見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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56.未来の先に

ベイラムとアーキバス。二大企業グループの一時共闘により戦況は覆り、惑星封鎖機構は保有戦力の過半を喪失。星外への撤退を余儀なくされた。決定打となったのは、ベイラム主導によるアイスワーム掃討作戦である。さらに、アーキバスが主導となって行った執行部隊及び強襲艦隊への襲撃において原因不明の爆発が頻発。アーキバスの戦力及びベイラムのMT部隊は多大な被害を被った。これは両社のパワーバランスをより拮抗させる結果となり、企業陣営の消耗を見込んでいたルビコン解放戦線にとって、好都合な状況となった。

 

そして。惑星封鎖機構という共通の敵を失い、集積コーラル到達競争が再燃するかと思われた矢先、各勢力は驚愕の情報を入手することとなる。ウォッチポイント・アルファ。封鎖機構が高度に欺瞞を施し、アイスワームが撃破されたことで場所が明らかになったコーラルの集積地点と思われる場所だ。

 

そこに、既に立ち入っている存在がいる。恐らくは傭兵集団のブランチ、及びそれを補佐する何者か。戦火の熱が収まらぬ内に情報収集に乗り出していた各勢力は、殆ど同時にこの事実に気付く。しかし、即座に行動には移せなかった。

 

二大企業は先の戦いによる消耗。解放戦線は元々の戦力の少なさから、強引な手段を選べない。更には、拮抗したパワーバランスによる勢力間の牽制も激しくなっていた。結果、ウォッチポイント・アルファ周辺には二大企業の戦力が展開しつつも、突入する部隊はいない。中でブランチがどうなっているのかも、何も掴めていないようだ。

 

そんな中、無事に解放戦線への帰還を果たし、十分な休息を取って心身共に回復させたシオンは、

 

『っしゃあ!こいつで四勝目ぇ!』

 

いつも通り、戦闘シミュレーターでトラルテクトリを駆っていた。

 

『くっ・・・・・・!』

 

シオンの相手を務めていたフレディは、チェーンソーによって戦闘不能に追い込まれた事実に表情を歪ませる。以前よりも彼女は格段に強くなっている。最早、フレディでは相手にならない程に。

 

ここは封鎖機構の一拠点。シオンが帰還した拠点とはまた別の、より規模の大きい場所である。輸送ヘリに揺られて今朝早くにここに到着したシオンは、休憩もそこそこに戦闘シミュレーターを起動した。共に移動してきたフレディを誘い、仮想空間での模擬戦に興じているのだ。

 

『お疲れ、フレディさん。そろそろ休憩挟もうか?』

 

『いや、もう一戦付き合ってくれ。全敗で引き下がるわけにはいかない』

 

敵意に近い戦意を漲らせるフレディ。シオンが帰還してからの彼は、ずっとこのような様子だ。シオンには、それがなんとなく嬉しい。何かを隠すわけでも誤魔化すわけでもなく、感情を向けられる。あるいは、ライバルや戦友として認められた証なのかもしれない。

 

『了解。条件はさっきと同じで・・・・・・エリアはランダムでいいか?』

 

『構わない』

 

『よっし、それじゃもう一度始めるぜ!』

 

意気揚々と告げ、五度目の戦闘シミュレーターを起動する。場所は起伏があり、何かの残骸が横たわっている砂漠・・・・・・ボナ・デア砂丘のようだ。シオンはいつも通りブースターを吹かし、適時スキャンを飛ばしながら周囲を警戒する。

 

フレディのAC、キャンドルリングは地上での機動力に長けた軽量タンク型ACだ。その分装甲は薄いが、両手のハンドミサイルと両肩の二連グレネードの火力は高い。つまり、それらを掻い潜り肉薄する必要がある。実際、今までの四戦は距離を詰めてからスタッガーを取り、チェーンソーを当てることで勝ってきた。今回、相手はどう出るか。

 

『っと、そっちか!』

 

スキャンに反応がある。想定外の方向だ。どうやら、砂丘の稜線を利用して大きく回り込んできたらしい。シオンは即座にトラルテクトリをそちらに向け、アサルトブーストで突撃する。距離を取っていてもハンドミサイルに追い回されるだけだ。しかし、

 

『うおぉっ!?』

 

稜線を超えるタイミングで、キャンドルリングからグレネードが放たれる。しかし、トラルテクトリをロックして撃ってはいなかった。それ故アラートが鳴らず、シオンの反応が遅れる。大量の砂を巻き上げながら四発のグレネードが爆発し、トラルテクトリの装甲を多少焼いていく。

 

『クッソ、どこだ!?』

 

砂塵に飲み込まれ、フレディの位置を特定できない。レーダーで確認するもまたしても反応が遅れ、気付いた時にはキャンドルリングが目の前まで迫っていた。チェーンソーに持ち替える暇も無く、AC同士がぶつかり合う。衝撃。体勢を立て直し反撃しようとするシオンだったが、フレディはハンドミサイルを放ちながら砂塵を盾に離脱してゆく。ミサイルを回避するも距離を離され、仕切り直しとなってしまった。

 

『上手いことやるじゃないかよ、フレディさん!』

 

『認めてやる、お前は強くなった。だからこそ手段は選ばない。今回は勝たせてもらうぞ!』

 

砂塵が風によって吹き飛ばされ、キャンドルリングが姿を現す。距離を維持した状態でトラルテクトリと対峙し、フレディは勇ましく吼えた。感情が迸るような声を受け、シオンの目が見開かれる。

 

『・・・・・・へへっ、褒めてくれて嬉しい限りだけど、手加減は出来ねえぞ!』

 

『当然だ、本気で来い!』

 

会話の後、再び二機のACが動き出した。互いに、先ほどよりも動きが冴え渡っている。銃火を交えながら激しく機動するそんな様子を、画面越しに見つめている者達がいた。一人は、解放戦線の帥父たるサム・ドルマヤン。もう一人は、軍事指導者である帥淑、ミドル・フラットウェルだ。

 

「どうやら、リング・フレディは一皮剥けたようですな」

 

「うむ。結局の所、上達とは己の内より見出すもの。それを引き出す戦士に恵まれたようだ」

 

どうやら、二人は最初から戦闘シミュレーターの様子を確認していたらしい。帰還したシオンがどれ程成長したのか。そして、精神的に追い込まれていたリング・フレディの現状はどうなのか。二人の戦いを通して確かめていたのだ。

 

現在、解放戦線の中央氷原支部には四人の有力なAC乗りがいる。サム・ドルマヤンにミドル・フラットウェル、リング・フレディにシオン。ベリウス地方にはインデックス・ダナムとリトル・ツィイー、六文銭の三人がいるが、ダナムはグリッド012での戦闘により負傷、現在療養中だ。他にもAC乗りは存在しているが、防衛はともかく攻勢の戦力に数えるには未熟な者達ばかりである。

 

「これならば、ここから先の戦いでも活躍してくれることでしょう。問題は、優秀な戦士である彼らを如何なる戦場に投入するか。先程の話通り、暫くは静観で構わないと?」

 

「我々の戦力では、正面からウォッチポイント・アルファ深奥に到達することは困難だろう。ならば、企業が睨み合っている間は戦力を温存させるべきである。例え侵入者が集積コーラルに到達したとしても、それを星外に持ち出すのは現状不可能。全てを賭ける場はまだ先にあろう」

 

ドルマヤンが発するしわがれた声は、しかし気力が漲っている。汚染市街より救出されてから、ドルマヤンは往年の明晰さを取り戻していた。経験から来る戦略眼と勝機を捉える感覚はフラットウェルすら凌ぐ。故に、最近のフラットウェルはドルマヤンの補佐に徹していた。解放戦線の勝利にはそうするのが正しいと、合理的に判断したからである。

 

「では、そのように進めます。一つ問題を上げるなら、ブランチのバックアップをしているであろう組織が掴めていないことですが・・・・・・」

 

「察しはついている。その件は、私に任せておけ」

 

有無を言わせず断ずる口調に、フラットウェルは静かに頭を下げた。全てを話していないのはこちらも同じだ。企業にも太いパイプを持つ彼はあらゆる策謀を張り巡らせている。それをドルマヤンに伝えていないのは、リスクを極力減らす為だ。

 

情勢の裏を覗き込み、解放戦線の有利になるように糸を引く。そのような謀議は、関わる者が少ないに越したことは無い。どこから情報が漏れるか分からない故に。だからこそ、フラットウェルはドルマヤンに言及することは無かった。帥父には帥父の事情があり、それはルビコンを救うことに繋がっている。彼はそう信じていた。

 

と、二人が話し合う内に模擬戦が終了したようだ。画面に映っているのは、炎上し動きを止めたトラルテクトリ。グレネードの四連撃を叩き込み、フレディがシオンから勝利をもぎ取っていた。

 

『はぁっはぁっ・・・・・・ようやく、一勝・・・・・・!』

 

『だあぁクッソ!ミサイルで動きを誘導されたかぁ・・・・・・!』

 

奮闘した二人を見ながら、フラットウェルは口元を僅かに綻ばせる。ルビコンが真なる自由を取り戻した後、新たな時代を作っていくのはシオンやフレディといった年若い者達だ。そんな彼らの成長は素直に喜ばしい。嬉しげなフラットウェルの様子に、ドルマヤンは独り言のように呟いた。

 

「道を切り開くのが我らの役目、か。「向こう側」へ行かず、人としての生を取り戻す。それこそが、為すべきことだろう」

 

「叶うならば、誰一人死なずに成し遂げたいですが・・・・・・」

 

笑みを消し、答えるフラットウェルの声は重苦しい。企業との全面衝突になれば、小康状態の今とは比べ物にならない数のルビコニアンが死ぬ。二人は、そんな当然なことを深く理解していた。現在に至るまでの長い戦いの中、同胞の死を積み重ねながら抗い続けてきたのだから。

 

それでも。それでも、ルビコニアン達は自由を諦めなかった。命を賭して苦境を耐え忍んできた。そして、消耗した二大企業に比べれば僅かに有利な状況まで持ち込むことが出来たのである。勝利への道筋は見えている。ならば、後は機を逃さず戦うだけだ。───それによって発生する犠牲を、一切厭わずに。

 

「灰かぶりて我らあり。立ち向かい、灰と化した同胞達に報いるには一つしかない。自らも灰と化してでも、ルビコンの運命を切り開く。分かっているだろう、フラットウェル」

 

「ルビコンに戻ってきたあの日より、とうに覚悟は出来ています。灰かぶりて、我らあり」

 

かつて無意味と切り捨てていた警句を呟き、フラットウェルは画面から視線を逸らした。目的の為ならルビコニアンを使い捨てることも厭わない。そんな彼にも、人の情というものがある。願わくば、同胞の死が無意味なものにならないように。自由の礎となれるように。久方ぶりの祈りは、フラットウェルの心に僅かな熱をもたらしたのだった。




うおぉ完全オリジナルルート解放!
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