見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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69.過去を振り切って

技研都市の中心にそびえ立つバスキュラープラント。その周辺の湖で、ブランチ及びスッラはアイビスシリーズの一機と戦いを繰り広げていた。

 

『機体名、IB-01:CEL240と推測。高い機動力及びコーラルオービットによる波状攻撃、威力の高い光波ブレードに注意してください。ジェネレータを完全に破壊しなければ再起動の可能性もある為、確実な撃破をお願いします』

 

オールマインドの分析通り、IB-01は高速で飛び回りながらコーラルオービットを展開する。対するブランチはキングが正面に陣取り、シャルトルーズはIB-01よりも高度を上げていく。レイヴンは二人を援護するように動きつつ、必殺のパイルを叩き込む機を伺っていた。

 

「・・・・・・」

 

その様子を眺めながら、スッラは悠然とIB-01の後方へと回り込んでいく。彼は懐かしさを感じていた。IB-01。最初期のアイビスシリーズのことは、未だに脳裏にこびりついている。

 

今から50年以上前、C1-249スッラは技研都市で強化手術を受けた。成功率が一割にも満たないそれを辛うじて生き残り、貴重な実験体として酷使される日々。耐え難い苦痛はいつしか日常となり、心が摩耗していくのは避けられなかった。

 

そんな折、スッラはアイビスシリーズの稼働実験に参加することになる。結果は惨敗。ACとは比較にならない高い性能に、一矢報いることも出来ずに撃墜された。当時は戦闘シミュレーターは開発されておらず、安全装置があったとはいえ生身に負担がかかるのは当然である。それが、日を置いて何十回と繰り返されるのだ。生き地獄としか言いようがない。

 

スッラの心身が限界を迎え、「処分」が検討され始めた頃。彼はとある少年と出会った。自身をこの地獄に叩き込んだ第1助手の子息。後のハンドラー・ウォルターに。

 

「・・・・・・くく」

 

ふと、笑みが漏れた。目の前にはIB-01がいる。そして、後方からはハンドラー・ウォルターの猟犬が迫っている。運命とは実に数奇なものだ。感傷に浸りながらも、スッラは二種のミサイルを放ちIB-01に接近した。キングとシャルトルーズの攻撃に対応して回避機動を取っているが、動きから察するに戦闘におけるアルゴリズムに変化は無いようだ。

 

「あの頃と変わらんとは。半世紀以上前から成長していないらしい」

 

IB-01の動きが手に取るように分かる。そして、その動きに付け込むだけの技量が今のスッラにはあった。まるで吸い寄せられるかのように、撃ち込まれた拡散バズーカが直撃する。連鎖爆発をもろに喰らいスタッガーしたIB-01の元に、機を伺っていたレイヴンが突撃した。炸薬によって射出されたパイルがIB-01の装甲を容易く穿ち、ジェネレータを破損させる。

 

『敵機、損傷拡大!もう一押しです、レイヴン!』

 

オペレーターの言葉に応えるように、レイヴンは穿たれた装甲の隙間へと二連グレネードを叩き込んだ。スタッガーから脱却し距離を取ろうとするIB-01に、特殊ミサイルが絡みつくように追い縋る。凄まじい機動で爆発を避けた直後、全てを読み切っていたスッラがエンタングルを突っ込ませ、キックによる衝撃でB-01をレイヴン側に押し戻した。

 

「計画の為にもお前は邪魔だ。墜ちろ」

 

クイックブーストでエンタングルが後退した瞬間、レイヴンのナイトフォールがパルスの奔流を放ち始める。アサルトアーマーで再びスタッガー状態に追い込み、先程と寸分違わない箇所にパイルをねじ込んだ。破損していたジェネレーターを完全に破壊されIB-01は墜落。再起動も出来ず、完全に機能を停止した。

 

『IB-01:CEL240の完全撃破を確認。お疲れ様でした、ブランチ。ですがまだ任務は残っています。指定された三つの座標に移動し、未稼働状態のC兵器群を確保してください』

 

労いの言葉を言いつつも、オールマインドはやや焦った様子で新たな指示を下す。恐らく、追ってきている621の速度が予想を超えていたのだろう。追いつかれる前にC兵器群を鹵獲、支配下に置きたいという考えが透けて見え、スッラは口の端を吊り上げた。相も変わらず、脇が甘い。

 

『・・・・・・いいだろう。マーカー地点への移動を開始する。時間が無いのならば手分けした方がいいだろう、私は西の地点へと向かう』

 

『じゃあ私は北西に。レイヴンは北の地点を頼める?』

 

『了解しました。二人とも、どうか気を付けて』

 

ブランチのAC三機がそれぞれの地点に向けて移動を開始する。スッラはそれを眺めながら、オールマインドに分かり切っていることを訊ねた。

 

「さて、私はどうすればいい?オールマインドよ」

 

『まもなくこの場へとたどり着く、C4-621レイブンの足止めをしてください。それが貴方の望みでもあるのでしょう?』

 

「くくく・・・・・・いいだろう、ハンドラー・ウォルターの猟犬とやるのも久しぶりだ。マスター・オールマインドが与えてくれた折角の機会に与るとしよう」

 

心底楽しそうに粘性の笑みを浮かべ、明らかな皮肉を飛ばすスッラ。彼は今の状況を喜んでいた。心の奥底に抱え続けていた、くすんで捻じ曲がった願いを叶えることが出来るかもしれない。アイビスの火以前から生き延び続けていたスッラにとって、それは宿願とも言えるものだ。

 

『敵機接近。スッラ、対応をお願いします』

 

数分後。オールマインドの指示に従い、スッラは迎撃の態勢を整える。さぁ、始めよう。笑みが絶えることは無く、彼はハンドラー・ウォルターの猟犬たる621を迎え入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『コーラル潮位が上がっている・・・・・・自己増殖か。だが・・・・・・いや待て、621。敵機の反応を確認した』

 

ウォルターの言葉を聞きながら、621は湖に佇むACを目視する。アーキバス製のフレームを中心とした中量二脚。スッラのエンタグルだ。

 

『集積コーラルまで到達するとは・・・・・・存外だな、ハンドラー・ウォルター』

 

『その声は、スッラか。まさか、本当にここに・・・・・・』

 

『相も変わらず、飼った犬を死地に送るのが趣味なようだ。だが、その犬は危険だぞ。お前も分かっているはずだ』

 

ねっとりとした口調で、スッラはウォルターに語りかける。的を射ているその言葉に、返答することが出来なかった。全てを打ち明けられた時から、ウォルターは621に畏怖の感情すら抱いている。自分の手に負えるような存在ではない、と。

 

『手綱で繋がっていようと、全てを御せるものでもないだろう。ハンドラー・ウォルター・・・・・・お前はそうやって、今までに何匹死なせてきた?』

 

『っ・・・・・・』

 

スッラの言葉はまるでウォルターの心に絡みついてくるかのようだ。己の使命を果たす為、使い潰してきた猟犬達。時には撤退命令を無視し、命を散らしてまで任務を遂行してきた彼らのことを、ウォルターは決して忘れない。彼らを犠牲にしてここまで来たのだ。全てはコーラルを焼き尽くす為に。そのはず、だったのだ。

 

『そこの犬。どうやらお前のハンドラーはここまで来ても迷っているようだ。猟犬は飼い主を選べない。不憫なことだな』

 

【そんなことないよ。私は、ウォルターに救われたから】

 

621からの文章メッセージが画面に映る。彼女の想いはどこまでも純真だ。危ういと感じる程に。いつの間にか握り締めていた両拳の力を緩ませて、ウォルターはゆっくりと口を開く。

 

『・・・・・・俺は選択した。ここに来たのが、その証拠だ』

 

『ほぅ。その歳になって生き方を変えられるとはな、ハンドラー・ウォルター。まぁいい、いずれにしろもう時間だ』

 

『えぇ、その通りです。貴方達が会話に興じている間に、既にC兵器群は確保しました。ハンドラー・ウォルター、それにC4-621レイヴン。最早、我々に付け入る隙はありません』

 

会話に割り込んだオールマインドは、声に喜色を滲ませながら勝利宣言をした。もう正体を隠す必要もない。いくら621と言えど、スッラにブランチ、更にはC兵器群を相手に勝てるはずが無いのだから。

 

『そうか。ならば、作戦の第3段階に移行する。準備はいいか、621。・・・・・・そして、スッラ』

 

しかし。オールマインドには、とてつもない誤算があった。自分が作り上げたと思っていた状況は、全てが誘導され利用されていたのだと。

 

『いいだろう、ハンドラー・ウォルター。手綱を握れ、先導してやる』

 

『スッラ、何を・・・・・・?』

 

奇妙な言葉に訝しんだ直後、C兵器群の保管されている三か所から爆発が起こる。ブランチの3機がC兵器を次々と破壊しているのだ。何が起こっているのか、処理が追い付かない。ただ一つ確かなことは。オールマインドの計画は、今ここで完全に破綻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

【私は、ウォルターに死んでほしくない。自分の人生を生きてほしい。だから、お願いスッラ。私達に協力して】

 

その言葉が目に映った時、スッラは珍しく呆然とした表情を浮かべてしまった。数瞬の後、憎悪にも似た感情が湧き上がってくる。極度に暗号化された秘匿回線、オールマインドですら気付けない連絡手段を用いて接触を図ってきたのは、新しいウォルターの猟犬だ。

 

ウォッチポイント・デルタを襲撃し、封鎖機構のバルテウスを相手に生き残った腕利きの旧世代型。本来ならば妨害し、スッラ自身がコーラル変異波形との交信を試みる計画だった。が、彼女の実力を強く警戒したオールマインドが急遽妨害を断念、それにより戦場で相まみえてはいない。その彼女が、何故?

 

「お前、何が言いたい」

 

【今、全部言った。きっと貴方は、ウォルターのことを案じてくれているから】

 

「・・・・・・何を知っている」

 

警戒を強めるスッラに、621は洗いざらい全てを話した。自らが何度も何度も繰り返していること。それによって得た知識。これからのルビコンがどうなるのか。・・・・・・そして、ウォルターのことも。

 

621は言う。スッラとは、ウォッチポイントで幾度も戦ったと。その時の経験から、きっとスッラはウォルターを止めようとしていると気付いた、と。否定は出来なかった。わざわざオールマインドの走狗となり、コーラルリリース計画に協力していたのは、そうすればウォルターの「使命」をかき消すことが出来ると思ったからだ。

 

【だから、お願いします。ウォルターを助けたいの。あの人は、私に意味をくれたから】

 

幼さを感じる621の言葉に、スッラは皮肉めいた笑みも忘れ眉間に皴を寄せる。やはり、ウォルターはあの頃から変わっていない。とんだ人たらしだ。そして、それに引っかかる自分は愚か者である。

 

「いいだろう。あれが使命を捨てるのならば、さぞかし苦悩した上の決断だ。苦しみに歪んだ顔を見てやろうじゃあないか」

 

スッラは621の提案に乗ることを決めた。50年以上前から続く因縁を、清算する為に。




ごすずん救済計画、発動。
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