見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
『ぐっ・・・・・・!?第3隊長殿、申し訳なく・・・・・・!』
アストヒクのパルスブレードに斬り捨てられ、デュアルネイチャーが機能を停止する。端から見ても圧倒的、かつ異常な程の実力にオキーフは口元を歪めた。サム・ドルマヤン。ルビコン解放戦線の設立者にして帥父と崇められている老人は、最早神話の域にあるかのようだ。
「こちらV.Ⅲオキーフ、V.Ⅷが落とされた。V.Ⅰの増援はどうなっている?」
『あぁ、それならもう着くぞ。確かフラットウェルだったか、エルカノ製のACに足止めされていたが撃墜した所だ』
言葉を返してきたのはV.Ⅰフロイト本人だ。何かあったのか、先ほどからスネイルの指揮が滞り始めている。機体反応は途絶えていないので、撃墜されてはいないはずだが・・・・・・。そこまで考えたオキーフは、今考えても仕方ないことだと思考を打ち切った。
「ミドル・フラットウェルを落としたのか。まぁいい、こちらは劣勢だ。お前の眼鏡にも適う難敵だぞ、サム・ドルマヤンは」
『楽しみだな。すぐに向かおう』
楽しげなフロイトの声。溜め息を吐きそうになるオキーフだったが、そのような余裕は存在しなかった。飛んでくるナパーム弾を上昇することで回避し、そのまま四脚のホバー機構を使い滞空する。フロイトが来る以上、ここで無理をする必要は無い。
「・・・・・・まったく。ラスティめ、完璧なタイミングで刺してきたな」
通信に乗らない程度の声で囁きつつ、オキーフはドルマヤンの動きを注視する。彼のACアストヒクはコア理論に忠実な、近接戦を主体とした機体だ。ナパーム弾でACS障害を発生させ、バーストライフルとハンドミサイルで衝撃値を蓄積。スタッガーしたと見るやパルスブレードで斬りかかってくる。
戦術はこちらに筒抜けだ。それでもV.Ⅷペイターは落とされている。その原因は、パイロットであるドルマヤンの卓越した技量だろう。数多の戦場を潜り抜けてきた彼の実力は極限まで研ぎ澄まされている。老いさえも、その切れ味を鈍らせるには至らなかったようだ。
『・・・・・・お前は、セリアを知っているな』
不意に、オープン回線からドルマヤンの声が聞こえてくる。落ち着いたしわがれ声は、しかし内容の意味が分からない。
『だが、賽を投げなかったか。それでよい。人間世界の悲惨を、我々は受け入れてはならぬのだ』
「っ」
僅かに目を見開くが、オキーフは即座に動揺を抑え込んだ。まさか、この老人は「コーラルリリース」のことを言っているのだろうか。かつて己が協力し、そして見限ったおぞましい計画。それを何故、解放戦線の指導者たるドルマヤンが知っているのか。と、
『待たせたな、俺も混ぜてくれ。いや、むしろ俺一人でもいいぞ』
奔放な物言いと共に、フロイトのロックスミスがドルマヤンの前へと躍り出る。フェイントを絡めた接近に応じ、ドルマヤンはパルスによる刀身を形成した。ロックスミスのレーザーブレードとパルスブレードが重なり合い、エネルギー爆発を引き起こす。
『さぁ、やろうか帥父!楽しませてくれよ!』
『コーラルよ、ルビコンと共にあれ。コーラルよ、ルビコンの内にあれ。稚気に満ちた簒奪者よ、土に眠り己が行いを顧みよ』
両者は距離を取り直し、激しく銃火を交え始める。張り詰めた攻防が展開される中、オキーフは手出しを躊躇っていた。この二人の戦いに手を出すのは自分では力不足だ。フロイトの足を引っ張る結果になりかねない。
『V.Ⅵ、間もなく現着します。オキーフ長官、MT部隊の展開について指示を』
「メーテルリンクか。ドルマヤンはフロイトに任せておけ、我々は防衛線を抜けてきた部隊を相手するぞ。いい加減、数が多くなってきた」
『了解』
このタイミングで事前にスネイルが指示していた増援が届いた。V.Ⅵメーテルリンク及び、再編成された大規模のMT部隊。綻び始めた戦線の穴埋めには最適であるとオキーフは判断、当初の目標であるドルマヤンはフロイトに一任することにした。現場の独断だが、あの二人にMT部隊をけしかけたら大惨事になる予感しかしない。スネイルには上手く言い繕えばいいだろう。
「まずは四脚MTを優先して排除する。V.Ⅵは部隊の指揮を優先しろ」
オキーフは何故か苦虫を噛み潰したかのような表情で解放戦線の部隊へ向かっていく。フロイトとドルマヤン、ルビコン屈指の実力者達の戦いから目を背けるように。
『消えろ、害獣!』
怒りを叩きつけるように突き込まれたレーザーランスを紙一重で避けながら、ラスティはオープンフェイスの堅牢な装甲に銃弾を撃ち込んでいく。スタンニードルランチャーの砲口がこちらを向いた瞬間、弾けるようにクイックブーストを吹かし狙いを付けさせない。そのまま回り込もうとするが、降り注ぐプラズマミサイルに阻害され距離を取ることを余儀無くされた。
「ふぅっ・・・・・・!」
強い。熱気がこもった息を吐きながら、ラスティは眼前の敵を睨みつける。今まで戦ってきたどのACよりも、今のスネイルは手強かった。何が彼をそうさせるのかラスティには分からない。一つ確かなのは、こちらにも譲れないものがあるということだ。
戦闘自体は順調だ。機動力を活かして攪乱しつつ、ひたすらに削っていく。スティールヘイズのリペアキットは二つ残っており、オープンフェイスには残っていても一つだろう。しかし、ラスティは死の匂いを鋭敏に感じ取っていた。一手でも間違えば戦況を一瞬でひっくり返される予感。幼少の頃から培われ、磨かれてきた感覚をラスティは信じている。
その感覚に従い、決して危険は冒さない。スネイルはスタッガーを取られないよう巧妙に立ち回っているが、開けた場所での1対1では機動性に優れるスティールヘイズの方が有利である。こちらの動きを読んでくるのならば、対応出来ない速度で動き回りつつじりじりと削っていけばいいのだ。幸い、シオンというAC乗りは優秀なようで、MT部隊を足止めしつつ次々と撃破している。これならば、ある程度時間をかけても横槍を入れられる心配は無いだろう。
オープンフェイスから放たれるスタンニードルランチャーとスタンガンの連射を余裕を持って回避する。スネイルは膨大なラスティの戦闘データから動きを分析、予測しているが、この短時間でラスティ自身もスネイルの動きを予測するようになっていた。フロイトのような怪物と同じく、彼も天賦の才を持ち得ているのだ。
「随分と粗い。次席隊長と言えど鈍る時もあるようだ」
『安い挑発を・・・・・・言葉を弄したとて、企業たる私が揺らぐはずも無い』
言葉で揺さぶりをかけるが通じない。どれだけ激昂していようと、スネイルの精神は冷静さを保っていた。相手のミスが期待出来ない以上、このまま削っていくのが上策か。
「・・・・・・っ」
何か、嫌な予感がする。危険が迫っているような感覚に、しかしラスティは原因が掴めない。見落としていることがあるのか。それとも、スネイルが逆転の一手を打ってくる兆候か。距離を測りながら高速で思考を回し、感覚を研ぎ澄ましていく。
・・・・・・しかし。それでもラスティは気付けなかった。当然だ。スネイルが講じた策は、思考の外を突いたもの。かつ、常道ではあり得ない選択だったのだから。
「この反応は・・・・・・不味いっ!」
取り返しのつかなくなったタイミングでラスティはようやく察する。飛翔音。そして、空を覆う黒点・・・・・・砲弾の雨だ。ラスティとスネイルが戦っている空間を塗り潰すように、砲弾が際限無く降り注ぐ。敵味方の区別無く、全てを均すように。
スネイルの策。それは、戦場にある全ての砲台の火力をこの場に集中することだ。オープンフェイスから観測データを送り、ここ一帯に高密度の砲撃を降らせる。スネイルが戦闘中に並行していた精密な弾道計算、及び各砲台の連携指示は、まさしく彼にしか出来ない離れ業だった。
『さぁ、駆除の時間だ!企業の力の前に平服しなさい!』
自らも砲撃に巻き込まれながら、スネイルは勝ち誇るように声を上げる。ACという個の力では無く、砲台及び人員を手足のように指揮出来る組織力。それこそがV.Ⅱの神髄だ。フロイトとは方向性こそ違うが、スネイルもまた怪物の類である。本人が個の力を重んじていようと、その事実は変わらない。
「ぐ、っく・・・・・・!」
回避機動を取るラスティだが、弾幕が濃密過ぎる。どれだけ早く、精密に動いたとしても絶対に避けられない弾幕。装甲の薄いスティールヘイズは凄まじい勢いでAPを削られ、衝撃値が蓄積していった。リペアキットを起動するが回復が追い付かない。砲弾の雨から逃れようにも、遮蔽物も無ければ一帯からの脱出も難しい。途中でスタッガー状態に陥りそのまま撃墜されてしまうだろう。
限られた僅かな時間の中、ラスティは突破口を捜す。諦めるつもりは毛頭無かった。ルビコンの夜明けを拓き自由と未来をもたらすまで、彼の心が折れることは決して無い。だが、その想いも虚しくスティールヘイズは稼働限界を迎えようとしていた。
「ぐうぅぅっ!?」
突如として降り注いだ無数の砲弾は、MT部隊をも巻き込みながらトラルテクトリのAPを削っていく。友軍を顧みない無差別砲撃。懸命に避けようとするシオンだが、砲撃の密度の前にはどうしようもなかった。雨の中を傘も無く、濡れずに歩ける人間はいない。幸い、トラルテクトリの装甲は炸裂する砲弾に対しての防御に優れているが・・・・・・だとしても、撃墜は時間の問題だ。
絶え間無い衝撃に脳が揺らされ、意識が遠のく。そんな中、シオンの眼は同じく砲弾の雨に晒されているスティールヘイズを捉えた。ラスティが何故ヴェスパー部隊を裏切り、解放戦線に与しているのかは分からない。それでも、今現在は味方である。パルスプロテクションの再使用が可能になったタイミングで、シオンは砲弾の雨を浴びながらラスティの元に突っ込んだ。
「んぎぎぎぎっ・・・・・・!」
多大な負荷を強引に耐えなんとか目的の場所に辿り着く。スティールヘイズが爆散する寸前で、シオンはパルスプロテクションを展開した。パルス防壁が砲弾を受け止めるが、あっという間に減衰していく。猶予は無い。
「おい、ラスティさん無事か!?」
『助けられた、か。衝撃値が回復後、アサルトブーストで離脱を試みるべきと思うが。君に案はあるかな?』
時間が惜しい為、簡潔に訊ねるラスティ。礼ならMT部隊の足止め分も合わせ、後ですればいい。今はこの場を切り抜けなければ。
「いや、俺もそれが最善だと思う。プロテクションももう消える、すぐ動けるように」
『逃がすものか!』
シオンの言葉を遮りオープンフェイスが突っ込んできた。パルス防壁ではACの侵入を防げず、レーザーランスの突撃がスティールヘイズに迫る。自らが指示した砲撃により機体は爆散寸前だというのに、スネイルの動きは一段と精密かつ速くなっていた。
ラスティは即座に反応し回避しようとするが、そこで気付いた。今の位置からレーザーランスを避けようとすれば、必然的にパルスプロテクションの範囲外に飛び出てしまう。スネイルはそこまで読んで突撃してきたというのか。どちらを選んでも損傷は避けられない。どうする?どうする!?
「おっらぁ!!!」
永遠にも思える一瞬を打ち破ったのはシオンの声。アサルトブーストでオープンフェイスにぶつかり、レーザーランスの軌道を僅かに逸らす。キックする余裕も無かったシオンの悪あがき。その代償は、己がパルスプロテクションの外に弾き飛ばされることだ。
無数の砲弾、その爆発を受けたトラルテクトリが大きく体勢を崩すと同時、軌道が逸れたことで辛うじてレーザーランスを躱したラスティがレーザースライサーを展開する。突撃後の隙を逃さず、スネイルへと斬りかかった。
『終わりだスネイル!』
『害獣どもめ、どこまで私を苛立たせれば、があぁぁっ!!?』
次々と繰り出される斬撃に耐えるだけのAPはオープンフェイスには残っていない。無防備な状態で斬り刻まれ、全身から火花を散らし崩れ落ちる。フィードバックによる全身の激痛を感じながら、スネイルは目の前の「害獣」に手を伸ばした。まだ、やるべきことが残っている。ここで害獣如きに撃墜されるわけにはいかない。怨念めいた感情を噴き出しながらも、スネイルの意識は闇に落ちていった。
スネイル、脱落。彼は根本的に努力の人なんですよね。無数の犠牲を出しながら最新の調整を自分に施しているのも、それだけ力に飢えていたからという気がします。