見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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54.アイスワームを殺すのは

黒煙があちこちで上がり、時折爆発も起きている戦場。封鎖機構及び企業連合の双方が撤退した地点を、シオンは限界近い速力で駆け抜けていた。EN回復を挟みながらもアサルトブーストを吹かし続けているブースターは赤熱し、シオン自身にも相当な負荷がかかっている。しかし、彼は速度を落とす事無く進み続けた。

 

「クソッ!あんなのでも一応依頼主だ、死んでくれるなよ・・・・・・!」

 

既に両陣営が撤退している状況で、シオンがやるべきことは一つ。依頼主であるブルートゥと合流することだ。このまま離脱し、解放戦線の拠点へと向かっても文句は言われないだろうが、せめて無事かどうかだけでも確認しておきたい。あのような狂人でも、シミュレーターで稽古を付けてくれた恩がある。いや、攫われた時点で恩も何も無いのだが。

 

「見えた!」

 

そして、トラルテクトリのカメラアイが制御タワーを捉えた。封鎖機構の防衛戦力は爆破されるか撤退し、企業の兵器も一見して見当たらない。不気味な静寂の中、シオンは速度を落としつつ周囲をスキャンする。が、稼働している機体は一機も存在していないようだ。

 

・・・・・・彼は知らない。ほんの数分前まで、この場にはV.Ⅰフロイトがいたことを。そして、急接近するシオンを確認したオキーフが万が一の事態を避ける為に、フロイトとシオンが会敵しないように撤退ルートを変更したことを。何かが一つでもズレていればシオンはここで落とされていたのだ。と、

 

「これは・・・・・・」

 

トラルテクトリの足元に、恐らくはACのものと思われる頭部パーツが転がっている。融解し原形を保っていないそれはミルクトゥースのものだ。つまりは、そういうことなのだろう。状況を理解し呑み込むまで、シオンはほんの数秒だけ目を閉じた。

 

「・・・・・・そうかよ。まぁいい、これで貸し借り無しだ。化けて出てくるんじゃねえぞ」

 

目を開き、ブースターを再起動する。これで彼を縛るものは何も無くなった。事前のブリーフィングにより、作戦地域周辺のマップはトラルテクトリにインプットされている。後は撤退した封鎖機構と企業連合に気付かれぬよう、近場の解放戦線の拠点に撤退しなければ。下手をすれば、ただの戦闘よりも難しいかもしれない。

 

「まだまだ気ぃ抜けないか。さて、もうひと踏ん張りだぜ、俺」

 

気合を入れ直し、シオンは戦場から離れていく。後に動くものは何も無く、凄惨な残骸まみれの光景が広がるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ビジター、目標が子機を展開した。対処する』

 

チャティ・スティックの言葉通り、アイスワームがドローンのような小型兵器を展開している様子が見える。621は息を整え、他のACと足並みを揃えて前進を開始した。

 

ベイラム及びアーキバス、更にはドーザー勢力であるRaDが一時的に共闘し行われているアイスワーム撃破作戦・・・・・・ミシガン曰く「化け物退治」は、今の所順調に推移している。既に一度シールドを引き剥がし、本体に有効なダメージを与えていた。

 

621はライフルで子機を落としつつ、地中を潜航しているアイスワームを警戒する。繰り返しの中で何度もやってきたとはいえ、アイスワームは気を抜ける相手では無い。今回のミッション用に、左肩のオービットを外しスタンニードルランチャーを積んだ為、機体の機動力も減少しているのだ。細心の注意を払いつつ、アイスワームの頭部にスタンニードルランチャーを直撃させる機を伺う。

 

『V.Ⅳ!次弾装填準備!』

 

『今終わったところだ、ミシガン総長』

 

『抜かりはないようだな、ナンバーに空きがあれば勧誘しているところだ!』

 

『ベイラムの 「歩く地獄」 にそう言われるとはな。光栄だが遠慮しておこう』

 

通信越しに聞こえる声は、レッドガンを率いるG1ミシガンと戦友であるラスティのものだ。621自身の選択によっては、ウォッチポイント・アルファで殺し合いを演じる二人。叶うならば、この周回では二人とも死んでほしくない。ようやく光明が見えてきたのだ。ウォルターだけでは無く、皆で未来に進みたい。

 

『レイヴン、アイスワームが地上に現れます。頭部の機動予測を表示しました』

 

【ありがとう、エア。いつもよりやりやすいよ】

 

全てを打ち明けた結果、エアはより的確なサポートをしてくれるようになった。繰り返しの中で得た知見を彼女と共有したことで、621の戦闘力は以前よりも向上、最適化されている。それはアイスワームが相手でも変わりなかった。

 

巨体をうねらせ、アイスワームが地上へと飛び出してくる。複数の掘削機が回転する頭部が、こちらを向いた僅かなタイミング。621は針の穴を通すような精密さでスタンニードルランチャーを撃ち込んだ。ニードル弾が着弾し放電、電気干渉を引き起こしアイスワームのプライマリシールドを無効化する。

 

『プライマリシールド、消失しました!』

 

『シールド消失確認、レールキャノン発射準備。エネルギータービン、出力80%・・・・・・!』

 

直接の戦場から遥か遠方、オーバードレールキャノンの制御をカーラにサポートされながらラスティが狙いを定めていく。バートラム旧宇宙港から膨大な電力が供給され、タービンの出力が上昇していった。

 

『出力95・・・・・・100。巻き込まれるなよ・・・・・・!』

 

そして、一筋の閃光がアイスワームを射抜いた。セカンダリシールドを消し飛ばし、アイスワームが地表に倒れ込む。二重のコーラル防壁は剥がれ、無防備な状態だ。好機。

 

『G13、貴様の出番だ!顔面に叩き込め!』

 

ミシガンに命じられるより早く、621は既にアサルトブーストでアイスワームの頭部に突撃していた。ミサイルとライフルを撃ち込みつつ肉薄、パルスブレードを叩き込む。後方に下がると同時にスタンニードルランチャーを放ち、同時に僚機達からも武装が撃ち込まれた。確実にダメージを蓄積させている。手応えと共に再度突撃、冷却の終わったパルスブレードで再び斬りかかろうと、

 

『っレイヴン下がってください!コーラルの暴走が!』

 

『離れろ621!』

 

【え?】

 

二重の防壁が再起動する前に、アイスワームのコーラル出力が急上昇した。今までの繰り返しからはあり得ない挙動。経験と記憶に頼っていた621の僅かな隙に滑り込むように、アイスワームがコーラルの赤雷を炸裂させる。

 

【あ】

 

死ぬ。直感的にそれを理解した。回避は間に合わない。機体は耐えられない。極限の状況で、時がゆっくりと流れていく。赤雷が迫ってくるのを見ながら、621の思考は何故か鈍かった。これで終わる。終わってしまう。まだ、ウォルターを助けられていないのに。折角、今までと違う道に進もうとしていたのに。後悔の念も現実には追い付かず、迫り来る死をぼんやりと眺めていた。と、

 

『なにぼけっとしてやがる野良犬っ!』

 

621とアイスワームの間に機体を割り込ませたのは、G5イグアス。彼が即座に動くことが出来た理由は一つ。621のことをずっと注視していたからだ。イグアスは621に対し、憧れとも嫉妬ともつかぬ説明出来ない感情を抱いている。思えば、ダリアのダムで出会った時からそうだった。何故か一々気に障るのだ。

 

だからこそ、イグアスは621の隙に気付いた。彼女の機体が硬直した瞬間、反射的にヘッドブリンガーを突っ込ませる。赤雷が621を焼く寸前でその身を挺して庇い、代わりに焼き尽くされた。咄嗟に展開したパルスシールドは一瞬しか保たず、視界が真っ赤に染まり激痛が全身に走り続ける。

 

『があああぁぁぁっっっ!?』

 

リペアキットを使う間も無くヘッドブリンガーは大破。イグアス自身も多大なダメージを受けてしまった。彼に守られる形となった621は、何が起こったのか分からないのか呆然としている。戦場でここまで無防備な姿を晒すのは普段ならばありえない。ウォルターすら、こんな様子の彼女は見たことが無かった。

 

『呆けている場合かG13!距離を取り体勢を立て直せ!』

 

ミシガンの叱咤に、621がなんとか我を取り戻す。アイスワームは再び二重防壁を展開し地中へと潜った。今の内に脱出出来ていないイグアスを安全な場所へ運ばなければ。通常ならば不可能だと理解出来るはずの思考を浮かべ、621はヘッドブリンガーへ近付こうとする。それを遮ったのは、酷いノイズが混ざったイグアスからの通信だった。

 

『馬鹿が、俺のことは気にするんじゃねぇ・・・・・・!てめぇにはやることがあるだろうが、野良犬!』

 

焼け付く喉を強引に動かし、イグアスは声を絞り出す。気に食わない。こちらを助けようとする動きも、戦場で呆然とする弱々しさも。イグアスには、そんな621が気に食わなかった。

 

『あの化け物をやれるのは、てめぇくらいだ。折角ここまで追い詰めたんだろうが・・・・・・泣きを入れたらもう一発、叩き込みやがれ!』

 

意識が遠のくのを感じながら、イグアスは621を激励する。何故、彼女を庇ったのか。そして、何故彼女に語りかけているのか。分からぬままに、イグアスは力尽きるように意識を失った。

 

【イグ、アス・・・・・・】

 

『レイヴン、彼の言う通りです。今はアイスワームの撃破を!』

 

【っ・・・・・・!】

 

エアの言葉に、621はヘッドブリンガーから離れていく。アイスワームはスネイルとチャティが引き付けているようだ。ならば、自分はスタンニードルランチャーを当てることだけを考えればいい。

 

『やれやれ、手間のかかる駄犬達です。ただ吠えるだけでは無く、仕事はしてもらわねば』

 

『ビジター、こちらも限界が近い。長くは持たないと思ってくれ』

 

嫌味に満ちたスネイルと、ノイズ混じりのチャティの声。二人がいなければ、呆けている間にとっくに撃墜されていただろう。エアから送られてくるアイスワームの機動予測を確認しながら、最適の箇所に移動し照準を定める。

 

『こちらラスティ、レールキャノンの出力を限界まで引き上げる。被害が広がる前に決着を付ける、次が最後の一発と思ってくれ。・・・・・・頼んだぞ、戦友』

 

ラスティの声を聞きながら、621は集中を研ぎ澄ましていく。出力の上がったプライマリシールドは、今まで通りなら最低二発スタンニードルランチャーを当てなければ無効化出来ない。しかし時間が無いのだ。イグアスの救助を急ぐには、一撃で決めるしかない。

 

スネイルとチャティを振り切り、アイスワームが地中から顔を出す。瞬きを忘れた621には、コーラル防壁の揺らぎすら見えていた。それが最も薄い箇所・・・・・・頭部の中心部へと放つ。帯電したニードルが飛翔する、永遠にも思える刹那。彼女の中では時が止まっているかのようだった。そして、着弾。出力が上がっているはずのプライマリシールドが、一撃で消失する。

 

『プライマリシールド、消失しました!』

 

『よくやってくれた、戦友!EMLモジュール全点接続、エネルギータービン全開。出力80・・・・・・90・・・・・・緊急弁全閉鎖、リミッター解除・・・・・・!』

 

カーラによってリミッターを解かれたオーバードレールキャノンが、唸るような声を上げ始めた。大気が振動するような圧迫感を受けながらも、ラスティは地中から現れるであろうアイスワームに狙いを定める。先ほどの621の射撃はまさに神業だった。ならば、自分もそれに応えなくては。

 

『100・・・・・・110・・・・・・115・・・・・・レールキャノン最大出力、これで決める・・・・・・!』

 

勢いよく飛び出してきたアイスワームが周囲に赤雷を放出する直前。限界を超えて出力を高められたオーバードレールキャノンの一撃が、アイスワームの体を穿ち貫いた。鉄壁の防御を誇るコーラル防壁が完全に消失し、アイスワームはその巨体を地表に横たえる。しかし、まだ機能停止には至っていない。

 

『後は任せたぞ、戦友!』

 

ラスティの声に後押しされるように、621はアイスワームへと突撃した。ここで終わらせる。極限まで出力を上げたパルスブレードの刀身を、掘削機と掘削機の間に突き入れねじ込んでいく。スパークと共にアラートが鳴るが構わない。強引に引き抜き、アイスワームの頭部に出来た穴からコーラルが血液のように飛散した。そこにスタンニードルランチャーの砲身を突っ込み、射出。

 

【おわっ、らせる!】

 

直接叩き込まれたニードルが放電し、アイスワームを内部から焼き焦がしていく。あともう一押し。621はスタンニードルランチャーをパージしながらアサルトアーマーを起動した。コーラルの爆発とパルスの奔流が混じり合い、全てを塗り潰す閃光となって辺りを照らし出す。そして、アイスワームは内部コーラルの連鎖爆発を伴いながら、のたうつように巨体を伸ばしていった。

 

『爆発するぞ、離れろ!』

 

地中から突き出した歪んだオブジェのような体勢で、アイスワームがひと際大きな爆発を起こす。その後、反応を消失。氷原の怪物は、完全に機能を停止した。




アイスワームは621が唯一単独で撃破出来なかった超兵器です。抱き枕にしたい。
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