見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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53.正直者の死

封鎖機構の兵器群を吹き飛ばした爆発は、追撃に逸る企業連合を巻き添えに凄まじい損害を与えていた。双方共に予想外の事象に、全戦線が大混乱に陥っている。そして、それはシオンが苦闘を演じている戦線も同様だった。

 

封鎖機構の部隊と直接交戦していたわけではない為、メーテルリンク達に損害は発生していない。しかし、周囲の混乱が伝播するのは避けられなかった。その隙をシオンは逃さない。包囲が緩んだ瞬間、アサルトブーストで離脱を試みる。ヴェスパー部隊は虚を突かれ、二人の隊長を除いて逃走を遮ることが出来なかった。

 

『っ、V.Ⅷ!私が食い止めます、貴方は後退先に回り込んでください!』

 

『了解しました、第6隊長殿!』

 

メーテルリンクとペイターは見事な連携でシオンに追い縋る。インフェクションはトラルテクトリに比べ軽量、かつ高出力のブースターを装備していた。直線機動ならば必ず追いつける。その上、追う側は一方的に攻撃出来るのだ。相手は混乱に乗じる気だったようだが、これなら逃がすことなく撃墜まで持っていけるだろう。

 

後方から迫るメーテルリンク。そして大回りしながら退路を断とうとしてくるペイターに、シオンは極限まで意識を集中させる。ブルートゥからメッセージもあって事前に策を練り、即座に行動に移せたが・・・・・・ヴェスパーの隊長達は流石の練度で対応してきた。即席の策に嵌められるチャンスは一度切り。失敗すれば、逃げられず撃墜される。

 

「ふぅー・・・・・・」

 

熱い息を吐き、シオンはタイミングを測る。メーテルリンクのインフェクションがぐんぐんと距離を詰め、パルスガンを連射し始めた。今か。いや、まだか。APを削られながら、その時を待ち続ける。そして、

 

「おらよっとぉ!」

 

『!?』

 

シオンは前クイックブーストを吹かすことでアサルトブーストを中断し、チェーンソーに持ち替えつつインフェクションへと振り返った。クイックターン。OS強化により使用出来るようになる機動だが、実戦で使われることは少ない。ACに備え付けられたターゲットアシスト機能は優秀であり、旋回をスムーズにするクイックターンは実用性が低いのだ。

 

しかし、シオンは戦闘シミュレーターに籠りながら余技に等しいそれを修めていた。解放戦線は常に戦力に乏しく、複数の敵と相対する可能性も高い。だからこそ、どこかで役に立つはずだ。そう信じていたからこそ、この窮地で咄嗟にクイックターンを扱うことが出来たのである。

 

方向を転換し突っ込んできたトラルテクトリに、メーテルリンクは反応が遅れてしまう。アサルトブーストを切り距離を取ろうとしても、高い出力が災いし慣性のままにぶつかった。AC同士の衝突。同時にチェーンソーが振るわれ、先ほどよりも深く回転刃が装甲に潜り込む。

 

『しまっ、ぐうぅぅっ!!?』

 

コックピットまで届く衝撃にメーテルリンクは苦悶の声を上げた。許容限界を超えた損耗はパイロットである彼女に伝わり、ACのメインシステムが負荷に耐えられずダウン。火花を散らしながらインフェクションは落下し地面に叩きつけられた。

 

『第6隊長殿!?応答を!』

 

『っあ、ぅ・・・・・・』

 

微かに聞こえるペイターの声に返事も出来ず、メーテルリンクの意識は闇に落ちていく。最後に見えたのは、こちらを意にも介さず飛び去っていくシオンのトラルテクトリだった。

 

「ようし、これで・・・・・・うぉっ!?」

 

『よくも第6隊長殿を!』

 

目論見通りにいったシオンは、インフェクションを完全に撃破したか確認する前に離脱にかかる。あの損傷では追いかけてくることは不可能なはず、今の内に距離を稼ぎたい。しかし、すぐさま急行してきたペイターに捕捉されてしまった。仕方ない。最後のリペアキットを使用し、武装をペイターのデュアルネイチャーへと向ける。

 

「お仲間の救出を優先しろよ、俺はこのまま撤退するからさぁ!」

 

『名誉あるヴェスパーとして、眼前の敵を逃がすわけには!メーテルリンクさん、仇は取ります!』

 

僚機が落とされて尚戦意が旺盛な様子に、シオンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。これでは、易々と逃がしてくれそうにない。連戦で消耗した自分に、果たして目の前のACを撃墜する力は残っているだろうか。いや、関係無い。なんにせよやるしかないのだから。

 

「そうかよ、だったらかかってきな!」

 

シオンは勇ましく吼えながらトラルテクトリを突っ込ませる。パルスガンにパルスキャノン、更にはパルスブレードも装備しているデュアルネイチャーは近接戦に長けていると理解していた。しかし、自分にはこれしか無い。下手に距離を取るよりも、突撃して削り合いに持ち込む。機体の頑強さで耐え凌ぎ、撃ち合いを制してチェーンソーを叩き込むのだ。

 

ペイターは逆関節の跳躍力と軽量機体故の機動性を活かし、三次元的な動きでシオンを攪乱する。しかし、彼にとってその動きは戦闘シミュレーターで何度も経験したものだった。パルス兵装はAPを削るのには適しているが、ACSに負荷をかけることは難しい。スタッガーの取り合いならこちらが有利である。

 

『うぅっ、V.Ⅵペイター・・・・・・悪くない響きだ・・・・・・!メーテルリンクさんから引き継いだ責務、必ず果たさなければ!』

 

訳の分からないことを言っているペイターに対し、シオンは真っすぐに攻め込んだ。デュアルネイチャーの三次元的機動に乱されず、常にトラルテクトリの正面に捉え続ける。一対一ならば、シミュレーターでひたすらに積み上げたものを活かすことが出来た。相手の行動がぼんやりとだが読める。

 

「そらよっ!」

 

パルスブレードの斬撃を絶妙な間合いですかし、シオンは一気に攻撃を集中した。スタッガー直前にチェーンソーに持ち替え展開、無限に繰り返してきた動きで肉薄する。いける。確信と共に振るわれたチェーンソーは、狙い違わずデュアルネイチャーに直撃した。

 

『くぅっ!?なんという動きだ、まさかこれ程とは!』

 

しかし、撃墜するには至らない。ターミナルアーマーを起動させたペイターは追撃を避けて距離を取る。リペアキットを使用し、壊滅的な損傷をなんとか回復させた。相手のACも相当削れているが、こちらも満身創痍だ。それでも退くわけにはいかない。V.Ⅵを継ぐ以上、志半ばで散ったメーテルリンクの分も戦わなければ。ペイター自身にしか分からない理屈で、彼は戦意を更に掻き立てる。と、

 

『こちら司令部、深追いは避けろペイター。インフェクションに生体反応が残っている、離脱を優先しろ』

 

オキーフからの言葉に、ペイターの熱意がぴたりと鎮まった。命令も下り、メーテルリンクも健在。ならば、ここで無理をする必要も無い。

 

『了解。一時後退します』

 

命令に従い、シオンに照準を合わせたまま後退する。スイッチのオンオフが切り替わったかのような情緒の変化は、あまりにも奇異なものだった。

 

「あぁ?」

 

シオンは警戒を解かないまま、メーテルリンクの元に後退していくペイターを見送る。あそこまで勢いよく啖呵を切ったというのに、実にあっさりとした離脱。拍子抜けというか腑に落ちない。とはいえ、助かったことに変わりは無かった。すぐに意識を切り替え自身も離脱を試みる。

 

「切り抜けた、んだよな。だけど、ここからどうする・・・・・・?」

 

周囲だけでは無く、後方も酷い有様だ。封鎖機構の兵器、その大半が吹き飛び残骸が煙を吹いている。爆発に巻き込まれたのだろう、企業のものと思われる複数のMTも戦闘不能状態で転がっていた。途切れ途切れの通信によると、封鎖機構は撤退を判断、残存戦力で企業連合の包囲を突破しようとしているらしい。

 

「というか、コヨーテスの奴らは?」

 

疑問を呟きつつブルートゥへと通信を飛ばす。しかし、繋がる気配すら無い。撃墜された可能性が脳裏をよぎるが、あのような奇人がそう簡単にくたばるとはシオンには思えなかった。最後に共有されたミルクトゥースの位置情報・・・・・・封鎖機構の司令部が置かれていた制御タワーへとブースターを吹かす。

 

「このまま逃げたい所だけどな」

 

依頼として引き受けた以上、最後まで努めなければ。この体になる以前ならば持ち得なかった思考で、シオンは再びの死地へと進んでいく。損傷だらけのトラルテクトリが残骸に満ちた戦場を駆ける姿は、まるで幽鬼のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいな、いい。やっぱり面白い奴だ、お前は!」

 

歓喜の声を上げながら、フロイトはロックスミスを駆りブルートゥへと迫る。何故ミルクトゥースが再起動したのか、彼には分からない。今大事なのは戦いが終わっていないということ。それだけで十分だ。

 

『熱狂的なステップですね、フロイト。今まで踊ってきた中で貴方が一番だ。しかし、私にも譲れないものがある。ここで眠っていただきましょう』

 

今にも機能停止しそうな状態のままミルクトゥースが動く。ジェネレーターはフロイトによって破損し、各部パーツも既に限界を超えていた。明らかに異常だとしても、それを気にする者はここにいない。アラートすら鳴らなくなったコックピットの中、ブルートゥは熱気に炙られながらも微笑んだ。妖艶で、どこか穏やかさすら感じられる笑み。

 

『さぁ、ミルクトゥース。最後の演目です。これが終わったら、カーラの元に帰りましょうか。楽しみですね』

 

一瞬で距離を詰めたフロイトが肉薄する寸前で、ブルートゥは拡散バズーカを放つ。砲塔が吹き飛び、ミルクトゥースを巻き込みながら爆炎が広がった。既に壊れかけの拡散バズーカがパーツ毎爆発したのだ。

 

「っははは!」

 

しかし、フロイトは一切怯まない。ドローンを展開しながら躊躇無く爆炎に突っ込み、砲弾をかわしつつ感覚を頼りにレーザーブレードを振るった。手応えと同時に、超高熱の火炎が同時に襲いかかる。どうやらブルートゥは火炎放射器を盾にしたらしい。冷却が間に合わず、ロックスミスがACS障害に陥ってしまう。それでもフロイトは止まらなかった。

 

「色々あるなぁ、ドーザー!」

 

何もかもを振り切ってブルートゥに肉薄する。スクラップ同然のミルクトゥースをレーザードローンが包囲すると同時、先ほど爆散したものと同型の拡散バズーカを発射した。あらゆる方向からの波状攻撃を避けられるはずも無く、ミルクトゥースの四肢がレーザーによって切断されコアパーツが吹き飛ぶ。

 

『高揚と情熱・・・・・・ですが、それだけでは駄目だ。フロイト、貴方に足りないものは一つ。何を置いても成し遂げなければならないという信念です』

 

最早通信すら機能しているか怪しい状態で、何故かブルートゥの声が聞こえてくる。地面に転がり焦げ付いたコアパーツに、フロイトは展開したレーザーブレードを向けた。

 

「まだ何かあるのか?おい、見せろよ」

 

『見事なものです、やはり私では届かなかった。ですが、勝ったのは私だ。これでようやく、道が開ける』

 

引き千切られたジェネレーターが火花と煙を吹き、パルスの光が明滅し始める。もう一度自爆するつもりか。察したフロイトが距離を取ろうとするが、がくりと動きが阻害された。切り落としたはずのミルクトゥースの腕部パーツが、いつのまにかロックスミスの脚部を掴んでいる。一体どうやって?浮かんだ疑問がフロイトの行動をほんの僅かに遅らせる。

 

『さぁ、受け取ってください』

 

ブルートゥが穏やかに告げると共に、コアが凄まじい勢いで炸裂した。パルスの奔流がロックスミスを再び呑み込み、何もかもを焼き尽くしていく。APが一気に削れる中、フロイトは鳴り響くアラートを無視してライフルを下に向けた。ロックスミスの脚を掴んで離さない腕部パーツに向け銃弾を叩き込む。ペンチのような手首部分を精密に狙った一撃により、強引に拘束を振りほどいた。

 

「やってくれる!」

 

実に楽しそうに声を上げつつ距離を取り、パルスの奔流から抜け出して武装を構え直すフロイト。しかし、パルスが収まった後には何も残ってはいなかった。ミルクトゥースのコアパーツも、そこに搭乗していたブルートゥも。全てが焼き尽くされ、消し飛んでいる。

 

「・・・・・・」

 

動くものが無くなった視界。フロイトはしばらく無言でそれを眺めた後、ゆっくりと戦闘状態を解除した。軽く息を吐き、回線を再度開く。

 

「オキーフ、こっちは終わったぞ。さっきのルートで離脱すればいいな?」

 

『・・・・・・いや、状況が変わった。別ルートを提示する、そちらで撤退しろ』

 

「了解」

 

何かを言おうとして堪えているようなオキーフの指示に従い、フロイトはブーストを吹かしその場を立ち去っていく。まるで気に入っていたおもちゃを失ってしまった幼子のような表情で、最後にブルートゥがいた場所を振り返った。

 

「久しぶりに、面白かったんだけどな」




ブルートゥはミルクトゥースに、採算と安全性度外視の改造を施していました。カーラが組んだミルクトゥースを改造するとかNTRやんけ~~~!!!
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