見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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50.幕開け

『まず私から前提を説明しましょう。これは両社が合意した一時停戦協定に基づく、惑星封鎖機構に対する同時襲撃作戦です。目標は敵方が保有する拠点群および強襲艦隊、そして先般起動した・・・・・・』

 

『ここからが本題だ!要するにルビコン各地で封鎖機構との総力戦が起きる。貴様らは貧乏くじを引いた!ここにいる面々がアサインされたのは最大の脅威、氷原の化け物退治だ!』

 

『はっ、上等じゃねえか。おい野良犬、この俺に子守りをさせるんだ、精々きっちりとやりやがれ』

 

『G5、無駄口を叩くな!子守りをされるのは貴様も一緒だ!自殺の予定が無ければ気を引き締めろ!』

 

『アイスワームの多重コーラル防壁を無効化する手段について話そうじゃないか。あれはプライマリシールドとセカンダリシールド、2枚から成る鉄壁の守りだよ』

 

『1枚目を突破する手段はアーキバスが提供しましょう。最新兵器 「スタンニードルランチャー」。 これを顔部に当てれば求める結果が得られるはずです』

 

『二枚目はどうする』

 

『夜なべして作ってた玩具がある。RaD謹製 「オーバードレールキャノン」 さ。バートラム旧宇宙港の待機電力を回せば威力は足りる計算だが・・・・・・問題は命中精度だね』

 

『そういうことであれば射手は任せてくれ。狙撃には自信がある』

 

『私は現場監督として出ましょう。寄せ集めには統率が必要です』

 

『弾幕要員も一枚欲しい、うちからはチャティも出そう』

 

『スタンニードルランチャーを誰が当てにいくかは・・・・・・いや、もう決まっているか』

 

『その通りだV.Ⅳ!G13!話は聞いていたな?愉快な遠足の始まりだ!』

 

 

 

 

 

 

いつになく騒々しいブリーフィングを終え、621はコックピットの中でやや速くなっている心拍の鼓動を感じていた。と、通信越しにウォルターの声が聞こえてくる。

 

『これだけの勢力が一堂に会する作戦はそうそうない・・・・・・行ってこい、621』

 

聞き慣れたそれは、彼女の心拍を落ち着かせるに十分なものだった。バイタルの計測は常に行われている為、いつもより緊張しているのを察してくれたのだろう。

 

【うん。行ってきます、ウォルター】

 

621の返事とほぼ同時に、彼女のACを乗せた輸送ヘリが離陸を開始する。コックピットに伝わってくる微かな振動を受けながら、先ほどのブリーフィングを思い返した。

 

繰り返しの中で、621は無数のアイスワームを撃破してきた。当然ブリーフィングも幾度と無く参加してきたわけだが、今回は明確にいつもと違う点が存在している。それは、イグアスの態度である。

 

不貞腐れた様子ではなく、むしろこちらを鼓舞するかのような言葉を投げかけてきてくれた。この変化は、やはりヴォルタが生存しているからだろう。ベイラムによる「壁越え」の際、本来ならば謹慎中のイグアスが乱入したことを、621はエアを通じて知っていた。何故そうなったのかは分からないが、イグアスの精神状態が安定しているのは事実だ。率直に喜ばしい。

 

『レイヴン、アーキバス主導の強襲艦隊に対する作戦も開始したようです。同時に、ルビコン全土で封鎖機構への襲撃が始まっています』

 

【ありがとう、エア。解放戦線に動きは?】

 

『戦略レベルの行動は見られないようです。事前の通信傍受で推測した通り、静観するつもりかと』

 

【そっか、分かった。引き続き、他の戦局の監視をお願い】

 

ベイラムとアーキバスが手を組んでいる現状、下手に手を出せば取り返しのつかないことになるかもしれない。故にカタフラクトを撃破した後の解放戦線は積極的には動かず、主に封鎖機構に対して小規模な攻勢をかけるに留まっていた。

 

攫われたままのシオンのことが影響していると思うのは考え過ぎだろうか。繰り返しの果てに初めて現れた彼女は、確実にこの情勢に影響しているはず。そうでなければ、これ程までに展開が変わることはあり得ないからだ。

 

生きていてほしい。621は噛み締めるように願った。彼女がここまでシオンのことを思っているのは、シオンを変化の象徴と認識しているからだ。永遠にも思える繰り返しに楔を打つ存在。何故か自分と瓜二つの、初めて現れた少女。あるいはその感情は、事情を知らないルビコニアン達がシオンに抱いているものと同じなのかもしれない。

 

【あと、少しだ。あと少しで、ウォルターを助けられる】

 

アイスワーム討伐戦が無事に終わったのなら、621は本格的に行動に移すつもりでいる。即ち、ウォルター達オーバーシアーに全てを説明し、彼らが生存する道を切り開くのだ。飼い主への明確な叛逆だが、最後まで成し遂げる覚悟は出来ていた。

 

しかし、脳裏をよぎるのはラヴェンナの言葉。繰り返しの中、屍を積み上げ続けたという事実。621には、この繰り返しの原理も仕組みも何も分かっていない。だから、彼女の言葉を否定することは無理だった。実際に目の前で幾度も死に続け、殺し続けてきたのだから。

 

『・・・・・・貴女が抱えてきたものは、私が一緒に背負います。だから、今はどうか作戦に集中を』

 

621が苦悩していることを察したのか、エアが慰めるように言葉を投げかける。グリッド012での作戦後、621が予想以上に消耗していることを危惧したウォルターは、半強制的に621を休眠状態にしていた。それ故、エアとの交信も出来ていなかったのである。

 

それでも、エアは彼女の苦悩を理解していた。本来ならばあり得ない繰り返しの中、目の前の少女は心を酷く摩耗させている。ぼろぼろになりながらも見えている希望の光に手を伸ばして、足掻いている。そして、ラヴェンナの言葉で足元が崩れ、倒れそうになっている。実際に支えることは出来ないとしても、せめて友人として心を支えてあげたいのだ。

 

『レイヴン。私は、何があっても貴女の味方です』

 

【・・・・・・ありがとう、エア。そうだね、今はアイスワームに集中しなくちゃ】

 

621も、エアの献身は身に染みている。彼女がいなければ、きっと自分はここまでこれなかった。だからこそ報いたい。エアとウォルターが共に存在出来る未来を、絶対に掴み取る。今でに何度も重ねてきた願いを胸に、621はヘリに揺られつつ降下ポイントへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と。本当に来るのかね」

 

トラルテクトリのコックピット。慣れ親しんだ空間で、シオンはモニターを見つめつつ呟いた。周囲には封鎖機構の兵器が所狭しと展開しており、ジャンカー・コヨーテスの戦力もそれに加わっている。厳重な警戒態勢はアーキバスの襲撃を予期してのことだろう。ブルートゥの言をどこまで信じているかは分からないが、封鎖機構は迎撃準備を万全に整えていた。

 

「・・・・・・居心地悪いな」

 

圧倒的とも言える友軍の戦力に、しかし心細さを感じてしまうシオン。思えば、この体になってからの実戦では常に解放戦線の味方が傍にいた。共に戦場に立った相手の顔も、拠点で暮らしている時や事前のブリーフィングで確認出来ている。だからこそ、相応の安心感があった。

 

今は違う。轡を並べている中で、顔を知っているのはブルートゥのみ。共に戦う者達の素性が知れないという状況は、まるで一度死ぬ前のミッションと同じだ。足場が今にも崩れそうな不安感を感じつつ、シオンは落ち着く為に何度も深呼吸を繰り返す。

 

「すぅー・・・・・・はぁー・・・・・・。どっちにしろ、俺は戦うだけだ。戦って、生き残って、解放戦線に戻る。後のことはそれから考えりゃいい」

 

先日から彼女を思い悩ませている、この肉体の本来の持ち主のこと。自分がこうやって行動していることで、持ち主の人生を塗り潰しているかのような罪悪感を、シオンは未だに抱えたままだった。だが、自問自答した所で答えが出る訳も無く。何より、シオンの詳しい事情を知っているのは解放戦線の一部だけだ。

 

「ったく、郷愁もあるんだろうな。悪い気はしないけどよ」

 

元々のシオンは成人をとうに過ぎた男性である。だというのに、人生の一割の時間も占めていない解放戦線での暮らしを、ルビコニアン達の居場所をまるで故郷のように思っていた。正確には、シオンが帰るべき場所だと認識している。

 

自分はシオンであってシオンではない。本来、その名はこの肉体の本来の持ち主に与えられるべきものだろう。あくまで、自分は彼女の人生を間借りさせてもらっているだけなのだ。事実はどうあれ、シオンはそう思い込んでいる。

 

・・・・・・彼は気付かない。元の持ち主がどうであれ、アーシル達が頭を捻って付けてくれた「シオン」という名前は、間違い無く彼自身のものなのだと。今までこの肉体が生き残ってきたのは、彼の努力と奮闘によるものだと。彼は、気付いていない。

 

「っと、そろそろ時間か。ブルートゥの情報を信じれば、だけど。というかあいつはどこに配置されてんだよ」

 

現在のシオンの立場は、ジャンカー・コヨーテスに協力している独立傭兵ということになっている。少なくとも封鎖機構側にはそう伝えられているらしい。ブルートゥの指揮下で行動する遊撃役。それが、シオンに任されている役割だ。と、

 

『私は本部に布陣していますよ、シオン』

 

「うわっ!?はぁ!?通信開いてないぞ俺は!」

 

突如として聞こえてきたブルートゥの声に、シオンはぶるりと体を震わせる。先ほどまでの独り言を聞かれていたというのか。

 

『申し訳ない。健気な言葉が胸を打ち、つい話しかけるタイミングを失ってしまいました』

 

「答えになってねぇ・・・・・・!」

 

突っ伏しそうになるのをどうにか堪え、シオンは言葉を絞り出した。確かに自分は囚われの身だ。トラルテクトリのコックピットに盗聴器が仕込まれていても違和感は無い。しかし、実際にこのような目に遭うと心臓が跳ねてしまう。

 

『さて、そろそろアーキバスの部隊が確認出来る頃ですね。想定通りならば、貴女には西側の防衛に向かってもらうことになりそうだ。MT以外に主敵となるのは、V.ⅧペイターとV.Ⅵメーテルリンク。どちらもシミュレーターで経験した相手です、貴女ならば対応出来るでしょう』

 

「ちっ、随分と簡単に言ってくれるじゃんか。戦闘シミュレーターで再現されたのとと実物が全然違うってのは、あんたとの戦いで嫌って程分かってる。まぁ、やるだけやるけどよ」

 

『ふふ、頼りにしていますよ、シオン』

 

ブルートゥの言葉に鳥肌を立たせながら、シオンはトラルテクトリの各種データを確かめた。調整はほぼ完璧に行われており、存分に力を発揮出来そうだ。とはいえ、トラルテクトリ一機でどうにかなるような状況でもないが・・・・・・。と、ここで封鎖機構との共用回線からアラートが鳴り響いた。

 

『こちら観測所、大規模のアーキバス、及びベイラムの混成部隊の接近を確認。包囲を試みている模様』

 

『システムの判断は迎撃。観測データと迎撃部隊の割り振りを送る、各自行動に移れ』

 

『『『了解』』』

 

淡々と、あるいは粛々と封鎖機構の部隊が動き始める。少し確認しただけでも、鍛え上げられた精鋭部隊ということが見て取れた。ひとまずは待機したまま、シオンは送られてきたデータを確認する。企業連合はかなりの戦力を差し向けてきたらしく、数ではこちらを上回っているようだ。まさしく全力である。

 

「始まったか・・・・・・まだ待機でいいんだよな?」

 

『えぇ、ついに幕が上がりました。開演直後の序曲は彼らに任せるとしましょう。なに、すぐに出番がありますよ』

 

「出来れば出番無く終わりたいけど。ま、そんな甘い考えは通らないか」

 

シオンは軽口を叩きつつ、いつでも行動に移せるように集中力を研ぎ澄ます。ついに始まった企業と封鎖機構の全面衝突は、ルビコンをどのような運命に誘うのだろうか。




天下分け目の大戦、始まるぞぉ!
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