見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
ウォッチポイント・アルファ内、深度2。補給や修理もままならないような状況で、ブランチメンバー及びスッラは慎重に慎重を期して進んでいた。深度1に鎮座していたネペンテスは数の有利を活かし攪乱、更には遮蔽を活用することで消耗を避けつつ接敵に成功。比較的順調に無力化することが出来ていた。
しかし、現在は順調とは言い難い。夥しい数の防衛兵器に、それを統括する強制執行システム。そして、縦横無尽に機動する大型無人機体。天井が低く狭い通路では数の有利を活かせず、損傷を極力避けていることもあり進撃速度は鈍くなっている。
しかし、それでも彼らは熟練のAC乗りだった。オールマインドより提供される情報を頼りに制御室の場所を特定。キングとレイヴンが派手に暴れ、無人兵器を引き付けている内にシャルトルーズとスッラが換気ダクトより制御室への侵入を成功させる。制御盤をハックし迅速に隔壁を開くことに成功していた。
『封鎖区域への侵入者を検出。防衛プログラム、フェーズ3.0。強制執行モードに形態移行、対象を排除します』
そして。隔壁の先、大きく開けた場所に待っていたのは、道中幾度も襲撃をかけてきた無人機体。変形機構を有するそれは、出力を引き上げ彼らに襲いかかる。
『敵機の解析が完了、情報を共有します。「エンフォーサー」。惑星封鎖機構の開発した試作無人兵器であり、ウォッチポイント重要区画の防衛および侵入者の確実な排除が目的の様です。排除をお願いします、ブランチ』
『出し惜しみして勝てる相手ではありません。高出力のレーザー、及び近距離でのレーザーパイルに気を付けてください。それと、装甲の材質からEN攻撃が弱点の可能性があるわ。留意を』
オールマインドとレイヴンのオペレーターから与えられる情報を元に、四機のACはエンフォーサーを囲むように動き出す。正面にはパルススクトゥムを展開したキング、右側面には火力に優れたシャルトルーズ。後方にはレイヴンと、残った左側面にスッラ。万全の布陣である。
『こちらへ引き付ける、火力を集中し一気に落とすぞ!』
『言われなくても分かってるって!』
高出力レーザーを受け止めながら応戦するキング。横合いからシャルトルーズがレーザーにバズーカ、グレネードを一気に叩き込んでいく。スッラは距離を取り巻き込まれないようにしつつ、こちらも拡散バズーカにミサイル、パルスガンで攻撃。エネルギーによる閃光と炸薬の爆発が立て続けにエンフォーサーを襲い、瞬く間にスタッガー状態に陥った。
生まれた隙にレイヴンがパイルの撃鉄を起こし肉薄する。アッパーカットのように振り上げられたパイルが、エンフォーサーの装甲に触れると同時に炸薬が爆発。押し出されたパイルが容易く装甲を貫いた。通常ならば致命傷である損傷を受け、しかしエンフォーサーはスタッガーから動き出す。
『フェーズ3.5、パターンE。出力リミッター解除。各部アクチュエータ駆動コスト、および上限値再設定。侵入者を排除します』
変形しながら右腕のレーザー兵装を下へと叩きつけると、エネルギーの衝撃波が発生し全周に流れていく。しかし、AC四機による包囲は崩れない。シャルトルーズはホバー機構により浮遊しておりそもそも当たらず、レイヴンとスッラはジャンプで回避。キングは衝撃波を悠然と受け止めつつ、するすると前に進んでいった。
『悪いが、速戦で終わらせてもらう!』
アサルトアーマーの光がキングのアスタークラウンから放たれ、エンフォーサーを呑み込む。次いで三連装レーザーを至近距離で撃ち込まれ、再びスタッガーまで追い込まれてしまった。更には他三機からの容赦無い追撃に晒されたエンフォーサーは、これ以上の反撃もままならない。
『脅威レベル7・・・・・・8・・・・・・機密封鎖に対する・・・・・・危険因子と・・・・・・判定・・・・・・』
激しいノイズが混じった通信を最後に、エンフォーサーは機能を停止した。ブランチ側はアスタークラウンが多少ダメージを受けた程度で、他三機は無傷と言っていい。完勝である。
『敵機の完全停止を確認。流石の実力です、ブランチ』
『ふぅ・・・・・・お世辞はいらないよ。それで、この先の解析は?ここまで到達したんだ、周辺の情報はそっちに送られてるはずだけど』
『現在、オールマインドと共同で解析を進めています。しかし、これは・・・・・・』
シャルトルーズの催促に、レイヴンのオペレーターが言い淀む。解析によって観測されたもの。それは、地下へと続く空間を、まるで蓋をするかのように網状の熱源が展開している状況だった。
『恐らく、極めて高出力のレーザー障壁が展開されているのでしょう。地下空洞中央の熱源・・・・・・巨大高炉が発生させていると考えられます。侵入ルートを計算中、暫しお待ちください』
『丁度いい、それならば一時休息としよう。時間を掛けることも作戦目的の内だ、逸ることも無い』
キングは他三人に告げつつアスタークラウンの戦闘モードを解除する。いち早く行動に移したのは、スッラに対する警戒の裏返しだろうか。シャルトルーズがキングに続いてシステムを通常モードに移す中、スッラは無言でブレンチメンバーを見つめていた。と、レイヴンのカメラアイがこちらを向いている。目と目が合う状況に、皮肉げな笑みを浮かべ口を開いた。
「そう警戒する必要は無い。少なくとも、集積コーラルに辿り着くまでは味方ということだからな」
『スッラ、発言は許可していません。通信回線を一時的に遮断します』
やや苛立った様子のオールマインドが回線を遮断し、スッラの言葉がそれ以上ブランチに届くことは無かった。時折見せるオールマインドの稚拙な判断に、スッラは笑みを深くする。駒として利用されている彼のささやかな仕返しだ。
程無くして、待機させていた補給シェルパが到着した。突入時に隔壁内部へと移動させ、安全を確保した各所に配置していたのだ。弾薬にリペアキット、食糧も積み込まれている。しかし、AC四機にとって万全な補給とは言い難い。補給シェルパの積載量はそれ程多くなかった。
各々ACの整備や食事を取りつつ、次なる戦闘に備える。既に相当深くまで降りてきたが、目的地であるコーラルが集積している場所までどれだけかかるかは分からない。ここよりさらに下・・・・・・ウォッチポイント・アルファの構造はオールマインドとレイヴンのオペレーターが解析を進めているが、深度3より先は殆どの情報が得られていなかった。分かっているのは、更なる地下空間が広がっているということだけである。
───オールマインドは知っている。この先にある、惑星ルビコンにおいて最も重要な区域のことを。ルビコン技研都市。かつてアイビスの火が起きる以前、ルビコンにおける技術の粋が集っていた場所だ。
ブランチを雇い、数少ない手駒であるスッラすらも派遣したのは集積コーラルの確保だけが目的ではない。ルビコン技研都市に眠る数々のC兵器。それを手中に収めコーラルリリースの為の尖兵とする。オールマインドはそのように目論んでいた。
現在の状況はある程度想定通りだ。ブランチを味方に引き込み、ルビコン技研都市へと進撃している。ウォッチポイント・デルタにおいて、スッラをコーラル変異波形に接触される試みはC4-621の規格外の戦闘力により断念したものの、コーラルリリースの実行はまだ可能だ。そう、オールマインドは判断している。と、
『・・・・・・ウォッチポイント・アルファ、入り口の隔壁へのクラッキングを確認。及び輸送ヘリ一機が接近中。識別コード、ハンドラー・ウォルターと推測されます。即ち、投入されるAC戦力はC4-621レイヴンでしょう』
オールマインドからの通達に、雰囲気が一気に引き締まる。ついに来た。拮抗状態の中、最初に乗り込んできたのは独立傭兵レイヴン。企業の依頼を受けたのか、あるいはハンドラー・ウォルターの独断か。いずれにせよ、これで戦局が動くことは確かだ。
『制御下に置いた無人防衛兵器を用い迎撃を行います。貴方達は更なる降下をお願いします、時間を掛ける必要はもうありません』
コーラルリリースの鍵となる621が、わざわざ向かってきてくれるのは僥倖である。ルビコン技研都市に至り、そこで手に入れたC兵器群で621を撃破し鹵獲。そうすれば、人類の新たな可能性を拓くことが出来るだろう。己らしからぬ高揚と共に、オールマインドはこの先の展開を組み立て始めた。
『・・・・・・参ったね。不測の予測といっても限度がある』
「・・・・・・」
時間は遡る。中央氷原に点在する隠しガレージで、ウォルターはカーラと秘匿回線による通信を行っていた。議題は一つ。先ほど621から伝えられたことについてである。
『繰り返しの方は眉唾ものだとしても、コーラル変異波形については十分にありえる話だ。昔、技研でも観測したことがある。全く、笑えてくるね』
「・・・・・・いずれにせよ、俺達が取る選択は変わらない。コーラルを焼き、友人達の遺志を・・・・・・」
『そんな死にそうな声で言われても説得力が無いよ。ビジターが初めて自分の意志を示したんだ。本来なら、喜ばしいんだけど』
いつもより明らかに顔色が悪いウォルターに、物憂げに眉間を押さえるカーラ。二人がここまで衝撃を受ける程に、先ほどの話は荒唐無稽だった。しかし、幸か不幸か説得力はある。何しろ、オーバーシアーの存在と目的すら把握されていたからだ。
オーバーシアー。コーラルの潮位を観測し、手遅れになる前に焼き払う為に生まれた組織だ。コーラルの完全な根絶こそが、ウォルターがルビコンに訪れた理由でもある。
「そう、だな。621の自我は、こちらの想定以上に育まれているようだ。だが・・・・・・」
企業も見抜いていないウォルター達の目的を、621は正確に把握していた。それどころか、集積コーラルの在処すら知っているようだ。ウォッチポイント・アルファの最深部。ルビコン技研都市にこそ、集積コーラルは眠っている。そして、アイビスシリーズに防衛されている、と。
恐ろしいのは、伝えてきた情報はどれも有益かつ現状と照らし合わせて齟齬が無いということだ。繰り返しの中、得てきた知識だと621は言っているが・・・・・・そのような事象、到底信じられるものでは無い。しかし、そうでなければ説明がつかないのも事実である。
『どうする、ウォルター。時間は限られている。いつまでも頭を抱えてうんうん唸っていても、状況は変えられないよ』
「・・・・・・」
621はウォルターに伝えた。【私は、ウォルターを救いたい】と。繰り返しの中、一度も救えなかった恩人を助けたいのだと。コーラルを焼いても、ルビコニアンに味方しても、コーラルリリースを成し遂げたとしても。ウォルターは救えなかったのだと。だからこそ、イレギュラーが発生している今こそ貴方を救いたいのだ、と。
・・・・・・正直な話。ウォルターの精神は混乱の極みに陥っている。伝えられた情報を抜きにしても、621がここまでこちらのことを慕っているとは考えていなかったからだ。幾度も死地へ送り込み、使命の重荷を背負わせようとしている自分に何故。その疑問が、ウォルターの思考をかき乱している。
『・・・・・・はぁ。まぁ、そうなるのも仕方ないか。一応、こっちの方で準備は進めておくよ。いずれにせよザイレムは浮上させる必要がある。どの道を選ぶとしても、戦力が足りないのには変わらないからね』
「・・・・・・すまん、カーラ」
『いいさ、存分に悩みな。まだ後戻り出来る内に』
通信が切れた後も、ウォルターは一人椅子に座り込み、ぼぅっと虚空を見つめていた。分からない。どうすればいいのか、判断がつかない。
コーラルは必ず焼き尽くさねばならないものだ。あれは、己の父が見出した災厄なのだから。例えどのような犠牲を払おうとも、文字通り惑星一つを灰と化してでも成し遂げなければならない使命。
しかし、621は言う。そうすれば、貴方は死んでしまうと。そして、621の友人であるコーラル変異波形も同様に死んでしまうと。つまり、ウォルターは621の友人を殺そうとしているのだ。
分からない。義務感と使命感で精神を塗り固め、鉄の如き意志でここまでやってきた。買い取った猟犬達を使い潰し、621すらも体よく利用して。既に血に塗れた手には、同じく血塗れのリードが何本も握られている。それは全て、己のエゴによって生じたものだ。
父の罪を清算しなければならない。その為ならば、どれほどの犠牲も厭わない。少年の頃から、ウォルターはそうやって生きてきた。それ以外の生き方を、彼は知らない。良心の呵責に苛まれながらも、躊躇無く、冷酷に道を歩んできたのだ。そんな自分が、救われていいはずが無い。本能的な拒否感が湧き上がり、ウォルターは喉の奥からこみ上げてくるものをなんとか飲み込んだ。
「っ、ぐ・・・・・・」
それなのに。それなのに、こんな罪深く愚かな自分を、621は救いたいと言う。生きてほしいと、願われている。どうすればいい。何も、何も分からない。己の内側から、幾百もの灼けた針が皮膚を突き破ってくるような罪悪感。答えを得られないまま、ウォルターは苦悩し続ける。まるで無限地獄のような時間は、日が昇っても終わることは無かった。
ウォルターにとって、コーラルを焼かないという選択肢は本来ありえません。ですが、今回ばかりは揺らいでいます。優しいが故に残酷な彼は、どのような選択をするのでしょうか。