見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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74.抗う方法は

『っ!?』

 

 バズーカの砲弾を避けながら、ラスティは砲弾が飛んできた方向へと目をやった。G6レッド。ラスティと同じく潜んでいたようだが、何故こちらの動きを予測出来たのか。レッドガンのコールサイン持ちの中では実力に乏しいという情報は誤りなのかもしれない。

 

「避けられた!?」

 

 一方、レッド自身はラスティの回避機動に驚愕していた。完璧なタイミングの奇襲をあっさりといなされた今、どう行動するべきか判断が付かない。元々、模擬戦に参加している四人の中で最も劣っているという自覚はある。だからこそ、レッドは懸命に考えた。少しでも爪痕を残す為に。

 

イグアスの実力はよく理解している。激しやすい性格も含めて、行動は比較的読みやすい。ラスティに関しては殆ど分からないが、機動力に優れ近接武装を積んでいるスティールヘイズならば、攪乱や襲撃といった戦術を取る可能性が高いはずだ。

 

そして、シオン。以前に戦闘映像を確認した限り、装甲の硬さを前面に押し出し強引に接近、チェーンソーを狙う戦術が多かった。ラスティとはまるで違うが、それでも接近戦を得手としている。それを鑑みながら、レッドは戦況を予測していった。

 

先輩であるイグアスは真っ先に飛び出すだろう。自分から吹っ掛けた喧嘩だ、冷静に様子を伺うとは考えにくい。ラスティはどうだろうか。模擬戦に巻き込まれたのが本意でない以上、最初は様子見に徹するか、あるいは早々に仕掛けるか。いずれにせよ距離自体は中、近距離を維持するはずだ。

 

シオンに関しては、イグアスと同様に積極的に距離を詰めるように思える。どの戦闘映像でも自分から仕掛けることが多い印象だった。つまり、まずイグアスとシオンがぶつかり合う可能性が最も高い。そうなった場合、ラスティが取る行動は?傍観か、乱入か。狙うとすれば、頭に血が上り隙が多いと思われやすいイグアスだろうか。

 

模擬戦が始まるまでの短い時間、レッドは己が勝ち得る戦術を組み立てていく。それはミシガンやナイルに比べれば酷くお粗末な出来だ。しかし、今の彼にとってはこれが最善である。己が立てた予測と戦術に従い、レッドは汚染市街中心からやや離れた場所に待機。イグアスの死角を補うように武器を構え、そしてそこにスティールヘイズが奇襲を仕掛けてきた。偶然か幸運か、レッドの戦術はぴたりとハマり・・・・・・、

 

「ぐうぅぅっ!?」

 

それでも、ラスティには届かなかった。一度切りの奇襲のチャンスを逃し、レッドの駆るハーミットはスティールヘイズに翻弄される。ターゲットアシストを以てしても機影を捉え切れず、撃ち込まれる射撃を避けることも出来ない。これが元V.Ⅳ。V.Ⅰに迫る実力と噂されたラスティの実力か。

 

APは瞬く間に削れ、ACS負荷限界まであと僅か。ケツに火がついた状況で、レッドはどうするべきかを必死に考え続ける。自分の未熟さでレッドガンの評価を落とすわけにはいかない。鉄火場に追い込まれた彼の思考は、徐々に研ぎ澄まされていった。

 

 

 

 

 

 

「んぎぎぎぎっ・・・・・・!」

 

イグアスからの絶え間ない攻撃を辛うじて凌ぎつつ、シオンはラスティとレッドが接敵したのを確認した。不味い。乱戦ならまだしも、一対一が二つ発生している今の状況は想定から外れている。先ほどまでの戦いから分かる通り、単騎でイグアスを相手にするのは著しく不利だ。

 

「おい、イグアスさん!レッドさんが落とされるぞ、いいのか!?」

 

『全員敵だっつってんだろ、舐めた口利いてんじゃねぇ!』

 

なんとか言葉で切り抜けようとするも、イグアスは聞く耳を持たない。当然だ。模擬戦のルールは最後に生き残った者が勝者のサバイバル方式。いくら同じレッドガンメンバーだとしても、助ける道理は存在しない。説得は諦め、シオンはトラルテクトリの操縦に集中した。まずはイグアスを落とす。勝利の道はそれしか無さそうだ。

 

イグアスは機動力を活かし、トラルテクトリの肉薄を封じ続けている。雰囲気や発言に似合わず、堅実かつ巧妙な戦い方だ。それはシオンにとって付け入る隙が少ないことを意味している。どうにかして状況を変えなければ、このままやられてしまうだろう。

 

「あぁクソ、イグアスさんやっぱり強いじゃねえか!少しは手加減してくれてもいいんだぜ!?」

 

弱気な言葉を吐きながらも、シオンは抜け目なく勝機を捜す。距離を詰めてもいなされ、損害ばかりが増えていく状況。強引な力技では打開出来ないのなら、搦め手を使わなくては。幸いこれは模擬戦だ、失敗しても死ぬわけではない。今思いついた策を試すいい機会だ。

 

問題はこちら側の思惑を悟られないかどうか。イグアスは激昂しているように見えるが、行動自体は的確かつ洗練されている。どうなるかはやってみなければ分からない。

 

「っし、とことんやってやるよチクショウ!」

 

ヘッドブリンガーに追い縋るも、距離を離されじわじわと削られていく。起こっていることはさっきまでと同じだが、トラルテクトリの動きには微妙な変化があった。突撃の方向やタイミングを調整し、ヘッドブリンガーの後退先を限定している。即ち、ラスティとレッドが戦っている場所に誘導しようとしているのだ。

 

逃げ場を失ったイグアスに痛撃を与えられるならば良し。追撃を避けようとラスティ達の交戦距離に踏み込むのならば、乱戦を誘発することが出来る。問題は、誘導するまでレッドが持つかどうか。相当やられているようで、彼のACであるハーミットは既に半分以上のAPを失っていた。

 

イグアスは策に気付いているのかいないのか、シオンを攻め立てつつ距離を維持する動きは変わらない。シオンの策に彼が嵌まるのが先か、シオンが落とされるのが先か。あるいは、レッドが落とされるのが先か。銃火だけではなく、各々の思考が飛び交い重なっていく。

 

そして、その時が訪れた。正面にはイグアス、その後方にはラスティがレーザースライサーを展開しレッドに肉薄する様子が見える。ここだ。シオンはアサルトブーストを起動し遮二無二突っ込んだ。後方に下がるか、それとも左右に避けるか。イグアスの選択はそのどちらでもなかった。

 

『だから舐めてんじゃねえっ!!』

 

前進。近接武装の有効距離まで踏み込んできたイグアスが、銃火器を乱射しつつシオンとすれ違う。咄嗟に止めようとチェーンソーに持ち替えるも時すでに遅し。気付けば両者の立ち位置が入れ替わり、シオンの策は数瞬で破綻した。

 

「くっそ気付いてたのかよ!人が悪いぜイグアスさん!」

 

『うるせぇ!そのままくたばりやがれ!』

 

策に気付いた上で、それを利用し更に優位に立ったイグアスは再びシオンを攻め立てる。堅牢なトラルテクトリと言えど耐えきれず、蹴り飛ばされると同時にスタッガーまで追い込まれてしまった。追い打ちのリニアライフルのチャージショットがコア部分に撃ち込まれ、鳴り響くアラートがAPが残り僅かになったことを伝えてくる。

 

「だったら・・・・・・!」

 

即席の策を破られ、絶体絶命の窮地に追い込まれたシオンは強引に前へ出る。逆転するには必殺の威力を誇るチェーンソーを当てるしかない。湧き上がる焦りと追い詰められた状況の中、一縷の望みを賭けてアサルトブーストを起動した。

 

「まだまだぁーっ!!!」

 

クイックブーストを連続で吹かし、不規則な機動でイグアスに迫るトラルテクトリ。予想通りの行動に、イグアスはパルスシールドを展開し迎撃の用意を整える。ここでシオンを始末し、次いでラスティも潰す。苛立ちに怒り、焦燥がない交ぜになった感情のままイグアスは吼えた。

 

『どいつもこいつも、全員俺が墜としてやるよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで歯が立たない。ラスティの技量と判断力はレッドを遥かに凌ぎ、最早戦闘では無く蹂躙に近い。それでも、レッドは全身全霊で抗っていた。

 

「ぐっ!?そこか!」

 

左側面からの銃撃に、機体をそちらに向けバズーカを放つ。しかし、スティールヘイズには掠りすらしない。圧倒的な力量差に残り少ないAP。この窮地に出来ることは限られていた。どうする。どうすれば、ラスティの動きを捉えることが出来る?

 

「はぁっ、はぁっ・・・・・・!」

 

シミュレーターと言えど、心身にかかる負荷は多い。レッドの顔には滝のように汗が滴り、四肢は酷く重くなっていた。だが、彼はこれをよく知っている。レッドガンの訓練は地獄とも称されるものであり、この程度は日常茶飯事だ。そしてそれは、戦っているラスティも同じなのだろう。才能だけではここまでの動きは出来ないはず。不断の努力を重ねてきた故の強さだ。

 

ならば、才能も努力も追いつかない自分はどうする。一矢報いるには何が必要だ?極限まで高速化した思考の中、レッドの脳裏によぎったのはG1ミシガンに教え込まれた戦訓。高機動の敵に対する戦闘マニュアルだ。

 

内容自体は的確だが、それ故に平凡なもの。実際、マニュアル通りの動きではラスティを捉えることは出来ていない。だが、穴が開く程に戦闘マニュアルを読み込んでいるレッドはあることに気付いた。視界に捉えられないスティールヘイズの高速機動を、ある程度以上に予測出来る。

 

マニュアルに書かれた内容を脳内で反復し続けてきたからだろうか。機動力に優れたACの基本的な動きをレッドは完全に把握していた。目の前のスティールヘイズは基本的な動きだけではなく不規則な機動も混ぜている為、本来見極めることは難しい。しかし、何故か分かるのだ。それは才能か、あるいは努力故のものか。

 

「っ・・・・・・!」

 

だからこそ、ここから先の展開も見える。レーザースライサーでスタッガーを取られ、そのまま斬り刻まれるという末路が。駄目だ。まだ終われない。決死の想いと共に二種のミサイルを放つも、ラスティは容易く掻い潜り肉薄してくる。

 

「まだだ!」

 

レッドは撃墜の恐怖を振り切るように、クイックブーストを吹かし前進する。既にレーザスライサーを展開しているスティールヘイズにそのままぶつかった。スタッガーまでは至らないが、その衝撃にスティールヘイズの動きが一瞬止まる。勝機。相手のコアに直接砲口を押し付け、バズーカを撃ち込んだ。

 

「避けてみろっ!!」

 

爆風が二機を包み、カメラアイが障害を起こした。当たったはずだ、ならば追撃を・・・・・・!闇雲にハンドガンを撃とうとするレッドの耳に、通信から声が聞こえてくる。

 

『やはり末席とはいえレッドガン、侮れるものではなかったようだ』

 

言葉と共に立て続けの衝撃がレッドを襲う。爆発による煙はまだ晴れていないというのに、何故?考える間も無く、ハーミットのAPは削り取られた。




レッド君のことが好きです。務めを果たした上で故郷に帰って家族と健やかに暮らしてほしい。
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