見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか 作:てぬてぬ@TSF
「どういうことだ、補給物資が届かないとは!?」
「ですから、輸送ヘリが独立傭兵に落とされたのです!それも出発前に!間違いなく企業の差し金でしょう」
武装採掘艦ストライダー、その艦長室。苛立たしげに声を荒げる艦長を必死に宥めつつ、部下は言葉を続けた。
「物資が届かない以上、最後方の右舷脚部の修理は不可能です。如何しますか?」
「決まっている、反撃だ!蛆虫共め、目にものを見せてくれる!」
激昂して吼える艦長は、両の眼をぎらつかせながらデバイスを操作する。現在位置はベリウス西部。RaDの技術屋に武装化を施させたストライダーは、しかし大した移動もせずそこに留まっていた。艦長としてはすぐにでも星外企業への反撃を行いたかったのだが、上層部から待ったが掛かっているのである。
「ですが、帥淑からは機を伺うべきだと・・・・・・」
「何を言っている!こうしている間にも同志達が虐げられ、あまつさえ虐殺されているのだ!静観など出来ようものか!」
ストライダーの艦長は、解放戦線きってのタカ派だ。故に上層部に無断でストライダーを武装化し、単艦での特攻すら辞さない。部下はその剣幕に圧倒され、口を挟むことが出来ないようだ。と、
「貴殿の覚悟は見事だ。だが、拙速を認めることは出来ん」
艦長室の扉を開きながら入ってきた男・・・・・・ミドル・フラットウェルが声を上げた。突然の登場に目を剥く艦長と部下。しかし、すぐさま怒声を返す。
「何を弱気な!その為の武装化です!このストライダーならば、例え単騎だろうと・・・・・・!」
「確かに多大な戦果を上げることは出来るだろう。しかし、それだけだ。企業の連中をルビコンから叩き出すには至らない。そのような徒花の為に、このストライダーを使い潰すつもりか?」
「ぐっ・・・・・・」
フラットウェルの言葉に、艦長は言葉を詰まらせた。彼の言う通りだ。如何に巨大かつ武装を施したストライダーと言えど、それのみで戦局をひっくり返すことは出来ない。そのようなこと、艦長も理解はしている。だが、そこで黙り込むままの男ではなかった。
「ですが!苦境に立つ同志達を見捨てろと!?帥淑は冷静で聡明でしょうが、そのような弱腰では我らは疲弊するばかりだ!勝負に出ねばこのまますり潰される!いつかは反攻しなければならないのです!」
「その通りだ。そして、「いつか」は今ではない」
激情を叩き付ける艦長に、あくまで落ち着いて答えるフラットウェル。鋭く冷徹な瞳が艦長を貫く。
「裏に表に、反攻の準備は進めている。全てはルビコンを取り戻す為に。足並みが揃わねば、我らの勝利が潰えると何故分からん?いつまでも平行線な議論を続けられる程、我らに余裕は無いのだ」
「・・・・・・」
全くもって正論だ。非の打ち所がまるで無い。しかし、艦長にはフラットウェルに対する反抗心を抑えることが出来なかった。何故、解放戦線の総指揮を彼が執っているのだろうか。何故、帥父ドルマヤンは最近姿を現さないのか。全て、目の前の男が仕組んだことではないのか。
無論、それは艦長の思い込みに過ぎない。証拠などどこにも無いのだ。それでも怒りを隠せないのは、彼が誇り高きコーラルの戦士だからか。あるいは視野狭窄に陥っているからか。いずれにせよ、艦長は己の感情をどうにか呑み込み、ゆっくりと口を開いた。
「・・・・・・いいでしょう。脚部の装甲破損を修復する目途も無くなった。仮にこちらから攻めるのならば、万全の状態でなくては。しばらくの間は大人しくしていましょう」
「賢明な判断に感謝しよう。代わりの補給物資は、可能な限り迅速に用意をする。力を蓄えておいてくれ」
そう言い残し、話は終わりだとばかりに颯爽と立ち去っていくフラットウェル。その背中に、艦長は憎々しげな視線を向けるのだった。
「ぐへぇ・・・・・・」
ガリア多重ダム。シミュレーター室の一角に用意されている休憩用のスペースで、シオンは呻きながらソファに深々と座り込んでいた。
「ちょっと、大丈夫!?」
「だ、大丈夫大丈夫。ちょっと疲れただけだから」
慌てて介抱しようとするツィイーに愛想笑いを返しながら、己の肉体の感覚を確かめる。脳の奥から痺れるような鈍痛が伝わり、四肢が酷く重い。吐き気に似たむかむかを胸の辺りから感じる。有り体に言って、絶不調だ。
「全然そうには見えないよ!顔真っ青だし、体震えてるし・・・・・・ほら、水飲んで」
差し出されたコップを素直に受け取り、苦労しながら水を嚥下する。まさかこれ程とは。水分が全身に染み渡るような感じを覚えながら、シオンは疲労の籠った息を吐いた。
現在、ガリア多重ダムの周辺は平穏そのものである。搭乗するACも未だに用意されていない状態で、それでも何かしなければならないと思ったシオンはひたすらにシミュレーターに籠り続けていた。
ひたすらAIで動くガードメカやMTと戦い続け、肉体にACを操縦する感覚を叩き込む。何年か前にやった苦行をもう一度行うのは精神的にキツい。しかし、やらなければ戦場で死ぬだけだ。シオンは己の肌にすり込むように、ひたすらにシミュレーターで経験を積み続けた。その折、心配したツィイーがやってきたのである。
「最新世代の強化人間だからって、無理しちゃ駄目だよ!横になって深呼吸しよう、ね?」
「ご、ごめん・・・・・・あぁもう、体力つけないとなぁ」
いくら最新世代が優秀だとしてもACの操縦には消耗が伴う。齢が十にも満たない肉体では、基礎的な体力が無いのも当然だ。シオンはツィイーにされるがままに寝転がり、彼女の膝枕に甘えることになってしまう。後頭部に女性特有の柔らかさを感じつつ、おずおずと口を開いた。
「ごめんな、ツィイーさん。ここまでしてもらうなんて、凄い申し訳無いっていうか・・・・・・」
「そんなに謝らなくていいって。同志ダナムや帥淑に頼まれたらしいけど、無理に戦う必要は無いんだよ?私だって前線で戦うし、頼れる人が沢山いるんだから」
慰めるような雰囲気を感じるツィイーの言葉。恐らく、彼女はシオンを見た目通りの少女として扱っているのだろう。思う所が無いでもないが、掘り返せば混乱の元となる。全身の力を抜いたシオンは、その言葉に甘えることにした。膝枕の体勢のまま、ツィイーに訊ねる。
「そう言えば、ツィイーさんはいつまでここにいるんだ?聞いた話じゃあすぐにでも他所に向かわないといけないとか言われてたけど」
「あー・・・・・・うーん、あと数日くらいかなぁ。私は『壁』に配置されるんだけど、メッサムの率いる四脚MT部隊がね。やっぱ、どこの場所も戦力が厳しいみたいで、まだ振り分けが難航してるんだって」
成程と気だるげに頷きながら、シオンは情報秘匿の杜撰さを感じ取った。解放戦線は軍隊ではない。あくまで地元民達が集まって出来た軍事組織だ。シオンが独立傭兵だった頃は、自分に不利な情報を喋らないよう、ブリーフィングの度に気を張っていたのである。情報とは、どこから漏れるか分からないのだから。
しかし、こうもあっさり内情を話すのは、やはりシオンのことを仲間と思ってくれているからなのだろうか。良心が痛むのを感じて、シオンは腕で両目を覆った。その様子を勘違いしたのか、ツィイーの声に不安が滲む。
「本当に大丈夫?医務室まで運ぼうか?」
「いや、本当に大丈夫だから。少し休めば元気になるって」
慌てて取り繕うような笑みを浮かべると、ますますツィイーの眉間に皴が寄ってしまう。シオンにとって、これくらいの歳の娘との会話は慣れていなかった。今は自身の方が年下に思われる体なのだが、そこまで頭が回らないままかける言葉を探す。
「えーっと、その、ほら。そんな表情してたら可愛い顔が台無しだぜ、うん」
「え・・・・・・?もう、お姉さんをからかうもんじゃないよ。シオンの方がよっぽど可愛らしい顔立ちしてるのに」
「んあ、そ、そうか?」
想定外の返事に狼狽えるシオン。自分の見た目が整っているということは知っていても、どうにも実感が湧いていないのだ。狼狽している彼の頬を、ツィイーはむにむにと指でつまみこねくり回す。
「そうそう。こういう言い方あんまり好きじゃないけどさ、お人形みたい。キリッとしてるのに可愛くて、うーん、なんて言えばいいのかな」
「わひゃっふぁ、わかっひゃからその手をやめひぇくれ」
「あっ、ごめん!触り心地がよくて、つい・・・・・・痛かった?」
頬をいじくり回されてるシオンが呂律の回らない声で言うと、はっとしたツィイーが謝罪と共に指を放した。
「いや、痛くはないけど・・・・・・あ、そうだ。それじゃあ謝罪代わりに俺と一戦やってくれないか?ツィイーさんもランカーだろ?」
話を変えるように訊ねると、やや困惑を浮かべつつもツィイーが頷く。先日ダナムとは一線交えたものの、目の前の彼女とはまだだった。この機会は出来れば逃したくないと、シオンは畳みかける。
「こんなザマだから今すぐには無理だけど、夕食前までには回復してると思うから、その辺りの時間が空いてれば。無理にとは言わないけど、どうだろう」
「・・・・・・うーん。分かった、いいよ。ただ、無理はしちゃ駄目だからね」
僅かな沈黙の後、返答するツィイー。シオンと戦うことに対して何か思うことがあるのだろうか。しかし、詳しい本心までは分からない。結局、この場はそのまま別れることになった。
『・・・・・・よし、いくよ!「灰かぶりて、我らあり!」』
雄々しい声と共に、ツィイーのAC・・・・・・ユエユーがブーストを吹かす。シオンはトレーナーACで相対しながら、AI操縦の相手との違いを噛み締めていた。
「それじゃあ、いっちょよろしくお願いしますっと!」
モニター越しでも伝わってくる彼女の戦意が、シオンの肌を撫でる。以前はこんな感覚を味わうことは無かった。やはり、ACに搭乗している時の感覚が研ぎ澄まされている。相手の感情すら読み取れる程に。
ユエユーから放たれたグレネードの弾をクイックブーストで躱したシオンは、ミサイルと弾丸を猛然と叩き込んだ。展開されたパルスバックラーに大多数は防がれたが、ユエユーも決して無傷とはいかない。蹴り飛ばそうとアサルトブーストで突撃しようとした瞬間アラートが鳴り響いた。直後、二発目のグレネードが放たれる。
「クソッ!」
突撃を中断し距離を取ろうとするシオン。反対にツィイーはクイックブーストで距離を詰めた。ユエユーのような二脚ACで運用するグレネードは、反動を抑える為発射時に動きが止まってしまう。さらに、ACに内臓されている機構により一部の攻撃の直前にはアラートが鳴る仕組みだ。そして、グレネードはその一部の攻撃である。
つまり、まともに命中させるには工夫がいるのだ。普段相手にしているMTや通常の兵器ならば問題無いが、今の相手はAC。それもダナムを撃破すらしているらしい。だからこそ、ツィイーは被弾覚悟で距離を詰めた。命中さえすればグレネードの火力と衝撃力で押し切れる。
『どんどんいくよっ!』
ツィイーはリロード時間を悟らせない為にユエユーを前進させ続ける。アサルトブーストで突っ込まないのは、彼女自身至近距離での機動戦に慣れていないからだ。双方の速さで目を回すくらいなら、被弾を受け入れ正面からじりじりと距離を詰める。潔いその戦法にシオンは舌を巻いた。見た目に似合わず、ツィイーはかなり豪胆なようだ。
だが。既に付け入る隙は見えた。シオンはグレネードが直撃することも厭わず、ミサイルを放ちながらアサルトブーストで突進する。爆炎を強引に突っ切り、AC同士が触れ合う程まで距離を縮めた。パルスシールドを展開させる隙も与えずに蹴り飛ばし、チャージしていたリニアライフルで追撃。時間差でミサイルがユエユーを襲い、あっという間にスタッガーを取ってしまう。
これが、シオンがひたすらシミュレーターに籠り続け編み出した戦術。肉体の反応の良さを最大限活かすには、やはり接近戦しかない。そして、近接武装が無い以上攻撃の起点はキックに頼るのが望ましい。OSチューニングをしていないのに何故ブーストキックが使用出来るのかは横に置き、シオンはひたすらこの戦い方の練度を磨いていた。
『くぅっ!何、この動きは・・・・・・!?』
動揺を滲ませた声が通信越しに響く。にわか仕込みの戦術だとしても、シオンの体は第10世代の強化手術が施されているのだ。その精度は非常に高く、経験豊富なツィイーを翻弄することに成功していた。スタッガー中の追撃はユエユーのAPをごっそりと削り取り、どうにかACSが復帰した時にはシオンのトレーナーACはしっかりと距離を取っていた。これを繰り返せばリスク少なく勝てるはずだ。相手が対応してこないのなら、の話だが。
『あぁもう、つっよいなぁ!アーシルに聞いてはいたけど、凄いねシオン!』
「そりゃどうも!ツィイーさんこそ見事な判断力じゃないか!」
互いを讃えつつもまだ戦いは続いている。状況はシオン有利だが、両手のグレネードが当たりさえすればツィイーが逆転する目は十分にある。集中力を高め、次なる行動に移そうとした所でシミュレーター室内に警報が鳴り響いた。
『所属不明の航空機が接近中!各員配置につけ!』
切羽詰まった連絡に、シオンとツィイーは即座にシミュレーターを終了させて装置から飛び出した。慌ただしい雰囲気が周囲に充満しているのを感じ、シオンは青ざめているツィイーに訊ねる。
「こういうのってよくあることなのか?」
「わ、分からない。私は各地を飛び回って戦っているから、多重ダムが攻められてる状況に直面するのは初めてなんだ。とりあえず同志ダナムの指示を仰がないと・・・・・・」
動揺が見られるツィイーが走り出そうとした途端、振動が彼らを襲った。攻撃されている。ルビコンでは、航空機が高度を取ると封鎖機構に攻撃されてしまう。故に航空機による攻撃は廃れていたのだが・・・・・・多重ダムを襲撃してきた相手は、そのセオリーを無視したようだ。
「私はガレージに向かうからシオンは部屋に戻って待機して!」
叫ぶようにツィイーが言い駆け出していく。ガリア多重ダムが襲撃されたとして、乗れるACの無いシオンでは何の役にも立たない。ツィイーが咄嗟に下した判断は的確だ。
「あぁクソ、結局役立たずかよ!」
どうしようもない現状に悪態を吐き、シオンは部屋へと戻る。結局、何も出来ることは無く待機することしか出来なかった。
両手グレネードという漢らしいアセンのユエユーが弱いわけ無いだろ!固まって配置してるMTや汎用兵器を纏めて吹っ飛ばせるし弾薬が一種類で補給の手間も少ないので解放戦線の現状には即したアセンだと思いますね(早口)。