見せてもらいましょう、借り物の体でどこまで飛べるか   作:てぬてぬ@TSF

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7.戦禍の予兆

航空機による突発的な襲撃。それは、ガリア多重ダムに布陣する解放戦線に精神的な衝撃をもたらした。対空設備の充実は後回しにされてきたからである。これからは地上のみでは無く、空からの攻撃にも備えなければならない。そう思わせるには、此度の襲撃は十分な効果があったと言えるだろう。

 

「そして、解放戦線の配備を混乱させると。我ながら上手くいきましたねぇ」

 

「油断するな、G3。それに、今の所四脚MT部隊はダムに留まったままだ。この現状をどう見る?」

 

ベイラムの支配地域、グリット135の一角で二人の男が会話を交わしていた。丸眼鏡をかけた細身の男性と、がっしりとした体格の男性。彼らこそ、ベイラムグループの専属AC部隊、レッドガンに所属するAC乗り達だ。

 

「そうですねぇ、わざわざ副長に提言することではないですが・・・・・・四脚MT部隊が離れるならばダムを襲撃し、留まったままならば放置するべきでしょう。元よりリスクの少ない賭けです、どちらに転んでも我らの利益になるものかと」

 

飄々と言葉を紡ぐのは、レッドガン部隊の三番手、五花海。元々詐欺師だった彼は、にこやかな表情で目の前の男に目を向ける。

 

「結局は『壁』に戦力を回さない為の陽動です。まぁ、そう上手くいく程相手も甘くはないでしょう。要諦は、解放戦線にありもしない空爆を意識させることですから」

 

「・・・・・・確かに、賭けには勝った形になる。時代遅れな爆撃機は役目を果たし、かつ封鎖機構に目を付けられはしなかったからな」

 

五花海と言葉を交わしているのは、レッドガン部隊の副長であるナイル。友軍を半ば捨て駒として扱う今回の作戦には否定的だったが、こうまで見事な戦果が出ているのならば叱責することも無い。しかし、懸念自体は五花海に告げる。

 

「ミシガン主導のガリア多重ダム襲撃の件だが・・・・・・五花海、お前は知っていたな?だからこのような献策をした。全く、食えない奴だ」

 

「これは心外ですね、G2。私は常にレッドガンの為に身を粉にして働いているというのに。それに、ヴォルタとイグアスならば楽勝でしょう。例え四脚MT部隊が立ち塞がろうと、迂回してライフラインを破壊すればよい。総長が直々に指揮を執るのです、問題など起きようはずもない」

 

にこやかに言う五花海は、テーブル上のカップを手に取り口に運ぶ。彼が秘蔵していた紅茶の香りを楽しむ様に、ナイルは鋭い視線を向けた。

 

「やれやれ、どれだけ時が経とうとも性根は変わらんか」

 

「まぁ、生まれ持ってのものですから。それに、ベイラムに実害が出ているわけでもない。私としては粉骨砕身の覚悟で策を練ったつもりですが」

 

「そういうことにしておこう。それで、私達の今後の動きだが。ベイラム上層部は、解放戦線の目が多重ダムや『壁』に向いている内に、汚染市街を落とすと決定した」

 

「おや、そう来ますか。グリッド135が襲撃されたのは記憶に新しいというのに、勇敢なことです」

 

他人事のように呟き、五花海はカップの紅茶を飲み干す。軽快にテーブルに置いて勢いよく立ち上がった。人懐っこい笑みを浮かべたまま、着ているレッドガン部隊専用のジャケットの襟を正す。

 

「ベイラム上層部も流石にあの情報は効いたようですな。解放戦線の首魁、サム・ドルマヤンが汚染市街に潜伏しているらしいというのは」

 

「うむ。故に我らが派遣されるのだ。失敗は許されん。策謀を張り巡らせるのは結構だが、お前にも前線に出て働いてもらうぞ」

 

「勿論ですとも。汚染市街は竜穴です、そこを落とせば運気も定まるでしょう。レッドガンとして、やるべきことはやりますよ」

 

「・・・・・・やれやれ」

 

煙に巻くような五花海の物言いはいつものことだ。彼と長年の付き合いであるナイルは、しかし五花海のことは信頼していた。こちらが目を光らせている限り、裏切ることは無いだろう。彼は何よりも世の流れに敏感なのだから。

 

「では、総長から連絡が来るまで待機とする。同僚を誑かすなよ、G3。」

 

「えぇ。副長も、どうかお体を大事に。もう結構な歳なのですから」

 

柔らかな声色で放たれる皮肉に、ナイルは苦笑しつつも五花海の元から立ち去っていく。周囲に焚かれているお香の華やかな香りが、彼には何故か鬱陶しく思えた。

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありません帥淑・・・・・・このダナム、痛恨の極みです」

 

『謝ることではない。命に別状は無いのは幸いだ』

 

医務室の片隅、防音が施されている小さな個室でダナムはベッドに横たわっていた。右肩から腕にかけて包帯がガチガチに巻かれており、酷い怪我を負ったことが分かる。映像越しでも分かるダナムの苦渋の表情に、フラットウェルは静かに言葉を続けた。

 

『しばらくは静養しろ。陣頭指揮を執ることも控えるといい』

 

「いや、それは・・・・・・!」

 

『その怪我では十全に力を発揮出来ないだろう。今は何よりも、早急に傷を癒すことが先決だ』

 

冷静な言い方に、ダナムは悔しげに頷く。己の不覚を呪いながら。

 

ダナムが怪我を負ったのは今から二日前。ガリア多重ダムに爆撃機が飛来した時のことである。防衛部隊を指揮する為に急いでいた彼は、不運にも移動中の通路に投下された爆弾が直撃。傍にいた同志を守る為咄嗟に身を挺して壁となった結果、吹き飛んできた鉄片が肩を深く切り裂いてしまったのだ。

 

一歩間違えば即死もありえた状況だが、奇跡的に命に別状は無かった。しかし、肉体に食い込んだ鉄片に筋繊維と神経をズタズタに引き裂かれてしまい、当分は安静にしていなければならなくなったのである。

 

「この大事な時に、戦うことすら出来なくなるとは・・・・・・!」

 

腹の底から響くような、呪うような低い声。ダナムは己が許せなかった。いくら同志を庇ったからとはいえ、このような醜態を晒してしまうとは。自己嫌悪に囚われている彼を慰めるように、フラットウェルは言う。

 

『恐らく、先日の爆撃は陽動だろう。我々の目を空に向けさせ、生まれた隙を突くといった類の。防衛設備や部隊の被害は僅かだと報告を受けたが』

 

「えぇ。運悪く爆風に巻き込まれたMTが一機大破しましたが、パイロットは無事でした。人的被害も0・・・・・・俺以外は、ですが」

 

『その被害も運悪く発生したものだ。であれば、対空を重視する必要は無い。今まで通りの配置が望ましいな』

 

「・・・・・・そのことですが。帥淑、一つ質問が」

 

自責を噛み殺し、ダナムは一つの疑問をフラットウェルにぶつけることにした。手術後、痛みに顔をしかめつつも報告を受けたのだ。メッサム率いる四脚MT部隊及びリトル・ツィイーが、一機を残してガリア多重ダムを出発したことを。

 

『なんだ』

 

「四脚MT部隊の件ですが・・・・・・どちらに向かわせる予定で?」

 

『当初の予定通り、まずは「壁」だ。ベイラムの動きが活発になっている。戦況を見極めた上で、各地方に配備するつもりだが・・・・・・それがどうかしたか?』

 

「・・・・・・いえ、了解しました」

 

予想通りの答えに、内心さらなる疑念が湧く。多重ダム唯一のAC戦力である自身がこの有様な以上、戦力は補強するべきだ。おそらく、フラットウェルはそれも考えて四脚MTを一機残したのだろう。しかし、足りない。ガリア多重ダムは解放戦線のライフラインを担っているのだ。己の不甲斐なさ故にこの場所を危険に晒すわけにはいかない。

 

無論、ダナムも理解している。解放戦線の戦力は常に限られており、ここに限らずあらゆる場所の兵器が足りていないということは。つまり、これは単なる我がままなのかもしれない。前線では常に戦力は不足する。長年の経験から来る、当然の摂理だ。

 

『・・・・・・お前の考えも理解出来る。だが、目下の最重要地点は『壁』だ。あそこを抜かれれば、我々の補給路が寸断されてしまう。すまんな、苦労をかける』

 

「帥淑を責めているわけでは・・・・・・ただ、己の不甲斐なさを呪うばかりです」

 

重苦しい沈黙。解放戦線の現状は厳しく、それでも戦い続けるしかない。と、唐突にフラットウェルが話題を変えた。

 

『そうだ、お前には伝えておこう。先日味方を約束してくれた少女、シオンと言ったか。彼女のACを調達する目途がついた』

 

「本当ですか?てっきり難航するとばかり」

 

『あぁ。つい先日、汚染市街近辺に輸送中のACを確認した。ベイラム系列の大豊が、レッドガンに貸与する予定のものだったらしい。場所も場所だ。襲撃計画を練っていたのだが・・・・・・独立傭兵に先を越されてな。依頼を出したのはアーキバス傘下のシュナイダーらしい』

 

ルビコンを蝕む企業は、コーラル権益を独占する為に互いに足を引っ張り合っている。ダナムにとっては憎むべき略奪者達ではあるが、彼らが足並みを揃えていないのには感謝していた。

 

「企業共の牽制合戦ですか。しかし、そうなると」

 

『まぁ待て。我々は撃破されたテスターACの残骸を回収した。依頼を受けた傭兵は余程の腕なのだろう、僅かな時間で撃破してくれたお陰で増援が来る前に回収することが出来たのだ』

 

「成程・・・・・・それに、シオンを乗せるのですか?」

 

『そのままというわけにはいかん。特に頭部とコアパーツの損傷が酷くてな。内装や武装も含め、BAWSのもので補う予定だ。最低限の調整が終わればそちらに送ろう。遅くとも10日はかからないはずだ』

 

その事実があったからこそ、フラットウェルは四脚MT部隊を予定通り出発させたのだろう。得心がいったダナムは感謝を述べ、麻酔が切れて湧き上がってきた痛みを堪えつつ通信を終了させた。

 

シオンの実力は身を以て知っている。彼女用のACが届けば自身の穴埋め以上の戦力になるだろう。そうなれば、ガリアの護りは万全だ。僅かな安堵は眠気を誘い、怪我や心労で疲れ切っていたダナムは瞬く間に眠りに落ちていった。

 

───ガリア多重ダムにレッドガン及び独立傭兵からなるAC部隊が襲撃してきたのは、これから三日後のことだった。




ゲーム内では影の薄い五花海ですが、私はこいつのことが好きなので出番多めにします。大胆なえこひいきは作者の特権です。
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