見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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78.殻に籠るかカタツムリ

「スッラが、ウォルターの猟犬と共に・・・・・・?」

 

「あぁ、うん。護衛って言ってたけど、細身の老人だったよ。ただ者じゃない気配を漂わせてた」

 

さらりと告げられた言葉に、フレディは目を見開いた。スッラ。汚染市街での捕虜救出作戦の際、増援の阻止をしていた自分の前に現れた正体不明のAC乗りだ。ハンドラー・ウォルターの側に付いたというのは知っていたが・・・・・・まさか人前に姿を現すとは。

 

「それを、何故俺に伝えに来た。お前には関係の無い話だろう、シオン」

 

「いや・・・・・・まぁそうなんだけどさ。フレディさんと因縁があるってのは前に聞いたから。余計なお節介だよ」

 

そう言って、幼げな見た目に似合わない苦笑を浮かべるシオン。フレディがスッラにいいように嬲られたことを知っているらしい。屈辱ではあるが事実だ、目の前の少女に言い返すことは出来なかった。

 

「・・・・・・。なら、次の機会には俺も連れていけ。あの男には借りを返さないといけないからな」

 

「あーっと、レイヴンさんが許可するなら大丈夫だと思う。主催者は一応あの人だからさ」

 

フレディは強くなっている。散々翻弄され、蹂躙されたあの時とは違うのだ。いずれ戦場で借りを返す。そう密かに願っていたが、まさかこのような機会が訪れるとは。戦闘シミュレーターならば同盟中の相手であっても叩きのめせる。それだけの実力があればの話だが。

 

実際、スッラに勝てるかどうかは分からない。それでも挑まない理由にはならなかった。強くなった自分が、あの熟練の老人に届き得るのかどうか。散々に蹂躙された誇りを、取り戻せるのかどうか。フレディは切望していた。悪夢の如き過去と払拭すると共に、己の限界を超える機会を。

 

「・・・・・・頼む。レイヴンに、ウォルターの猟犬に打診してくれ」

 

「ちょ、頭上げてくれってフレディさん!」

 

深々と頭を下げるフレディ。普段からは想像も出来ない態度に、シオンは慌てて彼の肩に手を置いた。しかし、その頭が上がることは無い。頑として譲らないという意志が滲み出ているかのようだ。

 

「あーもう、そんなことされなくたってレイヴンさんに話してみるからさ!むず痒くなるからやめてくれよ、本当に!」

 

そこまで言われて、やっとフレディは顔を上げる。シオンが押しに弱いことは理解していた。こうして無理にでも頼み込めば、必ず承諾するだろうと。多少心が痛んだがまたとないチャンスだ。シオンを利用してでも、スッラにリベンジはしておきたい。自身の全てをドルマヤンに捧げてきたフレディにとって、それは新鮮な感情だった。

 

「感謝する。日程が決まったら早めに連絡を。後、この礼は必ずしよう」

 

「いや、別に礼はいらないけど・・・・・・ま、まぁ、フレディさんの為になるんなら俺も嬉しいよ、うん」

 

フレディの真剣さと剣幕に押されてか、シオンは冷や汗を垂らしながらも返事をする。ドルマヤンが関わっていないというのに、ここまで感情をむき出しにするとは思わなかった。あるいはフレディも変化しているのかもしれない。いいことか悪いことかシオンには分からないが、少なくとも以前の排他的な振る舞いよりは好ましいと感じていた。

 

「と、言っても・・・・・・まだメンバーの予定すり合わせが済んでないんだよな。情勢が情勢だ。まだ警戒を解くには早いし、いつでも出撃出来るように待機する時間も長いからさ」

 

「それは俺も理解している。アーキバス残党との交渉も進んでいるが、星外から増援が来ないとも限らない。アイスワームの撃破もあり封鎖機構が弱体化しているからな。俺としても、帥父の元を長く離れるわけもいかない」

 

「ん、なら気長に待っててくれよ。決まったらすぐに連絡するから」

 

その言葉に頷いて、颯爽と去っていくフレディ。どうにも、次の交流会は大所帯になりそうだ。賑やかなのは嫌いではないが、収拾がつくかどうか。一抹の不安を感じながらも、シオンは早速タブレットを操作し始めた。果たして、621とスッラは受けてくれるだろうか。

 

そんな彼女の小さな背中に、フレディは振り向いて視線を送る。スッラの件とは別に、シオンについての懸念事項を思い出したからだ。先の大勝利によってルビコニアン達が湧き立った結果、シオンの知名度は急上昇していた。

 

見目の麗しさやミステリアスな素性もあり、元々噂にはなりやすかったが・・・・・・ここ最近、誇張された風評が流れ過ぎている。曰く、単騎でヴェスパー部隊の次席隊長を撃破した。曰く、窮地の帥淑フラットウェルを颯爽と助け出した。曰く、独立傭兵レイヴンが解放戦線の側に付いたのは彼女の働きによるもの・・・・・・事実が含まれているからこそ、明確に否定し辛い。

 

若いルビコニアンの間では、帥父に勝るとも劣らぬ人気を誇っている現状は、フレディにとって好ましいものではなかった。しかし、それ以上にシオンのことが心配でもある。現実からかけ離れた風評は、いずれ本人を歪めてしまうかもしれない。

 

鼻歌混じりにタブレットを叩くシオン。彼女自身はこの扱いをどう思っているのか。訊ねようとして、しかしフレディは口をつぐんだ。彼女自身はまだ知らないだろう。ならば、余計な負担をかけるべきではない。ゆっくりと首を振って、フレディは部屋を立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

独立傭兵集団、ブランチの臨時拠点。ハンドラー・ウォルターの協力もあって用意された場所で、シャルトルーズは忙しなくコンソールを操作していた。

 

「ふー・・・・・・全く、キリが無いな」

 

「お疲れ様です、シャルトルーズ。コーヒーを淹れましたが、いかがですか?」

 

「お、ありがと。ずずっ・・・・・・うん、やっぱり濃い目が美味しい」

 

レイヴンのオペレーターからマグカップを受け取り、冷ますこともせず啜るシャルトルーズ。熱さと苦みが口内に広がり、緩みかけた意識を覚醒させていく。香りを味わいつつ飲み下した後、改めて目の前の画面に目をやった。

 

「流石に骨が折れるね、ルビコン内部から星外の動きを探るのは。ま、今に始まったことじゃないけど。他の様子はどう?」

 

「キングによると、アーキバスの残党は半数以上が降伏論に傾いているようです。V.Ⅰが脱走したことが決定打だったみたい。でも、V.Ⅰ及び連れ去られたV.Ⅱの所在は分からないまま。そちらはレイヴンが担当しているのだけれど・・・・・・」

 

「レイヴンが尻尾も掴めてないってのは珍しいわね。V.Ⅰ・・・・・・フロイトだっけ?戦闘だけじゃなくて潜むのも上手いのか、偶然が噛み合ってるのか。まぁ、時間の問題でしょ」

 

コーヒー片手にコンソールを叩くシャルトルーズは、心配そうなレイヴンのオペレーターにあっさりとした口調で言う。全てが上手くいくようなことは稀だ。いつも何かしら不都合や不測の事態が発生し、その上でブランチは作戦を遂行してきたのだ。

 

とはいえ、今回のケースはかなり特殊である。現在のブランチはハンドラー・ウォルターに雇われている・・・・・・と、周囲は認識しているが、実際の雇い主は彼の猟犬。レイヴンの名を騙る旧世代型強化人間、C4-621だ。彼女から与えられた情報、それが雇われる対価である。

 

621が経験してきたという特異な事象。繰り返しというものを、シャルトルーズは完全に信じたわけではない。しかし、コーラルに生じた意思、人格とも言えるCパルス変異波形は実在が確認出来ていた。そして、ブランチに送られてきた情報はどれもが精確で、未来を予言したような内容さえあったのだ。

 

シャルトルーズの感覚は、事実は事実と受け止めている。そして、621が飼い主の生存を切望していることも。それは、ブランチがルビコンを訪れた理由と矛盾しない。コーラルを焼いてはルビコンが滅びてしまうからだ。それは、最初に受けた依頼に反することになる。

 

ブランチは自由を重んずる集団だ。それはどれだけメンバーが入れ替わろうとも変わらない。だが、621はレイヴンの、ひいてはブランチの名に相応しくないように思える。ルビコンの解放も望んでいるらしいが、ハンドラー・ウォルターに固執し過ぎているようだ。

 

ただ、百戦錬磨のシャルトルーズにも情はあった。強化手術によって感情が欠落した、情緒の育っていない少女。幼い子供を裏切るのは、どうにも気が引けてしまう。

 

「そっちも見極めないとねぇ」

 

「・・・・・・C4-621のことですか?丁度先ほどキングも呟いていました。雇い主を見定めなければならない、と」

 

「そうだろうね。問題は、あのウォルターが許してくれるかどうか、かな。621もそうだけど、なんというか・・・・・・過保護だから」

 

「もしかしたら、飼い主の性格が移っているのかもしれませんね。ハンドラーの伝聞からは想像も出来ませんでした」

 

ハンドラー・ウォルター。数々の猟犬を使い潰してきた非情の人物として名高い彼は、しかし風評から想像されるイメージとは似つかわしくない男だった。621の異常な提案を受け入れ、ブランチにも拠点を提供している。仮面を被っているのか、あるいは猟犬を使い潰さざるを得ない過去だったのか。これも、調べてみる必要がある。

 

「はあぁ。やることは山積みか。いっそACに乗ってた方が気が晴れるけど、そういうわけにもいかないし。首の辺りがバキバキになって仕方ないわ」

 

「休憩する時に、私がマッサージしましょうか?付け焼刃ですがそれなりに学んだので」

 

「いいよいいよ、そういうのはレイヴンにやってあげな。この拠点には珍しくバスルームもあるし、私は半身浴でもしてリラックスするからさ」

 

そう断ったシャルトルーズは、マグカップのコーヒーを一気に飲み切りレイヴンのオペレーターへと渡した。言葉ではああ言ったが、一段落するまで湯を張るのは難しいだろう。精々シャワーを浴びる程度か。ゴキリと鳴る首を回しつつ、彼女は画面とコンソールを通して情報の海へと潜っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

ライトの光量が足りず薄暗い部屋。簡素ながら清潔な室内に、一人の少女が座っていた。

年の頃は10代後半辺りだろうか。細くしなやかな手足に愛くるしい顔立ち。艶やかな長髪は銀色に輝き、緩くウェーブがかかっている。薄桃色のドレスがそれらを引き立て、まるで名家の令嬢のような佇まいである。

 

しかし。その表情や所作は見た目に似つかわしくない。苛立たしげな態度を隠そうともしないまま、腕を組み人差し指をとんとんと叩いている。くりっとした瞳を細く尖らせ、部屋の扉をじっと見つめていた。

 

少女は無言のまま、溢れる怒気を堪えている。一体何故彼女は怒りを覚えているのだろうか。しばらくして、軽快な足音が近づくと共に扉の鍵が開いた。入ってきたのはかつてのV.Ⅰ。アーキバスから逃げ出し、各勢力に足取りを追われているフロイトである。

 

「よぉ、調子はどうだ?体に違和感が残ってたりするなら、スタッフに再調整させるぞ」

 

「・・・・・・フロイト。貴方は、自分が何をしたのか分かっているのですか」

 

どこか甘さを感じるような可愛らしい声。それを可能な限り低くして、少女はフロイトを睨みつける。何も怖くない視線に、フロイトは肩をすくめて言い返した。

 

「当たり前だろ。お前を助けたんだよ、スネイル。死んでもらっちゃつまらないからな」

 

ヴェスパーの次席隊長の名で、フロイトは目の前の少女を呼ぶ。呼ばれた少女は立ち上がり、陶磁器のような手でフロイトの胸倉を掴み上げようとした。が、身長も筋力も以前の肉体に比べて劣っている為、軽くあしらわれてしまう。

 

「っ・・・・・・!ならば、この義体はなんなのだ!まさかこのような趣味があるとは、見下げ果てましたよフロイト!」

 

「何度も説明したじゃないか、面倒臭いな。アーキバスの役員が私用で保管してたものを流用したって。趣味って言ったらそいつのだろ」

 

「ええい、どいつもこいつも・・・・・・!とにかく、すぐにアーキバスの拠点に帰還する必要があります。私をここから解放しなさい」

 

声を荒げても、年頃の娘が拗ねているようにしか見えない。その自覚を持ちつつも、少女・・・・・・スネイルは、フロイトを睨み続けた。目の前の男はアーキバスから逃げ出す際、あろうことかスネイルの身柄も運び出した。重傷だった肉体を、このような義体に換装してまで。馬鹿げている。

 

「悪いがそれは無理だ、スネイル。アーキバスの奴らに見つかった時点で即座に射殺されてもおかしくない。まぁ、その姿ならバレることも無いと思うけどな」

 

「ほざくな!企業たる私にこの仕打ちとは、どんなつもりですか!」

 

「脱出前にも話しただろ。俺はただACに乗ってられればそれでいい。だけど、お前が死んだら諸々の面倒事をしなきゃいけなくなる。だから一緒に連れ出したんだ」

 

自己中心的過ぎる言葉に、頭がクラクラするような感覚を覚えるスネイル。こちらの事情を何一つ考慮しない傍若無人さはいつものフロイトである。が、流石にやり過ぎだ。ここまでの横暴は、スネイルが許容出来るラインを遥かに超えていた。

 

「何を馬鹿な・・・・・・!私は道具ではないぞ、フロイト!」

 

「分かってる。だけど、あのまま死んだ方が良かったのか?アーキバス上層部はお前を捨てたんだぞ。まぁ、本当に嫌なら無理強いはしないさ。これを使え」

 

激怒するスネイルに、フロイトは懐から何かを取り出した。黒塗りの、護身用の拳銃だ。

 

「やり方は分かるだろ。その手じゃあ持ちにくいかもしれないが、銃口を押し付ければ外れることも無いさ。面倒事を任されたくないなら、ここで終わらせればいい。見ててやるよ」

 

「っ、貴様・・・・・・!!!」

 

何から何まで言いたい放題である。スネイルは拳銃をひったくり、銃口をフロイトに向けた。彼の言葉通り、護身用と言っても華奢で小さい手では扱い辛い。それでも、この距離なら外さないはずだ。

 

「へぇ・・・・・・」

 

銃口を突きつけられていながらフロイトの口角は吊り上がっている。実に楽しそうな、無邪気さすら感じさせる笑み。状況にそぐわない表情に、スネイルは苛立ちを募らせた。いつもそうだ。フロイトの感情表現は二つに大別される。面白いか、面白くないか。それだけである。

 

引き金に細くたおやかな指がかかる。あと数cmでも動かせば、フロイトを射殺出来るだろう。しかし、本当にいいのだろうか。ここで撃ち殺したとして、スネイルが心の中に抱えているわだかまりは消えない。AC戦で打倒しなければ、歪んだ執心は収まらないのだ。

 

「どうした、撃たないのか?それとも撃てないのか」

 

煽るように言われる。どうすればいいのか、スネイルには何も分からなかった。いつもの聡明さが嘘のようだ。最早企業には戻れない。やるべきことが、分からない。どうするべきかも、どうしたいのかも、何も何も分からない。

 

───そして。一発の銃声が、室内に響き渡った。




正体現したね。お気に入りや評価がガン下がりする覚悟で書きました。TS、最高!TS、最高!!オマエもTS最高と叫びなさい!スネイルの美少女義体化尊厳凌辱なんてなんぼあってもいいですからね!
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