見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「何がどうなってるんだ・・・・・・!?」
企業の陣地へと攻撃をかけ、多少の損傷を負いながらも奮闘していたシオンは、ありえないことを目の当たりにして唸るような声を絞り出した。V.Ⅳ、ラスティ。ヴェスパー部隊の中でも指折りの実力者が、友軍のはずのMT部隊を蹴散らし始めたのである。
『帥淑フラットウェルより全部隊へ通達。V.Ⅳラスティはこちらの味方だ。友軍識別タグを付与する、同士討ちは避けるように』
「はあぁ!?」
思わず叫んだシオンを誰が責められよう。ラスティという存在が解放戦線へ寝返るというのは、それ程までに信じられない出来事なのだ。フラットウェルとラスティが旧知の仲ということは解放戦線の中でも一握りの人物しかしらない。それ故、ルビコニアン達が受けた衝撃は凄まじかった。
そして、それはアーキバス側も同じこと。互いに統制が乱れる中、ラスティは悠々とアーキバスの部隊を蹂躙していく。先に我を取り戻したのは解放戦線。ラスティが乱した防衛線を食い破り、未だに混乱したままの部隊に襲いかかった。
「フラットウェルさんは魔術師か何かかよ!?だったらこっちは楽させてもらうぜ!」
シオンも混乱に乗じ、可能な限り深くまで敵陣へと斬り込む。算を乱して後退する部隊へと追撃をかけ、次々と破壊していった。精鋭と言えど、このような状況に陥ると脆い。拍子抜けする程だが、シオンは決して気を緩めない。周囲へと向けられた鋭敏な感覚は、接近する機体にいち早く気付いた。
「こいつは・・・・・・!?」
『ここで裏切るとは随分と増長したようですね。第4隊長ラスティ、死を以てヴェスパー部隊から除籍してもらいましょう』
『これはスネイル閣下、まさか直々にご出陣とは。ありがたいことだ、手間が省ける』
新たな部隊を率いてきたのはヴェスパー第2隊長スネイル。彼のACオープンフェイスは高火力な武装を複数積んだ重量二脚であり、遠近両方に対応している。実質的にヴェスパー部隊を統括している彼が出撃してきたということは、それだけ切羽詰まっているということだろうか。と、ラスティからシオンの元に通信が入った。
『君がシオンか。スネイルの相手は私が引き受ける。すまないが、引き連れられてきたMT部隊に対応してくれないか』
「っ、任された!」
スネイルの相手はシオンには荷が重い。ラスティの申し出は渡りに船である。だが、本当に彼を信用してもいいのだろうか?湧き上がる疑念を振り払い、シオンはMT部隊に突っ込んでいった。今は疑っている余裕は無い、とにかく出来ることをやるだけだ。
『猿共と組んだところで勝ち目は無い。己の選択を後悔することです』
『生憎と後悔することは無いさ、次席隊長殿。わざわざご足労頂いた分、私がきっちりと相手をしよう』
『ほざけ裏切り者!企業に歯向かった罪、その足りていない脳に刻んであげましょう!』
戦闘を開始する両者を背に、シオンはヴェスパー直属のMT部隊に突っ込んでいく。V.Ⅳラスティが高い実力を有しているのは知っているが、横槍を防げるのならば防ぐに越したことは無い。何より、シオンの知識ではスネイルの実力は未知数である。アイスワーム討伐作戦に参加していたらしい、ということは知っているが・・・・・・。
「考えるのは後回しだろうが俺ぇ!」
己を叱咤しつつ、MT部隊から放たれるグレネードを回避した。どうやら高機動のスティールヘイズを相手にすることを想定しているらしく、爆発系の武装を施しているMTが多い。これならば、部隊の懐に飛び込むことで誤射を恐れて攻撃頻度の低下が期待出来る。そのような戦い方はシオンの十八番だった。
「おおおぉぉぉぉっ!」
吼えるシオンはマシンガンの掃射を受けながら目先のMTに肉薄、蹴り飛ばしつつ銃弾を叩き込む。チェーンソーは凄まじい破壊力を誇るが、どうしても回避を行えない時間が発生してしまう。高火力のグレネードキャノンを敵MTが装備している以上、集中して撃ち込まれればおしまいだ。ここはチェーンソーに頼らない立ち回りをしなくては。
敵機が並ぶ間を疾駆し、決して留まらずに撃ち続ける。ラスティがいる方向にグレネードキャノンを向けているMTを優先して狙い、横槍を入れさせないように動き続けた。MT部隊の練度は高く決して気は抜けない。高速で動き続けながらの攻撃の照準や回避挙動、周囲の位置取りや武装の狙っている方向を把握するには、凄まじい負担を受け入れるしかなかった。
精神が焼き切れるような感覚の中、シオンは更なる敵部隊の動きを察知する。ヴェスパー部隊の四脚MTが回り込みつつ、スネイルを支援しようとしているようだ。外見からレーザーブレード装備型の機体と推測、軽量であるスティールヘイズに直撃すれば致命傷となり得る。
「っクソ!」
シオンは咄嗟にパルスプロテクションを展開し、MT部隊とラスティへの射線を遮った。急場凌ぎにしかならないが今出来る最善だ。そのままアサルトブーストを吹かし四脚MTへと接近し、チェーンソーに持ち替え刃を展開する。一息に撃破しMT部隊の元に戻れば、辛うじて横槍は防げるかもしれない。
「っぐぅぅ!?」
ショットガンによる迎撃。トラルテクトリの装甲は堅牢だが、全弾直撃の衝撃は流石に無視出来ないダメージだ。しかし、それでも動きは止まらない。右手のバーストハンドガンを乱射しながら肉薄し、思い切りチェーンソーを叩きつけた。
「落ちろおぉっ!!」
二重の回転刃が四脚MTの装甲を削っていく。しかし、スタッガーは取れるが撃破までは至らなかった。蹴りつけながら各種武装で追撃するも敵機は未だ健在だ。幸い、ラスティとスネイルの戦闘に割り込む前にシオンを相手すると判断したらしく、レーザーブレードを生成しながらトラルテクトリに向けて一閃してくる。長大な刀身はクイックブーストでも回避し切れない。
「がっ・・・・・・!」
脳がスパークするような感覚。ごっそりとAPを削り取られたが、トラルテクトリは堅牢故まだ致命傷では無いようだ。なんとか距離を取り直し、四脚MTと向き直る。
「悪いが、邪魔はさせねえぞ!」
痺れたような意識に活を入れる為、大声で叫ぶシオン。可愛らしい声質のそれは、しかし雄々しいものだった。
「くっ・・・・・・!」
ラスティは、ヴェスパー内ではフロイトに迫る程の実力者と認識されていた。そんな彼が相手でも、V.Ⅱスネイルは戦況を拮抗状態に持ち込んでいる。解放戦線のAC・・・・・・奇妙な事情で解放戦線に属しているシオンという少女にMT部隊の足止めを任せたが、そちらも長くは持たないだろう。即ち、全体で見れば劣勢である。
『その程度ですか、元第4隊長。貴方を重用していたのは私のミスだったようだ』
スネイルは強い。そんなことはラスティも分かっていた。その上、スネイルは日頃からラスティの戦闘ログを全て把握し分析もしている。ラスティだけではない、ヴェスパー隊長全員の能力を、スネイルは深く理解しているのだ。手の内を全て見抜かれているようで酷くやり辛い。
しかも、スネイルは各部隊への指揮も並行して行っているようだ。スティールヘイズの機動力と瞬間火力に対応しつつ、各戦線の状況を把握し的確な指示を飛ばす。とても人間業とは思えない。アイスワーム討伐作戦の時は本気では無かったというのか。
「やれやれ、予想はしていたが骨が折れるな」
こちらの動きは筒抜けだ。レーザースライサーは巧みに回避され、他の武装でスタッガーを取ろうにもスタンニードルランチャーによる牽制で攻撃を畳みかけることが出来ない。そして、少しでも距離の維持を怠ればレーザーランスの突撃が襲い掛かってくる。スネイルとは数度の模擬戦をした経験があるラスティだったが、あの時と比べてプレッシャーが段違いに感じられた。
だとしても、ここで引き下がる気は毛頭無い。過酷な道行きは覚悟の上だ。ラスティはアサルトアーマーが再使用可能になったタイミングで急加速、クイックブーストを交えた変則的な機動でスネイルへと迫る。
『見え透いた動きを・・・・・・』
呆れたようなスネイルの声。彼はスティールヘイズに搭載されたアサルトアーマーが再使用可能になったと気付いていた。肉薄しながらレーザースライサーを陽動として使い、アサルトアーマーでスタッガーを狙う。おおよそこのような戦術か。
『羽虫が何をしようと無駄だと教えてあげましょう!』
推測を元に迎撃の態勢を整えるスネイル。レーザースライサーはレーザーランスで迎撃し、アサルトアーマーには同じくアサルトアーマーを後出ししてしまえばいい。ACの耐久力ならばオープンフェイスの方が上なのだ。ぐんぐんと迫るスティールヘイズから目を逸らさず、スネイルは数瞬の機を伺った。そして、二機のACが交錯する。衝撃。次いで閃光が戦場に迸った。
「っしゃあ!そのまま寝てろ!」
四脚MTをどうにか無力化したシオンは、即座にMT部隊の方へとアサルトブーストを吹かした。パルスプロテクションは消滅しかかっており、防壁を通り抜けてスネイルの援護に向かおうとしている機体もいる。このままでは不味い。身を挺してでも止めようと突っ込んだ直後、眩い閃光が迸るのが見えた。
ラスティとスネイル、両者が起動したアサルトアーマーによるパルス爆発は、相殺されるどころか一際大きな衝撃となって互いのACを焼いていく。しかし、閃光の中でも動く影があった。スティールヘイズだ。レーザースライサーが煌めき、オープンフェイスの装甲は無数の斬撃で削り取られていく。
『馬鹿な、何故・・・・・・!』
『こちらにも隠し玉はあるということさ、スネイル閣下』
飄々と言いながら追撃を加えるラスティは、しかし片頬を汗が伝っている。狙い通りの結果とはいえ、薄氷を踏むようなやり方だったのだ。ラスティが張った罠はたった一つ。アサルトアーマーの起動からパルス爆発が発生するまでのタイミングを、特殊なプログラミングとマニュアル操作によりずらすことだ。
通常、複数のACがアサルトアーマーを起動し合った場合、先に起動した方はスタッガーするが後の方はスタッガーしない。アサルトアーマーにはスタッガー状態を回復する効果が付随しており、先に起動されたアサルトアーマーによってスタッガー状態に陥った場合、後に起動するアサルトアーマーでスタッガーを回復しつつ相手をスタッガー状態に追い込むことが出来るのである。
しかし、アサルトアーマーのパルス爆発を遅らせるのは容易なことではない。何よりも危険過ぎた。最善を尽くしたとしても、ジェネレーターが破損し行動不能になるかもしれないのだ。そのやり口は、レイヴン・・・・・・ラスティが戦友と呼ぶ独立傭兵の戦い方に近い。
『慮外の策も悪くない。こうして閣下を落とせるのなら、十分だ』
『どこまでも苛立たせてくれる・・・・・・!』
一気に劣勢へと立たされたスネイルだが、それでも撤退は考慮していなかった。防衛線をこれ以上下げれば本部が直接攻撃に晒される可能性がある。スネイルが出撃しながらなんとか指揮が執れているのも、本部のサポートあってのものだ。つまり、どれだけ撃墜の危険があろうと死守するしかない。
リペアキットを起動し、APを回復させるスネイル。これ以上こちらの戦線に回せる戦力は無い。引き連れてきたMT部隊及び増援の四脚MTは例の幼い独立傭兵に阻まれている。ルビコンに降下して以来の窮地に、スネイルは何故か精神が高揚していくのを感じていた。
『裏切り者の第4隊長に、身の程を知らぬ土着の猿ども・・・・・・誰も彼も、貴様らは駆除すべき害獣だ!!』
激情を叩きつけ、ラスティのスティールヘイズに突っ込んでいく。幾度にも渡って「調整」を受けた肉体は疲労を感じさせず、操縦に支障は無い。オープンフェイスは健在、かつリペアキットも残っている。継戦は可能、スネイルはそう判断した。
───何よりも。フロイトならば、このような窮地でも楽しみながら突破するだろう。ならば、己が超えられぬ道理は無い。心の奥底で、スネイルは力を何よりも重んじていた。フロイトによって歪まされた心は、彼を超越する力を何よりも望んでいるのだ。
『一匹残らず、このスネイルが駆除してあげましょう!』
何も臆すること無くスネイルは前進する。それは、ラスティの思惑からは外れる動きだった。この状況で撤退せず向かってくるとは・・・・・・あるいは、スネイルという男をを見くびっていたのかもしれない。
『悪いが、譲れないな。ヴェスパー第2隊長スネイル、貴方はこのラスティが終わらせる・・・・・・!』
後先を考えていては落とせない。そう判断したラスティは全ての意識をスネイルへと集中した。ここで必ず殺す。そうしなければ、この男はルビコンの未来を害し続けるだろう。純然な殺意を以て、ラスティはスティールヘイズを駆りオープンフェイスへと迫る。レーザースライサーとレーザーランスが煌めき、両者は再びぶつかり合った。
スネイルvsラスティ、主人公のシオンは添えるだけ。個人的にはスティールヘイズよりもオープンフェイスの見た目の方が好きです。重量機バンザイ、丸々としたフォルムバンザイ。