見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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49.迫り来る決戦

RaDと解放戦線が協同で行った作戦は、目的を達成出来ず失敗という結果になった。ブルートゥ及びシオンはグリッド012におらず、コヨーテスの戦力ももぬけの殻。唯一残っていたコヨーテスの副官、ラヴェンナの駆る改造MTの前に、ダナムのバーンピカクスは修理不能の損傷を受け、621ですら手酷くやられていた。ラヴェンナ自体は撃破したものの、戦術的にも戦略的にも大敗である。

 

しかし、だからといってアイスワーム討伐の日程をずらすわけにもいかない。ブルートゥの存在という不安要素を抱えたまま、作戦実行の準備は着々と進められていった。その一方で、作戦に直接参加しない者も雑事に追われている。G6、レッド。彼もその一人だ。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

夥しい量の情報ログを整理しつつ、疲労の滲んだ息を吐くレッド。回ってくるログは大したことの無いものばかりだが、だからこそ彼は全力で業務をこなしていた。最も未熟な自分が出来ることは、他のレッドガンの負担を少しでも減らすこと。そして、アーキバスとの共闘成立以降溜まりに溜まっているログ整理は誰かがやらねばいけないことなのだ。

 

一般の事務員に任せるという選択肢もあったが、大したことの無い内容とはいえ一応はレッドガンの機密である。G1ミシガンが業務を割り振る前に、レッドは率先して受け持った。いつも通りの口調で激励を貰ったので、きっと間違いではなかったのだろう。

 

「さて、まだまだ」

 

気合を入れ直し、コンソールを操作していく。確かに疲労は感じるが、この程度いつもの訓練より百倍楽だ。いや、精神的な充実度合いでいくのなら訓練の方がいいかもしれない。いやいや、無駄な思考をしていると業務の速度が落ちる。今は真剣に、目の前の事に集中しなくては。と、己を戒めつつ働き続けるレッドの背に声が掛けられた。

 

「お疲れ様、根を詰め過ぎじゃないか?」

 

振り向くと、そこには薄汚れた作業着を着た男性が一人。レッドガン内でも古参の整備長、ポトマックだ。

 

「お疲れ様です、ポトマックさん。なんの、これくらいまだまだです」

 

「若さで突っ走ると体を壊すぞ。ほら、差し入れだ」

 

「ありがとうございます」

 

スポーツドリンクを手渡され、大人しく受け取る。時計を見れば予想以上の時間が経過していた。昼飯もまだだったことに気付き、意識していなかった空腹が襲ってくる。ぐぅと鳴る腹をレッドが思わず押さえると、ポトマックは苦笑しながら紙の包みを差し出してきた。

 

「そんなことだろうと思ったよ。とりあえず食え。飯は全ての活力だからな」

 

「すみません、何から何まで」

 

ポトマックはレッドガン創設時のメンバーであり、ミシガンと同様に末端の兵士の素性まで把握している。細かい気遣いで縁の下から支える、レッドガンにはいなくてはならない人物の一人だ。レッドもこうして、無理をし過ぎている時に何度もフォローしてもらっていた。

 

「全く、若いってのはいいねぇ。熱意で無理が出来るのは羨ましいよ」

 

「ポトマックさんも、先日夜半までガレージに籠り切りでしたよね?無理をしないでください、貴方はレッドガンにかけがえの無い存在なんですから」

 

「はっはっは、世辞が上手くなったなぁレッド。ま、昔はぶっ倒れることもあったが・・・・・・そのおかげで自身の限界は分かってる。心配されんでも大丈夫だよ」

 

照れ隠しか、背中をバシバシと叩いてくるポトマック。かなりの勢いなので痛みを覚えるが、レッドはこのような交流が嫌いではなかった。貧乏家庭の長男に生まれ、成人する前に両親を亡くした彼は、乱暴ながら温かみのあるレッドガンの隊風を気に入っているのである。と、

 

「っと、すみません、通信が」

 

断りを入れて確認すると、そこには予想外の名前が表示されていた。G3五花海。レッドガンきっての曲者だが、案外面倒見のいい彼のこともレッドは嫌いではなかった。というより、レッドガンの隊員の中に嫌いな人物が存在しないと言った方が正しい。それだけ、隊員を選抜しているミシガンやナイルの選定眼が優れているということか。

 

「こちらG6、レッドです!G3五花海、どのようなご用件でしょうか!!」

 

通信越しでも姿勢を整え、声を張り上げるレッド。彼にとって、ミシガンだけではなくレッドガンのナンバー持ちは憧れの対象だ。ポトマック達に抱く尊敬の念とは別に、更に強い尊崇の感情を抱いている。こういう所は入隊当時から何も変わっていないと、ポトマックは苦笑しつつ首を振った。こういう子供っぽさが、レッドが隊員皆から可愛がられる原因なのかもしれない。

 

『相変わらず元気ですねぇ。今の私はG3を下ろされた立場ですが・・・・・・まぁ、貴方がそうでないとこちらの調子も狂うというもの。おっと、ポトマックもいるのですか。これは丁度いい』

 

「なんだ、また悪だくみしてるのか五花海。俺は乗らんぞ」

 

『・・・・・・えぇ、悪だくみですよ。それもとびきりの。総長に聞かれれば厳罰でしょうね』

 

誤魔化さず、虚言を交える事も無く言う五花海の態度に、二人は顔を見合わせた。いつもと様子が違うように思える。

 

「失礼ながらっ、私は即座に総長に報告させていただきますが!」

 

『構いませんよ。ただ、先に話を聞いてほしい。ポトマックも、いいですね?』

 

「それは、構わんが・・・・・・」

 

おかしい。そもそも、この通信は秘匿回線でも何でもない。通信ログを確認する権限があるレッドガン隊員なら、誰でも聞けてしまう状況だ。普段は用意周到にことを進めるはずの五花海が、このような杜撰な振る舞いとするとはポトマックには思えなかった。しかし、その疑問は次の言葉で吹き飛ぶことになる。

 

『では。───ベイラム上層部が、G2ナイルの暗殺を目論んでいます』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐへぇ」

 

ベッドに倒れ込みながら、シオンは潰れた蛙のような声を上げる。肉体的な疲労というよりは、ひたすら負け続けた精神的苦痛によるものだ。

 

「なんだあいつ、強過ぎる・・・・・・!」

 

今日、ブルートゥとした模擬戦の回数は実に30回に及ぶ。しかし、シオンはその全てで敗北を喫していた。パイロットとしての絶対的な技量差。シミュレーターに搭載されたAIとはまるで違うブルートゥの動きに、シオンは翻弄されっ放しだったのである。

 

「こっちの考えが全部見透かされてるみたいだ。何から何まで読まれてる感じ・・・・・・あぁ、くそ」

 

言葉を吐き捨てながらベッドの上を転がり回るシオン。AI相手に勝ち星を重ね、多少なりとも付いていた自信を完全にへし折られた形だ。やはり、プログラム通りに動くAIと生身の人間では対応力が違う。何よりも、ブルートゥは駆け引き巧者だった。

 

例えば、撃ち合いの最中で不意に動きを止めたりする。チャンスと見て攻め込めばアサルトアーマーの迎撃が待っており、警戒して距離を取れば衝撃値を回復され。まるでこちらがどう対応してくるかを見透かしたような、奇妙な戦術を駆使してくる。本来ならば悪手になる行動すら逆手に取り、相手の心理をコントロールしているようだ。

 

シオンは今までの経験から、駆け引きも何も無く突っ込むのが最善だと思っていた。トラルテクトリの強みを押し付けるには接近するしかないからだ。しかし、ブルートゥには思うように通じない。突然棒立ちになり動かないミルクトゥースの前に、シオンは思わず意図を読み取ろうとしてしまうのである。結果、その隙を突かれ敗北を繰り返していた。

 

「もっと馬鹿になった方がいいのかね」

 

シオンは、己があまり賢くないと自認している。ひたすら愚直に戦った方が、狂人を相手にするには丁度いいかもしれない。いや、そもそも仮想敵はヴェスパー部隊だ。地力を高めた方がいいに決まっている。いくら名高きヴェスパーの番号持ちと言えども、ブルートゥのような独特な戦い方をしてくることは無いはずだ。

 

本物のヴェスパー部隊と戦うことを考慮に入れつつ、戦闘シミュレーターを繰り返す。今の所、それが最善だろう。逆に、これ以上ブルートゥと戦い続けたら変な癖が付いてしまいそうだ。あまりにも今まで戦ってきたACとは動きが違う。と、思考を巡らせるシオンの耳に扉がノックされる音が届く。

 

「シオン、私です。舞踏会の日程を掴みましたので、共有を」

 

「・・・・・・まぁ、どうぞ」

 

渋々返事をすると、にこやかな表情のブルートゥが足取り軽く部屋に入ってきた。相変わらず、見た目だけならばファッションモデルか何かにも見える。

 

「で、舞踏会だって?アーキバスが襲撃をかけてくる日取りが分かったってことか?」

 

「えぇ、暗号化されていた通信を解読出来たので。思っていた期日よりも、数日前倒しになりました」

 

そう言ってタブレットの画面を見せてくるブルートゥ。遠慮せずに覗き込むと、どうやらベイラムとアーキバスがやり取りしている情報ログのようだ。極度に秘匿化されているはずのそれを、この狂人は容易く抜き取り解読したというのか。しかも、ログの日時からして半日も経過していない。

 

「こんなあっさり・・・・・・あんた、頭はおかしいけど優秀だよな」

 

「ふふ、ありがとうございますシオン。今までの足捌きを見れば、おのずと次のステップも予測出来るというもの。今回はむしろ、警戒が強過ぎる分わかりやすかった方ですね」

 

「・・・・・・そうかよ」

 

やはり、この男は尋常では無いようだ。言い回しこそ奇矯なものの、やっていることは二大企業の通信情報を纏めて引っこ抜いた上、僅かな時間で解析を終わらせている。AC乗りとしての腕前だけでなく、電子戦にも非常に長けているというのは、ブルートゥの感性が為せる業なのだろうか。

 

「というわけで、貴女のACも明日から調整に入りましょう。軽く整備はしてありますが、しっかり馴染ませないと踊ることもままならない」

 

「それは、俺としては嬉しいけど。いいのか、攫ってきた奴をACに乗せて」

 

「勿論。既にここは封鎖機構の勢力内、単騎で逃れるのは如何に貴女と言えども自殺行為です」

 

妖艶な笑みを浮かべながら言い放たれた真実に、シオンはビクリと体を震わせた。もし言っていることが本当だとしたら、確かにトラルテクトリを奪取出来た所で逃げ出すことは不可能である。しかし、何故わざわざこちらに教えてくるのか。彼の疑問を見抜いたのか、ブルートゥは穏やかに言葉を続けた。

 

「最早、私とシオンは運命共同体。隠し事はしたくないですから。それに、貴女は私の友人とよく似ている。情が湧くのも当然でしょう」

 

「攫ってきといてよく言うぜ。まぁ、依頼は依頼だ。引き受けた以上、最後まで付き合うけどよ」

 

「そう仰っていただけると思っていました、シオン。共に着飾り、舞台の中心で踊ろうではありませんか」

 

「・・・・・・へぇへぇ」

 

大げさな身振り手振りを冷ややかに見つめ、シオンは適当に相槌を打つ。ブルートゥのおかしさに多少なりとも慣れてきた自分が少し嫌だった。と、ふと気になったことを口に出す。

 

「そういや、ラヴェンナさんは?最近会ってないけど、なんかの任務に出てるのか?」

 

「あぁ、貴女にはまだ話していませんでしたか。今回、彼女の役目は舞台袖にあります。そこから私達のステップを見ていることでしょう。あぁ、心が躍りますね」

 

「あー、いいや、聞いた俺が馬鹿だった」

 

要領を得ない返事に、シオンは肩をすくめながら嘆息した。・・・・・・当然、ブルートゥはラヴェンナが戦死したことを知っている。それをシオンに分かりやすく伝えなかったのは、なんらかの意図があるのだろうか。あるいは、いつもの口調故に伝わらなかっただけか。真実は、ブルートゥ本人にしか分からない。




本編とは違った滅茶苦茶な展開が近付いてきています。覚悟は良いか、筆者は出来ていない。
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