・・・・・・?微かに困惑しながらも進んでいた621のコックピット内に、突如としてアラートが鳴り響く。周囲に霧のような何かが蔓延し始め、周辺に広がっていった。

 

『ECMフォグだと!?ビジター、一旦・・・・・・りな!この・・・・・・装置・・・・・・』

 

『通信途絶!先ほどの足場に戻るにはジェネレーターの容量が足りません!』

 

ECMフォグ。洋上都市ザイレムを欺瞞していたものが、何故ここに存在しているのか。ECMフォグの影響下でも聞こえるエアの声通り、後戻りは出来ず進むしかない状況。誘い込まれている。そう直感した621は、あえて突っ込むことにした。相手の罠が周到だとしても強引に突破するしかない。アサルトブーストを限界まで吹かし、ENの回復を待って再度加速。出来得る限り最速で進んでいく。と、

 

『こちら、ジャンカー・コヨーテス副官、ラヴェンナ。レイヴン・・・・・・いえ、C4-621。話があります』

 

ECMフォグによる妨害の中、何故か通信から明瞭な声が聞こえてくる。感情が抑えられた冷徹な声。

 

『今ならば、部外者に聞かれることも無い。コーラル変異波形に把握されるのは想定済みです、ご心配無く』

 

『っ!?』

 

その言葉にエアは思わず息を呑み、621を体を強張らせた。何故、エアの存在を知っている?繰り返しの中にいなかった得体の知れぬ相手に、彼女は警戒しつつメッセージを送る。

 

【どこで、それを知ったの】

 

『ボス・・・・・・オーネスト・ブルートゥは私に全てを話してくれました。C4-621、レイヴン。貴女が、幾度も世界を繰り返しているということを』

 

心臓が跳ねる。調整され、感情が面に出ないはずの彼女はじわりと汗を滲ませた。どうしてそれを知っているのか、見当もつかない。よろめくようにグリッドの最奥に着地すると、追い打ちをかけるように言葉を投げかけられる。

 

『「無限にも思える繰り返しの中、貴女は踊り続けている。だからこそ、幕を下ろさなくてはいけない」・・・・・・ボスからの伝言です。正直半信半疑でしたが、そこまで動揺するのなら真実と受け取っていいでしょう。ならば、私からも一つ確認を』

 

621の視界の先に、大型の兵器が落下してくる。BAWS製とは違う、無骨な脚部に箱型の上部を有する四脚MT。大型の多連装ミサイルポッドを機体の左右にマウントし、丸型のチェーンソーを備え付けたアームが三本展開している。上部には大口径の砲塔が存在しており、真っすぐに621の方を向いていた。

 

『C4-621。何故、貴女は繰り返しているのです?自身の意志で終わらせることは出来ないのですか?』

 

【それは】

 

メッセージが途切れる。それ以上、621は伝えることが出来なかった。繰り返しを終わらせる。そんなこと、考えたことも無かった。彼女はハンドラー・ウォルターを救いたい一心でひたすらに繰り返してきたのだから。だからこそ、次にラヴェンナが放った言葉が心に突き刺さる。

 

『まさか、気付いていないのですか?貴女が無数に繰り返した結果、貴女のハンドラーもまた、無数に苦しみ続けていることに』

 

ウォルターが苦しんでいる。自分のせいで。621の精神を、今まで見向きもしていなかった真実が蝕んでいく。気付かなかった。思い至りもしなかった。そうだ、何度も何度も繰り返すということは、その回数だけウォルターを苦しませることに他ならない。いや、ウォルターだけではない。エアも、カーラも、ラスティも、イグアスも、誰も彼も。自分が繰り返すことで苦しんでいるのかもしれないのだ。

 

『レイヴン、レイヴン!落ち着いてください、バイタルが異常値に・・・・・・!これは言葉による攪乱戦術です!』

 

【でも、エア、私。嘘じゃない、だって相手は知っていた。でも、私は知らなかった。どうしよう、そんな、つもりじゃ・・・・・・!】

 

取り乱している621に、エアは必死に声をかける。621のこのような様子は初めてだった。見た目通りの幼子のように、コックピットの中で震えている。

 

『答えてください、C4-621。貴女は無数の犠牲を際限無く積み重ね、敷き詰められた屍の上を歩いているという自覚はありますか?一人を救う為に、数えきれない命を冒涜する覚悟は?切り捨ててきた数多の世界を、どう思っているのですか』

 

視界が揺れる。呼吸が定まらない。今まで誰にも触れられてこなかった、心の最も脆弱な部分を刺激され、621は吐き気を覚えた。何度もえずくが、彼女の胃は機能を喪失している。胃液すら出てこない。

 

『・・・・・・あぁ、なんと弱々しい。ブルートゥは、こんな卑小な存在に命運を託したなんて。ここで終わらせるのも止む無しか』

 

『っレイヴン!敵機が戦闘態勢に入りました、回避を!』

 

エアの警告も空しく、621は降り注ぐミサイルを棒立ちで受けてしまう。凄まじい勢いでAPが削れ、ACSの負荷が高まっていった。見た目に似合わぬ機敏な動きで、ラヴェンナの駆る改造MTが621に迫る。

 

『私が貴女の幕を下ろしてあげましょう。自覚も覚悟も無い小娘には、お似合いの最後です』

 

『駄目です!レイヴン、避けてぇっ!!』

 

エアの悲鳴と同時に三つのチェーンソーが唸りを上げ、621を斬り刻もうとした瞬間。バズーカの砲弾が改造MTの側面に叩きつけられた。意識外からの攻撃にラヴェンナが驚愕の声を上げる。

 

『っ誰だ!』

 

『解放戦線の戦士、インデックス・ダナム。悪いが、そこの傭兵にはいくつも借りがある。殺させはせんぞ』

 

そこにいたのは、パーツを継ぎ接ぎしカラーリングも統一されていない旧型AC。グリッド012の背面を這うように飛んできた、インデックス・ダナムのバーンピカクスだった。

 

 

 

 

 

 

出撃前。ダナムは輸送ヘリの中、バーンピカクスのコックピットの中で精神を集中させていた。

 

「・・・・・・」

 

作戦の目的はシオンの奪還、及びオーネスト・ブルートゥの排除。レイヴン直々の頼みでRaDとの共同戦線となってしまったが、ダナムはそれ程心配していなかった。ドーザーの連中はコーラルを薬物として使用しているどうしようもない奴らである。しかし、その技術力は侮れない。それに、RaDにはストライダーを武装化してもらった縁もあった。それ故、解放戦線はRaDとの共同戦線を受け入れたのである。

 

作戦は単純だ。レイヴンを正面から投入し、ダナムは警戒網の薄いであろう所から侵入する。今回のミッションの為にバーンピカクスのジェネレーターを換装したのだ。封鎖機構が介入した初期の混乱の中、制圧したベイラムの拠点から発見されたパーツ。あまりにもピーキーな性能の為、今まで死蔵されていたもの。

 

DF-GN-02LING-TAI。通称「霊台」は、EN容量とEN出力が最低限な代わりに、EN補充性能と供給復元性能に特化した軽量ジェネレーター。扱いの難しいそれを、ダナムはバーンピカクスに搭載することを希望した。幸い、バーンピカクスは旧式パーツの寄せ集めの為EN負荷が低い。相性は悪くない、彼はそう判断していた。

 

しかし、いくらフレームや武装が変わっていないとはいえ、ジェネレーターはACの心臓のようなものだ。新たなバーンピカクスに習熟するのは、適性の低いダナムにとって酷い苦痛を伴う。しかし、彼は辛うじて成し遂げた。望み得る機動が可能となり、ギリギリでシオン奪還ミッションに滑り込んだのである。

 

「・・・・・・時間だな。インデックス・ダナム、バーンピカクス。出撃する。灰かぶりて、我らあり!」

 

雄々しく叫び、輸送ヘリから投下される。グリッド012からはかなり離れているが、それはダナムの狙い通りだった。アサルトブーストを起動し遥か彼方のグリッド012へと突き進むが、容量の少ない霊台では、あっという間にENが枯渇してしまう。しかし、

 

「っぐ、うおぉぉっ・・・・・・!」

 

ENの枯渇直前でクイックブースト。強引にブースターを吹かして速度を維持し、優れた供給復元性能により素早くENが回復すると再びアサルトブーストを起動。これを繰り返すことで、無限とも言える飛行を実現していた。

 

しかし、加速と減速を高い頻度で行うこの機動はパイロットが短い時間で消耗してしまう。適性の低いダナムならば猶更だ。しかし、ダナムは培ってきた経験と体力、不屈の精神で無理やり補っていた。アサルトブーストとクイックブーストを吹かす度に全身が軋み悲鳴を上げるが、決して止まることは無い。

 

そして、グリッド012の外郭まで到達した時。煙のような大気が蔓延しているのをダナムが見て取ったタイミングで、RaD側から通信が入った。焦れたような声を上げるのは、「灰かぶり」を自称するRaDの頭目、カーラだ。

 

『至急送ったマーカーの位置に向かってくれるかい!ECMフォグで状況が確認出来ないが、どうやらビジターが交戦中だ!』

 

「こちらダナム、了解した!」

 

手短に答え、マーカーが表示されている場所へと突っ込んでいくダナム。すぐにECMフォグの影響下に入りマーカーも消滅するが、この距離ならば問題無い。と、何かが炸裂する音と爆炎が見えた。照らされたのは、為すすべなくミサイルを浴びるレイヴンのAC。何故か棒立ちで攻撃を受け続けている。

 

状況が読めない。ミサイルを放ったのは、ECMフォグ越しにぼんやりと見える異形の兵器だろう。しかし、どうしてレイヴンは反撃しないのか。ラヴェンナがレイヴンに繋いだ秘匿回線の内容は、ダナムには届いていない。確かなことは、僚機が窮地に陥っているということだけだ。

 

敵機はこちらに気付いていない。ならば、やることは一つだ。ダナムはバーンピカクスの武装の中で最も火力の高いバズーカを、レイヴンに襲いかからんとする敵機に向け放った。爆発と衝撃で動きを止めた相手から、驚き混じりの声が聞こえてくる。

 

『っ誰だ!』

 

「解放戦線の戦士、インデックス・ダナム。悪いが、そこの傭兵にはいくつも借りがある。殺させはせんぞ」




このECMフォグはブルートゥ謹製のもので、外部からの通信はシャットアウトしますが内部での通信は阻害しないようになっています。
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