見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

74 / 125
73.混戦乱闘ジェネレーション

「おい・・・・・・こいつはどういう状況だ、蝙蝠野郎」

 

「事前に伝えた通りだ。共に苦境を乗り越えた戦友達と、親交を深めたくてね」

 

最初から喧嘩腰のイグアスを意にも介さず、ラスティはにこやかに言葉を返す。癪に障る態度だ。後先も考えず一発ぶん殴ろうと、制止してくるレッドを振り払い距離を詰める。と、入り口からは死角になっている場所にいた先客が目に入った。予想外の姿に思わず足を止める。

 

部屋の隅、備え付けのソファに座っていたのは幼い容姿の少女だった。荒々しい雰囲気のイグアスに驚いているのか、目を丸くしてこちらを見つめている。まさか、彼女が621なのだろうか。メッセージの文面の幼稚さに、精神世界で聞いた声。目の前の少女の見た目は、イグアスが抱いたイメージと合致していた。

 

「・・・・・・てめえが、野良犬か?」

 

声を掛けると、少女はおずおずと自分自身を指差し、次いで首を傾げる。何か違和感を覚える反応だ。

 

「あー、野良犬ってのが誰かは知らないっすけど、俺はシオンって言います。一応、ルビコン解放戦線に所属するAC乗りなんだけど・・・・・・ガリア多重ダムの時以来かな、イグアスさんとは」

 

「あん?」

 

高く澄んだ、可愛らしい声。621は喋れないはずだ。ということは人違いか。記憶を掘り起こしてみると、確かガリア多重ダム襲撃時に相対した旧型ACから、幼げな通信音声が聞こえてきたのを覚えている。そして、同時に「その後」のことも蘇ってきた。裏切った621に僚機のヴォルタが落とされた挙句、自らもまた瞬殺されたという記憶が。

 

「クソが、紛らわしい姿しやがって。どうしててめえがここにいる!?」

 

「いや、ラスティさんに誘われたんだけど・・・・・・話通ってないんですか?」

 

彼女の護衛だろうか、罵声を遮るようにシオンの横に立っていた青年が前に出る。その後ろで困ったような表情でイグアスを見つめるシオン。人形のように整った顔立ちに苛立ちを覚え、目を逸らしてラスティの方を睨みつけた。

 

「おい、どうなってんだ?いい加減説明しやがれ」

 

「まぁ、そう焦らないでくれ。まだ全員揃っていないからな」

 

「これ以上まだ増えるのかよ・・・・・・蝙蝠野郎が、何企んでやがる」

 

「私はただ、親交を深めたいだけさ。未来を切り開いた戦友達とね」

 

飄々と言うラスティに、イグアスは今度こそ掴みかかろうとする。レッドに羽交い絞めにされながらも、敵意に満ちた瞳は爛々と赤く光っていた。

 

「ふざけんな、俺はてめえに戦友呼ばわりされる筋合いはねぇ!大体どんなチョイスだよここの奴らは!?えぇ!?」

 

「そう荒ぶらないでくれ。私としてもそこは疑問なんだ。君とシオン。二人を指定したのは、他ならぬ戦友・・・・・・レイヴンだ」

 

そう告げて、ラスティは笑みを消し真顔になる。一瞬にして怜悧な雰囲気を纏い始めた彼の変化に、シオンの護衛・・・・・・アーシルが息を呑んだ。それにも構わずイグアスは暴れ、レッドを振り解こうとしている。一触即発の状況の中、呑気にも思える声が部屋に響いた。

 

「あーっと、ちょっと待ってくれ。この場を設けたのってラスティさんじゃないのか?その、レイヴンさんが俺達を呼んだってことは・・・・・・」

 

シオンは混乱しているのか、人差し指を立てた手を顔の横で小刻みに動かしながら言う。雰囲気を無視した当然の疑問に対し、笑顔を浮かべ直したラスティが答えた。

 

「元々はレイヴン一人を誘ったんだが、彼女からの提案で君達も誘うことになったんだ。私としても親交を深める相手は多い方がいい。ただ、君達二人を選んだ理由は聞いていないな」

 

「へー・・・・・・。ま、本人に聞くのが一番か。レイヴンさんはいつ頃来るんです?」

 

「もう少しで拠点に到着するらしい。一人、付き人もいるようだ」

 

返答に頷きながら、ソファに座り直すシオン。イグアスは呑気な物言いも毒気を抜かれたのか、舌打ちを一つ吐いて近くの壁にもたれ掛かった。本当に621が来るのならば、それはそれでいい。ラスティが整えた場というのは癪だが、あの少女には散々無茶ぶりされた礼をしなくてはならないのだ。

 

暫し、室内は沈黙に包まれる。明らかに不機嫌そうなイグアスにどうすればいいのか分からないレッド。ラスティは笑みを湛えたまま口を開かず、シオンは助けを求めるようにアーシルに目をやった。しかし、彼にどうこう出来るような状況でもない。アーシルはこの場に呼ばれたわけではないのだ。

 

重たく、ピリピリと肌を焼くような空気。これは自分がどうにかするしかないと、シオン自ら口を開いた。

 

「・・・・・・えーっと。ところで、そちらの人の名前は?」

 

「お、俺か?俺はG6、レッドだ。レッドガンの末席を勤めさせて・・・・・・」

 

「おいレッド、こんなガキの相手をするんじゃねぇ。レッドガンの格が落ちるだろうが」

 

レッドの言葉を遮り、イグアスはシオンを睨みつける。何故自分に対してここまで攻撃的なのか、理由は分からない。が、仮にも同盟関係を結んでいる組織のパイロットだ。仲良く出来るのならばそれに越したことは無いだろう。問題は、最初から喧嘩腰の相手と親睦を深めるのは酷く困難ということだ。と、微笑んだまま黙っていたラスティが唐突に声を上げた。

 

「G5イグアス、君の実力は知っている。アイスワーム討伐作戦時に重要な役割を果たしたことも。思うに、君に必要なのは自信だろう」

 

「あ?説教かよ蝙蝠野郎。舐めた口聞きやがって、てめえに俺の何が分かるってんだ!」

 

「お、落ち着いてくれよイグアスさん。俺達がいがみ合ってもなんにもならないって」

 

「うるせえ!どいつもこいつも舐めやがって・・・・・・おいレッド!シミュレーター室の許可を取れ!」

 

「先輩!?一体何を・・・・・・」

 

売り言葉に買い言葉。いや、勝手にヒートアップしているイグアスは、自分以外の全員に宣戦布告するように吼えた。

 

「決まってんだろ、AC戦だ!全員纏めてぶっ飛ばしてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

レッドガン、臨時拠点の指揮官室。ナイルと今後の戦略を策定していたミシガンは、シミュレーター室で起きている騒動に目を細めていた。

 

「随分と愉快なことになっているな。ミシガン、止めなくてもいいのか」

 

「構わん。G5に始末書は書かせるが、今の所は好きにさせてもいいだろう。あれは成長の過渡期にある、邪魔するわけにもいくまい」

 

元々、ラスティの提案を許可したのはミシガン本人である。各勢力のAC乗りが交流するのはレッドガンにとっても悪いことではない。こちらの臨時拠点を場所に指定したのも、罠ではないという意思表示か。

 

「木星戦争の英雄が、甘くなったものだ」

 

含みを持たせたナイルの言葉に、ミシガンは無言を貫いた。今の対応だけでなく、ベイラムを離反したのを責めているのだろう。五花海の計画に乗ったとはいえ、その大元はベイラム上層部がナイルの粛清を企んでいたことだ。ナイル自身が罪悪感を覚えても不思議ではない。

 

しかし、ナイルは直接の批判を一度も口にしていなかった。命を救われた感謝も告げていない。自分以外のレッドガン全員が、覚悟を以て決断したのだ。ならば、何も言うことは無い。働きで返せばいいとナイルは割り切っていた。

 

「まぁいい。そろそろ始まるようだ。さて、ミシガン。誰に賭ける?」

 

戦闘用のシミュレーターが起動し、仮想空間が形作られていく。元となった場所は、解放戦線とベイラムにとって因縁のある汚染市街。四機のACがそれぞれ端に配置され、戦闘開始の合図を待っていた。

 

「決まっている。G5だ」

 

ナイルの誘いに即答するミシガン。恐らく、純粋な実力ならばラスティが数段上回っている。解放戦線のシオンも油断ならない。それでもイグアスの名を上げたのは、単なる親心からだろうか。ナイルも同じ気持ちなのか、面白げに片眉を上げて言葉を返す。

 

「賭けにならないな、それでは。晩酌を奢ってもらおうと思っていたんだが」

 

「秘蔵のボトルを隠しているのは知っているぞ、ナイル。そろそろ開け時だ、一杯奢れ」

「・・・・・・やれやれ、我らが総長殿には筒抜けか。ならば、私はG6に賭けよう。あいつに足りないのは実戦の経験だけだ、この一戦で化けるかもしれんぞ?」

 

「十分な土台は積んできたからな。何も出来ず終わるような扱き方はしておらん。問題は精神面だ」

 

「二人ともに、か」

 

ナイルが呟くと同時、仮想空間に合図が鳴り響く。四機のACはブースターを吹かし、戦闘行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、どうすっかなぁ!?」

 

トラルテクトリを前進させつつ、シオンは大袈裟に声を上げる。まさかこのようなことになるとは。想定外の展開に、それでも彼の思考は明瞭だった。

 

イグアスによって半強制的に始まった模擬戦。ルールは単純、最後まで撃墜されなかった者が勝者である。同じレッドガンのイグアスとレッドが共同戦線を張ってくる可能性は性格的に低いだろう。つまり、完全な乱戦になる。

 

一番警戒するべきはラスティか。共闘した際の動きは、621に勝るとも劣らぬものだった。しかし、最も戦意を漲らせているのはイグアスだ。そういう相手は手強いと、シオンは経験から知っている。もう一人のレッドは情報が少ないが、仮にもレッドガン隊員である。決して油断は出来なかった。

 

結局、誰一人として気が抜ける相手はいない。それでも、シオンは真っすぐに汚染市街の中心を目指す。至近距離での乱戦はむしろ望む所だ。全員が敵同士というこの状況ならば、必然的に隙も多くなるはず。その機を逃さずチェーンソーを叩き込み、地力の差をひっくり返すのが最適か。シオンは脳内で戦術を組み上げ、洗練させていく。

 

周囲にスキャンを飛ばしつつ、可能な限り素早く進んでいくトラルテクトリ。包囲されて袋叩きにされる可能性は重々承知だが、敵同士で緻密な連携は取れないと踏んでいた。リスクを受け入れなければ勝てる相手ではない。と、

 

「っ、この反応は」

 

スキャンに引っかかったACは、恐らくスティールヘイズか。建物の陰に身を潜めているようだ。持ち前の機動力を活かさないのか?ラスティの判断に疑問を覚えつつも、シオンはあえて前進し続ける。潜むスティールヘイズに背を晒すように。

 

「・・・・・・来ないか」

 

奇襲を仕掛けるには絶好の機会。それなのにラスティは動かない。気付かれたことに気付いているのか、あるいは何かの思惑があるのか。考える暇も無く、トラルテクトリにリニアライフルが撃ち込まれた。G5イグアス、ヘッドブリンガーだ。

 

『まずはてめえからだ!』

 

「うぉっ!?気が早いなぁイグアスさん!」

 

ラスティに気を取られている内に接近してきたのか、マシンガンを乱射しつつミサイルを放ってくる。荒々しい雰囲気と口調に似合わず動きは洗練されていた。シオンは建物で射線を切ろうとするが、イグアスは巧みに回り込み攻撃を途切れさせない。上手い。市街戦に慣れているのだろうか。

 

「クッソ・・・・・・!」

 

潜んでいるラスティのことを頭から締め出し、シオンは腹を括り前に出た。両手の銃火器で応射しつつヘッドブリンガーへと肉薄、削り合いからのスタッガーを狙う。が、

 

『馬鹿が、すっとろいんだよ!』

 

トラルテクトリの前進と同時にヘッドブリンガーは後退。一定の距離を保ったまま撃ち合いに付き合わされてしまっていた。両機はマシンガンやミサイルこそ同じ武装なものの、バーストハンドガンとリニアライフルでは明確に有効射程が違う。トラルテクトリは距離を詰めなければ真価を発揮出来ず、ヘッドブリンガーには距離を維持するだけの機動力があった。

 

さらに、パルスシールドの存在。断続的に展開されるパルス障壁に阻まれ、思うようにダメージと衝撃値を与えられない。このままではジリ貧だ。ならば、いつものように突っ込むしかない。即断したシオンはアサルトブーストを起動、被弾を省みず真っすぐに突撃する。

 

『舐めてんじゃねえぞガキぃ!』

 

しかし、この動きも読まれていたようだ。アサルトブーストは速度に優れるが小回りは利かない。今のヘッドブリンガーのように高度を落とし建造物を盾にされると、酷く分が悪いのだ。が、シオンにはイグアスの思惑を上回る策を用意していた。建造物を通り過ぎた直後に、クイックターンで正対してしまえばいい。そうすれば、建造物は逆にこちらの有利に働く。逃げ場を失ったイグアスに撃ち合いを挑めるはずだ。

 

「っしゃあ!って、うぉっ!?」

 

『おらぁっ!』

 

シオンがクイックターンで正対するタイミングで、イグアスはアサルトブーストを起動し突撃していた。シオンの策を読んだわけではない。後方から追い縋りつつ攻撃するつもりだったのだが、咄嗟の状況に対応しトラルテクトリを蹴りつけ、硬直した所にリニアライフルのチャージショットを撃ち込んだ。ACSが負荷限界を迎え、トラルテクトリの動きが止まる。

 

『死にやがれ!』

 

再び蹴り飛ばそうと突っ込むイグアス。その背後に迫る影があった。潜伏したまま状況を見極めていたラスティだ。凄まじいスピードでイグアスの後背に迫る彼に、バズーカの砲弾が放たれ妨害される。AC4機による乱戦は始まったばかりだ。




乱戦マルチ、アプデで追加してくれないかな。最大8名くらい参加出来るやつ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。