見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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60.秒針は進む

621は道具だ。使命を果たす為の、利用価値のある猟犬に過ぎない。ハンドラー・ウォルターは己に言い聞かせながら、あるいは思い込ませながら621のオペレートを続けていた。

 

「ネペンテスは無力化されているようだな。だが、深度2以降では広域レーダーによる情報支援は出来ん。621、お前の感覚に頼る形になる」

 

【分かった、ウォルター。エアも一緒にいるから大丈夫だよ】

 

621の言葉を信じて彼女に味方するにせよ、本来の使命を果たすにせよ、集積コーラルは確保しておく必要がある。ウォルターは問題を先送りにし、621自身が立案した作戦に同意した。その作戦とは即ち、621単騎によるウォッチポイント・アルファへの潜入である。

 

「・・・・・・621。必ず、生きて戻れ」

 

【うん。行ってきます、ウォルター】

 

開いた隔壁を通り抜け、621の乗るACが降下していく。本来ならば侵入者を迎撃するはずの複合エネルギー砲台「ネペンテス」は、先んじて突入したブランチによって完膚無きまでに破壊されているようだ。降下する毎に無人兵器が散発的な攻撃を仕掛けてくるが、621の敵では無い。作戦の第1段階は順調だ。

 

621から提案された作戦。内容も、目的も、ウォルターにはまだ呑み込めていなかった。ただでさえ内心は困惑と躊躇、迷いが渦巻いている。常に冷徹であれと努めているウォルターだったが、これでは適正な判断を下すことは出来ないようだ。

 

「・・・・・・。どうする・・・・・・?」

 

マイクを一旦切り、絞り出すように呟く。621からは様々なことを伝えられていた。その情報と、彼女の想いを鑑みて選択しなければならない。───つまり、コーラルを焼くか否かを。

 

まだ間に合う。集積コーラルを発見し、こちらの思惑が企業に気付かれる前ならばやりようはあるのだ。しかし、ウォルターは行動に移すことが出来ない。過去と現在。二本の鎖が幾重にも彼を縛っていた。

 

これではいけない。621は死地に身を投じているのだ。どちらを選択するにせよ、せめてハンドラーとしての役目は果たさなければ。広域レーダーはまだ機能しており、スキャンした情報が送られてきている。素早く目を通すが、僅かな数の無人兵器以外は確認出来なかった。やはり、先行しているブランチが粗方の防衛装置を無力化しているらしい。

 

ならば今、自分はどうするべきか。思考を回そうとしたタイミングで新たな情報が飛び込んできた。小型ドローンによって監視していた企業勢力が、621の行動の影響か動き始めたのだ。我慢の限界といった所だろう。

 

ウォッチポイント・アルファへと突入する勢力が増えれば増える程、不確定の事象が起きやすくなる。ここは抑えなければならない。ウォルターは即座に隔壁を封鎖し、ジャミングを飛ばして企業の通信を妨害し始めた。更に、ベイラムとアーキバスの戦力がぶつかり合うように誘導を試みる。通信を傍受することで、妨害すべきものと敵対企業側に流すものに分けていく。

 

ウォッチポイントの外で、両企業が消耗し混乱するならば僥倖だ。この手のやり口にウォルターは慣れている。常にひっ迫した戦力を用いて作戦に臨んできた彼は、猟犬達を生還させる為ならばなんでもやってきたのだ。

 

しかし、現在生き残っているのは621一人である。ルビコン3に到達するまで、ウォルターは何匹もの猟犬を使い潰してきた。最善を尽くしたとしても、死ぬ時は死ぬ。ウォルター自身が危険極まりない任務を猟犬に課しているのならば、猶更である。

 

擬装によって周囲から隠匿された輸送ヘリの中、ウォルターは可能な限り様々な手段で企業を妨害し続ける。それこそが現状においては最善である信じて。その判断が、何よりも621を慮っていると自覚することは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁもう、邪魔だっての!」

 

全武装を敵機に向かって放ちながら、シャルトルーズは焦りと共に声を上げた。現在地点はウォッチポイント・アルファの深度3。超高出力のレーザー障壁に降下を阻まれたブランチは、変圧チャンバーを破壊し先に進む為に巨大高炉内部に侵入していた。スッラは入り口に待機し、無人兵器の増援を防いでいる。

 

「キング、レイヴン!そっちの状況は!?」

 

『変圧チャンバーを目視で確認した。このまま破壊するぞ』

 

何よりも速度が求められる為、シャルトルーズは道中の敵の撃破を自分から買って出た。このような閉所ではアンバーオックスの強みが活かし辛い。機動力に劣っていると自覚している彼女は、キングとレイヴンに変圧チャンバーの破壊を任せたのだ。

 

「すぐにやっちゃって!こっちも、これで・・・・・・終わり!」

 

高い火力を全面に押し出し、無人兵器を粉砕するシャルトルーズ。殆ど同時に照明の色が赤に切り替わり、けたたましいアラートが鳴り始めた。キングとレイヴンが変圧チャンバーを破壊したのだろう。喜びも束の間、緊急作動した隔壁が強制的に閉じられてしまう。更に、上部のダクトから技研製と思われるACが投下された。

 

『防衛プログラム フェーズ5.0 パターンC 危険因子を排除します』

 

「っ、あぁもうやってくれるわね!」

 

隔壁を開くにはスキャンによるシステムへのアクセスが必要だ。外部からの接触が不可能だとしたら、この隔壁を開けるのは自分しかいない。

 

『炉心の融解が進んでいるわ。爆発まではおよそ二分・・・・・・シャルトルーズ、敵ACの撃破を最優先に』

 

「分かってる!機体構成は解析出来る!?」

 

『技研製の無人AC、エフェメラと推測されます。武装は光波ブレード及び光波キャノン、プラズマライフル。閉所において有効なものばかりです』

 

牽制射撃を行いつつ、オールマインドから送られてきたデータを即座に読み解くシャルトルーズ。光波キャノンをギリギリで避けながら戦術を組み上げていく。限られた時間の中で取れる最適解は、やはり火力を活かした速戦。被弾を顧みず削り合いで上回るしかない。

 

『こちらキング、隔壁のアクセスは外部からでは時間がかかる!敵ACの排除は任せるぞ!』

 

ブランチメンバーは全員が卓越したハッカーでもある。本来なら難しいはずの外部からのアクセスを、キングはどうにか成し遂げようとしているようだ。ならば、こちらはACを撃破することに専心すればいい。キングが隔壁を解除するまでに撃破すれば、そのままスムーズに脱出出来るはずだ。

 

レーザーライフルと拡散レーザーキャノンのチャージが完了したタイミングで、シャルトルーズはクイックブーストを吹かし一気に前進する。このような閉所では高度を取っての攻撃は望めない。しかし、それは相手も同じことだ。互いの武装が十全に届く位置での殴り合い。それがシャルトルーズの選択である。

 

エフェメラの背後にある壁へとグレネードを放ち、爆風に巻き込むのを狙う。相手は無人ACだ、こちらの動きに対して機械的に反応してくるはず。読み通りに爆風を回避し切れなかったエフェメラに、近距離からバズーカを叩き込んだ。爆風とバズーカの直撃によってスタッガー状態に陥らせ、必殺のチャージレーザーを発射する。収束したエネルギーが爆発を引き起こし、エフェメラの装甲を容赦無く焼いていった。

 

「っ、こいつ・・・・・・!」

 

しかし、撃破までは至れない。ターミナルアーマーによってギリギリで凌いだエフェメラは、本来連続で使用出来ないリペアキットを複数回起動。APを全快させながら武装のリロード中であるシャルトルーズに襲いかかった。光波キャノンを放つと同時に光波ブレードが振るわれる。

 

「舐められたものね!」

 

シャルトルーズは光波キャノンを掻い潜るようにアサルトブーストを起動し、突っ込んでくるエフェメラに対して更に踏み込む。光波ブレードが直撃しながらも、アンバーオックスの機体重量を活かした体当たりでエフェメラを押し返した。ターミナルアーマーによりダメージは与えられないものの、この超至近距離ではエフェメラに搭載されているAIが正常に機能しないようだ。無意味にもがいているそれに向けて、武装のリロードが終わったシャルトルーズが全砲門を向ける。

 

「私と見つめ合ったんだ、高くつくよ!」

 

全弾発射。圧倒的な火力を叩き込まれ、修復されたはずのエフェメラの装甲が一瞬時に削り取られていく。そのまま反撃することも出来ず、エフェメラは爆散しながら落下した。シャルトルーズが長い息を吐いた所で隔壁が開き、キング達が突入してくる。

 

『無事か、シャルトルーズ!』

 

「丁度終わったとこ。時間に余裕は無いし、さっさと脱出しよう」

 

強がるわけでも無く、いつも通りに返事をしたシャルトルーズはブーストを吹かした。この程度の修羅場は幾度も潜ってきている。ブランチの一員として、やるべきことをやっただけだ。

 

『爆発まで残り1分、急いでください』

 

レイヴンのオペレーターの声に、三機のACは淀みない動きで出口へと向かう。既に障害は排除されており問題無く脱出することが出来た。噴き出す爆風を避ける為に十分距離を取ったところで、巨大高炉が凄まじい音を立てて爆発する。直後、下方に展開されていたレーザー障壁が光を失っていった。

 

『見事なものだな、流石はブランチといった所か』

 

外に待機していたスッラから皮肉げな通信が飛んでくる。彼のAC、エンタングルの足元には複数の無人兵器が転がっていた。エンタングルが殆ど損耗していないことを鑑みるに、やはり彼も相当な実力者なのだろう。

 

『障害は取り除かれました。各位、降下をお願いします。この先にルビコン技研都市及び集積コーラルがあるはずです』

 

高揚を抑え切れていないのか、オールマインドはやや上ずった声で命じる。傭兵支援システムにしては妙に生々しい雰囲気に、シャルトルーズは目を細めた。思っていたよりも随分と人間臭い。普段の独立傭兵を支援しているオールマインドと比べて、今の彼女からは明確な意思を感じ取ることが出来る。

 

「・・・・・・ふん」

 

元よりシャルトルーズはオールマインドのことを信用していない。正確には、「私情を表し始めたオールマインド」のことは信用出来ないのだ。シャルトルーズに限らず、ルビコン星系で活動するAC乗りは誰しもがオールマインドの恩恵を受けている。だからこそ、現在の彼女は異常だと理解出来ていた。

 

四機のACは降下を続け、狭い縦穴を進んでいく。その先に待つのはなんの思惑か。あるいは、どのような未来なのか。ルビコンの運命は、まだ定まっていない。




深度3のエフェメラ、リロード時間を無視してリペアキットを重ね掛けしてくることがあるんですよね。汚いな流石ルビコン調査技研きたない。
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