見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「こちら、ルビコン解放戦線だ。ゴホッ・・・・・・ベイラムより独立したレッドガンに提案がある」
右腕の開放骨折に半身を覆う火傷、更には数えきれない程の全身の損傷。フロイトと戦い歯牙にもかけられず一蹴されたフラットウェルは、辛うじて機能しているツバサの通信機能を用いてレッドガンへと連絡を飛ばしていた。
応急処置はしたが、解放戦線の救護部隊が到着するには時間がかかるだろう。もしかすればこのまま命を落とすかもしれない。そう自覚していながら、フラットウェルの思考は冷静そのものだった。アーキバスは想定よりも遥かに頑強に抵抗している。もう一押しが必要だ。
「我々の望みはルビコンに平穏をもたらすこと。ベイラムを見限った貴方達に、コーラルを求めるつもりが無いならば・・・・・・我々は共に戦えるはずだ」
相手の返事も待たず、口から零れる血も構わずに言葉を告げていく。僅かな間相手の反応を待つと、前線に出てきたレッドガンのACを中継地点に、本隊へと通信が繋げられたようだ。
『こちらレッドガン総長、G1ミシガンだ。詳しい話を聞こう』
「単純な話だ。そちらに友軍識別コードを送る。今この時だけは、互いを敵とみなさない。それ以上は、アーキバスの部隊を撃滅後に策定する。どうだ?」
遠のく意識を無理矢理に引き留め、息も絶え絶えに言葉を紡ぐフラットウェル。恐らく、自身の状況はレッドガンに伝わっているだろう。だが、関係無い。あの「歩く地獄」、ミシガンが相手ならばこちらの意図を汲んでくれるはずだ。
『・・・・・・いいだろう。友軍識別コードが送られた時点で、一時的な盟約が締結したと判断する』
簡潔な返答に僅かな安心を覚える。意識が再び遠のくが、まだ死ぬわけにはいかない。感謝の返事をする気力も無いままに、レッドガンへ友軍識別コードと解放戦線の本部へと手短な暗号を送った。
「・・・・・・これでいい・・・・・・」
吐息が漏れ出すように呟き、フラットウェルは操縦桿から手を放す。打てる手は全て打った。後は、ルビコニアン達次第だ。激痛を発し続ける肉体は、最早身じろぐことすらままならない。己の鼓動が弱まるのを感じながら、時間だけが過ぎていく。案外すぐには死なないものだな。フラットウェルは強張った頬を動かし苦笑しようとするが、上手くいかない。
そして。今度こそ、彼の意識は戻れない場所へ遠のいていった。穏やかな眠りに落ちるような心地良さ。霞む視界はとうに闇に包まれ、もう何も見えはしない。
最後、意識を手放す前に聞こえたのは。何かをこじ開けるような、荒々しい物音だった。
「誰でもいい、ヴェスパー上位への通信は繋げられるかな?」
V.Ⅴホーキンス。今回の決戦において後方の補給路を防衛していた彼は、リコンフィグを限界まで酷使しながら各地へ連絡を取っていた。既に戦線は限界を迎え、いつ崩壊するか分からない戦況である。ホーキンスは独断で救援を決定、補給路防衛部隊から戦力を抽出し駆け付けたのだが・・・・・・。
『それが、強度の高い妨害電波によって通信が安定せず・・・・・・い、いえ、V.Ⅲと通信が繋がりました!』
「ありがたい。すぐにこちらに回してくれ」
どうやら、状況は最悪に近いらしい。独断で行動したというのにスネイルの小言が飛んでこないというのは、そういうことだ。
『こちらV.Ⅲオキーフ。V.Ⅴホーキンス、来て早々悪いが総撤退を判断する時期だ。退路を開けるか?』
「そこまでとは・・・・・・可能な限り詳しいデータを送ってくれ、退路を選定しよう」
恐らく、スネイルは落とされたのだろう。そして、我らがV.Ⅰは指揮を執るような人間では無い。混乱しているアーキバスの部隊の命運は、V.Ⅲと自身が握っているということか。
オキーフからのデータを確認する。現状戦力として健在なのはV.Ⅰ、Ⅲ、Ⅵ。MT部隊の損害は計り知れず、一部では降伏している隊員もいるようだ。その上、ベイラムの戦力を無力化し終わったレッドガンがこちらに攻撃する様子を見せ始めている。総崩れは時間の問題であり、このままでは全滅は必至だ。急がなければならない。
『V.Ⅰはサム・ドルマヤンと戦闘中だ、撤退の役には立たん。こちらも解放戦線の攻勢を凌ぐのでギリギリだ、そちらに手は回せない。任せたぞ』
「やれるだけはやってみよう。さて、第1から第3部隊は送ったマーカー地点に展開、友軍の撤退を支援してもらえるかな。第4部隊はV.Ⅲオキーフの元に合流、以降はそちらの指揮に従ってくれ」
的確に配下の部隊に指示を飛ばしつつ、ホーキンスは己の役割を見極める。MT部隊で退路を確保しても、圧倒的な戦力で追撃されればどうしようもない。つまり、そうなる前に相手の足並みを乱す必要がある。
「解放戦線の方はオキーフ君に任せるしかないか。第4部隊の増援だけでは不足でも、耐えてもらうしかない。さて、ならば私は・・・・・・」
一人呟いたホーキンスはアサルトブーストを起動、配下の部隊を伴わずにある地点へと急いだ。リコンフィグに搭載されているブースタはアサルトブーストに特化しており、長大な補給路を守る上で発生する長距離の巡航に優れている。その特性を存分に活かし、レッドガンが展開している方向へと突き進んだ。レッドガンがアーキバスに攻撃を開始した瞬間、突撃し混乱を強いられるように。
危険過ぎる策だということはホーキンスも理解している。彼は歴戦の古強者だが、純粋な実力で言えばヴェスパーの中でも下に位置していた。AC乗りとしての適性は後輩であるペイターやメーテルリンクの方が上である。凡庸な才しか持ち得ないホーキンスは、経験だけでそれを覆すことは出来ない。
だからこそ、彼は戦術眼を磨いた。戦力としての劣勢を戦術の優位で補おうとしたのだ。結果、ホーキンスは熟練の指揮能力を獲得するに至った。V.Ⅴを拝命し、輜重部門の責任者となった後も積み上げ続けてきた努力は、見事に花開いたのである。
「中軍にもAC・・・・・・だが、あれは恐らくレッドガンの末席かな。あちらも戦力が潤沢というわけではないようだね」
ベイラム製の頭部パーツ、そのスキャン範囲を概ね理解しているホーキンスは範囲外ギリギリまで近付き、輸送ヘリの残骸に身を隠し突撃のタイミングを見極める。視界に移るのは中規模のMT部隊とG6レッド。レッドガン所属のAC乗りの中では新参者だが、それでもG1ミシガンが認めた隊員だ。決して油断は出来ない。
じりじりとした時間が流れていく。未だレッドガンに動きは無く、オキーフからの通信も無い。アーキバス部隊の全体が危機に陥っている中ただ機を伺い続けるというのは、百戦錬磨のホーキンスであっても容易ではなかった。額に汗が滲み、頬を伝い垂れていく。落ちた汗がパイロットスーツの内側に染みを作り始めた時、オキーフから通信が入った。
『レッドガン部隊が我らの防衛線に攻撃を開始した。先陣はG3五花海及びG5イグアスと確認出来る』
「了解。攪乱を開始しよう」
一呼吸も置かずに残骸から飛び出し、アサルトブーストで一気に距離を詰める。やや遅れて気付いた敵ACが迎撃の態勢を整える前に、レーザーブレードを展開しながら肉薄した。一閃。
『ぐうぅっ!?ヴェスパーのAC!?』
「すまないね、若きレッドガン。落とさせてもらうよ」
バズーカとハンドガンの迎撃をかわし、チャージしたプラズマライフルをMT部隊へと撃ち込む。複数のプラズマ爆発により複数のMTが巻き込まれ、戦闘不能に追い込まれた。隊列が乱れた所にホーキンスはプラズマミサイルを放ち追撃、可能な限り多数の無力化を試みる。
『こちらG6レッド!ヴェスパーの四脚ACによる襲撃を受けています!ただちに迎撃を』
『浮足立つなG6!そこの番号付きは貴様の30倍は強い、後退し本隊に合流しろ!MT部隊は隊列を立て直しミサイルを散布!撃破する必要は無い、脱出レバーはいつでも引けるようにしておけ!』
『『『了解!』』』
ミシガンの指示が届き、部隊の混乱は即座に沈静化した。実績と人望による統率はヴェスパー側が持ち得ないものだ。事実、彼の指示は的確かつ老獪である。ホーキンスがACの撃破を優先するか、MTの撃破を優先するか。思考させることで隙を作り出そうとしているのだ。
「っ」
数瞬の思考。G6レッドを後退させる理由は?MT部隊を無理矢理にでも前線に向かわせない意図は?戦略上の目的からは外れた行動に、僅かながらリコンフィグの動きを鈍らせるホーキンス。そして、それこそがミシガンの狙いだった。
突如としてコックピット内にアラートが鳴り響く。咄嗟にクイックブーストを吹かそうとするが、MT部隊から放たれたミサイルに牽制され判断が遅れた。生まれた隙にねじ込むように、チャージされたリニアライフルの一撃がリコンフィグに直撃する。
『ここで奇襲とは、やはり一筋縄ではいかないか。だが、通らんよ』
後方より駆け付けたのはレッドガンの副長。G2、ナイルだ。ホーキンスの突撃に対応したにしては速過ぎる。まさか、こちらの動きが読まれていたのか。
「成程、やはりレッドガンを甘く見るべきでは無かったようだ。まさかG2直々に救援とは。骨が折れるね、全く」
『V.Ⅴホーキンス・・・・・・手練れだな。投降するならば命は保証するが』
「残念ながら、それは出来ない。これでも義理堅いのが自慢でね。さぁ、続けよう」
レッドガン副長と隊列を整え直したMT部隊。絶体絶命の窮地を前に、それでもホーキンスは落ち着き払って返答した。やることは変わらない。ここで敵を引き付け、前線の負担を出来る限り減らす。想定した退路に到達させない為には、ここで引くわけにはいかないのだ。
『・・・・・・そうか。ならば、叩き潰すまでだ』
宣言と共に、レッドガンが襲い掛かってくる。どこまで出来るのかは重要ではない。為すべきことならば、為すだけだ。絶望的な脅威に晒されながらも、ホーキンスの精神は微塵も揺らがない。ミサイルと射撃による激しい弾幕を掻い潜り、ナイルのACであるディープダウンへの攻撃を試みた。
「はあぁっ!」
プラズマライフルの着弾による爆発で相手に回避を強制させ、動きを誘導することでレーザーキャノンの直撃を狙う。ベイラム製のパーツで構成されたディープダウンの装甲はEN系統に比較的脆い。ナイルさえ落とせれば戦局は一変するだろう。
『通らんと言ったはずだ!』
一縷の望みを賭けた攻撃は、しかし余裕を持って回避されてしまった。焦り過ぎたか、こちらの思惑を見抜かれたのか。あるいは、単純に力量の差か。怯むことなく攻撃を続行しようとするホーキンスだが、種類の違うミサイルが時間差で迫ってくる為対応せざるを得なくなった。
取り回しのいいハンドミサイルに、12連装垂直ミサイル。そして二連装高誘導ミサイル。それぞれ性質の違うミサイルを、ナイルはタイミングを絶妙にずらして発射する。余程機動力に優れていなければ回避し切れない変則的な弾幕に対応出来たとしても、その動きを見越したリニアライフルのチャージショットが放たれるのだ。
G2ナイル。その立場に恥じない実力を持つ彼は、粛々とホーキンスを追い詰める。逃げ道を潰し、反撃の芽を摘み、縄で縛り上げるように行動を制限していく。V.Ⅴホーキンスは熟練のAC乗りだ。だからこそ、非論理的で滅茶苦茶な手は打ってこない。ナイルにとって相性のいい相手である。
じわりじわりと、リコンフィグのAPが削ぎ落とされる。ナイル自身も、その用兵にも隙は見当たらない。しかし、裏を返せばホーキンス相手に速戦は選べなかったとも言えた。リコンフィグのダメージが積み重なるにつれ、時間が経過していく。レッドガンとヴェスパー、両部隊にとって黄金よりも貴重な時間が。
「っぐ・・・・・・ここまで、か」
パルスアーマーを高誘導ミサイルの爆風で引き剥がされ、リニアライフルによってスタッガーに陥るリコンフィグ。降り注ぐ垂直ミサイルが装甲を焼いていく中、ホーキンスは悔しげに呟いた。実力的にも戦術的にも、今の自分が勝ち得る可能性は存在しない。
それでも、最低限の目的は果たした。死力を尽くして時間を稼いだのだ、レッドガンの攻勢を多少は削げただろう。後はオキーフ達に任せるしかない。自分はここまでだ。
『見事なものだ。これほどまで粘られるとはな』
「老骨に鞭を打つものじゃないねぇ。酷く疲れたよ」
朗らかさすら感じられる口調で言い、ホーキンスはゆっくりと息を吐いた。完全に包囲され、無数の銃口がリコンフィグに突きつけられている。逃げ場は無く、耐えられるAPも残っていない。完全に詰んでいた。
「さて、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。もっとも、捕虜に取った所で旨みは少ないと思うけれど」
『総長からの命令でな。身柄を拘束させてもらおう。抵抗しないのなら、手荒な真似はしないと約束する』
「・・・・・・選択肢は無いか。分かったよ、G2。お言葉に甘えて、降伏させてもらおうか」
この状況ならば、撃破されるよりも捕虜に取られた方が時間を稼げるとホーキンスは判断。リコンフィグの戦闘モードを解除し、ジェネレーターも停止させた。罠だとしても構わない。ナイル及びMT部隊を少しでもこの場に留めておけるならば、降伏の恥辱など安いものだ。
『コックピットを開けてくれ。無論、怪しい動きはしないように』
ナイルの言葉に従いコックピットを開放する。外気は酷く冷たく、パイロットスーツ越しに肌を刺してくるかのようだ。ふと見上げてみれば、コーラルによって赤く灼けた空が広がっている。見慣れた景色だというのに、何故か新鮮に感じられた。モニター越しではないからだろうか。
───V.Ⅴ、ホーキンス。彼はこの時より、レッドガンに身柄を確保された。
ホーキンス、アリーナランクはイグアスより下なんですよね。旧世代強化人間でもない純然たる叩き上げの古強者の為、オールマインドからは評価されていなかったのかもしれません。