見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

52 / 125
51.シオンvsヴェスパー部隊

『V.Ⅲ、封鎖機構の対応が予想以上に迅速です。いかが対応しましょう』

 

「大枠の作戦は変わらん。V.Ⅷ、可能な限り敵戦力を誘引しろ。V.Ⅰが突入する隙を作ることが最優先だ」

 

今作戦の指揮官に任命されたオキーフは、努めて冷静に指示を下す。封鎖機構が迎撃の準備を整えているというのは、事前に情報を掴んでいた。しかし、強襲艦隊への襲撃は、アイスワーム討伐作戦やルビコン全域で行われる反攻と歩調を合わせなければならない。アーキバス上層部は無理を承知で、ヴェスパー部隊に襲撃を命じてきた。

 

戦力比としては企業側がやや劣る。ベイラムMT部隊が派遣されてきているが、数こそ多いものの殆どがBAWS製のものだ。封鎖機構のMTやLC、HCを相手にするには力不足だろう。つまり、正面からぶつかれば敗北は必至である。

 

しかし、企業連合・・・・・・というよりアーキバスには、絶対的な鬼札が存在する。V.Ⅰフロイト。作戦成功率94.7%を誇る、ヴェスパーの勝利の象徴だ。しかし、如何にフロイトと言えどここに集結している封鎖機構の全戦力を相手にするのは不可能である。技量以前に弾薬が持たない。それ故に、投入可能な全戦力を以て敵戦力の誘引を行っているのだが・・・・・・

 

『おい、まだかオキーフ。折角こんなに楽しそうなんだ、早く出撃させてくれ』

 

「そうしたいのは山々だが、想定よりも相手の対応が早い。もう少し敵戦力を誘引出来るまで・・・・・・」

 

『そうか、分かった』

 

ブツリ。通信が切れたということは、フロイトが出撃を決めたということだ。スネイルですら制御し切れないこのAC狂いが、指揮に従わず暴走することは織り込み済みではある。しかし、あまりにも早すぎる。

 

「・・・・・・。各方面、攻勢を強めろ。相手に損害を与えずとも構わん。引き付けてその場に足止めするのだ」

 

仕方が無い。自分の手ではどうしようもない面倒事は、悲しいことに慣れていた。各部隊に命令をしつつオキーフは内心呟く。相も変わらず、うんざりすることばかりだ。

 

『こちらメーテルリンク、敵機にACを確認しました。情報を送ります』

 

「これは・・・・・・」

 

複数のモニターの一つに表示された情報は、企業陣営にとって予想外のものだった。本来、封鎖機構はACを運用していない。であれば彼らに降伏した勢力の戦力だろうが、情報によればそのACは解放戦線に所属しているようだ。

 

ルビコン解放戦線は、設立当初は惑星封鎖機構を主敵と定めていた。ルビコン封鎖の打破を掲げ今まで戦い続けてきた解放戦線が、降伏することなど通常はあり得ない。ならば、そのAC乗りの独断か。情報によればシオンという名の第10世代強化人間らしいが・・・・・・。

 

「可能ならば撃破して構わない。だが、優先するのは引き付けと足止めだ。消耗を抑制しつつ小規模でも攻勢を繰り返せ、V.Ⅵ。相手が司令部の防衛に戦力を引き抜いたのが確認出来たのち、全面攻勢に移るぞ」

 

『了解』

 

現在そのACと相対しているメーテルリンクは、情報によると過去に一度交戦したことがあるらしい。ボナ・デア砂丘、ストライダーの撃破を目的とした作戦。それ自体は独立傭兵レイヴンの介入もあり失敗に終わったが、MT部隊を率いていたメーテルリンクはシオンに対して終始優勢に戦っていたと記されている。状況は違うが、任せても問題無いだろう。

 

・・・・・・オキーフの誤算は、シオンを秘密裡に調査していたスネイルと情報を共有していなかったことだ。フロイトへの漏洩を恐れ、スネイルはシオンへの調査を自身だけで完結させていた。オキーフを信用していなかったというのも理由だが、結果的にその判断はシオンを利することとなる。

 

 

 

 

 

 

砲火轟く最前線。シオンは距離を保ちつつも、企業連合の動きに違和感を覚えていた。襲撃を仕掛けてきたにしては動きが鈍い。その疑念は、封鎖機構からの通信で晴れることになる。

 

『コード5!敵ACの単騎突入を確認!狙いは恐らく司令部、指揮系統の破壊かと!』

 

『コード44・・・・・・V.Ⅰフロイト、脅威レベル9だと!?予備隊も動員、全力で迎撃しろ!』

 

V.Ⅰフロイト。ルビコンにおけるAC乗りの頂点が、単騎で戦線を突破した。思わず息を呑んだシオンは、個人回線でブルートゥに通信を飛ばす。

 

「おい、そっちにフロイトが向かってる!救援に行かなくていいのか!?」

 

『落ち着きなさい、シオン。彼とは是非とも一度踊ってみたかった。素敵な展開です』

 

「言ってる場合かよ!」

 

『何、予想の範疇です。そちらは、出来るならば多少戦線を乱してください。突出すれば狙われますが、そろそろ頃合いでしょう。動く時は繊細かつ大胆に。幸運を、シオン』

 

「あっ・・・・・・クソッ!」

 

一方的に切られる通信。シオンは悪態を吐きつつも命令に従うことにした。ブルートゥの頭の中がどうなっているかは分からないが、フロイトが強襲を仕掛けてきたのならば間違い無く戦線が動く。きっとその時が、自分の働き所だ。

 

『システムから通達。位置情報を送ったLC及びHC機体は司令部へ救援に向かえ。他部隊は前線の防衛を継続しつつ、第五区画まで順次後退せよ。』

 

シオンの考えは当たっていた。封鎖機構が司令部の防衛に戦力を割き始めると、待っていたかのように企業連合が攻勢を強めてくる。封鎖機構は組織的撤退も辞さない構えだが、シオンを考慮した連携をするとは思えなかった。捨て駒にされる可能性が高い。

 

自分に出来ることは、複数を相手にするのでは無く強力な敵機を撃破すること。乱戦の中、チェーンソーを当てれば大体の機体は撃墜出来る。そして、その相手は現場指揮官かそれに類するものが望ましい。いわゆる首刈り戦術である。

 

シオンのモニターに、いつか相まみえた敵ACが映る。ヴェスパー部隊の番号付き、V.Ⅵメーテルリンクが駆るインフェクション。どうやら、今回もMT部隊の一部を率いているようだ。部隊の中段に位置し、ミサイルと砲撃の支援を受け前進してきた。

 

選択肢は多くない。後退した所で足手まといだろうし、トラルテクトリの武装では突っ込む以外の選択肢が無いのだ。つまり、今やるべきなのは敵を押し留めること。封鎖機構と共に後退しても、体よく利用される可能性が高い。ならば、こちらから動くべきだ。ブルートゥからの頼みもある。

 

「っふぅ~・・・・・・行くか」

 

胃が引き付けを起こしそうになる程の恐怖。今まで見たことが無い規模の大軍を前に感じているそれを、弱音と共に飲み込んだ。突撃により敵の第一波を攪乱、可能ならば指揮を執るヴェスパーACを撃破し離脱する。震え出しそうになる体を押さえ、不可能だと叫ぶ理性を無視してシオンは叫んだ。

 

「こちらシオン、ACトラルテクトリ!敵陣に突っ込み攪乱する!」

 

アサルトブーストを起動。慣れ親しんだ加速の重力を感じながら、企業連合の正面に躍り出る。迎撃の砲火がトラルテクトリを狙うが、シオンは無茶苦茶にクイックブーストを吹かして弾幕を突き抜けた。そのままMT部隊の中心へと向かい、V.Ⅵメーテルリンクに照準を固定する。あれだけの数だ、懐に飛び込んでしまえば同士討ちを避ける為に攻撃が消極的になるはず。

 

『くっ、解放戦線のAC・・・・・・!まさか、ここで再び戦うことになるなんて・・・・・・!』

 

対するメーテルリンクは、動揺を抑えて迎撃の態勢を整える。かつてストライダーを巡る攻防で交戦した、年若い少女のAC乗り。あの時は翻弄出来たが、それから随分と経験を積んだと聞いている。確かにこちらに飛び込んでくる時の機動は鋭かった。決して油断出来る相手ではない。

 

「久しぶりだなぁ!悪いが、今回は勝たせてもらうぞ!」

 

『MT部隊は散開、援護に徹しなさい!このACは私が相手をします!』

 

鈍重なMTにとって、敵AC・・・・・・トラルテクトリの装備しているチェーンソーは危険である。単調かつ隙が多くとも、MT相手には直撃を見込める上に一撃で撃破されてしまう。ならば、このACはあの時と同じく自分が相手をしなくては。

 

「うおぉぉぉっ!」

 

相手の思惑に気付きつつも、シオンは咆哮を上げて突っ込む。度重なる戦闘シミュレーターによる鍛錬は、思考を介さず感覚的に操縦する助けになっていた。それ故、思考は状況の把握に回すことが出来る。相手はAC同士の戦闘に持ち込もうと誘っているのだろう。

 

ボナ・デア砂丘の時と似たような状況に、しかしシオンは勝機を見出していた。あの時に比べ、多少は腕が向上している自覚もある。何よりこちらには切り札があった。この状況において、相手の思惑を崩し得る切り札が。

 

「さぁ、やろうじゃねえか!」

 

MTに囲まれた、メーテルリンクが待ち受ける場所へと突入した瞬間。シオンはパルスプロテクションを起動した。パルスによって形作られた防壁がシオンとメーテルリンクを包み、MT部隊との射線を遮る。

 

『なっ!?』

 

想定外の行動に驚愕の声を上げるメーテルリンク。これではMT部隊との連携が取れない。思考で動きを止めた僅かな隙を、シオンは見逃さなかった。

 

「そぉらよっと!」

 

チェーンソーを展開しながらクイックブーストを吹かして肉薄、インフェクションに刃を押し当てる。スタッガー時に比べて大幅に威力は劣るものの、ACS負荷を与えて逆にスタッガーまで追い込むことが可能だ。狙い通り体勢を崩したインフェクションを、アサルトブーストから蹴り飛ばしてパルス防壁の外へと叩き出す。

 

「さぁ、どうするよヴェスパー!」

 

シオンはミサイルとマシンガン、バーストハンドガンで追撃をかけつつも深追いはしなかった。パルス防壁には指向性があり、そのパターンはトラルテクトリに組み込まれている。つまり、こちらの攻撃はパルス防壁に阻害されず、相手の攻撃のみを防ぐことが出来るのだ。

 

望み通りの状況を作り出したシオンは、一旦相手の出方を伺う。防壁内に踏み込んでくるならばよし。接近戦はこちらの土俵だ。踏み込んでこないのならば、防壁が削り取られるまで貴重な時間を稼ぐことが出来る。ブルートゥの頼みを果たしたと言えるだろう。

 

『火力を集中、まずはこの防壁を排除します!』

 

インフェクションの両腕にはパルスガンが装備されており、パルス防壁を相殺するには有用だ。しかし、戦闘シミュレーターで情報を得ていたシオンは防壁内部からインフェクションを牽制、パルスガンを易々と撃たせ続けない。パルスプロテクションの強度は同じ拡張機能のパルスアーマーよりも堅牢であり、MT部隊の火力を受けてなお持ちこたえていた。が、

 

『こちらV.Ⅷ。加勢します、第6隊長殿!』

 

アサルトブーストで駆けつけてきたのは新たなAC。番号付きの中では末席ながら高い実力を有する、V.Ⅷ、ペイターだ。乗機のデュアルネイチャーもインフェクションと同じく、パルス武装を主とする機体である。EN防御が低いトラルテクトリにとっては難敵であり、パルスプロテクションで攪乱している状況を覆される可能性が高い。

 

「贅沢だなぁまったく!」

 

シオンは吐き捨てつつもアサルトブーストを吹かし、防壁をすり抜けインフェクションに迫る。事前にブルートゥから情報は得ていた。この二機が相手になるだろうと。だからこそ、即断で動く。敵に主導権を握らせてはいけない。チェーンソーの回転音とブースターの駆動音は、まるでトラルテクトリが咆哮しているかのように響き渡った。




本編でもAC複数を相手取るミッションをもうちょっと増やしてほしかったという想いはあります。オールマインド謹製のヴェスパーデッドコピーACを全機相手にするのとかやってみたい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。