見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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61.反攻の狼煙

解放戦線が大規模な動きを見せたのは、企業側の予想を裏切りベリウス地方からだった。ベリウス西部、ボナ・デア砂丘。武装採掘艦ストライダーを中心に、ルビコニアン達が全面攻勢を開始したのである。

 

現在、企業の戦力は中央氷原に偏っている。集積コーラルさえ確保してしまえば他の地域を維持する必要はあまり無いからだ。それでも、最低限防衛の備えはされている。そのような拠点群に対し解放戦線から全面攻勢をかけるのは、最近では一度も無いことだった。

 

『コーラルの戦士達よ、応報の時は来た!この惑星に群がるハイエナ共を粉砕し、ルビコンを我々の手に取り戻すぞ!』

 

山岳の如き巨躯を誇る武装採掘艦ストライダーの艦長室。かつてシオンとも共闘した艦長は、広域通信で同志であるルビコニアンの指揮を執っていた。苛烈な言葉で煽り立て、彼らの士気を燃え上がらせていく。ストライダーの周辺には多数のMTやヘリ等の汎用兵器が展開し、ボナ・デア砂丘における解放戦線の全戦力が集結していた。

 

企業がウォッチポイント・アルファを巡って動き始めたタイミングで全面攻勢を始めたのは、帥父ドルマヤン直々の命令である。元より機を伺っていた解放戦線は、司令部からの秘匿通信一つで行動に移す準備が出来ていた。

 

草原を焼く野火のように、ルビコニアン達は企業・・・・・・まずはアーキバスの拠点に向けて進んでいく。ボナ・デア砂丘の攻勢は陽動でありつつも、解放戦線の勢力圏を可能な限り広げることも目的だ。ここで敗北を喫すればルビコンに未来は無い。この戦場にいる誰もが、それを理解している。

 

『ツィイー、もうすぐアーキバス側の警戒線に到達する見込みだ。決して先走らないでくれ』

 

「分かってるって。足並みは乱さないようにするよ」

 

中央氷原に身を置くアーシルからの通信を聞きながら、ツィイーは愛機であるユエユーのコックピットの中でじっと前を見据えていた。ついにこの時が来た。ずっと、ずっと待ち侘びた反撃の時が。高鳴る心臓とは裏腹に、ツィイーは冷静さを保っていた。呼吸を乱さないように努めながら、MT部隊と共に進んでいく。

 

『「壁」への襲撃も順調に進んでいるみたいだ。六文銭が奮闘してくれている。ただ、そちらの戦線ではヴェスパーACは確認出来ていない。気を付けて、ツィイー』

 

「アーシルは心配性だなぁ・・・・・・。勝った上で生き残る。二人で約束したんだしさ」

 

気軽に言い返すツィイーは、何故か緊張はしていない。心臓は高鳴り、気分は高揚している。それなのに何故か心は落ち着いているのだ。これまで参加してきた作戦とは規模が違う、文字通りルビコンの運命を決める一戦だというのに。

 

ツィイーは戦士であるが、他のAC乗りに比べて経験は劣っていた。それ故、いつも作戦の度に気を張り続けていた過去がある。それがいい具合にこなれてきたのはここ最近だ。正確には、シオンと共に幾度も襲撃任務についてからである。

 

出所が定かでは無いシオンに、しかしツィイーは信頼を寄せていた。記憶を失い解放戦線に流れ着いた女の子。見た目の印象とは裏腹に男っぽい性格の彼女のことを、ツィイーは好ましく思っていた。初々しくも善良であり、何よりも勇敢で強い。最新世代の強化人間が故なのだろうか?

 

いや、違う。ツィイーは何度も戦闘シミュレーターでシオンと戦い、企業に捕えられた時にも助けられた。そして、中央氷原に到達するまで共に作戦をこなした仲でもある。だからこそ、シオンの強さは強化人間だからというわけでは無いと理解していた。

 

シオンは、時間と体力の許す限りAC乗りとしての鍛錬を積み続けている。娯楽の時間も取らず、狂気的な程に。息抜きすら、殆どしていないのだろう。ルビコニアンの戦士達と比べても異様なストイックさだ。

 

ひたすらに努力を重ねること。それでいてがむしゃらにならず、思考を回し続けること。その重要さを、シオンはその振る舞いから教えてくれた。だから、ツィイーも彼女に倣って努力を積み上げた。以前以上に戦闘シミュレーターの回数を増やし、積極的に戦術の勉強もし始めた。頭を使うのは苦手で、今までは座学を嫌っていたのだが・・・・・・あんな姿を見せられて、負けてはいられない。と、作戦本部であるストライダーから通信が入る。

 

『こちらストライダー、前方に砲台群を確認した。正面から捻り潰すことも出来るが損害が大きいだろう。MT部隊は遠距離から牽制。リトル・ツィイーは側面に回り込み突入、砲台を無力化してくれ』

 

『ツィイー単騎でですか?それは・・・・・・』

 

「だから心配しないでって。ACの機動力を活かすには単騎が一番でしょ。こちらリトル・ツィイー了解、砂丘の丘陵を盾に回り込む!」

 

臆すること無く返事をし、ツィイーは隊列から外れて砂丘の陰にユエユーを潜ませた。ストライダー艦長の戦術は正しい。単騎での突入は確かに危険だが、だからこそ敵の虚を突ける。何よりアサルトブーストによる機動力を活かすには、ACのみで動くのが最善だ。

 

砲台の索敵を遮蔽に身を隠しつつ掻い潜り、ギリギリの距離まで接近する。程無くしてMT部隊から多数のミサイルが発射され、砲台群に降り注いだ。しかし、半数以上が防衛機銃に撃ち落とされ砲台の無力化には至っていないようだ。銃撃や炸裂音に紛れ、ツィイーは可能な限り側面へとユエユーを進ませる。

 

「・・・・・・よし、行こう」

 

コックピット内で静かに呟き、ツィイーは砂丘を乗り越えると同時にアサルトブーストを起動した。砲台は正面に向いているが、接近するユエユーに気付くのも時間の問題。こちら側に火点を構築される前に懐に飛び込む必要がある。ツィイーはユエユーを駆り、真っすぐに最短距離を突っ切った。

 

「灰かぶりて、我らあり!」

 

『っ!?ACだと、いつの間にここまで・・・・・・ぐわあぁぁっ!!』

 

叫びと共に近くの砲台目掛けグレネードをぶっ放す。爆発に飲み込まれ炎上する砲台は、弾薬に引火したのか誘爆を引き起こした。敵の悲鳴にも心を乱されること無く、混乱に乗じて次々と砲台を破壊していく。しかし、アーキバス側もただやられているだけでは無かった。捕捉したユエユーを狙い、複数の砲台から砲弾が放たれる。タイミングをずらしたそれはクイックブーストでは避け切れない。

 

「っくぅ!」

 

数発目の砲弾がユエユーに着弾し、コックピットまで衝撃が伝わってきた。しかし、直撃に比べれば些細な規模だ。被弾する直前にパルスシールドを展開し被害を最小限に抑えたのである。

 

「やってくれたね!」

 

ツィイーは返す刀でグレネードを放ち、撃ってきた砲台を黙らせる。集まってきたMT達の攻撃を砲台の残骸で防ぎながら、次の獲物に狙いを定めた。友軍が正面から圧力をかけているのもあり、敵陣の中にしては随分と動きやすい。このまま一気に砲台群を無力化させる。意気込むツィイーのコックピットにアラートが響き渡った。咄嗟に回避機動を取るが、爆風に巻き込まれAPが削れていく。

 

「っ誰だ!」

 

即座にスキャンを行うと、こちらと同じく砲台の残骸、その陰にACの反応を確認した。機体情報を鑑みるにヴェスパー部隊所属のACか。場所を悟られたことに気付いたのか、残骸の陰から飛び出した敵機は滞空しつつ迫ってくる。四脚型のそれにツィイーは見覚えがあった。ヴェスパーの第7隊長。V.Ⅶ、スウィンバーンだ。

 

『ええい、ここまで大規模な襲撃を仕掛けてくるとは・・・・・・!教育が必要なようだな!』

 

『ツィイー、相手はV.Ⅶスウィンバーン。乗機のガイダンスは滞空からの撃ち下ろしに優れた中量四脚だ。瞬間火力に優れたグレネードと放電を引き起こすスタンバトンに注意してくれ』

 

「番号付きか・・・・・・!」

 

アーシルの言葉に表情を歪めるツィイー。スウィンバーンはレイヴンに敗北して後、各地をたらい回しにされていた。会計責任者としての能力は認められた為、番号をはく奪されてはいなかったが・・・・・・アーキバス上層部の心証は損ねてしまったことに間違いは無い。

 

それ故、スウィンバーンは精力的に最前線へと赴いていた。戦死することは勿論怖い。しかしそれ以上に、自らの居場所が無くなるのは耐えられない。安全性が定かでは無い第7世代強化手術を受け、出撃と会計業務を両立させてまで手に入れたV.Ⅶの地位。それは強化手術前後で歪んでしまった精神が立ち直る切っ掛けにもなった。

 

だからこそ。自身がヴェスパーで無くなれば己を保てる気がしない。スウィンバーンにとって、かつて強化手術に怯えていた自分に戻ることと同義だからだ。独立傭兵レイヴンに容易く撃墜され、しかし最新鋭の義体によって生き延びた彼は、それを強く自覚していた。

 

『この機体構成は・・・・・・リトル、ツィイー、ユエユーか。ならば、この私直々に指導してやろう!』

 

「やれるもんならやってみな!」

 

雄々しく言い返し、ツィイーはスウィンバーンと交戦を開始する。残存する砲台の破壊を優先して生き残れる相手では無い。それに、既に半数以上は無力化出来ている。あれならば本隊の侵攻も容易なはずだ。

 

互いに放ったグレネードが交錯し、戦場が爆風に包まれる。解放戦線の存亡をかけた決戦は、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

『ミシガン、何故レッドガンを出撃させない!?アーキバスはもう動いているのだぞ!』

 

「・・・・・・」

 

ベイラム上層部の上役の一人から放たれる怒声を耳にしながら、ミシガンは泰然とした様子で戦局を分析していた。独立傭兵レイヴンがウォッチポイント・アルファに突入してから数時間。ベイラムは元よりアーキバスも、閉鎖された隔壁の解除に手こずっている。更には局所的な通信障害も発生しており、最前線は混乱しそれを収めることもままならないようだ。

 

『聞いているのかね!このままではアーキバスに先を越されてしまう!』

 

「・・・・・・現状、封鎖された隔壁を解除する手段がハッキングしか存在しない。強固なファイアウォールを突破するには相応の準備が必要だ」

 

『なんにしろレッドガンを出撃させればいいだろう!?隔壁のロックを解除したとして、アーキバスの羽虫共を追い払わなければならんのだ!何をぐずぐずとしている、えぇ!?』

 

冷静なミシガンの言葉に、恫喝するように声を荒げる上役。それでもミシガンの表情は変わらない。真剣な目つきでモニターを見つめ、部下から送られてくる情報から最善策を絞り込んでいく。

 

「G2、G6、準備はいいか」

 

『こちらG2、命令があれば即時行動可能だ』

 

『こちらG6!同じく準備は整っています!』

 

落ち着いたものと緊張したもの、相対的な二つの返事にミシガンは軽く頷いた。一度火蓋を切れば後戻りは出来ない。その上、全てを敵に回すかもしれない。だが、これはレッドガン総長として為さなければならないことなのだ。上役との通信を一方的に切り、ゆっくりと息を吸い込む。そして、レッドガンの専用回線を開き声を上げた。

 

「聞こえるか、役立たずども!我々レッドガンは今よりベイラムグループを離脱し、独立組織として行動を始める!直近に自殺の予定がある者だけが付いてこい!」

 

総長であるG1ミシガンの宣言に、レッドガン隊員達は誰一人欠けること無く間髪入れずに動き出す。ベイラム側の部隊から距離を取り、ウォッチポイント・アルファから遠ざかっていった。その動きはベイラムだけでは無く、アーキバスにも混乱を伝播させてゆく。

 

「第三陣形を組み迎撃態勢を整えろ!ベイラムもうすのろばかりではない、こちらの動きの意図は伝わっているだろう。組んだ陣形を乱されないよう亀になっておけ!」

 

ベイラムを裏切り独立勢力として動く。この鉄火場で、ミシガンは無謀にも思える号令をかけた。既にレッドガン内部の意思統一は済んでいる。それは、以前から根回しをし続けてきたG3の功績だ。

 

『G1、アーキバス側がベイラムの部隊に攻勢を掛けている。想定よりも動きが早い』

 

「情報が漏れているとすれば、先程からの通信妨害が原因か。いいだろうG2、作戦を一部繰り上げる!G3及びG5に通達!貴様らの出番だ、火が付いた敵本部のケツを蹴り上げてやれ!」

 

『ようやくかよ、待ちくたびれたぜ』

 

『えぇ、了解ですとも総長。愉快な遠足の始まりです』

 

後方拠点に待機していた二機のACが、混乱極まるベイラム部隊へと真っすぐに突入する。此度の裏切りの首謀者であるG3五花海と、病み上がりにも関わらず自身のアサインを強引にねじ込んだG5イグアスだ。彼らはMTの群れをスルーし、作戦指揮を執っている大型艦に向かっていく。

 

『レッドガンが裏切るだと!?ええい、何が起こっている!?』

 

『こちら第5MT部隊長、アーキバスの攻勢が止まりません!至急支援を!』

 

『馬鹿な、なんでレッドガンACがここに・・・・・・ぎゃあぁっ!!』

 

元々、ベイラム直属の部隊は数をたのみにしており練度は高くない。その上、二正面から攻められた結果統率を失っていた。殆ど反撃らしい反撃も無く五花海とイグアスは大型艦へと到達。ここで、大型艦の艦長らしき人物がオープン回線を繋げてきた。

 

『貴様ら、我らベイラムグループを裏切ってただで済むと思うなよ・・・・・・!この辺境の惑星で干からびるのが関の山だ!』

 

『はっ、知ったことかよ。昔からてめぇらは気に入らなかったんだ、精々吠えろや!』

 

『まぁ、苦し紛れの暴言にしてももう少し言い方があるでしょうね。さて、艦長殿。貴方にはレッドガンの流儀を教えてあげましょう』

 

ミサイル放ちながら、五花海は微笑む。てらいの無い会心の笑みだ。

 

『総長曰く。泣きを入れたら・・・・・・』

 

『もう一発、ってなぁ!』

 

降り注ぐミサイルに焼かれる大型艦。とどめとばかりにイグアスが放ったリニアライフルの一撃が、綺麗に艦橋をぶち抜いた。




レッドガン離反。さぁ、敵味方入り乱れた激戦の開幕です。
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