見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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48.屍の道の先に

『レイヴン、何があったのか分からんが一旦退いて態勢を立て直せ!時間稼ぎは俺が引き受ける!』

 

ダナムからの通信に、しかし621は反応出来なかった。呼吸は荒く、震えが止まらない。眼前に迫るラヴェンナすらも、目に入っていないようだ。

 

『レイヴン、距離を取ってください!このままでは撃墜されてしまう・・・・・・!』

 

繰り返しの果てに、ここまで辿り着いた。シオンというイレギュラーを見つけ、エアにも全て話して状況を動かし続けた。今度こそ、ウォルターも含めたみんなが生存出来る未来を手に入れる為に。それしか、考えていなかった。

 

この繰り返しは、自分が望んだから起きているのだろうか。分からない。だが、もしやり直せればと思ったのは確かだ。ルビコンも、飼い主も、友人も全てを焼き尽くしたあの時。たった一人になってしまった時に、彼女は願った。もしも時間を巻き戻せたら。今度はきっと、こんな結末にはならないはずだ、と。

 

そして、二度目。ウォルターの駆るACを落とし、ザイレムから脱出した後も彼女は願ってしまった。目の前には、ラスティが全てを賭してでも望んでいたルビコンの夜明けがあったというのに。ウォルターを救いたい、もう一度やり直させてくれ、と。

 

三度目。オールマインドの計画に乗ったのは、今までと違う道を進まなければウォルターを救えないと思ったからだ。しかし、結果は621が望んだものではなく。オールマインドもイグアスも倒して、半ば自棄になってコーラルリリースを成就させてしまった。

 

それから、621はずっと繰り返し続けている。あらゆる選択を試し、どれだけ戦い続けても、結末はおおよそ三つに集約されるようだ。ルビコンを焼き尽くすのか、ルビコンの解放者となるのか。コーラルを、全宇宙にばら撒くのか。全ての結末で、ウォルターは死んでしまう。何か、他に何か道は無いのか。621は無為にも思える繰り返しを数えきれない程続け、そして───

 

『ぐぅっ・・・・・・!まだだ、ドーザー!』

 

『古臭い思想に囚われた貴方では、このルビコンを変えることは出来ない。舞台から去っていただきましょう』

 

『このままでは・・・・・・!レイヴン、応答を!』

 

───そして、ここにいる。今までの繰り返しとは違う、ウォルターが生きられるかもしれない未来を掴む為に、ここにいるのだ。アサルトブーストを起動。急加速した621は、既にボロボロになっているバーンピカクスの横を通り抜けラヴェンナへと肉薄する。パルスブレードを生成し、チェーンソーを備えたアームを斬り飛ばした。

 

『っ、貴女はまだ・・・・・・!』

 

【私は、やらなきゃいけない。お前が何を言っても、ウォルターを助けるんだ】

 

普段に比べ、まだ動きはぎこちない。しかし、明確な戦意を以て621はラヴェンナと相対する。ここで自分が折れれば、全てが無駄になる。今まで切り捨て続けていた無数の結末が、積み重なった骸が、ウォルターの苦しみが。全て無駄になってしまう。それだけは、嫌だ。

 

『ならば証明してみせなさい!その非力で、全てを背負うことが出来るのかを!』

 

異形の四脚MTは上部の砲塔を621に向け発射する。小型の砲弾が複数射出され、621が回避する直前で全て爆発した。ラヴェンナが設計したショットグレネードは近接信管を備えており、連鎖的な爆発によりACSに負荷を与えてくる。

 

【ダナム、私が前衛をやる。援護して】

 

『いいだろう、任せるぞ!』

 

損傷の激しいバーンピカクスは一時後退。621はアサルトライフルを絶え間無く撃ちつつ、再び飛び込む機を伺っていた。相手の武装は飽和攻撃を主とした多連装ミサイルポッド、先ほど喰らったショットグレネードに、残り二本の丸型チェーンソーアームだ。火力の押し付け合いではあちらが上だろう。

 

しかし、このまま睨み合っていては不利だ。タイミングをずらしつつ放たれる無数のミサイルは、今の621では避け切れない。敵機は装甲を増設されているようで、中距離からの射撃は弾かれてしまう。ならば、結局突っ込むしかない。

 

『レイヴン、敵機の解析を行いました。元となる機体はMB-0100/CLUTCH、RaD製の四脚MTですが・・・・・・三倍以上に大型化した上に原形を留めない程改造が施されています。弱点と言える箇所は、四脚の関節部と上部との接合部。そこはスムーズな稼働の為装甲が薄くなっているようです。脚部の底面も同様に軽装甲の為、狙い目かと』

 

【ありがとう、エア。ごめんね、心配させて】

 

『私は大丈夫です。それよりも敵機の排除を。話したい事は、後で話します』

 

【うん】

 

そうだ。全ては、目の前の敵を倒してから考えよう。徐々にいつもの感覚が戻ってくる。まるで己の手足のようにACを動かせる感覚。旧世代特有のそれは、621が慣れ親しんだものだ。ダナムが放った垂直ミサイルが敵機に降り注ぐと同時に、621もミサイルを放ちつつ実弾オービットを起動、アサルトブーストとクイックブーストを織り交ぜて突撃する。

 

『来なさい、C4-621ぃっ!』

 

ラヴェンナの咆哮と共に放たれたショットグレネードを掻い潜り側面に回り込んだ。チェーンソーアームが迎撃しようと振り上げられるが、構う事無く肉薄する。密着すれば刃の部分には当たらない。逆に、パルスによって生成される刀身はミサイルポッドを斬り裂いた。誘爆を受け流しつつ離れようとする621に、千切れんばかりの強引な動きでチェーンソーアームが襲い掛かる。

 

自壊も厭わぬ攻撃は、621の不意を突いた。避けられない。チェーンソーがACの装甲を削り取る寸前、バズーカの砲弾がアームに直撃した。狙いが逸れ、チェーンソーの刃は空を切る。

 

『下がれレイヴン!』

 

タイミングよくバズーカを放ったダナムは、しかしここまで上手くいくとは自分でも思っていなかった。彼の実力では、振り下ろされるアームを狙い撃つことは難しい。むしろ流れ弾がレイヴンに当たってしまう可能性もある。それでも積み重ねてきた経験を頼りに、ダナムは狙いを定めバズーカを放った。

 

運が良かったのか、あるいは人智の及ばぬ何かの意志か、バスーカの砲弾は狙い通りにアームに当たり軌道を強引に変化させる。この隙に621は後退し、ダナムと共に敵機に向かい合った。各所から火花を散らし煙を上げているが、ラヴェンナの駆る改造MTは未だに健在。むしろ更に戦意を漲らせているようだ。

 

『この程度で殺せると思わないことです。私はこのルビコンを、ブルートゥと共に・・・・・・!』

 

強引に稼働させたアーム及び増加装甲もパージして、ラヴェンナは跳躍する。軽量化による予想外の機動力を用いてAC二機に跳びかかった。

 

『避けてくださいレイヴン!』

 

エアの言葉と同時にクイックブーストを吹かす621、しかしダナムの反応は遅れてしまう。バーンピカクスが回避機動を取る直前、ブーストの推力も合わさった改造MTの脚部に踏み潰された。装甲が軋み、砕ける。

 

『がっぐぅぅぅ!?』

 

【ダナム!】

 

621が脚部を斬り飛ばそうとパルスブレードを振るうが、ラヴェンナは機敏な動きで再び跳躍、上空に回避する。残り一本のチェーンソーアームを振るい追撃を牽制、距離を離しつつショットグレネードを放った。狙いは行動不能になっているバーンピカクス。直撃すればダナム共々吹き飛んでしまうだろう。

 

ラヴェンナにとって、ダナムは路傍の小石のような存在である。本命である621を撃破する為、まずは邪魔な彼から撃破しようと狙い撃ったのだが・・・・・・目の前のモニターには予想外の光景が広がっていた。

 

『・・・・・・何故』

 

そこには、ショットグレネードの直撃を受けボロボロになった621のAC。まるでダナムを守るかのように立ち塞がっている。あり得ないことだ。どこにも属さぬ独立傭兵が、ブルートゥが気にかける存在が、幾たびも繰り返し続けているはずの怪物が。その身を挺して能力の劣る僚機を守るなどと。

 

『今更一つ死を重ねようと、貴女にとってはなんの意味も無いでしょう。そのような無様な姿を晒して、何を成し遂げられるというのです!』

 

【それでも、私は、もう誰も目の前で失いたくない】

 

メッセージと共に、リペアキットを使った621が突っ込んでいく。放たれるミサイルを全てかわし、ライフルを連射しながらアサルトブーストで接近。実弾オービットで装甲を削りつつ、パルスブレードで脚部の一つを斬り飛ばした。

 

『覚悟も出来ない偽善者がルビコンの未来を左右するなど、認められるものか!』

 

体勢を崩しつつもチェーンソーアームを振り下ろすラヴェンナだが、621は側面に回り込み回避。コアパーツの背部が展開し、急激にジェネレーターの出力が上がっていく。パルスの閃光が煌めき、周囲を塗り潰すが如き爆発を引き起こした。アサルトアーマー。まばゆい奔流が改造MTを呑み込み、全てを焼き尽くしてゆく。

 

しかし、それでもラヴェンナは止まらない。溶け落ちたチェーンソーをパージしながら再び跳躍し、残り三本の脚部で621を踏み潰さんとブースターで加速する。なりふり構わない質量攻撃に621はあえて前に踏み込んだ。

 

多脚兵器に存在する、脚部と脚部の隙間。下方に存在する攻撃の届かない安全地帯にACを滑り込ませる。気付いたラヴェンナが圧殺しようと試みるも構造上不可能だ。冷却が間に合っていないパルスブレードを強制的に再起動、敵機の底面に押し付けながら刃を生成する。まともな者であれば決してしない運用は、今の状況に限っては有効だった。

 

621のACは満身創痍であり、ダナムは戦闘不能状態。ここで勝負を決めなければ危険だが、アサルトアーマーを発動した時点で瞬間火力のある武装は冷却中のパルスブレードのみだ。そして、刃を生成したとしても振るえる程の空間が無い。だからこそ621はパルスブレードのリミッターを外し、生成する刀身そのもので敵機の底面を溶かし斬ると決断した。

 

リスクの高過ぎる決死の攻撃。パルスが底面の装甲を溶かし、内部に侵入する。本来被弾を想定していない部位の為か、容易く焼き切れていった。

 

『まさか、こんな』

 

常識からはかけ離れた戦法にラヴェンナは対応出来ない。ENは底を尽き、脚部を斬り飛ばされ歩行は不可能。内装は焼き切られていき、後は撃破されるのを待つばかりだ。どうしてそこまで。死の間際に思うのは、今まさに自分を殺そうとしている621のこと。「ルビコンの動乱を何度も繰り返し続けている」という、馬鹿げた御伽噺の主役である。

 

最初ブルートゥから聞いた時は、いつもの虚言か冗談の類だとラヴェンナは思った。だが、情報は嘘をつかない。ブルートゥが繰り返しの中で得たらしいそれは、未来の事象も含め完璧な精度だったのだ。

 

例え企業のサーバー内を丸々引っこ抜いたとしても得られない、さながら演劇の台本のような情報の羅列。この先ルビコンで何が起きるのか、事細かに記されている。が、その台本は途中で途切れていた。アイスワームが襲来した暫く後、その時点で未来の情報は記されなくなっている。それはつまり、繰り返しの中のブルートゥはこの段階で死んだということ。思わず訊ねると、彼は嬉しそうに微笑みながら答えた。

 

「えぇ。もう何度も彼女と踊っているのですよ。素敵な贈り物でした」

 

半ば予想していたが、やはりそうなのか。目の前の怪物がブルートゥを殺した。何度も、何度も、何度も。分かっている、ブルートゥはただの道具だ。鬱屈としたルビコンの現状を変える為、利害の一致で招き入れたに過ぎない。分かっているのに、どうして心がささくれ立つのだろう。

 

『あぁ、そうか。私は、ブルートゥのことが・・・・・・』

 

アラートが鳴り響くコックピットの中で、ラヴェンナはようやく気付た。自分は、ブルートゥに恋慕の情を抱いていたのだと。あまりにも手遅れな嫌悪すべき感情の自覚。口元に自嘲の笑みが浮かび、彼女は爆炎に包まれていく。ジェネレーターをパルスブレードで焼き斬られた改造MTは、爆発と共に粉々になった。




ラヴェンナの愛に、ブルートゥは気付いていたのでしょうか。

随分と長くお待たせしてしまいました、またのんびり投稿していくのでよろしくお願いします。
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