見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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65.神話の戦い

『ここがルビコン技研都市・・・・・・想像以上の広さだ。敵性兵器の反応はどうなっている?』

 

『現在分析中よ。ただ、こちらから探れる情報にも限度がある。どうか警戒を怠らないでください』

 

レイヴンのオペレーターからの返事に、キングは改めて周囲を見渡した。立ち並ぶビル群に、恐らくホログラムかモニターの投影によって広がっている空。地底奥深くの光景とはとても思えない。と、ブランチの会話にオールマインドが割り込んでくる。

 

『その必要はありません。技研都市のマップは9割作成済みです。敵性無人兵器についても、おおよその観測は済んでいます』

 

言葉と共に送られてくるデータは、確かに目の前の光景と照らし合わせて齟齬の無いものだった。あまりにも仕事が早い。これが傭兵支援AIの為せる業なのだろうか。

 

『・・・・・・ふーん。無数のC兵器が今も稼働中か。ここまでもそれなりだったけど、楽な仕事じゃ無さそうね』

 

『・・・・・・』

 

シャルトルーズが呟いた後、レイヴンは無言で一歩進み出た。眼下に広がるビル群、そのあちこちから機体反応が検出されている。察するに、ここに来るまでに何度も戦った技研製の無人MTだろう。C兵器の反応は、目の届く限り無いようだ。

 

『稼働しているもの以外にも、多数のC兵器が保管されているでしょう。その兵器群及び集積コーラルを確保する。それがここでやるべきことです』

 

『いいだろう。ならば、稼働中のものは撃破して構わないということだな?レイヴン、シャルトルーズ、まずは掃除から始めるぞ』

 

『だから偉そうにしない!』

 

「・・・・・・ふむ」

 

ブランチがビル群に降下していくのを冷たい眼で眺めながら、スッラは静かに息を吐く。ハンドラーの猟犬はもうすぐここに辿り着くのだろう。オールマインドが掌握した無人兵器程度では、時間稼ぎにもなりはしない。

 

ハンドラー・ウォルター。使命に囚われた哀れな男は、今何を思っているのか。その手に握られたリードの先、猟犬として扱っている存在がどのようなものか理解しているのだろうか。いいや、理解していないだろう。他人に甘く、冷酷ぶっている癖に自らが傷付くことも厭わない愚か者。あれはそういう男だ。

 

『C1-246スッラ。何をしているのです。ブランチの支援を開始してください』

 

「あぁ、分かっているとも。それで、侵入者の様子はどうだ?」

 

『C4-621レイヴンは現在深度2を探索中。無人兵器で応戦していますが、長くは持たないでしょう。ルビコン技研都市へとレイヴンが到達する前に、C兵器群を押さえておく必要があります。スッラ、早急に作戦を進めるのです』

 

高圧的な物言いのオールマインドに、スッラは皮肉げに口元を歪めて頷いた。ブランチと同じく降下し、ビル群に突入する。そこかしこに無人兵器が蠢いているようだ。

 

「さて、いよいよ大詰めだが・・・・・・お前はどうする?ハンドラー・ウォルター・・・・・・」

 

スッラは粘性を帯びた口調で呟いて、エンタングルを駆りビル群の隙間を縫って進んでいく。その顔には、喜怒哀楽のどれともつかない歪んだ笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はははははっ!流石だなぁ、帥父ドルマヤン」

 

偏差で撃ち込まれたナパーム弾を避けながら、V.Ⅰフロイトは心底楽しそうな笑い声を上げた。レーザードローンの包囲攻撃を掻い潜っているドルマヤンに向け拡散バズーカを放つが、直前で察知されたのか連続クイックブーストで全弾回避されてしまう。

 

フロイトのロックスミスにドルマヤンのアストヒク。両機体に損耗は殆ど無い。つまりは、それだけ両者の実力が拮抗しているということだ。決め手は共に近接兵装であり、その前段階として衝撃値の溜め合いが発生するのが常道。しかし、攻撃が当たらない。卓越した技量と天性の才覚、あるいは積み重ねてきた経験を持つ両者は、互いの行動を高速で読み合っていた。

 

フェイントにブラフ、虚実を入り混じらせながらフロイトとドルマヤンは戦闘を継続する。上下左右、三次元的な機動で攻防が次々と切り替わっていった。何故そこでライフルを撃ったのか。何故ミサイルをそのタイミングで放ったのか。例え端から見ている者がいたとしても、駆け引きの全容は二人にしか分からないだろう。

 

「成程、お前は狼か。年老い、傷付いても衰え知らずの老狼。面白いな、本当に」

 

『聞くがよい、簒奪者よ。享楽の果てに待つは破滅のみ。その道行きは、奈落の底にしか通じておらぬ』

 

「そうか、奈落の底にはお前みたいな奴が沢山いるのか?それは楽しそうだ」

 

浮ついているかのようなフロイトの声色に、ドルマヤンは目を細める。誇りも信念も無い、しかし他の誰よりも強い怪物。それがV.Ⅰフロイトという存在なのか。このルビコンにおいて、彼のような人間は異質である。何も背負わず、何も見えていない。

 

『己の業を積み上げ続けるのならば・・・・・・ここで朽ちるがいい、自覚無き簒奪者よ!』

 

言い放つと同時、ドルマヤンは真っすぐにフロイトへと突っ込んでいく。先ほどまでの複雑な機動とは似ても似つかない、あまりにも無骨で洗練されていない動き。反射的に拡散バズーカで迎撃するフロイトだが、それがアストヒクに当たることは無かった。

 

何故回避されたのか分からない。まるで、アストヒクが実体を失って砲弾がすり抜けたかのようだ。そんなことはあり得ない。だが、現に目の前で・・・・・・僅かにフロイトが気を取られた隙を突くように、ドルマヤンはパルスブレードを一閃した。

 

「はっははは!」

 

明確な直撃を受けながらフロイトは笑う。何が起きたのか分からないという事実は、彼にとっては喜ばしいものだった。それでこそ攻略し甲斐がある。即座に反撃に移ろうとするが、軽快な動きで距離を取られてしまった。

 

まずは先ほどの現象を解明しなければならない。いかにV.Ⅰフロイトでも、こちらの攻撃が相手をすり抜けてしまってはどうしようもないからだ。

 

「さて」

 

まず考えられるのはカメラアイをハッキングされた可能性。別の映像をこちらの画面に差し込まれたのかもしれない。いや、それならばカメラを停止させればいいだけの話だ。ならば、なんらかの幻覚作用が発生している?アストヒクはコーラル内燃型のジェネレーターを搭載しているようだ。幻覚を引き起こす可能性もあるらしいコーラルを利用したのだろうか。

 

いや、違う。フロイトは荒唐無稽な思考を打ち切った。恐らく、ことはもっと単純だ。そして、今までやってこなかった以上ある程度はリスクを伴う行為のはず。再び迫るアストヒクを前に、フロイトは不意に勘付いた。

 

「あぁ、そうか。俺だからか」

 

フロイトは、その極まった才覚に驕らず経験を積み重ね続けてきた人間である。ACに乗ることが楽しいという子供じみたモチベーションのまま、彼はここまで勝ち抜いてきた。だからこそ分かる。ドルマヤンが何を仕掛けてきたのかを。

 

それは、ACの技術とはまた別の技術。武術、あるいは格闘術に分類されるものだ。相手の思考を読み、肉体の動き、その予備動作を抑える。逆に、己の肉体の動きを相手に読ませ、それをフェイントとして利用する。己の肉体を以て相手を打ち倒す戦いにおいて、戦士が身に着ける駆け引きの類である。

 

フロイトは強い。アリーナのランク1という称号が示す通り、惑星ルビコン3の中で最も優れたAC乗りとも言えるだろう。だからこそ、彼は一度ドルマヤンの仕掛けに引っかかった。優秀かつ相手の行動を先読み出来るが故に、カメラが捉えた映像よりも「自身が読み切った相手の行動」が優先されてしまうのだ。

 

つまる所、砲弾がアストヒクを通り抜けたように見えたのはフロイト自身の思い込みである。鋭すぎる彼の感覚が、映像よりも先に相手の動きを推測したに過ぎない。ドルマヤンはそこまで見越した上で、フロイトに対してフェイントをかけたようだ。

 

例えばブースターの噴射炎をマニュアルで調節する。空気抵抗をわざと受ける為にACを僅かに傾ける。ほんの些細な、思考の外で感覚的に認識出来る程度のフェイント。仕掛けるドルマヤンも、引っかかるフロイトも尋常では無い。

 

「こんな戦い方もあるんだな。年老いた狼の知恵って奴か」

 

呑気な言葉とは裏腹に、フロイトはロックスミスを急加速させた。種は割れた以上、対応は可能である。後は、ドルマヤンがどう反応してくるかだ。こちらが気付いたことに気付いた場合、フェイントすらも餌にして罠を張ろうとしてくる可能性が高い。つまり、さっきまでと同じだ。駆け引きで相手を上回り、勝利するのみ。

 

「もっと色々あるんだろ?見せてくれよ、ドルマヤン!」

 

歓喜と期待を込めて、フロイトは熱烈に叫ぶ。高揚する彼の精神は、死地にいることを認識する気すら無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここらの敵は仕留め終わったぞ。おい、「クソ親父」!次はどうする?」

 

『焦るなG5。ベイラムは戦力の過半を喪失、抵抗能力は無い。震えて動けない意気地なしは放っておけ。本隊は陣形を崩さず前進、G2に指揮を委ねる!G3及びG5はアーキバスの拠点へと向かえ!ただし合図があるまで手を出すな!G6は中軍で待機、目を皿にして周囲を警戒しろ!いくぞ役立たずども、遠足はここからだ!』

 

総長であるG1ミシガンの命令に応え、レッドガン部隊は一個の生き物のように動き出す。先頭を行くG5イグアスは、爽快感と鬱憤が混じった感情に顔をしかめていた。

 

『どうしました、G5。やはり病み上がりでは本調子とはいかないようだ』

 

「うるせぇよ、詐欺師野郎。俺は問題ねぇ。次はアーキバスの能無しどもだ、さっきみたいにはいかねえだろ」

 

『さて、どうでしょう。後背を突いた解放戦線は、随分と奮闘しているようですからね。敵の敵は味方とはよく言ったものです』

 

のらりくらりとしたG3五花海の物言いに舌打ちをしつつ、イグアスは本隊から送られてきた情報を確認する。現在の戦況は、ベイラム直属の部隊は戦闘力を失い撤退、あるいは降伏。アーキバスはベイラム側に攻め込んでいた戦力を即時後退させ、後方を強襲してきた解放戦線相手に防衛線を展開しているようだ。

 

「はっ、今更俺達が土着どもと組めるってか?頭ん中お花畑かよ」

 

『利害の一致で共闘するのはよくあることですよ。あちらが受け入れられるなら、の話ですが。さて、そろそろ前線だ。即席で構築された防衛線は、酷く脆そうに見えますねぇ』

 

口調は苛立たしいが、五花海の言うことには内心同感するイグアス。アーキバス拠点の防衛は、端から見ても随分と杜撰だった。ベイラムへの攻勢から解放戦線への防衛。次々と変化する戦場に対応し切れていないらしい。

 

「・・・・・・クソ、まだかよ。この程度、俺達だけでも捻り潰せるぜ」

 

『旺盛な戦意は素晴らしい。特に、今の貴方には気が満ち満ちている。それはそれとして、足並みは揃えるべきでしょう。総長には何か策がおありのようだ』

 

「だったらいいがな・・・・・・あん?」

 

吐き捨てるように呟くイグアスは、秘匿回線による通信が届いたことに気付く。相手は・・・・・・。

 

「・・・・・・あぁ!?」

 

『ほう。そういうことですか。どうやら、先程の話は私が正しかったようですね』

ミドル・フラットウェル。ルビコン解放戦線の実質的なナンバー2の名が、そこには表示されていた。




人型ロボットが武術的な動きをするのが好きです。アストヒクに合気とか柔術やってほしい。
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