見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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68.選択

「フロイト、深追いするな!既に我らは総撤退を開始している、戻ってこい!」

 

MT部隊及び全体の指揮を並行しながら、オキーフは普段の態度からは想像出来ない大声を張り上げていた。既に戦局は敗勢、やるべきことは被害を最小限に抑えること。だというのに、こちらの命令を無視し未だに戦闘を継続している者がいた。ヴェスパー部隊のトップ、V.Ⅰフロイトである。

 

後退を始めたドルマヤンを追撃し、フロイトは敵陣へと誘導されていく。アストヒクの損耗はそれ程でもない為、この後退はどう考えても罠だ。恐らく、フロイトは全て分かった上で突っ込んでいるのだろう。こうなったらもう無理だ。例えアーキバス上層部からの命令だとしても、彼は絶対に止まらない。

 

「ええい・・・・・・V.Ⅵ、V.Ⅷの回収は済んでいるか!?」

 

『今しがた終わりました。かなりの怪我を負っていますが、意識は明瞭なようです』

 

「よし。そのまま部隊も引き連れて後退、退路を死守しろ。ホーキンスは捕虜に取られたようだ、すぐにでもレッドガンが殺到してくるぞ」

 

『了解』

 

指示を出しつつ、オキーフはレーダーに映るロックスミスを示す点を確認する。敵陣深くまで斬り込んでいるその点は、周囲の兵器に包囲されて尚激しく動いていた。そのまま引き付けていてくれれば追撃の手も多少は緩むはずだ。コントロール出来ないのならば、自然災害か何かと割り切って利用するしかない。

 

「このような役回りはスネイルの仕事だろうに・・・・・・うんざりするが、仕方ない」

 

オキーフは通信に乗らないように呟き額の汗を拭う。ドルマヤンに指摘された通り、彼はかつてコーラルリリースの為に暗躍していた。どうでもいい人生、どうでもいい世界。アイランド・フォーの動乱の裏でこの世の悍ましさを嫌という程目にしてしまった心は、世界そのものが壊れることを望んだのである。

 

しかし。動乱末期、ひょんなことから現地の少女に命を助けられたオキーフは、彼女を養子に取ることになった。恩を返したかったのか、彼女の安全の為か。今となってはオキーフ本人にしか分からない。一つ分かるのは、少女と家族となったことを境にうんざりするようなこの世界を受け入れ始めたということだ。

 

世界はどうしようもないし、救いもありはしない。それでも生きていくべきなのだ。世界を壊して無数の人間を巻き込む選択肢を、オキーフは放棄した。アーキバス情報部門へ招聘された際、脳内コーラルの焼き付きを中和する第9世代手術の施術を条件に承諾、「協力者」と完全に決別したのである。

 

「残存部隊は集合、防衛線を再構築する。順次撤退も視野に入れておけ」

 

散々な状況だが、それでも最悪ではない。オキーフの指揮下には未だに規律を保った部隊がいるのだから。ヴェスパーに身を置いている以上、最低限の務めは果たさなければならない。ただでさえ、裏切りを容認していたのだ。

 

先般裏切ったラスティのことが脳裏をよぎる。アーキバスにとって致命的な局面を作り出したあの男のことは嫌いではなかった。表面上は友好的かつ人懐っこいように振る舞いながら、内心には鋼の意志を持つ男。彼が解放戦線のスパイであるという情報を、オキーフは早期に入手していた。

 

だが、他者への報告はしていない。何故か。己に何度も問いかけても、答えは見つけられずにいる。分かるのは、彼はラスティを気に入っているということ。内に秘めた強烈な使命感を感じ取り、オキーフは羨ましく思った。擦り切れ汚れた自分には無い輝きだと。

 

「来たか・・・・・・敵を可能な限り引き付ける、射撃はこちらの合図を待て」

 

迫ってくる解放戦線の部隊を迎え撃つ準備を整えつつ、頭の片隅で過去を振り返る。監視の意味も込めて、オキーフはラスティを色々と気にかけていた。恐らく、こちらの思惑に彼は気付いていたのだろう。その上で、彼らは交友を育んだ。上辺だけの友情と知りながら、今日この日にラスティが裏切るまで。

 

矛盾した思いがある。ルビコンでの任務を終え、養子である少女が待つ星外へと帰りたい。ラスティの拓く未来がどのようなものなのか見届けたい。二つの想いは相反する事無く、オキーフの心の中に存在していた。

 

「よし、射撃開始!四脚MTを優先して狙え!」

 

部隊へと指示を下し、乗機のブースターを吹かし浮かび上がらせる。彼のACであるバレンフラワーは、高度を取った爆撃を得意とする重支援四脚だ。空中を自在に動き回りつつ押し寄せる解放戦線の兵器を迎撃していく。と、

 

「っ」

 

立て続けに鳴るアラート。飛んできた二発の砲弾をクイックブーストで避けようとするが、回避先にも同じく二発の砲弾が撃ち込まれていた。直撃と共に爆発が起こり、バレンフラワーの体勢が大きく傾く。これは、二連装式のグレネードか。

 

『灰かぶりて、我らあり。企業の番号付きよ、お前達の命運が尽きる時だ』

 

MTに紛れていたのは、軽量型のタンクACだ。リング・フレディの駆るキャンドルリング。開戦から遊撃に徹し続けていた彼は、ここに来て正面の攻勢に参加していた。機動力を活かし退路に回り込む、あるいは今もフロイトと戦い続けている帥父ドルマヤンに加勢する案もあったが・・・・・・この戦況では、正面の防衛部隊を突破するのが上策である。これが最もアーキバスに痛撃を与えられるはずだ。

 

ドルマヤンに加勢したい私情を捨て、フレディは滞空しているバレンフラワーにミサイルを放つ。退路を断ったとしても、正面を抜かなければ殲滅までは時間がかかる。何より、こちらの損害も計り知れないものになるだろう。敵の士気と統率を崩壊させ、短時間で降伏に追い込むには防衛線を粉砕するしかない。

 

「リング・フレディ・・・・・・ドルマヤンの懐刀か。各位、散開準備。グレネードの爆風に巻き込まれないよう距離を取れ」

 

敗色は濃厚だが、オキーフは冷静に指揮を執り続ける。最後の最後まで足掻くのが人間だと、思い知っているからだ。

 

アーキバスは逃げ延びて態勢を立て直す為に。解放戦線はルビコンの未来を拓く為に。ウォッチポイント・アルファを巡る最終局面、熾烈な攻防戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅっ、いい感じだ。風が気持ちいいな」

 

あらゆる方向から解放戦線の兵器に狙われた状態で、フロイトは心底楽しそうな笑みを浮かべていた。彼が追いかけてきたドルマヤンは包囲の外に鎮座している。数の利を以てこちらを消耗させつつ、一瞬の機を伺っているのだろう。一騎打ちには拘らない。老獪な判断だが、このままでは勿体なかった。

 

「帥父ドルマヤン、お前自身が来いよ。そうじゃなきゃお前の同胞を殺し続けるぞ。まだ弾には余裕がある、ここにいるルビコニアンの9割は殺せるだろうな。まぁ、俺自身も死ぬだろうけど」

 

何でもないような口調で煽る。自分の命と引き換えに、ここにいる解放戦線の戦士達を殺戮すると。それが本音だと、ドルマヤンには伝わっているはずだ。

 

「選べよ。俺を落とすのと引き換えに同胞を沢山死なせるのか、誘いに乗って俺と戦うのか。どうするんだ?」

 

フロイトは無数の銃撃を避けながら拡散バズーカを放つ。MTが比較的密集しているところに撃ち込まれたそれは、容易くMT達を破壊していった。彼の言葉に嘘は無い。自分の命を賭けて、ドルマヤンを引きずり出そうとしている。

 

『・・・・・・いいだろう。ルビコンの戦士達よ、手は出すな。私が往く』

 

再び前に出てきたドルマヤンのアストヒクを見て、フロイトの笑みは一層深くなった。この前のドーザーとの勝負も面白かったが、今回はまた格別だ。さっきとは状況が違う、ドルマヤンは全力でこちらを墜としにくるはず。最高に楽しい戦闘になるだろう。嬉々とした様子を隠そうともせず、フロイトはドルマヤンに襲いかかろうと───

 

「っ・・・・・・?」

 

───した所で、不意に動きを止めた。怪訝な表情を浮かべ、コックピット内部をきょろきょろと見回す。なんとなく予感がした。このままではいけないという、ぼんやりとした予感。それは、彼が持つ天性の才能を、経験を糧に磨き上げた故の第六感である。

 

突如として静止したロックスミスに、ドルマヤンも前進を中断する。どことなく雰囲気の変わった眼前の敵を睨みながら、しわがれ声で訊ねた。

 

『どうした、簒奪者よ』

 

「・・・・・・あー。すまん、急用が出来た。やり合うのはまた今度にしよう、帥父」

気の抜けるようなとぼけた返事をして、フロイトはアサルトブーストを起動。包囲網へと真っすぐ突っ込んだ。さっきまでの言動からは想像も出来ない行動、そしてドルマヤン直々の命令もありルビコニアン達の判断が遅れる。結果、弾幕を張るのが間に合わず一瞬で突破されてしまった。

 

『・・・・・・。それが、お前の背景か』

 

ぐんぐんと離れていく機影を追い討つことも無く、ドルマヤンはその背に言葉を投げかける。無邪気な簒奪者はここまで理由無き力を振るい続けてきた。そこには決意も覚悟も感じない。幼子が羽虫を潰すが如き無自覚さは、ドルマヤンにとって唾棄するべきものだ。

 

しかし、離れていくフロイトからはそれを感じない。あれ程に戦いを求めていたというのに何故彼は撤退を選択したのか。伺い知れぬその理由こそが、無邪気な簒奪者の背景なのか。

 

『無理に追撃する必要は無い。隊列を維持しつつ前進せよ』

 

ここで逃がせば面倒なことになるかもしれない。だが、逃げの一手を打っているフロイトを墜とせるとは思えなかった。ここは前線への加勢を優先、戦略的な勝利を求めなくては。歴戦であるドルマヤンは合理的にそう判断した。

 

もし若い頃の彼ならば、例え単独でも追撃していただろう。この場に留まらせたのは立場故か、あるいは老いたのか。前進を再開しながら、ドルマヤンは静かに自問し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

ウォッチポイント・アルファ、深度3。既にブランチ達によって無力化された巨大高炉が存在する地下空洞を621は降下していく。無人兵器は全て破壊され、これ以上は出てこないようだ。

 

「・・・・・・ふぅ・・・・・・」

 

大激戦が繰り広げられているウォッチポイント・アルファの入り口周辺、そこから大分離れた場所でウォルターは深い息を吐いた。ここまでは順調だ。既に通信の妨害は切り上げており、現在はオペレートに集中している。とはいえ、今の自分に出来るサポートはたかが知れているが。眉間の皴を揉むと共に自嘲しつつ、状況を整理した。

 

まず、ブランチの動向は未だ不明。恐らくは既に技研都市へと突入しているはずだ。つまり、もうすぐ621が追い付ける。そうなれば、彼女自身が立案した作戦の第2段階へと移ることになるだろう。

 

そして、両企業と解放戦線、更には離反したレッドガンが入り混じった地上での決戦は解放戦線の優勢。ベイラムの戦力は壊滅し、アーキバスも追い詰められている。どうやらレッドガンは解放戦線と手を組んだらしく、両勢力間での戦闘は発生していないようだ。

 

621の作戦に従うならば、解放戦線とは敵対する必要は無い。レッドガンと解放戦線が協調した上で両企業を排除したという現状は、望み得る最高の展開と言える。

だというのに、ハンドラー・ウォルターの表情は暗い。本当にこのままでいいのだろうか。621の作戦では、コーラルを焼き払うことは叶わない。「友人達」の遺志を果たすことが出来なくなるのだ。

 

「・・・・・・どうする」

 

幼少の頃から、使命の為だけに生きてきた。コーラルを焼き尽くす為だけに、人生を捧げてきた。それが、自分に出来る唯一の贖罪だと思ったから。使命を放棄してしまえば、自分がどうなるのか分からなかった。

 

621。自分が利用し続けてきた、凄まじい技量を誇る猟犬。そして、彼女の友人であるコーラル変異波形、エア。二人を裏切らなければ使命は果たせない。何よりも、621はウォルターの生存を強く望んでいた。裏切れない。裏切れるものか。身を粉にして戦ってきた彼女の無垢な願いを、真摯な祈りを、払いのけられるはずもない。

 

ウォルターとて自覚はしている。己が過去に囚われ、罪の赦しを求めていることを。つまり、過去と未来どちらを優先するのかという話だ。数十年以上背負い続けてきた過去か、621が強く望んでいる未来か。二つに一つである。

 

結局の所、どちらかを裏切るしかないのだ。どちらの道に進んでも、自身は深く傷つくだろう。それでも選ばなければ。時は止まらず、誰に対しても平等だ。猶予はもう長くない。

 

「俺は、俺の往くべき道は・・・・・・」

 

そして、621からメッセージが届く。技研都市に到達した、と。突入の許可を求める信号に、ウォルターはぎゅうと瞼を閉じる。数度深い呼吸を繰り返し、瞼と共に口を開いた。

 

「作戦の第2段階を開始する。突入しろ、621」




ゲーム本編でも言われてますが、選択するというのは大事です。オキーフも、フロイトも、ウォルターも、それぞれの何かに従い選択しました。各々が進むべき道を。
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