見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「それで、結論は出たか?」
「えぇ、まぁ。戦いますよ。今の俺にはACに乗ること以外役立てそうもないんで」
ガリア多重ダム、夜。夕食を済ませた少女は、ダナムの私室に訪れていた。部屋の主は少女を見やり、軽く溜め息を吐く。
「ふうぅ・・・・・・。そうか、分かった。歓迎しよう」
「明らかに歓迎してる表情には見えないけど・・・・・・」
少女の言葉通り、ダナムの顔には渋面が浮かんでいた。彼が少女をAC乗りとして受け入れられない理由は二つある。一つ、中身がどうあれ見た目が幼い少女であること。彼の戦士の誇りとして、ここまで年齢の低い者を戦場に立たせるのは憚られた。
二つ、少女のことを企業からの密偵ではないかと疑っていること。いくらミドル・フラットウェルからの命令とはいえ、ダナムは少女を登用するのは危険だと考えていた。とはいえ、解放戦線の戦力がひっ迫しているのも事実。賭けに近いフラットウェルの案に、渋々同意したのである。
「・・・・・・正直に話そう。俺は、貴様を信用してはいない。その上、中身がどうであろうと年端もいかぬ子供を戦場に立たせるのは反対だ」
「ま、そう言われればその通りだと思うけどよぉ。だったらなんで俺を味方に引き入れようとしてるんです?」
「貴様のAC乗りとしての能力は非常に高い。知っているだろうが、我ら解放戦線は略奪者である企業共に押され気味だ。たとえ妖しげだとしても、同志の暮らしを守る為ならば力を借りたいのだ」
感情を抑えるように話すダナムに、少女は少々驚いていた。思っていた以上に、目の前の偉丈夫は誠実な男らしい。こちらを疑っていたとしても、逆に騙そうとする気が一切無いようだ。
「ダナムさん、あんた真面目だなぁ。そんなの、俺に伝えずに適当に誤魔化してりゃいいのに」
「それは、気に入らん。俺は策術を弄せる性格ではないのだ。どうせ見抜かれるのなら、最初から全てを明かしてしまった方が良い」
「そりゃまぁそうだけど。なんつーか、俺にとってはありがたいですよ。解放戦線に協力してる内は裏切らないってことだろうし」
その言葉で眉間の皴を深くするダナムに、少女は苦笑を浮かべる。存外、目の前の男は腹芸が苦手なようだ。自分も得意な方ではないので、正直助かると思いつつ言葉を続ける。
「まぁ、俺を信用しろってのが無理な話ですしね。とりあえず、言われる通りに働きますよ。この体、強化手術の効果か凄いACを動かしやすいから戦力になれると思うし。潰しの利く傭兵としちゃあ便利に使えるんじゃねえかな」
「うぅむ・・・・・・その言い方は引っかかるな。こちらとしては貴様を物の様に使い潰す気は無い。我らの信条を理解し、本当の同志となれるのならばそれに越したことはないのだ」
ダナムが絞り出すように呟き、強い感情がこもった視線を少女に向けた。熱を感じる瞳は、真っすぐに彼を貫いている。
「・・・・・・俺は、ルビコニアンじゃないですからね。運良くルビコンに密航出来た薄汚い傭兵に過ぎません。だから、あんた達が掲げるコーラルとの共生って理念も理解出来てる訳じゃない。所詮は外部の人間ですから」
切なそうに口を開きつつも、ダナムの視線を正面から受け止める少女。誤魔化したり逃げたりする気は到底無いようだ。
「ただ、痩せても枯れても俺は独立傭兵だ。一度交わした契約は裏切らないつもりです。何よりも、報復が怖いからさ」
「・・・・・・!」
真剣に見つめ返す少女の瞳に、ダナムは戦士の気概を感じた。少なくとも企業所属の傭兵ではこうはいかないだろう。じわりと感じる少女の熱を感じつつも、唸るように言葉を返す。
「・・・・・・ならば。我々が戦う理由も理解してもらわなければならない。解放戦線に与するルビコニアン達は、ただ自らの生活を犯してほしくないだけなのだと」
「そっちの懐事情はある程度把握してますよ。まぁ、こればっかりは時間をかけたいな。俺みたいな能無しでも、ルビコン解放戦線の事情をちゃんと理解出来る程度には」
困ったような表情で笑う少女。道理の通った返事に、ダナムはそれ以上言い募ることは出来なかった。彼も理解してはいた。封鎖機構からルビコン3からの離脱を指示されている上、星外企業が攻め寄せている現状は普通ではないと。いくら解放戦線の同志達が抗おうと、尋常な手段では遠からず滅びるだけだと。
「貴様は・・・・・・我らの状況を理解した上で、協力するというのか?」
「まぁ、はい。あんたらの理念を理解するには時間がかかるけど、ACに乗って戦う分には関係無い。食い扶持を稼ぐ為に戦うのには慣れてる。俺をどう利用するにせよ結局は戦場に放すしかないんだから。それに、追い詰められている方に協力した方が分け前も多く貰えそうだからな」
肩をすくめて言う少女は、見た目に似合わず達観しているような雰囲気だ。そこには若さ故の無謀さは感じられない。数十秒思案したダナムは、ゆっくりと口を開いた。
「いいだろう。ならば、こちらも貴様を精々利用するとしよう」
「あぁ。よろしく頼みますよ、ダナムさん。俺を上手く使ってくれ。出来れば、少しは尊重してくれると嬉しいけど」
少女は気軽に言って、へらりと笑いつつダナムに視線を送る。こんな者を味方に引き入れるとは。内心、ダナムは苦いものを呑み下していた。
「・・・・・・ふん、当然だ。共に戦うのならば、相応の待遇は約束する。下がってくれ。貴様が搭乗するACは未だ準備出来ていないのだ」
吐き捨てるように告げるダナム。しかし、少女は可愛らしく微笑んで口を開く。
「あー・・・・・・一応、俺の名前の方は決まったみたいです。アーシル達に決めてもらったんですよ、いつまでも名無しのガキって訳にもいきませんし」
「そう、か。貴様はそれでいいのか?」
「そうっすねぇ。元の名前を名乗るのが無理ってのは結構キツいけど、まぁその内慣れますよ。折角色々飛び回って考えてくれたらしいからさ」
少女の境遇に嘘が無いとすれば。以前とは程遠い肉体で、己の名を捨てて生きるのは相当にストレスだろう。ダナムは顎をさすりながら少女をじっと見つめた。軽薄に振る舞っているのは、防衛本能がそうさせているのか。
「分かった。帥淑にも伝えておこう。それで、貴様の名はなんだ?」
ダナムの問いに少女は答える。アーシル達が苦心して考えた、今後の己の名前を。
「シオン。それが、今の俺の名前です」
「・・・・・・そうか。では、これから頼むぞ、シオン」
その言葉に、少女・・・・・・シオンは微笑みながら頷いた。その様は、年端もいかない娘のようにしか思えない。たとえ、中身がどうであれ。
「じゃあ、俺は失礼します。あ、私って言った方がいいのか?」
「そこまで強制はしない。今はゆっくり休んでくれ。ACを用意出来たら、すぐに知らせよう」
「そりゃあありがたいっすね。あぁ、そうだ。ちょっと頼みがあるんですけど」
「なんだ」
真面目な表情で言うシオンに、ダナムは身構える。が、続く言葉は至極当然なものだった。
「シミュレーター、自由に使えるように取り計らってくれませんか?以前と今じゃあ、ACの操縦にズレがあるんで。実際に戦場に出る前に、出来るだけ経験を積んでおきたいんですよ」
「それならば俺から許可を出しておこう。明日の朝からでもシミュレーター室には出入りして構わない。願わくば、再び手合わせを願いたいものだ」
「あぁ、まぁ。機会があれば」
卑屈にすら思える笑みを浮かべるシオンは、そのまま頭を下げ部屋を後にする。残されたダナムは腕を組み瞑目しながら、これからのことに思考を回した。星外企業の攻勢は強まり続け、解放戦線の戦力は減耗する一方だ。シオンと名付けられた彼が心から助力してくれるのならば、それに越したことは無い。
だが。ダナムの脳内には疑念が渦巻いていた。そんな都合のいいことは起こりえない。長年の経験から、シオンの助力には懐疑的なのである。
「・・・・・・。コーラルよ、ルビコンと共にあれ」
警句を唱え、ダナムは肩の力を抜いた。考えても仕方の無いことだ。今は、警戒を緩ませること無く構えているしかない。己の至らなさを悔やみつつ、ダナムは床に着くのだった。
「企業の傭兵が来たぞ!」
「もう情報が流れたのか!?耳聡い奴め・・・・・・!」
ベリウス南部に位置する居住区画。コーラルによる汚染が広まっている為汚染市街と呼ばれている場所で、解放戦線の戦士達は慌ただしく戦闘配備についていた。
つい先日、ここには移設型の砲台が配備された。戦略的価値の薄いこの場所に何故配備されたのか、解放戦線の殆どの人間は真の意味を理解していない。ただ、星外企業の侵略に備える為だと思い込んでいた。
真の理由。それは、この汚染市街にはかの帥父、サム・ドルマヤンが存在しているということだ。ルビコン解放戦線の設立者にしてリーダー。しかし、現在の解放戦線の実権はミドル・フラットウェルが握っている。ドルマヤン本人の気力が衰えていることもあり、彼はここでひっそりと隠居させられていた。この事実は、殆どの解放戦線メンバーは知らない。
「来たな・・・・・・企業の狗め・・・・・・!守りを固めろ!砲台を死守するぞ!」
それでも、単騎で乗り込んできたACに対して彼らは勇敢に戦った。前線のMTやガードメカ、小型ヘリで足止めしつつ砲台で狙い撃つ。単純だが効果的な戦法だ。・・・・・・相手が、平均的なACであれば。
「敵襲!砲台を狙われているぞ!迎撃しろ!」
アサルトブーストとクイックブーストを巧みに組み合わせ、襲撃者は容易く防衛線をすり抜ける。照準を合わせる間も無く後方に回り込まれた砲台には、反撃の術が残っていなかった。的確に銃弾が撃ち込まれ、炎上と共に爆発してしまう。
「撃て、包囲しろ!」
軽快な襲撃者の戦いぶりは、今まで送り込まれてきた独立傭兵とは比べ物にならない。つい先日この汚染市街に現れ防衛部隊を蹂躙した挙句、封鎖機構の大型武装ヘリすら撃墜し離脱していった傭兵と同程度の実力だ。いや、もしかすれば本当に同一の傭兵なのかもしれない。
「薄汚れた侵略者に我々の結束を見せてやれ!「灰かぶりて、我らあり」!」
戦意の衰えない解放戦線の部隊だが、その攻撃がACを捉えることは無い。みるみる内に残存の砲台も殲滅され、残されたのは甚大な被害と呆然とする戦士達だけだった。
「な、何者なのだ、さっきのACは・・・・・・!」
あっという間に離脱し、もう影すら見えなくなった襲撃者のAC。その方向を睨みながら、憎々しげに汚染市街の指揮官が呟く。ここにドルマヤンが隠れ潜んでいることを知っている数少ない人物である彼は、悔しさと焦燥感で吐き気すら覚えていた。
このままでは帥父を守ることも出来ない。しかし、これ以上汚染市街に戦力を回せば、企業にドルマヤンの存在を察せられてしまうかもしれない。一体どうすれば。被害の対応に追われながらも、指揮官は己の内に不安が広がっていくことを抑えることが出来なかった。
移設型砲台って二種類あんねん。グレネードキャノン型とスナイパーキャノン型。スナキャの方をACの肩に乗せたいねんな。
あと、作中のシオンとACの公式小説に出てくるシオン・ヴァールさんは特には関係ありません。