見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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70.未来を拓く為に

『こちらの分は終わったぞ。そちらはどうだシャルトルーズ、レイヴン』

 

『ごめん、もう少しかかる。先に行ってて』

 

『いえ、ここは足並みを揃えましょう。合流地点を送信、確認をお願いします』

 

未稼働状態である無数のC兵器を蹂躙しつつ、ブランチのメンバーは言葉を交わす。オールマインドから命じられたものとは正反対の行動は、あらかじめ予定されていた。それこそ、オールマインドがブランチにウォッチポイント襲撃の依頼を出す以前から。

 

事の発端は621からの依頼だ。コーラルリリース。オールマインドが企むその計画を頓挫させた上で、ルビコンに自由をもたらしたい。膨大な情報が共に送られてきた上に、その全てが複雑に暗号化されていた。ハクティビスト集団であるブランチ顔負けの情報戦技術だ。しかも、それをやったのはエアと名乗るコーラルに生じた波形だと言う。とんでもない話である。

 

信じるべきか否かを、ブランチはそれ程協議しなかった。何故なら、送られてきた情報の全てが正しいものだったからだ。彼らの技量と誇りにかけて、疑う余地は存在しない。問題は、依頼を受けるかどうかだが・・・・・・。

 

「受けよう」

 

そう言ったのは、普段は殆ど口を開かないレイヴンだった。強い意志を感じさせる瞳で三人を見つめ、再び言う。受けよう、と。

 

『何をしているのです、ブランチ・・・・・・!我々を欺いていたというのですか!?』

 

『まぁ、そういうことだ。コーラルリリースは阻止させてもらう』

 

『最初からね。よし、こいつで最後!すぐに合流する』

 

シャルトルーズによって破壊されたC兵器が赤い爆炎と共に吹き飛んだ。これにより技研都市に眠っていたC兵器群は壊滅、最早ルビコンを脅かすことは無い。621が立案した作戦、その第3段階目が達成されたのだ。

 

『そんな・・・・・・何故、こんなことが・・・・・・』

 

呆然とした様子のオールマインドは、現状を受け入れることが出来ない。順調にいっていたはずの計画が一瞬で破綻したという事実。一切予期出来なかったのは何故なのか。何一つ理解出来ないまま、オールマインドは表舞台に干渉する術を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

各勢力を巻き込んだ、ウォッチポイント・アルファを巡る一大決戦は幕を閉じた。レッドガンが離反したベイラムは壊滅。アーキバスは本隊の撤退には成功したものの、その戦力を大きく減じていた。

 

対するルビコン解放戦線は、ベリウス地方の攻勢を含め各戦線で勝利。支配地域の多くを取り戻すと共に、多数の施設及び企業の人員を確保することに成功する。更に、独立勢力となったレッドガンとも停戦の盟約を成立。趨勢は完全に解放戦線へと傾き、企業はルビコンにおける影響力を急激に喪失した。

 

しかし、まだ問題は残っている。技研都市に到達し、その過半を制圧したと思われるハクティビスト集団、ブランチ。そして、ウォッチポイント決戦の引き金となったレイヴン。彼らは未だウォッチポイント・アルファ内に身を潜めており、勝利したとはいえ消耗している解放戦線は即時突入を躊躇、迅速な立て直しを図っていた。その矢先のことだ、ある男から通信が届いたのは。

 

『こちら、レイヴンのオペレーターだ。ブランチと私は繋がっている。解放戦線及びレッドガンと話し合いの場を持ちたい』

 

ハンドラー・ウォルター。レイヴンこと621の飼い主であり、ルビコンに至るまで何匹もの猟犬を使い潰してきたと噂されている。彼も他の密航してきた者達と同じく、コーラルを求めていると思われていたが・・・・・・どうやら、別の目的があったようだ。

 

かくして、彼らは通信上で一堂に会した。主催であるハンドラー・ウォルター。ブランチの代表としてキング。解放戦線の帥父ドルマヤン。レッドガンからは総長ミシガンと副長ナイル。錚々たる面々である。

 

『話し合い』は一昼夜続いた。ウォルターは長年の経験と621が得ていた情報を駆使し、硬軟織り交ぜて交渉を進める。純朴な621では成し得ない芸当だ。そもそも、話し合いの場に621を同席させなかったのには理由がある。

 

解放戦線もレッドガンも、トップの立場に立っている者は海千山千の怪物ばかりだ。621の幼く真摯な態度は関わる者の心を打つかもしれないが、情だけで交渉出来る程甘くはない。己が矢面に立たなくては。可能ならば、全てハンドラー・ウォルターが仕組んだことだと誤認させたかった。

 

ウォルターが提示した情報は多岐に渡る。一つはコーラルの増殖による危険性。各勢力によってコーラルを管理しなければ、第二の「アイビスの火」が起きるという事実。

 

一つはコーラルに生じたCパルス変異波形。コーラルに散逸した意識が再構築されたものかは不明だが、人間のような意志と人格を有している。名は、エア。

 

一つはコーラルリリースについて。コーラルの共振作用によって宇宙空間で爆発的な増殖を引き起こし、全宇宙にコーラルを行きわたらせるという計画。危険かつ悍ましいそれは、ウォルターとブランチによって既に食い止められた、と。

 

情報の共有にあたって、ルビコン解放戦線のトップであるドルマヤンは想像以上にすんなりと受け入れた。対してレッドガンは難色を示し、情報の真偽を精査しなければならないと警戒。『話し合い』はしばらくの間平行線を辿るも、突如として通信へと乱入してきた621及びG5イグアスがエアの存在を主張した。

 

本来この秘匿回線には繋げることが不可能なはずの二人が、何故通信へと入ってこれたのか。件のCパルス変異波形、エアがシステムを解析し改竄したからだ。改竄結果やログを確認したレッドガン総長ミシガンは、人間業ではないそれに暫し沈黙。イグアスといくつかの言葉を交わした末、エアという存在の実在を受け入れるに至る。

 

その後短い休憩を挟み、話題は今後の対策へと移行した。各勢力が協調しコーラルの総量をコントロールしなければならず、また企業の残党へも対処が必要だ。更に、解放戦線とその他勢力の軋轢は避けられない。当然だ。レッドガンにブランチ、621によって、無数のルビコニアンが命を散らしてきたのだから。

 

喫緊の問題は集積コーラルを分散させること。即ち、ルビコン各地へコーラルを輸送する手段の確保である。コーラル用の輸送ヘリの数は限られており、通常の輸送ヘリを改修するにも時間がかかる。解放戦線はウォッチポイント・アルファ以外での攻勢によって、企業の輸送ヘリを少数ながら鹵獲に成功していたが、それでも絶対数が足りなかった。

 

コーラルの輸送という一点においては、元は移動拠点であった武装採掘艦ストライダーが最も大量のコーラルを運ぶことが出来る。が、その巨体故アーレア海を横断する手段を持たず、そもそも鈍重な機動力では集積コーラルの臨界点突破までに間に合わない。

 

どうするべきか。手持ちの輸送方法をかき集めれば時間稼ぎは出来るだろう。しかし、根本的な解決にはならない。有効案はついぞ出る事無く、一旦棚上げすることになり次の議題へと話題が移った。

 

企業の残党に対しては、殲滅するよりも星外へと追い出すべきだという認識で一致した。甚大なダメージを受けた封鎖機構には、惑星封鎖を継続し続ける力はもう無い。残党に強く圧力をかけ、星外へと脱出させる。それが双方にとって最も傷の少ない選択のはずだ。あるいは交渉も可能かもしれない。アーキバス側が愚かでなければ、だが。

 

そして、各勢力の軋轢について。これに関しても即座に解決出来るようなものではない。不満や怨恨が暴発しないように、監視の目を強めつつ時間をかけていくのが正攻法だろうか。いずれにせよ、レッドガン及びブランチとルビコニアンの接触は避けなければならない。

 

言葉を交わせば交わす程、状況は困難だと全員が理解していった。戦闘力ではどうにもならないことが多過ぎる。しかし、彼らは挫けることも臆することもない。議論を重ねながら、少しずつ未来への道筋を描いていく。一応の区切りがつくまで、彼らの言葉が途切れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・暇だ」

 

清潔なベッドと毛布に包まれて、シオンは天井を見つめながら呟いた。体には複数の点滴が繋がっており、絶対安静だと厳命されている。当然の措置だ。

 

「大丈夫かね、フラットウェルさんは」

 

シオンが意識を取り戻したのは戦闘終了から2日後。極度の疲労による発熱に倦怠感、全身の痛みに苛まれながらも彼は状況の把握をしようとした。決戦の結末はどうなったのか。解放戦線の被害は。フラットウェルの容体は。

 

シオンが目を覚ましたという報告を聞いて駆けつけてきたアーシルによれば、決戦自体は大勝利という結果に終わったらしい。ルビコン全土で行われていた反攻の大部分は成功。企業が戦力を集中していたウォッチポイント・アルファ周辺を巡る戦いも、レッドガンの離反やラスティの寝返りによって勝利した。解放戦線の損害も当初の想定よりは少なく、立て直しも容易である。

 

そして、ミドル・フラットウェルの容体はまだ安定していない。なんとか一命を取り留めたものの、予断を許さない状況なようだ。もっと早くに駆け付けていたら。悔やんでも悔やみ切れないシオンは、しかし拳を握る体力も無い。そのまま絶対安静を言い渡され今に至る。

 

「んー・・・・・・」

 

心身は疲れ切っており、2日寝た程度では到底回復し切らない。それなのにシオンの目は冴えていた。今は休むべきだと分かっていても、何かしなければならないという強迫観念が湧き上がってくるのだ。タブレットを取り上げられ情報も集められない中、叫び出したくなるような焦燥を堪えて天井を睨みつける。

 

今の自分には何も出来ない。休め、休まなければ。そう言い聞かせて、シオンはぎゅうっと目をつむった。そうすると、先の戦いの様子が脳裏に浮かび上がってしまう。あの時ああすれば良かった。あの時の行動は失策だ。次々と思考が湧き、結局眠れない。戦場の熱気、その余熱がシオンの心に残っているからだろうか。

 

「これから、どうなるんだろうな」

 

眠ることを諦め、目を開けたシオンがポツリと呟く。ベイラムは完全に壊滅し、アーキバスも虫の息。現在進行形で解放戦線とブランチ、そしてあの621の飼い主であるハンドラー・ウォルターが交渉をしているらしいが・・・・・・未来がどうなるのか、シオンには見当もつかなかった。

 

ただ、自分に出来ることは変わらない。ACに乗り、戦う。それだけだ。一度死を経験したからか、あるいは最新世代の強化人間である少女の肉体になったからか。男だった頃とは比べられない程に、シオンのストイックさは常軌を逸していた。その異常性を本人も自覚はしている。と、

 

「やはり、寝ていないか」

 

病室の扉が開き、リング・フレディが入ってくる。シオンの様子をしかめっ面で確認して呟くと、返事も聞かずベッドの横の椅子に腰を下ろした。外傷こそ無いものの、その顔はシオンと同じく疲れ切っているように見える。

 

「フレディさん・・・・・・よかった、無事だったんだな」

 

「こっちの台詞だ。随分無茶をしたと聞いたぞ」

 

「いや、まぁ。助けられてばっかりだったけど・・・・・・」

 

「・・・・・・はぁ。過度な謙遜は嫌味にもなるが。単独ではないとはいえ、あのスネイルを撃破したんだ。それに、帥淑フラットウェルの救出もしたと。謙遜する部分がどこにある?」

 

言葉とは裏腹な高圧的なフレディの雰囲気に、押し黙るシオン。こちらを責めているような眼差しなのは何故だろうか。沈黙が室内に蔓延し、時間だけが過ぎていく。やがて、耐えられなくなったのかシオンから口を開いた。

 

「え、えーっと。レッドガンやブランチ、それに621の雇い主との交渉はどうなったんだ?」

 

「まだ終わっていない。休憩こそ挟んでいるが、丸一日が過ぎても続いている。帥父の体調が心配だが、俺に口出し出来ることではない」

 

「そう、か。上手く纏まればいいけど、難しいだろうなぁ・・・・・・」

 

眉根を寄せて呟き、シオンは悲痛な表情を浮かべる。生粋のルビコニアンではない彼女が何故悲しむのか。口に出しそうになったフレディだが、流石にどうかと思い直した。腕を組み、幼い少女にしか見えないシオンを見つめる。その顔はやつれていてなお可憐であり、儚さすら伴って一種の絵画のようにも見えた。

 

「・・・・・・シオン、今は休め。理解しているだろう、今の俺達には休息を取り、次の戦いに備える必要があると」

 

見た目がどうあろうとシオンは戦士だ。それを知っていても、フレディの胸は罪悪感で痛む。目の前を相手を幼子のように感じてしまった自己嫌悪を振り払うように、強い口調で声を上げた。

 

「分かってる、分かってるよ。でも、どうにも寝れなくてさ。目を閉じてもさっきまでの戦いが脳裏に浮かんできて、ああすりゃよかったこうすりゃよかったって考えちまう。切り替えが下手なのかね、どうにも」

 

へらりと笑って答えたシオンは、僅かに身じろぎした後天井に目をやる。その視線はどこか遠くを見つめているようで、実際には何も映していなかった。一体何を考えているのか、フレディには推し量れない。

 

「それでも、休むしかない。動かずにいれば肉体の疲労は抜けるだろう。眠れないのなら、俺から言って睡眠薬を処方させる。どうだ?」

 

「・・・・・・気ぃ使ってもらってありがとうな、フレディさん。じゃあ、折角だから頼むよ」

 

その言葉に頷き、立ち上がって病室を後にする。結局、無理を押してまでシオンの元に訊ねた成果は無かった。彼女の強さがどこから来るのか。それを見定めようとしていたのだ。

 

先の戦い、フレディは防戦に徹するV.Ⅲオキーフを崩し切れなかった。あの防衛線さえ抜ければ、アーキバスの主力を壊滅させることが出来たというのに。未熟な己に責任がある。逆に、シオンは獅子奮迅の活躍をしたらしい。スネイルの撃破に貢献し、帥淑フラットウェルの救出も成し遂げたのだと。彼女は何故、そこまで戦い抜けたのだろうか。

 

しかし、強さどころか弱さを見せつけられてしまった。数々の伝説に彩られていたシオンも所詮はただの人間だったようだ。失望と安堵が混ざった感情を抱きながら、フレディは医者に睡眠薬の処方を提言して自分の部屋へと戻る。その足取りは、疲労のせいか酷く重かった。




オマちゃんは実質退場、残る敵は殆どいません。勝ったなガハハ。
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